剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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023 白亜の魔都

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 海岸沿いに設けられた超大な外壁。その一部が横に動いた。
 姿を見せたのは内地へと通じる運河。
 外洋を渡るほどの大きな軍船、それが幾艘も連れだった船団があっさり飲み込まれてゆく。
 レイナン帝国の帝都アルシャンは小国ほどもある広大さ。内部には運河を主軸として水路が多数張り巡らされており、人と物の流れを円滑に行っている。
 ゆえにここは水の都とも呼ばれている。

 運河を進み内地深くへと向かう船団。
 船縁から見える岸辺の景色は整然としている。
 白を基調とした建物群。おそらくは白い石を用いたり、壁を白く塗ったりしてあるのだろう。
 それにしても大きなお椀型の屋根が多い。
 ふつうに平らな屋根をかぶせるよりも、あれを組み上げる方が何倍もの手間も技術も金も人もかかる。だというのにそんなモノがごろごろ。
 ここはとてもキレイだ。それこそ「天上の神々が住まう地とか、きっとこんな風なのかなぁ」と思わせるほどに。
 幻想的で美しい。だがそれゆえにどこか現実味がない。ここはあまりにもキレイに整いすぎている。
 丁寧、というよりも執拗に掃き清められ、染みひとつないように白く塗られた都。
 こだわりというよりかは、なにやら病的なモノを感じ肌がぞわりと粟立たずにはいられない。
 そんな帝都の景色を眺めつつ、わたしは昨夜ラクシュ殿下と交わした会話を思い出していた。
 シャムドともども夕食に誘われて席をともにしたのだが……。

  ◇

「二人には先に言っておく。これから不快なモノを目にする機会が度々あると思うが、どうか短慮な行動はつつしむように」

 ラクシュ殿下からの忠告というか助言に、わたしたちは顔を見合わせる。
 そりゃあ超大国だとて、いろいろあるだろう。
 いや、むしろ超大国だからこそあってしかるべし。

 レイナン帝国は主に四つの階級によって成り立っている。
 帝国臣民。
 これはそのままの意味。この国では最上位に位置しており、様々な恩恵と加護によって守られている存在。
 第一等級臣民。
 準独立にて政権と国主を戴くことも許されている特別自治区の人間たち。
 第二等級臣民。
 政権と国主の上に中央から派遣された統治官がいる属国の人間たち。
 第三等級臣民。
 完全に支配下に置かれ、戦線ではつねに最前線に立たされる。消耗品にてひたすら搾取されるだけの立場の人間。

 帝都アルシャンには基本的に帝国臣民しか住めない。
 けれどもそれでは都の運営に支障をきたす。それゆえに労働階級として他の臣民を使役している。だが待遇はまちまち。
 臣下や仲間、あるいは家族の一員として手厚く遇されている場合もあるし、それこそ使い捨ての奴隷としてあつかわれている者まで。
 明確な区別があり、差別があり、特権を享受する側はなんら疑問も抱かずこれを行使し、かしずく側は静々と主人の意向に従うばかり。
 北の大陸、神聖ユモ国および近隣諸国では奴隷は禁じられてひさしい。
 とはいえ法の抜け道があり、裏ではいろいろあるけれど。大っぴらにはやれない程度の制約はある。少なくとも後ろ暗いことをしているとの自覚があるのだ。
 が、レイナン帝国の帝都ではそれがない。
 極論を言えば、帝都臣民こそが殿上人。
 国や文化がちがえば、考え方や成り立ちが異なるのは当たり前。とはいえ自分の中にて培われた価値観や倫理、正義などと相容れぬ事柄を前にしたとき、人はついカッとなりがち。
「それをこらえてくれ」とラクシュ殿下。
 シャムドなんかは商人ゆえに、いろんなところ、いろんな客とつき合いがあるせいか、わりと平然とこれを受け入れている。
 一方でわたしは内心で戸惑っていた。
 ここまでの船旅。船の乗務員たちや兵士ら、あちこちの寄港地、海門イシェールなどで接した帝国の人間たちとは、わりと良好な関係を築けたと思う。
 でも帝都の人間たちにはそれが通用しない。「そのことに気をつけろ」ともラクシュ殿下は仰っている。そればかりか「姿形が同じだとて中身は別物。それこそチヨコが異界で会ったという連中のようなものと考えて対処するのが妥当だろう」とまで言った。

 壁の中にいるのは昆虫の羽をむしり、なんら罪悪感を抱くことなくケラケラ笑っていられる幼子のような者ばかり。
 相手の吐いた言葉を額面通りに受け取らないこと。
 相手の見せた笑顔を安易に信用しないこと。
 相手につけ込まれないようにうかつな言動は慎むこと。
 ラクシュ殿下から特に念を押されたのは、この三つ。

「もちろんまともなヤツも大勢いる。だがそうじゃないヤツもまたごまんといるんだ。だからくれぐれも慎重に行動してくれ。判断に迷ったりわからないときには、私か部下を頼ってくれればいい」

  ◇

 昨夜の話を思い出し、わたしはハァとタメ息。
 上流階級なんざ大なり小なりそういった側面を持つけど、ここの連中は極めつけらしい。
 当船団は帰港後、わたしたちはそのまま凱旋祝いの式典に参列。
 その場で神聖ユモ国の使節団は恭順の意を示し、そろって帝に頭をさげる。
 以降、細かいことは大人同士の話し合いにて詰めていく。
 わたしおよび天剣たちの身柄はいちおうラクシュ殿下預かりとなる予定。
 歴代の帝にとり憑いているというナゾの存在。
 はたして世界の破滅に関与している偽神ウノミタマなのか、正体が気になるところ。
 もしもそうだとして、さすがに式典の場でサノミタマから預かった封魔の短剣を抜いたら大騒ぎになるだろうし。う~ん。


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