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027 水晶のドクロ
しおりを挟む白銀の大剣に乗ってビューンとひとっ飛び。向かうは北東の名もなき山。
目当ては進軍を阻害している幻影を発生させているであろう何か。
本音をもらせばわたしは戦争の手伝いとかあんまりしたくない。けど第三王子ってのは必要とあらば躊躇なくヤバい道具とか使っちゃう迷惑な人みたいなので、ラクシュ殿下にとっとと討伐してもらった方が良さげと判断した。
残念なことに世の中には、タメにならない人間というのは少なからず存在しているのだ。
しかし目指す山が近づいてきたところで上空に霧が発生。
たちまち視界不良となる。この中を強引に突き進むのは危険と判断したわたしたちは、いったん地上へと。
山の麓には村があったので、ちょいと立ち寄る。
すぐに畑仕事に精を出している第一村人発見! いかにも世間話大好きっぽいかっぷくのいいオバちゃん。
さっそく山のこととか、何か不審なことがなかったかとか、聞き込みを開始しようとした矢先のこと。
わたしが声をかけるよりも先に飛び出したのはミヤビ。
白銀の大剣が閃いてオバちゃんを真っ二つ!
「えぇぇぇぇーっ、ちょっと何してんのよっ、ミヤビ! ……って、アレ? なにこれ」
脳天から股へとかけて縦割りにされ、はらわたを盛大にぶちまけた死体が消えた。血だまりもどこぞに失せた。
あとに残ったのは頭蓋骨がひとつきり。
でもそれは普通の白骨じゃなくって水晶のドクロだった。大人のモノにしては小さい。子どもぐらいのやつ。
地面にこてんと転がりながらも、アゴがカタカタ震えて鳴っている。
なんだか気持ち悪い。だからわたしは帯革より金づち姿のツツミを取り出し、「ていや」とぶん殴る。
がちゃん! 水晶のドクロはあっさり砕けて沈黙。
残骸の前にしゃがみ込んで破片を手にとりながら、「なんなんだろうねえ」と首をひねっていたら、家の陰から第二村人の男性がのっそり姿を見せた。
すると「今度は自分の番だ」と言わんばかりに勢いよく帯革内より飛び出した折りたたみ式草刈り鎌。たちまち本来の姿である漆黒の大鎌となったアン。ブゥンと巨刃を横薙ぎ、首ちょんぱ!
赤い液体をドバドバばらまく噴水と化した第二村人。
数歩ふらふらしたところで両膝をついて、ポテンと倒れる。少し離れたところに落ちた生首がどさり。陸にあげられた魚のように口をパクパクさせている。次第に光を失っていく双眸がこっちを恨めしげに見つめていた。
かと思えば、またまた死体が消えて、あとには水晶のドクロがころん。
その「ころん」がわたしはどうにもイラついた。
「幻影なのはわかったよ。でも芸が細かすぎるっ! ズバでパッと消えればいいのに、なんでグチョグロまで完全再現するのよっ!」
ここから先の出来事についての詳細はあえて割愛する。
寒村での惨劇。
そして誰もいなくなった。
というか村そのものがなくなった。
全部が全部、水晶のドクロたちの見せていた幻……。
◇
天剣たちによる村人大量虐殺。
幻だとわかっていてもキツイ。辺境の村育ちゆえに獲物の解体作業なんかには慣れっこであるはずなのに、こだわりの再現度にわたしはすっかりげんなり、まいってしまった。
この水晶のドクロが誰の作品なのかはわからないが、制作者の並々ならぬこだわりを感じる。魔道具を研究開発している魔術師には、大なり小なりそういった偏執的な部分があるとは聞いていたけれどもこれほどとは……。
もはや狂気の域。そこは妥協して欲しかった。うぷっ、気持ち悪い。
精神に多大な負荷を受けたわたしは、重たい足を引きずりつつ山道をえっちらおっちら。
ミヤビに乗ってさっさと頂上に行きたかったけど霧は濃いまま。どうやらこれだけは幻影じゃなくって本物っぽい。
山頂へと近づくほどにカタカタカタカタ……。
水晶のドクロがアゴを鳴らす音。そいつがどんどんかさなり、大きくなり、やかましくなってゆく。
なんとなくオチが想像できて、ついついこぼれるのはタメ息。
そして坂道をのぼり切った先にて想像通りの光景をまのあたりにし、わたしは今日一番の大きなタメ息をついた。
わたしたちを待っていたのは水晶のドクロがうず高く積まれた山。
千は優に超えている。さすがに万には届かないと信じたいけど、とにかくいっぱい。
そいつらが一斉にカタカタカタカタ。
足下に転がるドクロの一つを手にとってみる。
細部まで忠実再現。均整がとれており、歯並びもきれいだ。しげしげ眺めつつ、頭蓋骨の中ものぞいてみたけど、そっちは空っぽ。どういった理屈でアゴがカタカタしているのか、あれほど精密な幻影をみせているのかさっぱりわからん。
おかげで止め方もさっぱりわからない。
とどのつまり進軍を止めている幻影を消すには、これらをすべて壊すしかないということ。
いっそのこと水晶のドクロたちが合体!
巨大ドクロとなり襲ってきてくれたら楽なのに、そんな気配は微塵もない。
「横着はダメか。はぁ、しようがないね。みんなで手分けして壊すよ」
わたしの言葉にミヤビ、アン、ツツミ、ムギ、ベニオたちがモソモソ動き出す。
チヨコ組発足以来、もっとも地味で退屈な戦いがここに始まる。
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