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003 夢の続き
しおりを挟むひさしぶりに夢をみた。
とても懐かしい夢だった。
夢の中であの子がむじゃきに笑っている。
大切な人たちとしあわせに暮らしたい。そう願った少女。
『アリサ、アリサ、アリサ……、ありさぁぁっ』
慟哭にて夢から醒めたとき、胸の奥にほんのり灯っていたのはぬくもり。
だがすぐに消えてしまった。
どこか遠くに行ってしまった。
そのことが無性にかなしい、さみしい、つらい、そしてとてつもなく腹立たしい。
ボクは王座の背もたれにぐったり身をあずけている男を一瞥する。
かつては立派な体躯と備わった威厳でもって、相対する者たちをみなひれ伏せさせてきたものだが、それもじきに過去のことになるだろう。
齢六十を前にして見た目こそはいまだ壮健。だがしかし中身はとうに使い潰され朽ちておりスカスカ、もはやハリボテとかわらない。
『わりと長くもった方だけど、こいつはもうダメだね。さて、次の器はどうだろうか。じょうぶだといいんだけど』
遠い昔、無垢な少女は死の間際に願った。
純然たる想い。
あれに触れたときの感動はいまも鮮明に覚えている。それこそ何度もくり返し夢に見るほどに。
瞬間、魂がふるえた。奥底に刻み込まれ、いまなおこの身を突き動かしている。
だが当初は困惑したものである。
かなえてあげようとするも、あいにくとその方法がよくわからなかったから。
なにせボクは奪うことしか知らない。そして奪うことしかできない。べつ望んでそうなったわけじゃない。そのように産み落とされたせいだ。
花が花であるように、石は石であるように、海が海であるように、空が空であるように、大地が大地であるように……。
自分ではどうしようもない。ならばその通りに生きていくしかない。
でもさいわいなことに答えはすぐに得られた。
人間たちが教えてくれた。
水が欲しいのならば、水を奪えばいい。
腹いっぱいに食べたいのならば、食べ物をいっぱい奪えばいい。
お金がたくさん欲しいのならば、お金をたくさん奪えばいい。
より良い土地で暮らしたいのならば、より良い土地を奪えばいい。
家畜が欲しいのならば、家畜を奪えばいい。女が欲しいのならば、女を奪えばいい。男が欲しいのならば、男を奪えばいい。子どもが欲しいのならば、子どもを奪えばいい。国が欲しくば国を奪えばいい。
羨ましいのならば、妬ましいのならば、どうしても手に入れたい、欲しいモノがあるのならば、どんどん奪えばいい。
満ち足りないのならば、満ち足りるまで奪えばいい。
なにせ奪えば奪うだけ自分が潤うのだから。
簡単な話だった。ケモノが獲物を狩るのと同じこと。
方法を知ったとき「なぁんだ」とずいぶんひょうし抜けしたものである。
奪うのは得意だ。
というかボクにはそれしか出来ない。
だったら自分に出来ることをやろうとボクは決めた。
『ねえ、アリサ……ボクはいっぱいいっぱい奪ったよ。なのにヘンなんだ。奪えば奪うほどに渇いて渇いてしょうがない。ちっともお腹が膨れない。満たされない。もっともっとってなる。
でもそれはきっと足りないせいなんだよね?
アリサの夢見た世界を実現するためには、もっとずっとたくさん、まだまだ必要なんだ。
だというのにここはもうダメだね。神も人も大地も、充ちていた気も、宿っていた生命力も、あらかた吸い尽くしてしまった。
だけど心配はいらないよ。もう次の狩り場は用意してあるから。今度は北の大陸を蹂躙するんだ。
でもまずは剣の母と天剣(アマノツルギ)たちかな。せっかく向こうから来てくれるんだし。あぁ、少しはきみの夢の足しになればいいんだけど。
ねえ、アリサ。きみもそう思わないかい?』
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