剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

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009 制御不能

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 岩の巨人兵から発射された極太の光線。
 猛然と突っ込んできたソレから逃れるためにミヤビは急上昇。
 かろうじてかわすことに成功し、乗剣しているわたしはホッ。
 しかし巨人兵の攻撃はまだまだ終わらない。
 放たれた光線が上空に展開していた雲に大穴を開けただけでは飽き足らず、出力と勢いをそのままに横移動を開始。まるで光線の横っ面にてこちらをぶん殴るかのようにして近づいてくる。
 わたしたちはあわてて逃げる、逃げる。
 山の頂の外周部分をまわるようにて回避行動。

「ミヤビ、左はダメっ、右へ!」
「了解しましたわ」

 もしも左方面に逃げたら島の南にある港湾や停泊中の船団を巻き込む。
 だから島の裏側へと向かうようにわたしは指示。
 空を飛ぶこちらを追いかけてくる光の柱。後方よりズンズン迫る。
 ついには追いつかれて、そのまま横薙ぎにされそうになった。
 ミヤビはたまらずひょいと高度を下げて海面へと。
 するとその動きにあわせて光の柱も軌道を変える。今度は頭上から豪快に振り下ろされたものだから、わたしは「ぎょええぇぇぇーっ!」
 降下するミヤビ。ものすごい勢いにてそのまま海中にざぶんと飛び込むのかと思いきや。

「ベニオ! チヨコ母さまをお願い」

 長姉の声に応じて作業着に変身している末妹の一部が変化。腰のあたりからしゅるしゅると何本もの紅紐がのびて、剣身へとぐるぐるからみつく。たちまちわたしのカラダがしっかり固定された。
 それが完了するなりミヤビは白銀の大剣の切っ先をグイっと持ち上げ急速反転。上昇を敢行。
 直後にグンと後ろ髪を引かれた。胃やら腸など内臓の全部、それからカラダ中の血液がすべて下半身へと引きずりおろされたような感覚に襲われ、わたしの視界が暗転する。

  ◇

 ハッ、気がついたわたし。
 現在位置は島の北側の上空、白銀の大剣に乗剣中にて高度はそこそこ。

「ごめん。どれくらい気を失っていた?」
「ほんのわずかですわ、チヨコ母さま。それよりもアレをご覧ください」

 ミヤビにうながされ周囲を見渡し、わたしは愕然。
 雲が切り裂かれていた。
 海が切り裂かれていた。
 山や島の一部をも切り裂かれている。

「ウソでしょう。たった一回の攻撃でこれなの……」

 わたしはゴクリと生唾を呑み込む。なんというすさまじさ。
 けれどもこんなものはまだまだ序の口であったということを、直後にわたしたちは思い知らされる。
 岩の巨人兵がここにきてさらなる形態変化。
 腕が横っ腹からにょきっと生えて、計八本腕となる。
 続けて首がのびたとおもったら、あらたに側面と後頭部に顔が出現!
 顔が三つになったところでミシリミシリ首が縦に割けはじめ、ついには三つ首となる。
 その異形にわたしはゾッとした。
 だってあれほどの破壊光線を放つ首がさらに二つも増えたのだから。すべての首からあんなモノを同時に発射されたら、いったいどうなっちゃうんだろう。
 それに……。

「はやくどうにかしないと手に負えなくなる。あっ! だからなんだ。だからコイツは古代人に捨てられたんだ」

 制御不能。
 勝手にカラダを造りかえ、外部情報をとり込み、時間が経つほどに凶悪さを増していく。
 そんな敵を前にしてわたしは冷や汗とイヤなドキドキが止まらない。

「どうしよう……、どうしたら……」

 倒せる可能がもっとも高いのは、最初にミヤビがいっていたみたいに敵の核を破壊する方法。核ってたぶんあの赤い玉のことだろう。
 問題はそいつが体内をうろちょろしていること。それだけを狙うのはむずかしい。
 だったら派手にぶっ飛ばして粉々にしてから。
 ということになるんだけど、うーん。なんだかモヤモヤする。
 わたしの中で何かが引っかかっている。
 何かとっても大切なことを見落としているような……。
 ちなみにこの手のことって、気がついたときにはたいていが手遅れと相場が決まっている。
 でもって、今回もばっちりその法則が発動されてしまった。
 岩の巨人兵が変じて、よくわからない岩のバケモノとなったところで、さらにさらにバケモノぶりに磨きがかかる。
 背中にて砂塵が渦を巻き、ある程度土砂が集積されたところではらりとほどける。風にはためく外套(がいとう)の裾のようにぶわっと広がった。
 出現したソレはツバサ。
 これにはわたしだけでなく天剣五姉妹全員が「あっ」と驚きの声。
 赤い玉により土くれが寄り集まって出来たバケモノ。
 やつは周囲の岩石だけでなく『外部情報をもとり込み』己をさらに凶悪化する。
 そんな相手の前でビュンビュン空を飛び回っていたわたしたち。
 敵の進化速度を警戒してうかつに手の打ちをさらないように注意していたというのに……。
 あの巨体と重量、本当に飛べるのか? もしかしたら見かけ倒しなのでは?
 そんなわたしの淡い期待を嘲笑うかのようにして、バケモノのカラダがゆっくりゆっくり宙へと浮きはじめる。
 ツバサがばさり、ばさり。
 当初はやや遠慮がちであった羽ばたき。それがじょじょにチカラ強く雄々しくなってゆく。
 そしてひと際大きくふるわれたとたんに、グンっと巨体が空高く舞い上がり、山の頂から飛び立った。


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