剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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018 浄水場

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 日増しに増えていく患者たち。
 商店や露店は軒並み閉まっており、あれほど活気のあった街中からは人の姿もまばらとなった。
 海門イシェールがみるみる萎れ、元気を失ってゆく。

 滞在六日目の朝。
 対策本部に詰めているラクシュ殿下から、船に避難していたわたしのもとへ協力要請が入る。
 なんでも感染源が判明したもののやっかいな場所なので、ぜひチカラを貸して欲しいとのこと。
 もちろんわたしは快く受諾。
 で、迎えにきた軍人さんに案内されるまま、向かった先は島の中心部。
 海門イシェールの中央にして天辺に位置している尖塔。灯台、鐘つき堂、見張り台、浄水施設、防衛用の魔道具などの役割が集約されている重要拠点にて、一般人は立ち入りを禁じられているところ。
 ここの浄水施設が病の感染源だったらしい。そして感染経路は水。
 このことを教えられてわたしは首をひねる。
 だって、下水道と同じく真っ先に疑われていた場所なんだもの。

「もちろんです。我々だってすぐに調査させましたとも。それも念をいれて二度。しかしどちらも異常ナシとの報告を受けていたもので……」

 軍人さんが続きを言いよどむ。それには理由があった。
 なにせ調査を担当した者たちが裏切り者にて、結果を捏造しウソの報告書をあげていたのだから。
 それを看破したのはラクシュ殿下なんだとか。
 増え続ける患者。その情報をまとめた分布図を眺めていたら、どうやら島の中央部から外縁部へと向かって感染が拡大している。どう考えても中心部があやしい。なのに調査結果では異常ナシ。
 起きている現象と手元の報告書や資料、双方を照らしあわせてどちらがより信用に足るかと考えたとき。ラクシュ殿下は報告書の方に疑念を向けた。
 なぜなら病はウソをつかないが、人間は平然とウソをつくから。

「で、締めあげたら案の定だったと」あきれるわたし。「やれやれだぜ」と首をふるふる。
「その通りです。面目次第もありません。ただ、言い訳を許されるのであれば、これだけは言わせて下さい。その者たちはラクシュ殿下の旗下ではありませんでした。帝都の医局からこの地に派遣されていた連中なのです」

 そしてラクシュ殿下がわたしを頼ったのは、わたしの持つ水の才芽と天剣のチカラにて、汚染された水源をすみやかに浄化するため。
 本来であれば浄水施設の運用を止めて、水を抜き、総ざらいして清めるのだが、そんなことをしていたら何日も時間がかかってしまう。それにいきなり断水なんぞをしたらそれこそ都市は大混乱に陥る。かといってことは一刻を争う。
 ゆえにラクシュ殿下は決断を下した。

「だったら最初っから頼ってくれたらいいのに。水くさいなぁ」

 船で要請を受けた際にわたしなんぞはそう思うわけだが、シャムドによれば「そこが殿下のいいところよ」とのこと。
 時と場合によっては誰かの手を借りることも辞さない。けれども甘えない。頼りにすれども、けっして寄りかからない。信頼しても馴れ合わない。あくまで自身の足で立ち、歩き続ける。
 そんな毅然とした彼女だからこそ、多くの将兵たちが支持し慕っている。

  ◇

 おもわぬ形で重要拠点に足を踏み入れることになったわたしは内心ドキドキ。
 だって入っちゃダメといわれていたところに入るんだもの。不謹慎かもしれないけど、ちょっと高鳴る。
 近々にするとけっこう大きくゴツイ造りの塔。
 見上げて「ほへー」と感心。「星拾いの塔ほど背は高くないけど、横幅はこっちのほうが太いかも」

 星拾いの塔は神聖ユモ国の聖都で一番背の高い建物。天の相を視るために星読みのイシャルさまが居住している場所にて、昇降は魔法を使わないと行えない。魔法陣に乗ってギューンと上下するのは、ちょっと股下がスース―する。
 が、ここの塔はそんな仕組みにはなっておらず、ふつうに通路と階段を通って奥へと進む。
 幾層にも折り重なった内部。天井も壁も床もすべてが白塗り。
 うーん。明るく清潔でキレイだけど、キレイすぎて逆にちょっと落ちつかない。
 通路の先々、要所要所にてぶ厚い鉄壁のような扉が立ちふさがる。進むごとに開閉作業を余儀なくされてちょっとたいへん。
 からくりをイジってポチっとな、みたいにまとめて開けられないのは防犯上の仕様とのこと。
 この手間の多さこそが守りの固さの証。
 いまのところ破られたような痕跡はなし。だからとて一行は油断しない。調査報告を偽ったということは、それを指示したものがいるということ。そしてその一味がこの先にて待ちかまえている可能性が大。
 もしも敵が潜んでいればすみやかに排除するようにと、軍人さんはラクシュ殿下から厳命されている。

  ◇

 建物の内壁に沿い設置された九十九折の階段。
 落下防止の手すりはあるけれどもサビついており、蹴っ飛ばしたらポキリと折れてしまいそう。これはあんまり頼りにしないほうがいいだろう。
 浄水場は塔の地下、最深部にある。
 そこを目指して一行はひたすら降りてゆく。

 ぐぅおん、ぐぅおん、カラカラカラ、じゃこん、じゃこん……。

 いろんな機械音がそこかしこから聞こえてくる。
 大小の歯車がいくつもかみ合ってはくるくる回っていたり、ぶっとい鎖が上下して大きな箱をいくつも持ち上げたりおろしたりとせわしない。
 地下深くからくみあげた水。これを浄水施設で処理したモノがあの箱の中身っぽい。
 ああやって上層階へと運ばれて、そこから市井に供給されるのだ。
 目的地が近づくほどに濃さを増す水の気配。ツンと鼻にくる。

「けっこう歩いたし、そろそろかなぁ」

 わたしがぼんやりそんなことを考えていたら、帯革内にて白銀のスコップがぶるっと震えた。これは要警戒の合図。
 それに前後して先頭を歩いていた軍人さんが立ち止まり、すぐさま抜刀。後続もそれに倣い、たちまち臨戦態勢へと移行。
 どうやらお出迎えらしい。


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