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032 城塞都市ロディーテ
しおりを挟む城塞都市ロディーテを囲む三つの壁。
外壁、中壁、内壁はどれも堅牢。
攻略するには相応の兵力を投入する必要がある。
やってやれないことはない。けれども壁と壁の間には民がひしめき合っている。
攻める側の心情としては背後に彼らがいるので、どうにもやりにくい。
一方で守る側は気にせず迎え撃てる。
戦史を紐解けば、かつてこの都が戦場となったときの光景は筆舌に尽くしがたいとあった。
攻め手が強引に外壁を突破して中壁へととりついたところで、守り手が街に火を放ったのだ。わざわざ通りや水路に油を流して行われた火計。
壁と壁の間の居住区はたちまち炎と悲鳴が充ちた灼熱地獄と化す。
その炎は三日三晩燃え続けて、丹念に街を焼き尽くし、あとには黒炭となった人型が地表を埋め尽くしていたという。
恐るべきは同じことが中壁と内壁のところでも行われたということ。
守るべき民をかえりみなかった暴王は結局、部下に裏切られて首級を転がすことになり、そのときの戦は終結した。
◇
本陣での軍議の席にて。
うかつに攻め込んでは過去の悲劇の二の舞になる。
早々にラクシュ殿下はそう判断した。彼女によれば「第八王子は比較的まともな方だが、それでもしょせんは上位の王族だからな」とのこと。
とどのつまり、いざともなれば一線をあっさり超えてしまえる人物。十万を超える民の命よりも我が命一つこそが大切と信じて疑っていない輩。
そんな輩ゆえに人望はあまりない。
こっそり身内に働きかけて内応させることは可能だろう。なんなら民を扇動して門を開けさせてもいい。壁や城がいかに強固とてそこを守っているのはしょせん人間なのだから。つけ込む隙はいくらでもある。
とはいえ渡りをつけてからことにおよぶまでに時間がかかる。
遠征している立場としては、あまりのんびりとはしていられない。となれば……。
「潜入しかねえなぁ。門を内側から開けて、迅速に三つの壁を超える。もしも可能ならばいっきに暗殺しちまうのも手か」
アスラの言葉に一同がうなづく。
となれば侵入経路の選定が肝要となる。
そこでみんなの視線がわたしに集まった。
わざわざ口に出さなくても、みなの言わんとしていることはわかっているので、わたしは黙ってコクンとうなづき了承の意を示す。
わたしのお仕事は第三の天剣・大地のつるぎツツミの能力を使って、その侵入経路を探ること。コツンと叩けば反響音にて、たちまち対象の構造を把握できるツツミ。その効果範囲は凄まじく、クンルン国にある地下百層にもおよぶ試練の迷宮、その全域をも瞬時に把握できちゃう。
もっとも伝えられる情報量があまりにも多すぎて、受け手となるわたしの頭が耐えきれずに知恵熱を起こしちゃうから、一度に調べられる範囲はぐっと狭まるけどね。
シャムドぐらい頭が良ければツツミの能力を十全に使いこなせるのだろうけど、あいにくとわたしではせいぜい三割ぐらいが精一杯。
◇
夜更けを待ってから、こそこそ動き出す。
木陰から木陰へと伝い、外壁へと近づいたわたしと付き添いの人たち。
海門イシェールの浄水施設でお世話になったあの軍人さんが、部下を率いてまたもや参加。
わたしが金づち片手に壁やら地面をコンコンしている間、彼らが周囲に目を光らせてくれている。
で、調べてみてわかったのは張り巡らされた地下水路。
亡国の首都だけあって設備は立派で整っている。
ツツミ経由にてあがってくる情報を、多少の絵心を誇るわたしはせっせと大きな紙に書き込んでいく。
次第に仕上がっていく路線図。
崩れて機能していないところ、いまもって水がちゃんと流れているところ、すっかり枯れてしまっているところ、工事途中で放棄されたところ、合流地点に行き止まりなどなど……。
いつしかわたしは汗だくになっていた。それだけ地下の構造が入り組んでおり、情報が膨大なのだ。
それでも懸命に筆を動かし続けていたら、とある情報を発見しておもわずにんまり。
「おっ! ここの通路だけ造りがまるでちがう。ひょっとして抜け道の類かも」
古い都ともなれば、その手のシロモノのひとつやふたつあってしかるべし。神聖ユモ国は聖都の宮廷にも隠し通路とかあったもの。
亡国の憂き目にあい、最後の王は反逆の刃に倒れた。そこでいったんプツリと途切れた歴史の糸。
レイナン帝国が支配下に置き、第八王子たちがこの地を再利用するにあたってしっかり調査はなされたはず。
だからとてやすやすと発見されては抜け道の意味がないわけで……。
あらためてツツミの能力で精査してみたら、どうにも未発見っぽい雰囲気。明らかにこれだけ独立しており、ずんずん経路を辿れば三つの壁を超えて、その先にある城の内部にまでつながっている。
「ふむふむ。どうやら当たりっぽい。でも途中にあるこの反応が気になるね」
新発見された道の途中には四角い場所がある。けっこう広い空間。
そこに強めの生命反応がひとつ。
地下道深くに住みついている禍獣であるとおもわれる。
南の大陸ではあまり禍獣を見かけない。北の大陸と比べれば数は少ないもののいないわけではない。ただ人間の生活圏に姿を見せないだけ。いいや、より正しくはレイナン帝国から距離をとっていると言うべきか。
まぁ、ふらふら近づいたらバンバン砲撃されちゃうから、それもしようがないね。
で、問題はその禍獣をどうにかしないと先に進めそうにないこと。
うーん、なかなかひと筋縄ではいかないようだ。
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