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011 お気持ちだけで
しおりを挟む空へと飛び立ってからすっかり無用の長物と化していたバケモノの八本腕。
だらりと引き抜かれた木の根のようにぶらぶらしているだけであった、それらがモゾモゾし始め、あれよあれよというまに長筒へと変じた。
「えーと、まさかとは思うんだけどアレって」
わたしは目元をごしごし。凝視しつつ自分のかんちがいを願う。
でもあの形状、かつて南海にて暴れまわっていた海賊船・黒鬼、そいつに搭載されていた弾を吐き出すヤツにそっくし。
「たしかに似ていますわ」とミヤビ。
「……というか、そのもの」とアン。
「そのわりには、ちと細いような」とツツミ。
「是、ひょろひょろ」とムギ。
「不可、にょろにょろ」とベニオ。
天剣五姉妹の意見をまとめると「似て非なるモノ」ということに。
そしてその見解は正しかった。
筒の先端から発射されたのは砲弾ではなく、光線。
一番最初に放たれた激烈なモノに比べたら、おそろしく線が細い。けれどもそれゆえに鋭く、視認しにくく、かわしづらい。
四本の首からは太めの光線が、筒状になった八本の長腕からは細い光線が、合計十二本もの光が乱舞。
シュバッ、ズバッ、ビュン! 滅多やたらと振り回される光の刃たち。
たまらずわたしたちはヤツの腹の下の空域へと潜り込んで退避。
しかしなんてヤツなんだろう。闇雲に自己を改造するだけでなく、まさかその都度その都度、必要に応じて取捨選択までするだなんて。
補給が出来ない現状。このまま消耗を続けさせればいずれ自分のカラダを維持しきれなくなるはず。となればここから先はガマン比べとなる。わたしたちがすべきことはヤツを挑発しつつ、この場にクギづけにすること。
そんなわたしの思考は唐突に中断された。
足下のミヤビが急速旋回を始めたから。
理由はバケモノの動きが劇的に変化したため。
十二本もの光線を吐き出しながら、その巨体が回転運動をとる。
はじめはゆっくりとした横回転だけであったのが、じょじょに加速しつつそこに縦回転が混じり、斜めまでもが加わって、まるで自身を一個の玉に見立てたような挙動となった。それにともなって光の射線が上下左右のべつまくなしに全方位へと放たれる。
十二本の光の刃が倍増どころか、雨となって降り注ぎ、嵐となって戦闘空域を席捲。
これにより完全にバケモノの支配下に置かれた空間が発生した。
シュパシュパ四方八方から迫る光。必死にかわし続けるミヤビ。死地に留まるのは不可能にて、すぐさま離脱しいったん距離をとろうとした。
けれども相手がそれを許してくれない。激しく回転しながらゴロゴロ追いかけてきた!
背後から光のトゲトゲをまとった巨大イガグリが迫り、わたしたちはギャアギャア逃げ惑う。
以降、しばらくの間、空の上にて危険な追いかけっこが展開されることに。
◇
逃げるのに必死となるあまり、いつしか光線が止んでいたことに気づくのが遅れた。
「あれ、もしかしてもうおしまい? さすがに燃料が切れたのかな」
かと思いきや、ついさっきまで背後から執拗にこちらを追いかけ回していたヤツの姿がどこにもない。
ついに耐えきれずに自然消滅……。
なんて都合のいいことはなくて、ヤツがいたのは遥か上空。でもそんなところでいったい何を?
わたしは確認しようと見上げるも、太陽の位置と重なり影となってその姿がよく見えない。
ただわかったのは、またしてもヤツの形状が大きく変化しているらしいということ。
形はさながらジョウゴのよう。注ぎ口の狭いツボとかビンに液体を入れるときに使う、先のすぼまった道具。あれの特大版。
そのすぼまった先端がキラン。
光るのと同時に放たれたのは、またしても光線。
ただし色味がこれまでとはだんちがいに濃い。いろんな輝きを練り合わせたような、残酷なほどまでに美しく、迫力をともなった破滅の光。
目にした瞬間、わたしの視界すべてが死に埋め尽くされた。抵抗や絶望を感じる暇もない。
じじつ、これを喰らえばわたしの身は瞬時に消滅していたであろう。たとえ天剣たちとてどうなっていたことか。
けれどもここで動いたのは第四の天剣・太陽のつるぎムギ。
麦わら帽子の姿にて他の姉妹たちのように武器形態へと変身できない彼女は、戦闘で活躍する機会はあまりない。
しかし彼女には他の姉妹にはないすごいチカラがある。
それは収納能力。無限ともいえる広大な空間を保有しており、たいていのモノは丸っと呑み込んでしまう。
ムギがそのチカラにて破滅の光をごっくん。
グビグビ酒を喰らうがごとく、すべて吸い尽くしてしまったもので、わたしをはじめ他の姉妹たちもびっくり!
「すごい、すごいよムギ! でもって好機到来なり! アン、すぐに空間転移を発動して」
それだけでわたしの意図を察した漆黒の大鎌は「……がってん」
スパッと空間を裂いて向かったのはムギの収納空間内、そして繋いだ出口は遥か上空にいるバケモノのすぐそば。
ムギに呑み込まれた大量の破滅の光。勢いそのままにアンの転移空間内の経路を突き抜けて、ふたたび噴出。
贈った品を「お気持ちだけありがたく頂戴しておきます」と、そっくりそのままお返しされたバケモノ。
至近距離から自分の放った攻撃を喰らって、ちゅどーんと盛大に爆ぜた。
でもって、四散した大量の土砂に混じって降ってきたのは例の赤い玉。表面には大きな亀裂が入っている。
ちょうどこっちの方へと落ちてきたので、わたしは「えいやっ」
幻の左にてパキャンと粉砕。
わたしと天剣五姉妹は「だぁーっ」とそろって勝利の雄叫びをあげた。
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