3 / 67
003 夢の続き
しおりを挟むひさしぶりに夢をみた。
とても懐かしい夢だった。
夢の中であの子がむじゃきに笑っている。
大切な人たちとしあわせに暮らしたい。そう願った少女。
『アリサ、アリサ、アリサ……、ありさぁぁっ』
慟哭にて夢から醒めたとき、胸の奥にほんのり灯っていたのはぬくもり。
だがすぐに消えてしまった。
どこか遠くに行ってしまった。
そのことが無性にかなしい、さみしい、つらい、そしてとてつもなく腹立たしい。
ボクは王座の背もたれにぐったり身をあずけている男を一瞥する。
かつては立派な体躯と備わった威厳でもって、相対する者たちをみなひれ伏せさせてきたものだが、それもじきに過去のことになるだろう。
齢六十を前にして見た目こそはいまだ壮健。だがしかし中身はとうに使い潰され朽ちておりスカスカ、もはやハリボテとかわらない。
『わりと長くもった方だけど、こいつはもうダメだね。さて、次の器はどうだろうか。じょうぶだといいんだけど』
遠い昔、無垢な少女は死の間際に願った。
純然たる想い。
あれに触れたときの感動はいまも鮮明に覚えている。それこそ何度もくり返し夢に見るほどに。
瞬間、魂がふるえた。奥底に刻み込まれ、いまなおこの身を突き動かしている。
だが当初は困惑したものである。
かなえてあげようとするも、あいにくとその方法がよくわからなかったから。
なにせボクは奪うことしか知らない。そして奪うことしかできない。べつ望んでそうなったわけじゃない。そのように産み落とされたせいだ。
花が花であるように、石は石であるように、海が海であるように、空が空であるように、大地が大地であるように……。
自分ではどうしようもない。ならばその通りに生きていくしかない。
でもさいわいなことに答えはすぐに得られた。
人間たちが教えてくれた。
水が欲しいのならば、水を奪えばいい。
腹いっぱいに食べたいのならば、食べ物をいっぱい奪えばいい。
お金がたくさん欲しいのならば、お金をたくさん奪えばいい。
より良い土地で暮らしたいのならば、より良い土地を奪えばいい。
家畜が欲しいのならば、家畜を奪えばいい。女が欲しいのならば、女を奪えばいい。男が欲しいのならば、男を奪えばいい。子どもが欲しいのならば、子どもを奪えばいい。国が欲しくば国を奪えばいい。
羨ましいのならば、妬ましいのならば、どうしても手に入れたい、欲しいモノがあるのならば、どんどん奪えばいい。
満ち足りないのならば、満ち足りるまで奪えばいい。
なにせ奪えば奪うだけ自分が潤うのだから。
簡単な話だった。ケモノが獲物を狩るのと同じこと。
方法を知ったとき「なぁんだ」とずいぶんひょうし抜けしたものである。
奪うのは得意だ。
というかボクにはそれしか出来ない。
だったら自分に出来ることをやろうとボクは決めた。
『ねえ、アリサ……ボクはいっぱいいっぱい奪ったよ。なのにヘンなんだ。奪えば奪うほどに渇いて渇いてしょうがない。ちっともお腹が膨れない。満たされない。もっともっとってなる。
でもそれはきっと足りないせいなんだよね?
アリサの夢見た世界を実現するためには、もっとずっとたくさん、まだまだ必要なんだ。
だというのにここはもうダメだね。神も人も大地も、充ちていた気も、宿っていた生命力も、あらかた吸い尽くしてしまった。
だけど心配はいらないよ。もう次の狩り場は用意してあるから。今度は北の大陸を蹂躙するんだ。
でもまずは剣の母と天剣(アマノツルギ)たちかな。せっかく向こうから来てくれるんだし。あぁ、少しはきみの夢の足しになればいいんだけど。
ねえ、アリサ。きみもそう思わないかい?』
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。
天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。
いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑!
誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、
ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。
で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。
愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。
騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。
辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、
ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。
天剣と少女の冒険譚。
剣の母シリーズ第二部、ここに開幕!
故国を飛び出し、舞台は北の国へと。
新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。
国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。
ますます広がりをみせる世界。
その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか?
迷走するチヨコの明日はどっちだ!
※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部
「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から
お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。
あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

にゃんとワンダフルDAYS
月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。
小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。
頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって……
ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。
で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた!
「にゃんにゃこれーっ!」
パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」
この異常事態を平然と受け入れていた。
ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。
明かさられる一族の秘密。
御所さまなる存在。
猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。
ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も!
でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。
白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。
ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。
和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。
メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!?
少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。
おなら、おもっきり出したいよね
魚口ホワホワ
児童書・童話
ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。
でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。
そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。
やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる