30 / 67
030 空中城塞
しおりを挟むゴゴゴゴゴゴ……。
大地がびりびり震え、風が吠える。
地中より押しあげられた巨岩。土くれをまき散らしながら、ゆっくりと、だが確実に上へ上へと。
空へと浮上していくユミルヌアダ城塞。
あまりの光景に地上にいるラクシュ殿下や旗下の軍勢は唖然。
もちろん本陣にてこれを目撃していたわたしもあんぐり。
アレが第三王子の切り札。人禍獣は時間稼ぎの囮にすぎなかったんだ。
「すげー、レイナン帝国では城が空を飛ぶんだ」
ど肝を抜かれたわたしがそんな言葉をつぶやくと、ラクシュ殿下が「いや、さすがにそれはない」と即否定。「あれだけの質量を自在に飛ばす技術があれば、わざわざ船団を率いて危険な外洋を渡ったりはしない」
まぁ、たしかにそのとおりにて。あの技術があればそれこそ空飛ぶ船が造れそうだし。
しかしこれは少々マズイことになった。勝ち戦目前で反則技で盤面をひっくり返された。
戦いにおいて頭上をとられること致命的。同じ砲撃ならば下から撃つより、上から放つ方が飛距離も威力も格段に増す。これは一方的にボコられる可能性が大。
さすがにあの巨体だから高速移動は無理だろうけど、ある程度の高度を維持されたら地上の軍勢は手も足も出なくなる。
やはりここは一時撤退して距離をとり態勢を整えてから……。
なんぞとわたしが考えながらチラリと横を見れば、ラクシュ殿下が口元を歪めている。
金狼将軍が笑っている? 焦りとか興奮の類ではなくて、この表情はあざけりだ。この窮地にどうして……。
理由はほどなくして判明する。
◇
空中に浮いたユミルヌアダ城塞。
ついに悠然とこちらを見下ろす位置にまで上がった。
すぐさま怒涛の反撃が始まるのかとビクビク怯えるも、その気配が一向にない。
登場がド派手だったのに、そのあとが続かない。
あまりの静けさに「うん?」とわたしが小首をかしげたとき、帯革内にてミヤビが「チヨコ母さま、アレを」と言った。
浮き上がった城塞。その底の部分にひび割れがいくつもあったのだが、そのうちの一つがなんら前触れもなくビキっと不穏な音を立て、いきなり大きくバックリ!
それを合図にしてあちこちでも同様なことが起こり、ついには城塞表面を縦に巨大な亀裂が走る。
人間でいえば正面から袈裟懸けに深々と斬られたような傷。
あー、これは終わった。喰らった瞬間に観念し生命を諦めざるをえない、そんな一撃。
ユミルヌアダ城塞が左右にズレたとおもったら割れた。
右の半身がずるり、地上へと向かってゆっくり落ちていく。
ズーンと重たい音がした。
直後に高らかと土煙があがり、これが津波のように周囲へと襲いかかる。
湿地の水分をも含んだそれらは汚い雨のように降り注ぎ、兵士たちの鎧を汚す。
たまらず顔を伏せてしのいだ面々。
ふたたび顔をあげたとき、ちょうど残りの部分が大きく傾いでいくところであった。
自滅してゆく空中城塞。
わたしは「なんで!」とツッコまずにはいられない。
するとラクシュ殿下が「フッ」と鼻で笑う。「当然だな。あのバカめ。ぶっつけ本番であの仕掛けを起動させたのだろう」
第三王子、追い詰められ古代遺跡の機能を使用。
ちゃんと動いたことからして、いちおうの整備はなされていたみたい。
だけど試運転はしていなかった。もしもしっかりやっていたら湿地帯の地形がかわっていただろうから。
どうやらラクシュ殿下はひと目でそれを見破っていたみたい。
いかにすごい斬れ味を誇る立派な大剣とて、握りの部分がもろければ満足に振れやしないのと同じ。あれほどの質量のシロモノが空を飛ぶからには、自重やら各所にかかる負荷は相当なもの。よほど慎重に制御しないとたちまち歪みや捻じれが生じる。
結果、どうなるのかはご覧の通り。
「私とて古代の技術のすべてを否定するつもりはない。なかには有益なモノ、応用が効くモノもあるだろう。だがアレはダメだな」
バッサリ否定するラクシュ殿下。「たぶん自分と同じ結論に至ったからこそ、古代人たちも造っただけで放置したのだろう」とのこと。
なんとも夢のない話ながら、わたしも「なるほど」と納得。
だって実用化に成功していたら、そもそも滅んでなどいないだろうから。
◇
文字通り落城したユミルヌアダ城塞。
重たいモノが高いところから地面に落ちたせいで、ぐちゃぐちゃ。
おかげで戦後処理がたいへん。なにせ外だけでなく中もぐちゃぐちゃなもんで、死体の判別がつかない。
第三王子っぽい遺体の捜索は困難を極める。
瓦礫の山を前にして「これはさすがに死んでるだろう」と誰もがおもった。ぶっちゃけほじくり返して出てくるのは原型をとどめていない人の残骸ばかり。
それでもラクシュ殿下は捜索を続けさせる。
これには側近たちも怪訝な表情となるも、彼女には何らかの確信があるようだった。
だから途中からわたしも巨大な蛇腹の破砕槌を担いで捜索に参加することにした。
第三の天剣・大地つるぎツツミ、自重を自在に操っては爆発的な破壊力を産み出せる一方で、コツンと小突けば反響音にて非破壊検査なんぞも可能。
そのチカラを使って探索してみると、おやおや。
「母じゃ、何やら奇妙な反応が」
で、ツツミの言葉に従って掘り進めてみたら、出てきたのは黒い球。
大人六人が手をつないでどうにか囲めるぐらいもある。
さっそく兵士たちが中をたしかめようとするも球はビクともしない。叩こうが斬ろうが傷ひとつつかず。
しかし第一の天剣・勇者のつるぎミヤビの銀閃には抗えず、スパッと。
黒球が割れて中から姿をみせたのは、雪崩をうつ大量の金銀財宝とこれに半ば埋もれている小太りの男性。溺れているようにジタバタ足掻いている。
そしてようやく「ぷはーっ」と顔を出したかとおもったら、つかつかと近寄ったラクシュ殿下がおもむろに腰の剣を抜いて、サクっと首を刎ねてしまった。
ヒュンと剣をふって、刀身についた血を払ったラクシュ殿下。
鞘に剣を納めながら淡々と第三王子の討伐が完了したことを宣言し、ただちに撤収作業に移るようにとの命を下す。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる