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高いワインを飲んだぜ

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 酒場から宿に戻った俺様はパーティー追放の記念に高いワインを飲んでいた。
 これ一本で俺様の稼ぎ一ヶ月分だ。ひゅー、恐ろしいワインだぜ。

 少しでも元を取ろうと、ワインの匂いだけで30分くらい楽しんでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「開いてるぜー。なんだ、リオンてめえか。信じてたお仲間に追い出されて傷心中の俺様を慰めるために美女が来てくれたのかと思ったのに」

「美女ではなくて美男で悪かったな」

 俺様の冗談にリオンは苦笑しながらそう返してきた。きっしょ。こいつ自分で美男って言ってやがるぞ。実際に十人が見たら九人が美男だって言う整った顔だから仕方ねえか。残り一人は嘘つきな。
 何より腹立つのがこいつは冗談で返したつもりでいる所だ。

「私も飲んでいいか?」

「だめだ」

「ありがとう」

 だめだと言ってるのにグラスに注ぎ始めやがった。
 ワインを一口あおってリオンはボソリと言う。

「パーティーの件済まなかったな」

「気にしてねえさ。ひよっ子共の言うことなんてな」

「仕方ないさ。お前が彼らのから守ってるんだから」

「それに気づかないからひよっ子なんだよ」

 リオンに飲まれる前になるべく多く飲もうと、ワインを飲んでは注ぎを繰り返しながら俺様は淡々と話した。

 今日でこいつとこんなふうに話すのも終わりか。……基本こいつのお悩み相談だから清々するぜ。

「私がもっとアービィの活躍を伝えていれば……」

「それで納得してもらえなかったから俺様が追い出されたんだろ」

 リオンがワインの銘柄を見て高いやつだと気づいて急にチビチビと飲み始めた。こいつは昔から貧乏性だな。
 俺様も少しペースダウンする。

「新しい支援魔術師が入っても彼らは魔術を受ける前と後の身体能力の差について行けないだろう。お前が常にかけていたせいだな」

「それについては失敗したと思っている。まあ、ひよっ子でも天才共なんだから再教育には時間はかからないだろう。リオン、俺様は新しい下ぼ……仲間を教育してお前らを抜いてここのダンジョンのトップランナーになってやることにした。競争だぞ」

「何?…………なるほど。そっちの方が面白いというわけか。お前らしい。そういえばアカデミーでの勝敗は五分だったな。そろそろ決着をつけようか」

「あはははっ、望むところだ」

 グラスを打ち付けて俺様たちはグラスのワインを飲み干し、リオンは邪魔をしたと立ち上がった。

「待ってな。3ヶ月で追い抜いてやるよ」

「ああ、待ってるぞ」

 最後に一言だけ言ってリオンは帰った。
 残された俺様は少し寂しそうな顔で半分以上減ったワインボトルを見つめていた。
 俺様の一ヶ月分の稼ぎの半分以上が今の短い時間で失われた。
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