上 下
275 / 378

ワールドトレント撃破

しおりを挟む
「どーれ、まずはその鬱陶しい枝葉を伐採してやろう。スピンカッター!」

 柄を中心に高速回転させた数千の剣や斧を発射させたが、複雑な操作をしている為か、ベリル本人が乗っている剣は止まっていた。

 数千動かしているのだからあと一本どうということはないと思いがちだが、自分が動いてしまうと今動かしている数倍の負荷がかかる。
 ユースケ様の例えで言う、自転車に乗ってるか乗ってないかの差は大きい。

 ベリルが止まっている隙を逃さずワールドトレントが魔法を浴びせかけるが、そこにノルンが割り込んだ。

 大盾を乗り物にしているから彼を守る物は身につけている全身鎧だけのはずだった。しかし、魔法の爆発が収まって、少しずつ見えてきた彼には一切の傷が付いてなかった。

 ノルンは腕を顔前で交差させている。何か特別な力を使ったのだろうと推測できる。

「あの大盾はただの足場かよ」

「ベリルと共闘している時はな。ソロの時はあれを使ってちゃんと防御するし、振り回してモンスターを殴り倒したりもしている」

 と言うことはノルンは戦闘もしようと思えばできるのか。
 今は攻撃をすべてベリルに任せて自分は守りに徹している。攻と守、二人の相性は抜群と言える。

 隙を突いた攻撃を行って守りが疎かになっているワールドトレントにベリルの武器たちが襲いかかる。

 全方位から迫る武器を必死になって魔法で打落そうとするが、多くの武器が避け、挙げ句の果には魔法を切り裂いて近づきワールドトレントの枝を切断し始めた。

 回避していた武器たちは必要最低限の動きで避けていて、その繊細な動きはとても一人で操作しているとは思えない。

「すっげー、ただ飛ばすだけじゃなくてあんなに細かい操作を全ての武器で行っている」

「実はユースケ様の鑑定が通じないダンジョンマスターだったと言われても信じられるわー。なんだよあの出鱈目な能力は」

 結果的に悪手を取って後手後手に回ってしまったワールドトレントは全ての枝を切り落とされ、体表は切り刻まれ満身創痍になった。

 すると、ワールドトレントは最後の抵抗として、己のすべての魔力を集中させて赤黒い破壊の光を二人に浴びせた。
 光が二人を包み込み爆発して、爆炎の中から二つの影が落下していった。

「何っ!?」

 蘇生アイテムの身代わり人形は死んだら発動するが、死なないとどんな重症でもそのままだ。
 私はすぐさま翼を広げて所々黒焦げになったベリルとノルンを地面に落ちる前に拾い上げた。

「は、はははは。やってやりましたよ」

 力なく笑うベリルは顔の穴という穴から血が流れ出ている。武器の操作に集中し過ぎた代償だろうか。

 ノルンは鎧の両腕と脇腹、左足部分が崩れ落ちている。あの攻撃をベリル庇って受けた上で重症程度で済んでいるとは……当たり所が良かったのかこの者の耐久力が異常なのか。

「今治療するから喋るな。全く、あの攻撃を受けて生き残るとは」

「約束ですよ。私の頼みを聞いてください」

「ダンジョンバトルが終わった後だ。いいからもう黙れ」

 回復魔法を掛けて傷を治したが、激戦で精神的に疲労した二人はここまでだ。
 二人に護衛を付けてエスリメへと返して、私たちはダンジョンの奥へと進む。

 孔明殿、マスターソード殿にマオ殿、そして多くのダンジョンマスターたちがいるエスリメは、人間の国程度の戦力では敵にもならないと思っていたが、まだまだベリルやノルンのような逸材がいたとはな。

 彼らだけが例外というわけでもあるまい。私の思っている以上に人間たちは強大ということか。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

処理中です...