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007 廃棄物
しおりを挟む緑萌え息吹く山というものは眺めている分にはいいが、いざ立ち入るとなると大小の規模にかかわらずやっかいなシロモノ。
大山やら連峰は言うにおよばず。丘に毛が生えたような山とてけっして侮れぬ。
人が立ち入っていないところには、まず道がない。
草木を分け入って登るのはとってもたいへん!
植物の中には自衛手段としてトゲやら毒を持つものが存外多い。繁みの奥やら葉っぱの裏に危険な虫が潜んでいることもある。かといって刈り取りながらだとその歩みは遅々として進まず、汗だくとなり時間と疲労ばかりが蓄積されてゆく。
斜面だって急だし、地面は滑ったり崩れやすかったりして、足下がどうにもおぼつかない。倒木とか岩壁が立ちふさがることも多々。上から石が落ちてくることもある。うっかり転倒しようものならば、ヘンなところに頭をぶつけたり、転がり落ちて大怪我なんてことも。
何もかもが平地とは勝手がちがう。ただ歩くことがむずかしい。
加えて動物やら禍獣が出現する危険性が常につきまとうから、油断はできない。
肉体的にも精神的にもとにかくキツイのだ。
が、それは一般的な話。
わたしには関係ない。
なにせわたしは剣の母にて、頼りになる娘たちがいるのだから。
というわけで、山頂付近に見えたキラリの正体を探るために、わたしはミヤビに乗剣してビューンとひとっ飛び。
「うわぁ、けっこうモコモコだねえ。でもそのわりにはトリとか動物の姿があんまり」
「ええ、チヨコ母さま。それに禍獣の気配もほとんどしませんわ」
◇
禍獣は大地の気を受けて自然発生する獣や植物の亜種のこと。
カラダが大型化したり、知能が発達したり、頭に角が生えたり、特殊能力に目覚めたり、体内に魔晶石を宿したり……。
人間や地域の環境と共生しているものから、バリバリに敵対しているものまで。強さも性質もじつにさまざま。
等級は上から順に金銀銅。
銅禍獣は、獣や植物が凶暴化したような存在。強さはまちまちだけれども、総じて腕っぷし自慢。ちょっと調子に乗ってイキっているちんぴら風。小物臭ぷんぷん。
目があったら「何、ガン飛ばしてんじゃ! やんのか、こらぁ」といった感じ。
これが銀禍獣になると、とたんに落ち着く。
強さと貫禄を備えた兄貴。親分肌にて、たいていが地域の顔役みたいな存在として君臨。縄張りを持ち、群れを率いていることも多い。
そして金禍獣なのだが、これはもう完全に別格。
各種能力がずば抜けており圧倒的。人間にしてみればナムナムする対象。生き神さまのような超自然的存在。
怒らしてもいいことは何ひとつない。下手をしたら、いや、たぶんほんの気まぐれのお戯れでも国がサクっと亡ぶ。だから全力で媚びまくってお慈悲にすがる。ひたすら伏して拝むべし。
でもまぁ、圧倒的強者はその強さゆえに寛容。だいたい優しい。少なくともわたしが知るヌシさまや、青龍さん一家は話がわかる方々だった。
人間も獣も禍獣も、キャンキャンやかましいのは下っ端と相場が決まっているのだ。
金禍獣は伝説級の存在ゆえに、目撃情報がほとんどなし。
……わたしは知り合いだけど。
銀禍獣は見かけたら軍隊案件にて国中がけっこうパニックになる。
……うちの里の近所にはぼちぼちいるけど。
無作法は許さない竹林の絶対王者・植物系禍獣のタケノコさま。たたずまいと言動が渋すぎるトリ系禍獣のブチョウ。数多の同胞を従え地下大帝国に君臨している昆虫系の禍獣ロクエさん。唯我独尊にて黒き暴風との異名を持つウマの禍獣マオウ。あとなにげに最恐説が流れているハウエイさんのところの居候、菌類の禍獣ダケさん。
銅禍獣はやんちゃな暴れん坊にて、ちょっと困った存在。本能と食欲と性欲がむき出しで、残念な子が多い。
……狩るのはそれなりにたいへんだけど、辺境では貴重な収入源。特にサルの銅禍獣シロザルのナニは滋養強壮のクスリの材料になるので、いい値で売れるからウマウマ。
◇
そんな禍獣たちなのだが姿がほとんど見られない。
ここが絶海の孤島ということを計算に入れても、ちょっと少ない気がする。
それゆえにミヤビも疑問を口にしているのだ。
レイナン帝国が寄港地を建造するにあたって、狩りまくったという可能性もあるけれども、大規模な軍勢が山にわけ入った痕跡がない。それどころか山側はほとんど手付かずっぽい。
「うーん。緑が濃いわりには、なんていうか……元気がない?」
わたしは首をかしげる。自分で言っておいてなんだが矛盾している。
大自然にて禍獣が出現するのには旺盛な大地の気が必要不可欠。
原因はわからないけれども、もしかしたらこの場所はそれが極端に少ないのかもしれない。
「あとで念のために土も調べてみるか」
気にしつつわたしは山の頂へと向かった。
で、見つけたのが四角い石柱の折れたやつ。
テカテカの表面にはツルツルの丸いのが埋め込まれている。
半透明な赤いガラスの玉みたいでキレイ。これがキラリの正体。
なのだが、その柱を見た瞬間にわたしはコテンと首をかしげた。
「この石柱ってばアレに似てない?」
神聖ユモ国はユンコイ山脈の天辺付近。不帰の嶮の向こう側。遥か北方域の奥の奥にて世界の壁を越えたその先にある異界の別天地。
そこの住人であるアリの禍獣クロヅカが人型になったような姿をした涅人(クリビト)たち。彼らの集落にあった採掘場の地下深くにて、にょきにょき生えていた石材にそっくり。
よもやこんなところでそんなシロモノを見かけるだなんて。
赤いガラス玉をてらてら撫でながらわたしは「世間はあんがい狭いもんなんだねえ」
すると帯革内にいるアンがぼそり。
「……そういえば、かつて北にあった超魔道科学大国ブラフマールは、いらなくなった品をポンポン南に捨てていたとか。不法投棄、言語道断」
その発言にわたしはビクぅ。
驚いたひょうしについチカラがこもって赤い玉をグイっとね。
すると押された玉がカチッと奇妙な音を立てた。
とたんに漂いだす不穏な空気、始まる怪しげな微振動ズズズズズ。
そんなわたしに天剣五姉妹がそろって「あ~あ」
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