剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?七本目っ!少女の夢見た世界、遠き旅路の果てに。

月芝

文字の大きさ
上 下
8 / 67

008 岩の巨人兵

しおりを挟む
 
 コトリ。

 音を立てたのは近くに落ちていた小石。

 サラサラサラサラ……。

 それは砂塵が流れる音。

 ゴトリ。

 ちょっと大きめの石が動いた。

 ドタン、バタン、ズルル。

 わたしよりも大きな岩が唐突に倒れてゆっくりと転がり地を這う。
 周囲にあった土砂や岩石たちがこぞってある地点を目指す。
 それはあの赤い玉が埋め込まれていた石柱のところ。

 めちゃくちゃイヤな予感がしたわたしは、そばに浮かんでいるミヤビの柄をつかむなり切っ先を突き込む。
 白銀の大剣にて赤い玉を破壊しようとしたのだ。
 だが、それはかなわない
 突如として地面が盛り上がってあらわれた土壁に邪魔された。
 揺れが酷くなる。とても立ってはいられない。
 わたしはミヤビに乗剣してすぐさま現場を離脱、空へ。
 少し距離をとってからふり返ると、そこには異様な物体が出現していた。

「なんだ、あのデカぶつ……」

 石くれが寄せ集まってあらわれたのはゴツゴツした岩の巨人。
 三十トト(約三十メートルぐらい)はあろうかという背丈。
 甲冑を着込んでいるような容姿にて、さながら戦場に立つ兵士のよう。
 そいつの首がぐりん。上空にいるこっちを見た!
 岩の巨人兵はおもむろに近くにあった大きな石を掴むなり、いきなりブンと投げつけてくる。
 ミヤビはひらり、これを難なくかわす。
 狙いを外した石はかなり遠くまで飛んでいき、海にぽちゃんと落ちた。
 フム。けっこうな強肩の持ち主。そして狂暴だ。このままだと港町や船団に被害がおよぶ可能性特大。
 だからわたしは足下のミヤビに「殺るよ」と声をかける。

「かしこまりました、ですわ」

 すかさず白銀の大剣がさらに高度をあげたところで、わたしはおもむろに「とぅ」宙へと身を躍らせる。
 それに合わせてミヤビが動く。圧倒的機動力にて空を疾走。銀閃の残光が線となり尾となり、第一の天剣の身は流星と化す。
 岩の巨人兵は猛然と迫ってくる白銀の大剣を迎え討とうとするも、あまりにも対象の動きが速すぎてまるで捉えられない。のばした手が空をつかむ。
 刹那の交差。そのときにミヤビが放った斬撃はじつに五十を超える。
 いかな達人とて防ぐことはかなわない手数と切れ味。
 瞬く間に全身を切り刻まれて、細切れにされた岩の巨人兵。
 バラバラにされて瓦解していく巨体。その様子をわたしは両手両足を広げた大の字にて風を受けつつ、ゆるゆる落下しながら見ていた。
 と、直後に落下は終了。
 戻ってきたミヤビとわたしが合体、スチャっと華麗に着地を決めたから。

「なんだか楽勝だったね」ちょっとビビッて損したとわたし。
「立派なのは図体だけ、いわゆる出オチというやつですわ」ひと仕事終えたミヤビ。

 だがしかし、そんなに簡単にケリがつくようなシロモノならば、古代文明がこんなところに捨てたりはしないわけで……。

  ◇

 バラバラになった岩石たちがふたたび集合。
 あちらも合体をはたし、巨人兵ふたたび。
 でもさっきとは少々形状が異なっていた。
 背中から腕が二本、あたらしく生えている。そして四本腕のすべてに両刃剣の姿まである。それに心なしか容姿がシュッとしてより洗練されたような。
 なんていうかゴツゴツした角がとれて部分部分が滑らかになっている。
 とにもかくにも武器所持にて前より凶悪かつ強力になっているのは一目瞭然。

「えー、もしかしてやられるたんびに強くなるとか」

 わたしはげんなり。この手の輩はとにかくしつこいと相場が決まっているんだもの。

「であれば、中心の核を破壊するのがお約束なんですけど」

 ミヤビの声からはありありと「めんどうくさい」という気持ちがにじんでいる。
 どうやらあの赤い玉は内部でうろちょろしているらしく、いざアレだけを狙うとなるとたいへんなんだとか。

「……武装が剣というのが気になる。もしかしてこっちのマネをした?」

 帯革内にて折りたたみ式草刈り鎌姿のアンが見解をぼそり。

「だとするとやっかいでござるな。ヘタに手の打ちをみせ情報を与えると、あやつはドンドン強くなるでござる。にんにん」

 帯革内にて金づち姿のツツミが「しかりしかり」と独りごちている。

「是是、問答無用で粉々にすべき」

 麦わら帽子姿のムギが過激なご意見。

「可可、問答無用で木っ端みじんにすべき」

 麦わら帽子に付属する紅紐飾り姿のベニオも過激なご意見。
 かーらーの、ピカッと光って作業着形態に変身。わたしの身を包んで防衛体制へと移行した。ベニオの自主的な行動。それすなわち第五の天剣・月のつるぎベニオがそれだけ対象を脅威と判断したということ。
 こりゃあ、わたしも気合いを入れ直さないと……。
 なんて考えていたら、ここでさらに岩の巨人兵の身に変化が生じる。
 両の脇下あたりからもう一本ずつにょきっと腕が生えてきた!
 これにて計六本。
 もちろん新しい腕にもしっかり剣を携帯している。

「うそ~ん! 攻撃しようがしまいが勝手に強くなるのかよっ! そんなのずっこい!」

 わたしは猛然と抗議。
 すると「なんだ? なんか文句でもあんのか」と言わんばかりに岩の巨人兵がこっちを向いた。
 そしておもむろに六本の腕を振り上げ、地面に剣を深々と突き立てる。

 ぐぅおん、ぐぅおん、ぐぅおん、ぐぅおん……。

 何やら剣呑な音が一帯に鳴り響く。
 唐突に岩の巨人兵の顔が半ばほどにてパカンと上下に割れた。その奥がピカッ。
 眩くも極太な光が発射される。
 一直線にこちらへと放射される光の奔流を前にして、わたしは「へっ?」とマヌケな声をあげた。


しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

眠れる夜のお話

天仕事屋(てしごとや)
児童書・童話
子供たちが安心して聴ける 眠れるお話です。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...