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012 島の夜
しおりを挟む古代文明の廃棄物を撃破し、やったぜ!
チヨコ組は意気揚々と寄港地のある島へ凱旋。
でもって騒然としている湾内、桟橋の突端にて仁王立ちのラクシュ殿下がお出迎え。
「私はたしかに『しばらく好きにしてかまわない』とは言った。だが『好き勝手に暴れてかまわない』とまでは言ってない」
金狼将軍が眉間を親指でぐりぐりしながら苦悩の表情。
だがそれは誤解だ。わたしはみんなのためにがんばっただけのこと。
そこでかくかくしかじか、事実をありのままに説明し弁明。
すると深く深く、それこそ海の底にまで届きそうなほどのタメ息をラクシュ殿下は吐いた。
「シャムドから受け取った資料に『剣の母が行くところに乱あり。注意されたし』とはあったが、まさか初っ端からコレとは……」
かつて剣の母と天剣たちを我が物にせんとたくらんだロイチン商会、毒の華こと女会長のシャムド。ちょっかいを出すにあたって対象についての情報をかき集めた。資料とはそれらをまとめて小冊子にしたモノ。
フム。そんなモノが秘密裏にやりとりされていたとは。
当事者としては中身がとっても気になるところ。
「まっ! それだとわたしたちが騒動を起こしているみたいだよ。断固、訂正を求める!」
「そうですわ」「……不当」「理不尽でござる」「非非」「不可不可」
チヨコ組総出でやんや。
しかしその声は丸っと無視されて、とりあえず今回の騒動について詳細を文章にまとめて提出するようにと命じられた。でもってそれが完了するまでは船室から出ることも禁じられる。いわゆる謹慎というやつである。
「うぅ、そんなのヒドすぎる」
非情な宣告にガックシするわたし。
するとそんなわたしの肩を背後からポンポンと叩く者がいた。
ふり返れば不埒な双丘がババンと。シャムドである。彼女が黙ったままである一点を指差し、そして首をふるふる。
見上げた先には島の中心にそびえる山。
二つのコブに挟まれるソレの形は、まるで小さい男の子のアレにそっくり。だがしかし、いまでは形状が変化しておりすっかり様変わりしている。
どうやらあの古代の廃棄物に破壊されたり、吸収されたせいらしい。
まぁ、なんというか、ズルリとひと皮むけたというか、すっかりかわいげのない姿に成り果てている。
現在、この寄港地は番号で呼ばれており正式名称はまだないそうだが、いずれはとんでもない珍名がつくことになっちゃうかも。挙句の果てに「これはかの剣の母がこしらえたものなんだよ」とか流布されたら、チヨコちゃん、もうお嫁に行けない!
はっ! まさかこれも剣の母の大任にまつわる赤い糸の呪いなのかしらん?
わたしはいま一度、山をちらり。
うーん、しかしコレは本当にえぐい。
◇
はや夜となり、わたしがランプの灯りを頼りに、船室にてせっせと報告書を仕上げていた頃。
島に上陸していたラクシュとシャムドは宿舎の屋上に設けられた席にて、向かい合って静々と杯を交わしていた。
月下、静かな海を眺めながら、女同士のさし呑み。酒の肴は海の幸と剣の母についてまとめられた資料の冊子。
冊子を手に取りパラパラとめくるラクシュはややあきれ顔。
「しかし凄まじいな。よくもまぁ、行く先々でこれだけの騒動に巻き込まれるものだ」
ポポの里を出立して以降、神聖ユモ国の聖都では権力争いの火種となり、ついには内乱に巻き込まれるも、裏切り者の八武仙の一雄を撃破し難を切り抜ける。
パオプ国では埋毒の計と呪槍に関わりこれを粉砕する。クンルン国ではアスラ王子暗殺未遂や擬装天剣の暴走、大練武祭を舞台にして起こった陰謀にて危機的状況に陥った首都アルマハルと多くの民を救う。
南海での海賊船退治、城塞島カイリュウの攻略に尽力。
商連合オーメイではシャムドが仕掛けた罠を跳ねのけ、式典にまつわり起こった事件の数々を解決し、南北にて重篤なわだかまりを抱える当国の緊張状態をいくぶん緩和することにひと役かった。
そして先のレイナン帝国の神聖ユモ国に対する侵略の際には、伝説の金禍獣たちを多数動員して戦争を強引に手打ちにしてみせる。
なお不在期間には異世界に行っていたという話もある。
どれもこれもとんでもないことばかり。
だが、それらがほんの短い期間で達成されていることにもまたラクシュはおどろきを隠せない。
「自分やうちの身内が仕掛けたことが大半とはいえ、たった一人の少女にこうもやり込められるとはな。やはりおそるべきは天剣(アマノツルギ)のチカラか」
そんなラクシュの言葉に首を小さく振ってみせたシャムド。
「私もはじめはそう考えておりました。チヨコは天剣たちを産み出すためだけの存在なのだと。ですがそれは誤りでした。なにせあの子は自分のチカラだけで神をも退けてみせましたもの」
かつてシャムドが差し向けた夢神バクメ。夢の世界へと対象を誘い精神を浸蝕する者。
黄金のランプに封じられ弱体化していたとはいえ、その分だけ狡猾さが増しており、人間にとってはよりやっかいな存在であった。それをチヨコは一蹴。
ちなみに黄金のランプはボコボコにされて、いまや深海の底である。
そのことを語るシャムドはどこか楽しげ。
「して、貴殿はあの子をどうみる?」
ラクシュより問われたシャムドは腕を組んでしばし「う~ん」と考え込んでから、「ちょっと怖いですかね」と答えた。
親しげに接している相手を評するにはいささか意外な答え。ラクシュの片眉がピクリと上がる。
シャムドは理由を続ける。
「これは前にうちの弟たちにも話したことなんですけど……。ふつう、アレほどのチカラを持てば大なり小なり増長するものです。自惚れるものです。勘違いをするものです。ましてやあの年頃の女の子が周囲からちやほやされれば、きっと舞い上がることでしょう。
それがあの子にはまるでない」
数多の甘言、誘惑を意に介さないチヨコ。
興味を示すことといったら、おいしい食べ物と園芸やら土イジリ関係ばかり。それとてもあくまで常識の範囲にて逸脱することがない。チヨコが手に入れた宝物類を惜しみなく外部に放出していることや、褒美として皇(スメラギ)に植物の図鑑を求めたことは、とみに有名な話である。
とにかくやたらと芯がどっしりしておりブレない。
まるで大地にしっかり根をはった大樹のよう。
それがシャムドの率直な意見。
「ほぅ、それは確かにスゴイな」
感心するラクシュ。血で血を洗う権謀術数の中で生きてきた彼女は、欲に転んで道を踏み外す者なんぞは吐いて捨てるほどに見てきた。それゆえに周囲の雑音に惑わされることなく己を曲げることなく貫くことのむずかしさも重々に承知している。
剣の母チヨコを話題に杯を重ねる女たち。
昼間の喧騒がウソのように穏やかな潮騒が歌う。
ゆっくりと島の夜は過ぎてゆく。
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