剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

文字の大きさ
上 下
12 / 67

012 島の夜

しおりを挟む
 
 古代文明の廃棄物を撃破し、やったぜ!
 チヨコ組は意気揚々と寄港地のある島へ凱旋。
 でもって騒然としている湾内、桟橋の突端にて仁王立ちのラクシュ殿下がお出迎え。

「私はたしかに『しばらく好きにしてかまわない』とは言った。だが『好き勝手に暴れてかまわない』とまでは言ってない」

 金狼将軍が眉間を親指でぐりぐりしながら苦悩の表情。
 だがそれは誤解だ。わたしはみんなのためにがんばっただけのこと。
 そこでかくかくしかじか、事実をありのままに説明し弁明。
 すると深く深く、それこそ海の底にまで届きそうなほどのタメ息をラクシュ殿下は吐いた。

「シャムドから受け取った資料に『剣の母が行くところに乱あり。注意されたし』とはあったが、まさか初っ端からコレとは……」

 かつて剣の母と天剣たちを我が物にせんとたくらんだロイチン商会、毒の華こと女会長のシャムド。ちょっかいを出すにあたって対象についての情報をかき集めた。資料とはそれらをまとめて小冊子にしたモノ。
 フム。そんなモノが秘密裏にやりとりされていたとは。
 当事者としては中身がとっても気になるところ。

「まっ! それだとわたしたちが騒動を起こしているみたいだよ。断固、訂正を求める!」
「そうですわ」「……不当」「理不尽でござる」「非非」「不可不可」

 チヨコ組総出でやんや。
 しかしその声は丸っと無視されて、とりあえず今回の騒動について詳細を文章にまとめて提出するようにと命じられた。でもってそれが完了するまでは船室から出ることも禁じられる。いわゆる謹慎というやつである。

「うぅ、そんなのヒドすぎる」

 非情な宣告にガックシするわたし。
 するとそんなわたしの肩を背後からポンポンと叩く者がいた。
 ふり返れば不埒な双丘がババンと。シャムドである。彼女が黙ったままである一点を指差し、そして首をふるふる。
 見上げた先には島の中心にそびえる山。
 二つのコブに挟まれるソレの形は、まるで小さい男の子のアレにそっくり。だがしかし、いまでは形状が変化しておりすっかり様変わりしている。
 どうやらあの古代の廃棄物に破壊されたり、吸収されたせいらしい。
 まぁ、なんというか、ズルリとひと皮むけたというか、すっかりかわいげのない姿に成り果てている。
 現在、この寄港地は番号で呼ばれており正式名称はまだないそうだが、いずれはとんでもない珍名がつくことになっちゃうかも。挙句の果てに「これはかの剣の母がこしらえたものなんだよ」とか流布されたら、チヨコちゃん、もうお嫁に行けない!
 はっ! まさかこれも剣の母の大任にまつわる赤い糸の呪いなのかしらん?
 わたしはいま一度、山をちらり。
 うーん、しかしコレは本当にえぐい。

  ◇

 はや夜となり、わたしがランプの灯りを頼りに、船室にてせっせと報告書を仕上げていた頃。
 島に上陸していたラクシュとシャムドは宿舎の屋上に設けられた席にて、向かい合って静々と杯を交わしていた。
 月下、静かな海を眺めながら、女同士のさし呑み。酒の肴は海の幸と剣の母についてまとめられた資料の冊子。
 冊子を手に取りパラパラとめくるラクシュはややあきれ顔。

「しかし凄まじいな。よくもまぁ、行く先々でこれだけの騒動に巻き込まれるものだ」

 ポポの里を出立して以降、神聖ユモ国の聖都では権力争いの火種となり、ついには内乱に巻き込まれるも、裏切り者の八武仙の一雄を撃破し難を切り抜ける。
 パオプ国では埋毒の計と呪槍に関わりこれを粉砕する。クンルン国ではアスラ王子暗殺未遂や擬装天剣の暴走、大練武祭を舞台にして起こった陰謀にて危機的状況に陥った首都アルマハルと多くの民を救う。
 南海での海賊船退治、城塞島カイリュウの攻略に尽力。
 商連合オーメイではシャムドが仕掛けた罠を跳ねのけ、式典にまつわり起こった事件の数々を解決し、南北にて重篤なわだかまりを抱える当国の緊張状態をいくぶん緩和することにひと役かった。
 そして先のレイナン帝国の神聖ユモ国に対する侵略の際には、伝説の金禍獣たちを多数動員して戦争を強引に手打ちにしてみせる。
 なお不在期間には異世界に行っていたという話もある。

 どれもこれもとんでもないことばかり。
 だが、それらがほんの短い期間で達成されていることにもまたラクシュはおどろきを隠せない。

「自分やうちの身内が仕掛けたことが大半とはいえ、たった一人の少女にこうもやり込められるとはな。やはりおそるべきは天剣(アマノツルギ)のチカラか」

 そんなラクシュの言葉に首を小さく振ってみせたシャムド。

「私もはじめはそう考えておりました。チヨコは天剣たちを産み出すためだけの存在なのだと。ですがそれは誤りでした。なにせあの子は自分のチカラだけで神をも退けてみせましたもの」

 かつてシャムドが差し向けた夢神バクメ。夢の世界へと対象を誘い精神を浸蝕する者。
 黄金のランプに封じられ弱体化していたとはいえ、その分だけ狡猾さが増しており、人間にとってはよりやっかいな存在であった。それをチヨコは一蹴。
 ちなみに黄金のランプはボコボコにされて、いまや深海の底である。
 そのことを語るシャムドはどこか楽しげ。

「して、貴殿はあの子をどうみる?」

 ラクシュより問われたシャムドは腕を組んでしばし「う~ん」と考え込んでから、「ちょっと怖いですかね」と答えた。
 親しげに接している相手を評するにはいささか意外な答え。ラクシュの片眉がピクリと上がる。
 シャムドは理由を続ける。

「これは前にうちの弟たちにも話したことなんですけど……。ふつう、アレほどのチカラを持てば大なり小なり増長するものです。自惚れるものです。勘違いをするものです。ましてやあの年頃の女の子が周囲からちやほやされれば、きっと舞い上がることでしょう。
 それがあの子にはまるでない」

 数多の甘言、誘惑を意に介さないチヨコ。
 興味を示すことといったら、おいしい食べ物と園芸やら土イジリ関係ばかり。それとてもあくまで常識の範囲にて逸脱することがない。チヨコが手に入れた宝物類を惜しみなく外部に放出していることや、褒美として皇(スメラギ)に植物の図鑑を求めたことは、とみに有名な話である。
 とにかくやたらと芯がどっしりしておりブレない。
 まるで大地にしっかり根をはった大樹のよう。
 それがシャムドの率直な意見。

「ほぅ、それは確かにスゴイな」

 感心するラクシュ。血で血を洗う権謀術数の中で生きてきた彼女は、欲に転んで道を踏み外す者なんぞは吐いて捨てるほどに見てきた。それゆえに周囲の雑音に惑わされることなく己を曲げることなく貫くことのむずかしさも重々に承知している。

 剣の母チヨコを話題に杯を重ねる女たち。
 昼間の喧騒がウソのように穏やかな潮騒が歌う。
 ゆっくりと島の夜は過ぎてゆく。


しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

処理中です...