剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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010 絶海での戦い

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 首が三つに、腕が八本、破壊光線を吐き出すツバサを持った土くれのバケモノ。
 すっかり異形と化し、飛び立った古代の廃棄物。
 幸か不幸か、わたしたちにやたらと執着しているらしく、わき目もふらずに向かってくる。
 それを利用して、わたしたちは島から離れて沖合へと移動。あそこだと港湾やら船団がいるから存分に戦えないので。

 追ってくる巨体。
 いきなり三つ首のうちのひとつが光線を発射!
 あわてて下降したミヤビ。おかげで回避できたけど、そこでわたしは「うん?」と訝しむ。なぜならさっきの激烈な攻撃とちがって、光線が単発だったからだ。もっともコレとて当たれば一発で終わっちゃうけど。
 まぁ、さっきのえげつない攻撃に比べたら……。
 なーんて甘い考えはすぐに捨てることになる。
 残りの首も攻撃を開始。次々と放たれる光線。
 はじめのうちはわりと余裕でかわせていたミヤビが、いつしか無言となっていた。
 それもそのはずだ。三つ首の各々が好き勝手に光線を放っており、攻撃の間隔もバラバラ、ともすれば射線が重なってつぶし合いさえしていたのが、じょじょに動きが洗練されて、ムダ撃ちが減り、ついには連携へと発展。
 三つの首砲台が数を活かし交代で間断なく、的確に狙いを絞っての精密射撃。
 これではいかに高機動力を誇る第一の天剣・勇者のつるぎミヤビとて油断はならない。

「くっ、学習能力も高いだなんて。悪い子のデキが良すぎる!」

 とはいえ、グチっていても事態は好転しない。
 そろそろ頃合いか。寄港地のある島はいまや遠い彼方。水平線にてポツンと見える程度。ここまで離れればもういいだろう。

「というわけで反撃するよ、みんな!」

 わたしの呼びかけにて帯革内から飛びだす、折りたたみ式草刈り鎌と金づち。ピカッとと光ってたちまち本来の姿となる。
 死神の鎌を彷彿とさせる容姿をした第二の天剣・魔王のつるぎアン。
 蛇腹の破砕槌の第三の天剣・大地のつるぎツツミ。

 先行し、激しく回転しながら目標へと迫るアン。
 飛んでくる光線を右へ左へとかわしつつ、なおも加速し前進。ついには黒の円刃と化し、その勢いのままに首のひとつをザクリ、切り落とす。
 一方でミヤビに乗剣しているわたしはツツミを手に大きく迂回。
 敵の注意がアンへと向かっている隙に背後をとってからの、突撃を敢行。
 ギューンとミヤビにていっきに接近。からの大地のつるぎによる一撃。攻撃が当たる瞬間、ツツミの能力・自重変化を発動。破砕槌での打撃はとてつもない重さとなり、首の一本を粉々に粉砕する。
 そこでわたしはミヤビの剣身からぴょんと飛び降り離脱。
 身軽となったミヤビ、即座に反転し残りの首を刈り、ついでだとばかりにツバサをもズタズタにする。
 こちらの攻撃をまともに喰らった土くれのバケモノ。ぐらりと巨体が大きくかしぐ。
 それを横目にわたしは空いているほうの腕をミヤビへとかざす。
 とたんに袖口からのびたのは紅い紐。作業着に変身している第五の天剣・月のつるぎベニオの一部。そいつがしゅるしゅるしゅる。白銀の大剣の柄にからみついたところで収縮を開始。
 わたしのカラダはたちまちミヤビのもとへと引き寄せられて、ふたたび乗剣の人となった。

  ◇

 空を疾走しつつ敵の様子をわたしたちは観察。

「ちぇっ、このまま海に落ちるかとおもったんだけど」

 落とした首三つこそは海中に没したが、切り裂いたはずのツバサはたちまち元に戻り、本体はいまだ健在。
 というか、新しい首が増えた。
 四本首になっての復活。
 もしもこのまま首を刈り続けたら、密集した竹林みたいに首だらけになるのかもと想像し、わたしは「うげぇ」となる。でも……。

「あれれ、新しい首、ちょっと細くなってない?」

 わたしの目にはひと回りほど絞られたように映ったもので、率直なところを口にしたらミヤビも「たしかに」とうなづき、アンやツツミも「……絞ったというよりも痩せた」「引き締まった感はあまり」と言った。

「是、二割減」とムギ。
「不可、せいぜい一割五分減」とはベニオ。

 うーん。細かいところで意見のズレはあるものの、印象としては全員が合致。
 と、ここでミヤビが「あぁ、なるほど。そういうことでしたの。わかりましたわ、チヨコ母さま」
 アレは土くれの集合体。だから素材となるものが周囲にない海上、それも空の上ともなれば欠けた部位を補うなり、新たに生み出すなりするには、もとからある分を流用するしかない。
 でもって首三本分の損失のツケが、さっそくカラダにあらわれたと。
 ミヤビの解説に一同「ほーぅ」と感心し納得。
 どうやら島を離れて大正解だったらしい。あとたまさかこちらがビュンビュン飛び回っていたことも功を奏した。それをマネしてくれたからこそ、ここまで誘い出すことができたんだから。
 もしもあのまま島でやり合っていたら、今頃、島そのものが大怪獣化していたのかもしれない。そいつはさすがにゾッとする。
 だがしかし、勝利の女神はこちらに微笑んだ!

「ふっふっふっ……。この勝負、もらったね」

 このとき、わたしはちょっと浮かれていた。やっかいな問題が解決するとわかって、はしゃいでしまったんだ。
 そのココロの隙を突くようにして、古代のバケモノが牙をむく。


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