剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

文字の大きさ
上 下
38 / 67

038 帝都に咲き狂う毒華

しおりを挟む
 
 帝都に戻って何にびっくりしたかっていったら、一人残って花粉をふりまいていた毒の華こと魅惑の女商人シャムドの成果。
 遠征から帰ったら蔵持ちならぬ倉庫持ちになっていた。
 それも十八棟もっ!
 港湾の一区画をごっそりシャムドが借り受けて占拠。
 端から端まで駆けたらハァハァ息切れ必至のおっきな倉庫。内部にうず高く積まれた木箱たちを前にして、わたしはあんぐり。シャムドは「オーホッホッホッ」と左羽ウチワで高笑い。
 これらすべて留守中にラクシュ殿下とわたしこと剣の母チヨコとの繋ぎ役兼窓口となっている立場を利用して、すり寄ってくる連中から貢がせた品々。
 と、北の大陸から持ち込んだ品による交易にて稼ぎ出したモノ。
 今回の旅に同行してもらうにあたって、シャムドに頼まれてわたしがムギの収納空間にて持ち込んだ商品は多岐に渡る。そのどれもが南の大陸では珍しい品。なにせ遠く外洋を隔てた別天地のシロモノなんだもの。加えてついでにわたしが異世界で手に入れた宝石類も渡して処分を依頼しておいたんだけど……。

「ねえ、どんだけぼったくったのよ」

 ジト目を向ければ「へっ」と歪んだ笑みを浮かべる絶世の美女。

「失礼なことを言わないでちょうだい。そりゃあ、多少は連中の自尊心やら競争心を煽ったけれども。いれあげてメラメラ燃え上がったのは向こうさまの勝手。こっちは望まれただけ商いに応じたにすぎないわ」

 わたしたちが留守をしている間。
 次期帝であるラクシュ殿下と懇意にしているシャムドのもとには、連日、様々なところから声がかかる。
 挨拶回りに始まり、宴席、お茶会、会談、商談……。
 その数は膨大であったのにもかかわらず、巧みに予定を組んですべてに対処する。
 あえて取りこぼしはしない。帝国最大手の商会の主人だろうが、三番手四番手どころか十番手ぐらいに甘んじている商会の主人であろうが、しっかりと席を設けた。
 これにより大手の人間は「うかうかしていたら、下から突き上げを喰らうやも」と警戒し焦り、下位の人間たちは「自分たちにもよい機会はある」「この方は肩書だけで判断しない」「ちゃんと相手をしてくれる」と希望を抱く。
 こうして自分の得意とする商いの分野にて、まず強く存在感を示したシャムド。
 次に取り崩しにかかったのは貴族連中。
 とはいってもこちらは簡単だった。
 少しばかりエサをまき、一人、二人を動かせば、あとは勝手に競ってすり寄ってくるようになる。
 で、家格が同等である者同士は見栄の張り合い、意地の張り合いが始まり、野心を持つ家はもみ手にて土産を持参してはへいこら。するとそれを知った他所の家も「こうしてはおられん、うちも」となって、そっから先は露骨に対抗心むき出し。あとは雪だるま式に膨れ上がるばかり。

「ああいう連中ってのは、異様に体面を気にするし、見栄っ張りで負けず嫌いなのよ。チヨコにだって心当たりがあるはずよ」

 シャムドに言われてわたしも「あー」となる。
 ポポの里からはじめて聖都へ赴いたときに、二人のお妃たちから熱烈な勧誘合戦を受けた。贈物が山となり置き場所と処理に難儀したものである。どうしたものかと悩んだ末にじゃんじゃか外部に放出したら、それが発端となって聖都の景気がぎゅるぎゅる回りだして、いつのまにか「商公女」と呼ばれるようになっていたっけか。

「とはいえこれはさすがにやり過ぎなんじゃあ」
「へいきへいき。帝国の、それも帝都に住むことを許されている連中の財力からすれば、こんなのはごく一部に過ぎないわ。それよりもチヨコが帰ってくるのを待ってたのよ。じゃあ、早速お願いね」
「へっ?」
「ほら、さっさとムギちゃんの空間に収納しちゃってよ。倉庫が埋まってしまったせいで商いを続けられなくって、しばらくお休みしちゃったのよ。とんだ機会損益だわ。まったく、時間だけはいくら大金を積んでも買えないのだから、イヤになっちゃう」

 まだまだ絞りとるつもりだから、とっとと場所を開けろ。
 ということらしい。でもって、どれだけ大量に物資が増えたとてわたしたちがいるから輸送手段や保管については頭を悩ます必要がない。初回特典の恩恵を存分に味わい、じゃんじゃんイケるところまでいっちゃうよ!
 ということでもあるらしい。
 うーん。自分で引き入れといてなんだけど、えぐいな女商人。

  ◇

 言われるままに搬入作業を開始するチヨコ組。
 何げに都合よく使われているような気がしなくもないけれども、シャムドが矢面に立ってくれているおかげで、わたしは比較的平穏に過ごせているわけで。

「で、実際にいろんな立場の人と接してどうだった?」
「あー、上位は軒並みダメね。でも下位にはそこそこ粒がそろっていたかな」

 シャムドによれば地位が上の人間は特権階級としての意識が強すぎる。大商会の連中はそんな者たちに寄生して甘い汁を吸うことに慣れ切っており、お話にならないそう。
 反面、あまり恩恵を受けられない連中の内にはずっと不満が燻っている。
 そうなると二通りの人間が発生する。ひとつはすべてを諦めて受け入れてしまっている者。もうひとつは限られた中で抜け道を探し模索し足掻いている者。
 粒がそろっているとシャムドが言ったのは、もちろん後者のこと。

「にらんだ通りだったわ。レイナン帝国は武力や覇権ということに関しては他を圧倒しているけれども、こと商業分野に限っては競争原理がほとんど機能しておらず、むしろ衰退している。
 やはりチヨコにくっついて前乗りして正解だった。もしもうちの老怪連中の後塵を拝していたら、あらかた喰い尽くされているところだったわ」

 商連合オーメイの商人たちは、剣ではなく商売を武器に戦っている。
 隙あらばつけ込み、引きずり落とし、自分が這い上がる。その戦いは熾烈を極めている。
 けれども戦いの場にはその気にさえなれば、誰でも参戦できるだけの土壌が育まれている。
 激しく競い合い練磨されることによって磨かれる商魂という珠。
 膨大な情報や数値を精査し、幾通りもの推論を組み立て、未来視にも近い次元にて予想を立てられるシャムド。
 星読みのイシャルさまとはまたちがう種類の賢人。
 彼女こそが商連合オーメイの、彼の地にて信奉されている運と商いの神コガネの申し子なのかもしれない。


しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

処理中です...