剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

文字の大きさ
上 下
11 / 67

011 お気持ちだけで

しおりを挟む
 
 空へと飛び立ってからすっかり無用の長物と化していたバケモノの八本腕。
 だらりと引き抜かれた木の根のようにぶらぶらしているだけであった、それらがモゾモゾし始め、あれよあれよというまに長筒へと変じた。

「えーと、まさかとは思うんだけどアレって」

 わたしは目元をごしごし。凝視しつつ自分のかんちがいを願う。
 でもあの形状、かつて南海にて暴れまわっていた海賊船・黒鬼、そいつに搭載されていた弾を吐き出すヤツにそっくし。

「たしかに似ていますわ」とミヤビ。
「……というか、そのもの」とアン。
「そのわりには、ちと細いような」とツツミ。
「是、ひょろひょろ」とムギ。
「不可、にょろにょろ」とベニオ。

 天剣五姉妹の意見をまとめると「似て非なるモノ」ということに。
 そしてその見解は正しかった。
 筒の先端から発射されたのは砲弾ではなく、光線。
 一番最初に放たれた激烈なモノに比べたら、おそろしく線が細い。けれどもそれゆえに鋭く、視認しにくく、かわしづらい。
 四本の首からは太めの光線が、筒状になった八本の長腕からは細い光線が、合計十二本もの光が乱舞。
 シュバッ、ズバッ、ビュン! 滅多やたらと振り回される光の刃たち。
 たまらずわたしたちはヤツの腹の下の空域へと潜り込んで退避。
 しかしなんてヤツなんだろう。闇雲に自己を改造するだけでなく、まさかその都度その都度、必要に応じて取捨選択までするだなんて。
 補給が出来ない現状。このまま消耗を続けさせればいずれ自分のカラダを維持しきれなくなるはず。となればここから先はガマン比べとなる。わたしたちがすべきことはヤツを挑発しつつ、この場にクギづけにすること。
 そんなわたしの思考は唐突に中断された。
 足下のミヤビが急速旋回を始めたから。
 理由はバケモノの動きが劇的に変化したため。
 十二本もの光線を吐き出しながら、その巨体が回転運動をとる。
 はじめはゆっくりとした横回転だけであったのが、じょじょに加速しつつそこに縦回転が混じり、斜めまでもが加わって、まるで自身を一個の玉に見立てたような挙動となった。それにともなって光の射線が上下左右のべつまくなしに全方位へと放たれる。
 十二本の光の刃が倍増どころか、雨となって降り注ぎ、嵐となって戦闘空域を席捲。
 これにより完全にバケモノの支配下に置かれた空間が発生した。
 シュパシュパ四方八方から迫る光。必死にかわし続けるミヤビ。死地に留まるのは不可能にて、すぐさま離脱しいったん距離をとろうとした。
 けれども相手がそれを許してくれない。激しく回転しながらゴロゴロ追いかけてきた!
 背後から光のトゲトゲをまとった巨大イガグリが迫り、わたしたちはギャアギャア逃げ惑う。
 以降、しばらくの間、空の上にて危険な追いかけっこが展開されることに。

  ◇

 逃げるのに必死となるあまり、いつしか光線が止んでいたことに気づくのが遅れた。

「あれ、もしかしてもうおしまい? さすがに燃料が切れたのかな」

 かと思いきや、ついさっきまで背後から執拗にこちらを追いかけ回していたヤツの姿がどこにもない。
 ついに耐えきれずに自然消滅……。
 なんて都合のいいことはなくて、ヤツがいたのは遥か上空。でもそんなところでいったい何を?
 わたしは確認しようと見上げるも、太陽の位置と重なり影となってその姿がよく見えない。
 ただわかったのは、またしてもヤツの形状が大きく変化しているらしいということ。
 形はさながらジョウゴのよう。注ぎ口の狭いツボとかビンに液体を入れるときに使う、先のすぼまった道具。あれの特大版。
 そのすぼまった先端がキラン。
 光るのと同時に放たれたのは、またしても光線。
 ただし色味がこれまでとはだんちがいに濃い。いろんな輝きを練り合わせたような、残酷なほどまでに美しく、迫力をともなった破滅の光。
 目にした瞬間、わたしの視界すべてが死に埋め尽くされた。抵抗や絶望を感じる暇もない。
 じじつ、これを喰らえばわたしの身は瞬時に消滅していたであろう。たとえ天剣たちとてどうなっていたことか。
 けれどもここで動いたのは第四の天剣・太陽のつるぎムギ。
 麦わら帽子の姿にて他の姉妹たちのように武器形態へと変身できない彼女は、戦闘で活躍する機会はあまりない。
 しかし彼女には他の姉妹にはないすごいチカラがある。
 それは収納能力。無限ともいえる広大な空間を保有しており、たいていのモノは丸っと呑み込んでしまう。
 ムギがそのチカラにて破滅の光をごっくん。
 グビグビ酒を喰らうがごとく、すべて吸い尽くしてしまったもので、わたしをはじめ他の姉妹たちもびっくり!

「すごい、すごいよムギ! でもって好機到来なり! アン、すぐに空間転移を発動して」

 それだけでわたしの意図を察した漆黒の大鎌は「……がってん」
 スパッと空間を裂いて向かったのはムギの収納空間内、そして繋いだ出口は遥か上空にいるバケモノのすぐそば。
 ムギに呑み込まれた大量の破滅の光。勢いそのままにアンの転移空間内の経路を突き抜けて、ふたたび噴出。
 贈った品を「お気持ちだけありがたく頂戴しておきます」と、そっくりそのままお返しされたバケモノ。
 至近距離から自分の放った攻撃を喰らって、ちゅどーんと盛大に爆ぜた。
 でもって、四散した大量の土砂に混じって降ってきたのは例の赤い玉。表面には大きな亀裂が入っている。
 ちょうどこっちの方へと落ちてきたので、わたしは「えいやっ」
 幻の左にてパキャンと粉砕。
 わたしと天剣五姉妹は「だぁーっ」とそろって勝利の雄叫びをあげた。


しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

眠れる夜のお話

天仕事屋(てしごとや)
児童書・童話
子供たちが安心して聴ける 眠れるお話です。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

処理中です...