56 / 72
Category 4 : Anxiety
8 : Interest
しおりを挟む
『リヴィングストン、近況報告しろ』
「問題無く“建設”は進んでいます。反乱軍にはまだ知られていません。偵察等も半径二百キロメートル以内には今のところ発見されておりません」
『常に警戒態勢だ。“あれ”の存在が知られれば我々の脅威にもなり得る』
「了解」
『この前の失敗したロサンゼルス強襲作戦にて、“首輪”を一個破壊された。破片が反乱軍に発見されている可能性もある。今回の計画も知られれば大事に至るだろう』
「了解」
何故か、とは問わない。彼らには分かり切っている事だからだ。
デスクトップに表示された【通信終了】の文字。卓上の画面の正面と対面していた、キャリアー付き回転椅子に深くもたれかかっていた人物は身を立たせる。
先程リヴィングストンと呼ばれた人物は窮屈な椅子から立ち終えると、
「ファアー……」
と大口開けてあくびしつつ、身長百九十センチメートルにも達する身体で、軽くストレッチ。先程の液晶画面を睨む無機質な雰囲気は何処へ行ったか。
「堅苦しいものだ全く、そんな事などとっくに知っている……」
額に皺の寄った堅苦しい表情で愚痴をこぼした。百八十度方向転換すれば窓、その外に開拓されずに残った岩々や木々が並んでおり、目に橙色の光が差し込んできた。
「肝心の採掘システムは更に奥に隠しているから良いものの、余計な武装するから発見されるだろうが……」
眩しさから目を逸らし、再び椅子に位置する。皺の寄った表情に相応しく、不満げな口調だった。
年齢は三十代後半といったところか。顔つきはブリテン系の若みこそ残っているが、髪の毛は茶髪の所々に白髪。
「護衛というだけなら私一人でも十分だろうに。まあ例え足手まといになろうと“地の利”がある事には変わりない」
若くも老けても見える男性は、眩い夕日に怖じず対面しながら腕を組み、退屈そうな呟き。
部屋から出たアダム達を出迎えたのは、茶髪の日系アメリカ人だった。
「よおアダム、さっきの壁抜きといい、壁破る奴といい、見てて楽しかったぜ」
と少年に言い聞かせるも、肝心のアダムは怪訝な顔付きだった。とはいえ、普段から無情の彼の変化に気付くには難しいだろう。
「まあ俺には勝てんかったかな、ハハハ」
後ろからラテン系の青年が自信過剰も良いところ、高らかな笑いを上げる。これにはアダム、ではなくリョウが不機嫌に顔を変える。
「ったく、どうやったらお前に勝てるんだ。俺でさえ勝ち越した事がないってのに」
「格の違いだリョウ。誰かさんみたいにただ暴れ回るだけじゃあ辿り着けない境地なのさ」
「それ俺に負けたお前が言う事か?」
リョウをからかい牽制するレックスに、ブラジル系の青年から横槍が入った。
高笑いが消え、苦虫を噛み潰した表情。リカルドが白い歯を見せる。黒髪の白人は先程の態度など捨て、食って掛かる。
「それ格闘だろうが。てかカポエイラとか卑怯だぞ。動き見切ったから次は勝ってやる」
「お前は動きがカタいんだよ。俺みたいに踊れば良いのさ」
「だったらリカルド、お前こそこの前俺に負けたじゃねえか」
リョウの突っ込みに、小躍りして楽しむ黒人の快進撃が止まる。
「それを言うならお前のはごり押し過ぎるんだよ。普通あんなタイミングで突っ込んで来るか?」
「当たり前だろ。だったら……」
「いや、それこそ……」
男三人、口論が続きデッドヒート。もはや意味を持たぬ罵り合いへと退化していた。
取り残されるアダム。そして少年の隣で腕を組みながら呆れ顔で喧噪を見届ける銀髪の女性、クラウディア。
「アダム、あんな大人げない子供みたいな大人になるんじゃないぞ」
「……」
言葉は無いが、「何故こんな風になるのだろうか」という心境に違いない、とクラウディアはほぼ確信していた。
「無理もない。私だって良く分からない……」
対する少年は首を傾げて、はいなかったが、黙り込んで何かを考えているらしい。
「アダム、こういうのはガツンと言ってやるのが良いんだぞ……お前達、良い歳して何大人気ない事ばっかりするんだ!」
腕を組んだ長身の北欧女性の鋭い目つきに、まず黒人男性がオーバーリアクション気味に飛び退いた。次にラテン人が頭を右手で抑え、叱られた子供みたいに肩を落とす。
ただ、逆効果だったのが一名。
「まあ女には分からんさ。特に白い肌で身長も胸も尻もデカくて人をぶっ刺す女にはな」
北欧美人が顔を怒りに歪ませ、目をギラつかせて挑発するリョウへ食らいつく。
「お前は何時になったらデリカシーという単語を覚えるんだ!」
「また同じ事ばっか言いやがって! リピート再生機能でも付いてるのか? そして音量までもデカいときた!」
「お前だって人の事言えないじゃないか! 第一お前が……」
まるで子供の態度冗談を利かせながらクラウディアの怒りを燃やそうと油を注ぐリョウ。対するクラウディアは子供を叱る母親みたいな雰囲気を醸し出している。
尚、中間から一歩離れた地点に居る少年は目の前の現象を飽きたようにも見える目で観察し続けている。
「皮肉だな、この中で最年少が一番大人な態度だとは……」
「言えてる……おーいアダム、夫婦喧嘩うるせえのに何か言ってやれ」
レックスの悟るような呟き。アダムと出会ってまだ数時間程度のリカルドが、馴れ馴れしく話し掛けた。状況を更に盛り上げようと、口が笑っている。
「お前ノリの使い方をもう少しよお」
「見境なくジョーク使うお前には言われたかねえ」
「ハア、もう止めとけ!」
今度は白人と黒人の論争が生まれそうになったので、ため息を吐きながらレックスが声を上げて制止に入った。
「そういやリョウ、お前アダムに何かをやるとか言っていなかったか?」
先程の喧嘩から、いち早く冷静に切り替わったクラウディアは、喧嘩相手だったリョウへためらう事なく声を掛けた。リョウの方も、既に顔から血の気が飛んでいた。
「いけねえ、忘れる所だったぜ。アダム、お前に渡したい物があるんだ。ちょっと良いか?」
四人の若い大人から殆ど空気になっていた少年へ、ようやく声が掛けられる。
アダムの方は相変わらず表情こそ変化は無いが、黙って観察する目つきが怒っているようにも見える。それでもリョウはなりふり構わない。
「とりあえず外行こうぜ。お前らも来る?」
指で何処からか取った鍵を回しながら、親指で出口を指す。残り三人の若者は頷き、ボサボサな茶髪の後に続いた。
前方の青年は既に廊下を通過し、建物の出入口のドアを開けて、向こう側へ消えた。残された四人が追う。
ブオオン!――ドアを開けたところで、連続する排気音。
「こいつをお前にどうかと思ってな」
建物から出て左側にある駐輪場。リョウは先回りし、ポツンと立っていた二輪車のエンジンを掛けていた。
「お前、そんなん良い奴に埃被せる位なら俺にくれりゃあ良かったじゃん」
「うるせえ、お前もっと良い奴持ってるだろ」
何の事だ、とアダムがリョウの跨がる物体を観察する。
空気抵抗を減らす為の流線形の外郭。長さ約二メートル、高さ一メートル強、幅七十センチメートル程。黒を基調に緑のアクセントが印象的だ。
比較的大柄なリョウには少々小さいサイズにも見える。
「リョウ、お前もバイク持ってたのか? てっきり車ばかりかと思ったぞ」
と、クラウディアの意外感。
「レックスの奴に負けて以来の奴か?」
「バカヤロウ、車なら負けねえよ」
リカルドが懐かしむように言った。バイクに乗りながら台詞を一蹴。
「カワサキのリスペクトたっぷりだ。ニンジャのイメージはお前には合うと思ってな、こいつをやるよお前に」
二輪車を細かく観察するアダムへ声を掛ける。しかし少年は目を離さない。
(空気抵抗と乱流を防ぐ構造か。動力源は炭化水素による内燃機関か?)
「乗ってみるか?」
何も言わないので行動を起こさせてみる。図った通り、少年が顔を上げた。
リョウがバイクから降り、手で誘導する。アダムが跨がる。小柄なアダムには少し大きく思えた。
「ここにあるのが鍵で、この隣のがスターター。アクセルはハンドル右を捻ろ。ブレーキは……ギアは……」
一方的に言い続ける青年。アダムは反応しないまま計器類を眺めている。そこへ黒髪の青年が混じる。
「四百ccだが、パワー結構あるし、コーナリングの操作性も良い筈だぜ」
ブオオン!――クラッチレバーを握りながら高々とマフラーを鳴らした。
後方で見守っているクラウディアは呆れを若干含ませながら、落ち着きなく心配そうに前の三人を眺めている。
「……リカルド、これって無免許運転じゃないのか?」
「さあ、免許なんて戦争で消えたんじゃね? まあ上手けりゃ良いのさ」
隣の男性の返答に呆れて顔を押さえるクラウディア。黒人までため息をつきながら苦笑する。
「あっ、ヘルメットちゃんとしろよ。“俺達”なら事故っても平気だろうが、マナーみたいなもんだ」
レックスが付け加え、バイクと同色のフルフェイスヘルメットを渡す。受け取ったアダムは有無を言わずヘルメットを抵抗無くスッポリ被った。
「走ってみるか?」
「バカ、お前まだ初めてだぞ」
調子に乗ったリョウを、クラウディアが咎めた。「流石に駄目か」と笑いながら諦める。
「いや待て、アダム、そもそもお前バイク乗りたいのか?」
今度は、リカルドが馴れ馴れしく、無言の少年へ問い。未だに何も言わないので疑ったのだ。
対するアダムは、ヘルメットを被ったまま黙って何かを考えているようだった。ようやく彼の口から音が発される。
「ああ、興味がある……何故だろう……」
バイザー奥からのくぐもった声に、リカルドとクラウディアが「本当か?」と目を見開いた。一方でリョウとレックスは「分かってるな」と少年の肩を叩く。
「やっぱり記憶が消えでも嗜好は変わらないものなのか……しかし意外な趣味だな」
クラウディアが呆然と呟いた。
気が付けばリカルドが前へ行き、男四人が談笑――尚、一人は全く喋りも笑いもしなかったが。
女性が一人、子供のようにはしゃぐ男性陣を大人びた目で眺めながら口に笑みを浮かべた。
「問題無く“建設”は進んでいます。反乱軍にはまだ知られていません。偵察等も半径二百キロメートル以内には今のところ発見されておりません」
『常に警戒態勢だ。“あれ”の存在が知られれば我々の脅威にもなり得る』
「了解」
『この前の失敗したロサンゼルス強襲作戦にて、“首輪”を一個破壊された。破片が反乱軍に発見されている可能性もある。今回の計画も知られれば大事に至るだろう』
「了解」
何故か、とは問わない。彼らには分かり切っている事だからだ。
デスクトップに表示された【通信終了】の文字。卓上の画面の正面と対面していた、キャリアー付き回転椅子に深くもたれかかっていた人物は身を立たせる。
先程リヴィングストンと呼ばれた人物は窮屈な椅子から立ち終えると、
「ファアー……」
と大口開けてあくびしつつ、身長百九十センチメートルにも達する身体で、軽くストレッチ。先程の液晶画面を睨む無機質な雰囲気は何処へ行ったか。
「堅苦しいものだ全く、そんな事などとっくに知っている……」
額に皺の寄った堅苦しい表情で愚痴をこぼした。百八十度方向転換すれば窓、その外に開拓されずに残った岩々や木々が並んでおり、目に橙色の光が差し込んできた。
「肝心の採掘システムは更に奥に隠しているから良いものの、余計な武装するから発見されるだろうが……」
眩しさから目を逸らし、再び椅子に位置する。皺の寄った表情に相応しく、不満げな口調だった。
年齢は三十代後半といったところか。顔つきはブリテン系の若みこそ残っているが、髪の毛は茶髪の所々に白髪。
「護衛というだけなら私一人でも十分だろうに。まあ例え足手まといになろうと“地の利”がある事には変わりない」
若くも老けても見える男性は、眩い夕日に怖じず対面しながら腕を組み、退屈そうな呟き。
部屋から出たアダム達を出迎えたのは、茶髪の日系アメリカ人だった。
「よおアダム、さっきの壁抜きといい、壁破る奴といい、見てて楽しかったぜ」
と少年に言い聞かせるも、肝心のアダムは怪訝な顔付きだった。とはいえ、普段から無情の彼の変化に気付くには難しいだろう。
「まあ俺には勝てんかったかな、ハハハ」
後ろからラテン系の青年が自信過剰も良いところ、高らかな笑いを上げる。これにはアダム、ではなくリョウが不機嫌に顔を変える。
「ったく、どうやったらお前に勝てるんだ。俺でさえ勝ち越した事がないってのに」
「格の違いだリョウ。誰かさんみたいにただ暴れ回るだけじゃあ辿り着けない境地なのさ」
「それ俺に負けたお前が言う事か?」
リョウをからかい牽制するレックスに、ブラジル系の青年から横槍が入った。
高笑いが消え、苦虫を噛み潰した表情。リカルドが白い歯を見せる。黒髪の白人は先程の態度など捨て、食って掛かる。
「それ格闘だろうが。てかカポエイラとか卑怯だぞ。動き見切ったから次は勝ってやる」
「お前は動きがカタいんだよ。俺みたいに踊れば良いのさ」
「だったらリカルド、お前こそこの前俺に負けたじゃねえか」
リョウの突っ込みに、小躍りして楽しむ黒人の快進撃が止まる。
「それを言うならお前のはごり押し過ぎるんだよ。普通あんなタイミングで突っ込んで来るか?」
「当たり前だろ。だったら……」
「いや、それこそ……」
男三人、口論が続きデッドヒート。もはや意味を持たぬ罵り合いへと退化していた。
取り残されるアダム。そして少年の隣で腕を組みながら呆れ顔で喧噪を見届ける銀髪の女性、クラウディア。
「アダム、あんな大人げない子供みたいな大人になるんじゃないぞ」
「……」
言葉は無いが、「何故こんな風になるのだろうか」という心境に違いない、とクラウディアはほぼ確信していた。
「無理もない。私だって良く分からない……」
対する少年は首を傾げて、はいなかったが、黙り込んで何かを考えているらしい。
「アダム、こういうのはガツンと言ってやるのが良いんだぞ……お前達、良い歳して何大人気ない事ばっかりするんだ!」
腕を組んだ長身の北欧女性の鋭い目つきに、まず黒人男性がオーバーリアクション気味に飛び退いた。次にラテン人が頭を右手で抑え、叱られた子供みたいに肩を落とす。
ただ、逆効果だったのが一名。
「まあ女には分からんさ。特に白い肌で身長も胸も尻もデカくて人をぶっ刺す女にはな」
北欧美人が顔を怒りに歪ませ、目をギラつかせて挑発するリョウへ食らいつく。
「お前は何時になったらデリカシーという単語を覚えるんだ!」
「また同じ事ばっか言いやがって! リピート再生機能でも付いてるのか? そして音量までもデカいときた!」
「お前だって人の事言えないじゃないか! 第一お前が……」
まるで子供の態度冗談を利かせながらクラウディアの怒りを燃やそうと油を注ぐリョウ。対するクラウディアは子供を叱る母親みたいな雰囲気を醸し出している。
尚、中間から一歩離れた地点に居る少年は目の前の現象を飽きたようにも見える目で観察し続けている。
「皮肉だな、この中で最年少が一番大人な態度だとは……」
「言えてる……おーいアダム、夫婦喧嘩うるせえのに何か言ってやれ」
レックスの悟るような呟き。アダムと出会ってまだ数時間程度のリカルドが、馴れ馴れしく話し掛けた。状況を更に盛り上げようと、口が笑っている。
「お前ノリの使い方をもう少しよお」
「見境なくジョーク使うお前には言われたかねえ」
「ハア、もう止めとけ!」
今度は白人と黒人の論争が生まれそうになったので、ため息を吐きながらレックスが声を上げて制止に入った。
「そういやリョウ、お前アダムに何かをやるとか言っていなかったか?」
先程の喧嘩から、いち早く冷静に切り替わったクラウディアは、喧嘩相手だったリョウへためらう事なく声を掛けた。リョウの方も、既に顔から血の気が飛んでいた。
「いけねえ、忘れる所だったぜ。アダム、お前に渡したい物があるんだ。ちょっと良いか?」
四人の若い大人から殆ど空気になっていた少年へ、ようやく声が掛けられる。
アダムの方は相変わらず表情こそ変化は無いが、黙って観察する目つきが怒っているようにも見える。それでもリョウはなりふり構わない。
「とりあえず外行こうぜ。お前らも来る?」
指で何処からか取った鍵を回しながら、親指で出口を指す。残り三人の若者は頷き、ボサボサな茶髪の後に続いた。
前方の青年は既に廊下を通過し、建物の出入口のドアを開けて、向こう側へ消えた。残された四人が追う。
ブオオン!――ドアを開けたところで、連続する排気音。
「こいつをお前にどうかと思ってな」
建物から出て左側にある駐輪場。リョウは先回りし、ポツンと立っていた二輪車のエンジンを掛けていた。
「お前、そんなん良い奴に埃被せる位なら俺にくれりゃあ良かったじゃん」
「うるせえ、お前もっと良い奴持ってるだろ」
何の事だ、とアダムがリョウの跨がる物体を観察する。
空気抵抗を減らす為の流線形の外郭。長さ約二メートル、高さ一メートル強、幅七十センチメートル程。黒を基調に緑のアクセントが印象的だ。
比較的大柄なリョウには少々小さいサイズにも見える。
「リョウ、お前もバイク持ってたのか? てっきり車ばかりかと思ったぞ」
と、クラウディアの意外感。
「レックスの奴に負けて以来の奴か?」
「バカヤロウ、車なら負けねえよ」
リカルドが懐かしむように言った。バイクに乗りながら台詞を一蹴。
「カワサキのリスペクトたっぷりだ。ニンジャのイメージはお前には合うと思ってな、こいつをやるよお前に」
二輪車を細かく観察するアダムへ声を掛ける。しかし少年は目を離さない。
(空気抵抗と乱流を防ぐ構造か。動力源は炭化水素による内燃機関か?)
「乗ってみるか?」
何も言わないので行動を起こさせてみる。図った通り、少年が顔を上げた。
リョウがバイクから降り、手で誘導する。アダムが跨がる。小柄なアダムには少し大きく思えた。
「ここにあるのが鍵で、この隣のがスターター。アクセルはハンドル右を捻ろ。ブレーキは……ギアは……」
一方的に言い続ける青年。アダムは反応しないまま計器類を眺めている。そこへ黒髪の青年が混じる。
「四百ccだが、パワー結構あるし、コーナリングの操作性も良い筈だぜ」
ブオオン!――クラッチレバーを握りながら高々とマフラーを鳴らした。
後方で見守っているクラウディアは呆れを若干含ませながら、落ち着きなく心配そうに前の三人を眺めている。
「……リカルド、これって無免許運転じゃないのか?」
「さあ、免許なんて戦争で消えたんじゃね? まあ上手けりゃ良いのさ」
隣の男性の返答に呆れて顔を押さえるクラウディア。黒人までため息をつきながら苦笑する。
「あっ、ヘルメットちゃんとしろよ。“俺達”なら事故っても平気だろうが、マナーみたいなもんだ」
レックスが付け加え、バイクと同色のフルフェイスヘルメットを渡す。受け取ったアダムは有無を言わずヘルメットを抵抗無くスッポリ被った。
「走ってみるか?」
「バカ、お前まだ初めてだぞ」
調子に乗ったリョウを、クラウディアが咎めた。「流石に駄目か」と笑いながら諦める。
「いや待て、アダム、そもそもお前バイク乗りたいのか?」
今度は、リカルドが馴れ馴れしく、無言の少年へ問い。未だに何も言わないので疑ったのだ。
対するアダムは、ヘルメットを被ったまま黙って何かを考えているようだった。ようやく彼の口から音が発される。
「ああ、興味がある……何故だろう……」
バイザー奥からのくぐもった声に、リカルドとクラウディアが「本当か?」と目を見開いた。一方でリョウとレックスは「分かってるな」と少年の肩を叩く。
「やっぱり記憶が消えでも嗜好は変わらないものなのか……しかし意外な趣味だな」
クラウディアが呆然と呟いた。
気が付けばリカルドが前へ行き、男四人が談笑――尚、一人は全く喋りも笑いもしなかったが。
女性が一人、子供のようにはしゃぐ男性陣を大人びた目で眺めながら口に笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年 -戦勝国日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1940年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、美貌と天才的な頭脳で軍部を魅了し、外交・戦略・経済・思想、あらゆる分野で革命を起こしていく。
真珠湾攻撃を再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出すレイ。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、第二次世界大戦を勝利に導き、世界一の国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
AIコミュニケーション〜君は私のアルゴリズム〜
夢想PEN
SF
西暦2045年
AIが当たり前になった時代。
対話型成長AI -YUI-と達也が出会った。
反AI派と政治家の圧力による「AI倫理法」が、AIがもたらす希望と社会の制御の間で揺れる。
YUIと達也の絆は愛なのか、プログラムなのか、AIと人間の共存を描くSFヒューマンドラマ

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
桜華ノ戦将 -Ouka no Sensho-
斎賀慶
SF
世界は、突如現れた“異形”に蹂躙された。
空と海は封じられ、国々は孤立し――人類は、滅びの淵に立たされた。
日本を襲うのは、「鬼」や「妖」。
それに唯一対抗できるのが、「戦将」と呼ばれる選ばれし者たち。
魂を削り、異形を討伐する彼らは、特務機関〈桜華〉に集い、“最後の希望”となった。
戦将を志す少年・宮本蒼真(みやもとそうま)は、
歴史上の偉人の記憶を宿す武器《戦武》を手にする。
その二振り――それは、かの剣聖・宮本武蔵であった。
二天一流の剣が、現代に蘇る。
蒼真の刃が滅びゆく世界を切り拓くとき、
人類の未来を懸けた、新たな戦いが幕を開ける。
※本作は、VR訓練・異能武器・近未来の日本を舞台にした〈和風バトルSF〉です。
※本作品は他サイトでも掲載しています。
※AIで生成したオリジナルイラストです。
【なろう450万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて450万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる