27 / 67
027 水晶のドクロ
しおりを挟む白銀の大剣に乗ってビューンとひとっ飛び。向かうは北東の名もなき山。
目当ては進軍を阻害している幻影を発生させているであろう何か。
本音をもらせばわたしは戦争の手伝いとかあんまりしたくない。けど第三王子ってのは必要とあらば躊躇なくヤバい道具とか使っちゃう迷惑な人みたいなので、ラクシュ殿下にとっとと討伐してもらった方が良さげと判断した。
残念なことに世の中には、タメにならない人間というのは少なからず存在しているのだ。
しかし目指す山が近づいてきたところで上空に霧が発生。
たちまち視界不良となる。この中を強引に突き進むのは危険と判断したわたしたちは、いったん地上へと。
山の麓には村があったので、ちょいと立ち寄る。
すぐに畑仕事に精を出している第一村人発見! いかにも世間話大好きっぽいかっぷくのいいオバちゃん。
さっそく山のこととか、何か不審なことがなかったかとか、聞き込みを開始しようとした矢先のこと。
わたしが声をかけるよりも先に飛び出したのはミヤビ。
白銀の大剣が閃いてオバちゃんを真っ二つ!
「えぇぇぇぇーっ、ちょっと何してんのよっ、ミヤビ! ……って、アレ? なにこれ」
脳天から股へとかけて縦割りにされ、はらわたを盛大にぶちまけた死体が消えた。血だまりもどこぞに失せた。
あとに残ったのは頭蓋骨がひとつきり。
でもそれは普通の白骨じゃなくって水晶のドクロだった。大人のモノにしては小さい。子どもぐらいのやつ。
地面にこてんと転がりながらも、アゴがカタカタ震えて鳴っている。
なんだか気持ち悪い。だからわたしは帯革より金づち姿のツツミを取り出し、「ていや」とぶん殴る。
がちゃん! 水晶のドクロはあっさり砕けて沈黙。
残骸の前にしゃがみ込んで破片を手にとりながら、「なんなんだろうねえ」と首をひねっていたら、家の陰から第二村人の男性がのっそり姿を見せた。
すると「今度は自分の番だ」と言わんばかりに勢いよく帯革内より飛び出した折りたたみ式草刈り鎌。たちまち本来の姿である漆黒の大鎌となったアン。ブゥンと巨刃を横薙ぎ、首ちょんぱ!
赤い液体をドバドバばらまく噴水と化した第二村人。
数歩ふらふらしたところで両膝をついて、ポテンと倒れる。少し離れたところに落ちた生首がどさり。陸にあげられた魚のように口をパクパクさせている。次第に光を失っていく双眸がこっちを恨めしげに見つめていた。
かと思えば、またまた死体が消えて、あとには水晶のドクロがころん。
その「ころん」がわたしはどうにもイラついた。
「幻影なのはわかったよ。でも芸が細かすぎるっ! ズバでパッと消えればいいのに、なんでグチョグロまで完全再現するのよっ!」
ここから先の出来事についての詳細はあえて割愛する。
寒村での惨劇。
そして誰もいなくなった。
というか村そのものがなくなった。
全部が全部、水晶のドクロたちの見せていた幻……。
◇
天剣たちによる村人大量虐殺。
幻だとわかっていてもキツイ。辺境の村育ちゆえに獲物の解体作業なんかには慣れっこであるはずなのに、こだわりの再現度にわたしはすっかりげんなり、まいってしまった。
この水晶のドクロが誰の作品なのかはわからないが、制作者の並々ならぬこだわりを感じる。魔道具を研究開発している魔術師には、大なり小なりそういった偏執的な部分があるとは聞いていたけれどもこれほどとは……。
もはや狂気の域。そこは妥協して欲しかった。うぷっ、気持ち悪い。
精神に多大な負荷を受けたわたしは、重たい足を引きずりつつ山道をえっちらおっちら。
ミヤビに乗ってさっさと頂上に行きたかったけど霧は濃いまま。どうやらこれだけは幻影じゃなくって本物っぽい。
山頂へと近づくほどにカタカタカタカタ……。
水晶のドクロがアゴを鳴らす音。そいつがどんどんかさなり、大きくなり、やかましくなってゆく。
なんとなくオチが想像できて、ついついこぼれるのはタメ息。
そして坂道をのぼり切った先にて想像通りの光景をまのあたりにし、わたしは今日一番の大きなタメ息をついた。
わたしたちを待っていたのは水晶のドクロがうず高く積まれた山。
千は優に超えている。さすがに万には届かないと信じたいけど、とにかくいっぱい。
そいつらが一斉にカタカタカタカタ。
足下に転がるドクロの一つを手にとってみる。
細部まで忠実再現。均整がとれており、歯並びもきれいだ。しげしげ眺めつつ、頭蓋骨の中ものぞいてみたけど、そっちは空っぽ。どういった理屈でアゴがカタカタしているのか、あれほど精密な幻影をみせているのかさっぱりわからん。
おかげで止め方もさっぱりわからない。
とどのつまり進軍を止めている幻影を消すには、これらをすべて壊すしかないということ。
いっそのこと水晶のドクロたちが合体!
巨大ドクロとなり襲ってきてくれたら楽なのに、そんな気配は微塵もない。
「横着はダメか。はぁ、しようがないね。みんなで手分けして壊すよ」
わたしの言葉にミヤビ、アン、ツツミ、ムギ、ベニオたちがモソモソ動き出す。
チヨコ組発足以来、もっとも地味で退屈な戦いがここに始まる。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる