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Category 3 : Rebellion
5 : Nomal
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反乱軍は追い詰められていた。戦車や味方基地からの遠距離砲撃ではとても抑えられる数では無かった。
具体的には、ロバートが双眼鏡を覗いた時、敵の大群との距離は100メートルを切っていた。
「ピンチはチャンスだ! 近付いて来た事を後悔させてやれ!」
そう言うのもしっかりとした理由がある。標的との距離が近ければ狙いを定めるのが簡単になるし、榴弾等近距離で有効な武器もある。
だが相手も同じだ。機械達が停止するのに加え、被弾する兵士も増加した。
「さあ来い! 7.62ミリ弾のプレゼントが待ってるぜ! しっかり受け止めやがれ!」
楽しさで顔を笑顔に引きつらせるのはロバートの分隊員で軽機関銃を持つ兵士。ロバートより少し年下位、短い金髪に青い瞳という典型的な白人だ。
秒間で15発を超える発射速度で10グラムの銃弾を飛ばす事によって外壁を貫かれたロボット達が倒れる。
「サム、機嫌良いな」
「そりゃあ、このマシンガン良い奴っすから!」
ロバートの呟きに笑顔で答え、サムと呼ばれた分隊員は喜びの奇声を上げながら引き金を引き続けるのだった。
その隣では、リボルバー式グレネードランチャーを両手に抱えて連射する兵士の姿もあった。アイルランド系で40代に見え、横幅が大きく茶髪と同色のボサボサな長い髭を生やしている。
爆風でロボット達が吹き飛ぶ。直撃すれば跡形も無くなった。
「ボブ、その調子だ」
「ああ、これが俺の取柄みたいなもんだからな」
ボブと呼ばれた分隊員は答えながら空になった薬莢室へ新しい榴弾を12個慣れた動作で詰め込む。
「ラケシュ、ジェシカ、お前達はピーターの援護につけ。あいつ苦戦してるぜ」
「了解。確かに慣れてない動きだ」
「分かったよ。全く、あたし無しじゃあお前ら駄目なんだから」
ラケシュは20代後半でインド系の見るからに穏健な男性。ジェシカは長い黒髪を後ろで纏めた同年代の口調の荒い女性。2人は少し前方で忙しく動く二足歩行戦車の元へ駆け足で近付いた。
「調子はどう?」
『何とも……しかしウォーカーって思う様に動かないですね』
女性の元気な問い掛けに対し、操縦席からの通信の若い声は不安を伝えていた。
「人間の1.6倍のスピードがあるとはいえ、距離があって人間の感覚だと6割位のスピードしか出せないからな」
「細かい事は気にしないで、あたし達に任せな!」
『さすが姐さん、格好良いや』
ラケシュが理論的な説明を言うのに対し、ジェシカは心配を吹き飛ばす様に二足歩行戦車に言い聞かせた。
二足歩行戦車の操縦者ピーターはロバートの分隊の中で最年少だ。未熟ながらもあらゆる事を器用にこなし、今回では分隊の主力として二足歩行戦車の搭乗員としての役割を担う。
二足歩行戦車の主武装である2丁の20ミリサブマシンガンは片方だけで100グラムの金属弾をマッハ3、秒間10発で吐き出す。
大口径故に対物目標には最適だ。それを証明する様に銃弾はマシン共の外壁を突き破り次々と破壊する。
二足歩行戦車の全高は4.5メートル。白人男性の平均の2.5倍程だ。この大きさ故に人やそれ以下の目標には狙いが付けにくい。
ちなみに銃を支えるのは2本の腕なので精度は悪く、大砲並みの長距離射撃は無理だ。肩のロケット連装砲もロケット砲自体の命中精度がそもそも悪いので、二足歩行戦車の有効射程範囲は1キロメートル以内が妥当だ。
ピーターが撃ち損じた獣型ロボットが銃弾を発射しながら突撃してくる。しかし、ロボットはアサルトライフル弾によって近寄る前にことごとく破壊された。
別の方角でロケット砲に運良く破壊されなかった無人バイクが、仕返しにロケット砲を発射しようとしていた。しかしロケットは発射されなかった。狙いが決まる前に小銃下部に取り付けられたグレネード発射筒から飛び出た弾が吹き飛ばしたのだ。
「イエーイ!」
ジェシカが敵機体を破壊する度に叫ぶ。ラケシュは射撃をそこそこ、同時に左腕に巻き付けた腕輪型端末の画面を見る。
「2時の方向50メートル、10体だ」
プロペラ小型観測機から集めたデータを通信機に話し掛けるが、返事はない。代わりに二足歩行戦車がラケシュの言った方向へ向き、丁度迫っていた獣型ロボットの一群をサブマシンガンで蜂の巣にした。
「次、11時に70メートル20体」
二足歩行戦車の肩に付いている箱形のロケット連装砲から火を噴いた。燃焼ガスが後方に噴射され、反作用でロケットが前へ進む。
ロケットは軌道上の機械獣達を3分の2程吹っ飛ばし、余りはジェシカとラケシュがフォローしてくれた。
『2人共前に出過ぎたら危ないですよ』
ピーターの乗る機体が時折火花と金属音を鳴らしているのは対人弾が当たった所為だろう。しかしその程度では金属の巨人の装甲は破れない。
『指揮部より通達。敵が多数の小型無人爆撃機による攻撃を開始する模様。遭遇まで残り3分』
「マジ? ただでさえこの状態だってのに」
「おい、高射部隊大丈夫か?」
『相手が航空機だってなら退くのも速い筈だ。その時は少し辛抱してくれ』
高射砲は本来対空射撃を行う為の兵器だが、その高威力や連射速度は地上目標にも有効だ。連装式高射機関砲はその連射速度を活用し地上の機械共をなぎ倒す。
「おい、伏せろ!」
ロバートの隣の黒人、ルーサーが警告した。反射的に身を屈め、次の瞬間塹壕の少し前で爆発が起こった。
幸運にも無傷だった。安全だと判断し、塹壕から顔を少し出す。
次に見えた光景は、こちらに銃を向けていた人型ロボットが体を貫かれ、機関部を損傷し倒れた姿だった。
「シモン、俺が仕返ししてやる所を余計な真似しやがって」
『他人の隙を突くのは俺の十八番でねえ』
別の位置に居るスペイン訛りの狙撃担当の分隊員との通信。そしてピーター達を襲う無人バイクが燃料タンクを撃ち抜かれ炎上した。
「サム、ボブ、もっと前に出ろ。火力を集中させるんだ」
二人から了解、と返事が来た。間も無く前方の爆発が勢いを増やした。
「ルーサー、やろうぜ。たった2分チョイだ」
「またか。お前の馬鹿に付き合わされるのは何度目だこれで」
突っ込む様な返答だったが、表情は乗り気だった。2人は勢い良く身を隠す遮蔽物から飛び出た。意味を持たない叫びを上げながら近寄るマシンを小銃で殲滅する。
ロバートが手榴弾を投げながらスライディング、偶々近くにあった岩陰に隠れた。
ルーサーもその後に続く。途中で顔の横を高速低質量体が通り過ぎた時は思わずヒヤッとして硬直しそうになった。
手榴弾が爆発し近寄っていた獣をバラバラにした。そして黒人の方は無事に岩陰に辿り着く事が出来た。
「危ねえ! 天国が一瞬見えたぜ」
「あと50年は行きたくないな」
一呼吸合わせ、岩陰の両側からそれぞれ体を出した2人。集中砲火で列になる人型ロボットを金属の動かぬ人形に変えた。
再び白黒双方の人種からの奇声。走りながらアサルトライフル弾をばら撒き、集まる金属の兵隊を殲滅すると同時に移動する事で狙われない様にする。
それでも2人は体の周囲を通り過ぎる銃弾に時々背筋を凍らせる。関係ないとばかりに射撃で誤魔化すが、やはり危機を感じ再び地形の起伏に身を隠した。
ルーサーが手榴弾を投げ込む。数秒後、土砂と共に無人バイクが吹き上がり倒れた。
側面から機械獣が駆けて来る。背中に搭載された銃は走行と共に揺られながら発光するが、不安定な為か当たらなかった。
「だあああああ!!!!!」
ルーサーが声を張り上げながら機械獣へ突進する。
お互いに銃を乱射するが、どちらも命中しなかった。止まらずに走りぶつかろうとする二者。
ルーサーは大柄だが、体重が90キログラムを超える程ではない。一方機械獣は体長2メートル、体重は炭素プレートによって軽量されているとはいえ100キログラムはある。
人間のトップアスリートですら時速36キロメートルだが、この機動性を重視した兵器はゆうに時速100キロメートルを超える速さを出す。
体重は大体同じだとしても、速度が3倍、エネルギー量で9倍。正面衝突した時の勝敗は決まった様なものだ。
「なんてな!」
黒い顔が白い歯を見せてニヤリと笑った。途端にその身体が跳ね、自分を撥ねようとしていた獣を飛び越した。
すれ違う瞬間、銃口が下に向き、振動や発砲音と共に飛んでいく銃弾が屑鉄を生み出した。
一方、ロバートは自分が隠れている所へやって来た人型ロボットをどう対処するか悩んでいた。
考えた挙句、勢い良く立ち上がる。急に目の前に標的が現れたロボットは躊躇いもなく照準を付け、引き金を引く。
直前、ロバートが両手でロボットの持つ小銃を奪い取ろうと掴んだ。引き金が引かれ二者が拮抗しながら銃弾が周囲へ飛び散る。
姿勢を低くし腕を引っ張るとロボットが浮く。地面に背中を着け後ろへ蹴り飛ばし巴投げを決めた。地面に墜落したロボットはそのままルーサーの銃弾によって行動不能となった。
「無事か兄弟?」
「サンキューな……って後ろ!」
ルーサーの後方から襲い掛かる3体の獣。即座に小銃を構え撃つが、2体は倒せても残りは近くて破壊に間に合わない。
戦闘の機械獣のバイザーの頭が2人に到達まで残り1メートル。
パパパパパ……小銃よりも鋭く速い発砲音が2人の耳に届いた。
側面から胴体を貫かれた機械獣はぐったりと倒れ、走っていた勢いでロバートの足に絡みついた。
足元のガラクタを除けたロバートは相棒と共に呆然とした視線で、サブマシンガンを2丁持ってスライディングして横切る人物の姿を見届けた。
砂の上で滑りながら起き上がり銃を前後に向け体をスピン、小口径弾が四方八方から襲い掛かる機械獣を撃ち殺した。
前方から人型ロボットが3体銃を向けているのに対し、跳び込む様に地面を転がった。飛んで来る銃弾が丸まった体を掠める。
1回転し終え、2丁の銃で左右の2体を片付ける。最後の1体にはスライディングキックを決め、転ばせ倒した。
起き上がると同時に無慈悲に銃弾をプレゼントする。ロバート達が駆け寄った。
「何時も格好付けやがってミハイル」
「それが俺の趣味なんですよ。良い加減彼女作りたい歳ですし」
北欧系あるいはスラヴ系の彫りの深い顔つきと黒目黒髪の兵士、ミハイルは言葉を返しながらサブマシンガンの片手で器用に弾倉を交換した。
『伏せろ!』
通信通りに身を伏せた3人。
機銃掃射と大量の爆発が3人の前方で起こった。数十体ものマシン達に穴が開き、機体が吹き飛ぶ。
『ボケっとしないで下さいや隊長』
『もうすぐ敵飛行機が来ますぜ』
「また飯を奢ってやらねばな」
サムとボブからの通信を耳にし、後退し始めた3人は追ってくる機械獣の群れへ乱射しながら逃げる。
逃げる先に立っている二足歩行戦車がこちらへ銃口を向けた。
火薬の発砲が左右の銃口合わせて1秒で20回。前方からの発砲音に加え、ロバート達の後ろで鳴り響く金属破砕音。
「こんにゃろう、俺も撃とうとしただろう!」
『何で僕には感謝してくれないんですか?!』
出来上がった金属の破片を見ながらからかう様に言った。片や通信越しの若い声は弄ばされていた。
直後、二足歩行戦車の斜め前方で爆発。榴弾発射筒を抱えた人型ロボット数体が弾け飛んだ。
『男共、ボサッとすんじゃないよ! 全く、あたしが居なきゃこの分隊駄目ね』
「デキる女は駄目出しなんてするもんかよ」
『ところで、あと1分も無い。早く退却だ』
唯一の女性メンバーの呆れ口調に反抗したが、インド人が一蹴した。
やがて3人は10秒も経たない内に塹壕へ戻り、頭と腕だけを出して射撃を再開した。
「対空しっかりしろよ」
『勿論ですよ。狙って引き金を引けば良いんですよね』
「おう。あと肩のロケランは地上へ撃てる筈だぞ。シモン、居るか?」
『へい、俺が恋しくなりましたか?』
「ジープに何か残ってないか? 使えそうなのがあったらこちらへ回してくれ」
『了解。スナイパーは補給係じゃないんだが……』
部下の愚痴を他所に迫り来る機械の群れを撃ち抜いていくが、やはり押されている。これに航空戦力が加われば悲惨な出来事は容易に想像出来よう。
「あと30秒……」(アンジュとチャック先生にも限界はある。俺達が頑張る以外にないな)
具体的には、ロバートが双眼鏡を覗いた時、敵の大群との距離は100メートルを切っていた。
「ピンチはチャンスだ! 近付いて来た事を後悔させてやれ!」
そう言うのもしっかりとした理由がある。標的との距離が近ければ狙いを定めるのが簡単になるし、榴弾等近距離で有効な武器もある。
だが相手も同じだ。機械達が停止するのに加え、被弾する兵士も増加した。
「さあ来い! 7.62ミリ弾のプレゼントが待ってるぜ! しっかり受け止めやがれ!」
楽しさで顔を笑顔に引きつらせるのはロバートの分隊員で軽機関銃を持つ兵士。ロバートより少し年下位、短い金髪に青い瞳という典型的な白人だ。
秒間で15発を超える発射速度で10グラムの銃弾を飛ばす事によって外壁を貫かれたロボット達が倒れる。
「サム、機嫌良いな」
「そりゃあ、このマシンガン良い奴っすから!」
ロバートの呟きに笑顔で答え、サムと呼ばれた分隊員は喜びの奇声を上げながら引き金を引き続けるのだった。
その隣では、リボルバー式グレネードランチャーを両手に抱えて連射する兵士の姿もあった。アイルランド系で40代に見え、横幅が大きく茶髪と同色のボサボサな長い髭を生やしている。
爆風でロボット達が吹き飛ぶ。直撃すれば跡形も無くなった。
「ボブ、その調子だ」
「ああ、これが俺の取柄みたいなもんだからな」
ボブと呼ばれた分隊員は答えながら空になった薬莢室へ新しい榴弾を12個慣れた動作で詰め込む。
「ラケシュ、ジェシカ、お前達はピーターの援護につけ。あいつ苦戦してるぜ」
「了解。確かに慣れてない動きだ」
「分かったよ。全く、あたし無しじゃあお前ら駄目なんだから」
ラケシュは20代後半でインド系の見るからに穏健な男性。ジェシカは長い黒髪を後ろで纏めた同年代の口調の荒い女性。2人は少し前方で忙しく動く二足歩行戦車の元へ駆け足で近付いた。
「調子はどう?」
『何とも……しかしウォーカーって思う様に動かないですね』
女性の元気な問い掛けに対し、操縦席からの通信の若い声は不安を伝えていた。
「人間の1.6倍のスピードがあるとはいえ、距離があって人間の感覚だと6割位のスピードしか出せないからな」
「細かい事は気にしないで、あたし達に任せな!」
『さすが姐さん、格好良いや』
ラケシュが理論的な説明を言うのに対し、ジェシカは心配を吹き飛ばす様に二足歩行戦車に言い聞かせた。
二足歩行戦車の操縦者ピーターはロバートの分隊の中で最年少だ。未熟ながらもあらゆる事を器用にこなし、今回では分隊の主力として二足歩行戦車の搭乗員としての役割を担う。
二足歩行戦車の主武装である2丁の20ミリサブマシンガンは片方だけで100グラムの金属弾をマッハ3、秒間10発で吐き出す。
大口径故に対物目標には最適だ。それを証明する様に銃弾はマシン共の外壁を突き破り次々と破壊する。
二足歩行戦車の全高は4.5メートル。白人男性の平均の2.5倍程だ。この大きさ故に人やそれ以下の目標には狙いが付けにくい。
ちなみに銃を支えるのは2本の腕なので精度は悪く、大砲並みの長距離射撃は無理だ。肩のロケット連装砲もロケット砲自体の命中精度がそもそも悪いので、二足歩行戦車の有効射程範囲は1キロメートル以内が妥当だ。
ピーターが撃ち損じた獣型ロボットが銃弾を発射しながら突撃してくる。しかし、ロボットはアサルトライフル弾によって近寄る前にことごとく破壊された。
別の方角でロケット砲に運良く破壊されなかった無人バイクが、仕返しにロケット砲を発射しようとしていた。しかしロケットは発射されなかった。狙いが決まる前に小銃下部に取り付けられたグレネード発射筒から飛び出た弾が吹き飛ばしたのだ。
「イエーイ!」
ジェシカが敵機体を破壊する度に叫ぶ。ラケシュは射撃をそこそこ、同時に左腕に巻き付けた腕輪型端末の画面を見る。
「2時の方向50メートル、10体だ」
プロペラ小型観測機から集めたデータを通信機に話し掛けるが、返事はない。代わりに二足歩行戦車がラケシュの言った方向へ向き、丁度迫っていた獣型ロボットの一群をサブマシンガンで蜂の巣にした。
「次、11時に70メートル20体」
二足歩行戦車の肩に付いている箱形のロケット連装砲から火を噴いた。燃焼ガスが後方に噴射され、反作用でロケットが前へ進む。
ロケットは軌道上の機械獣達を3分の2程吹っ飛ばし、余りはジェシカとラケシュがフォローしてくれた。
『2人共前に出過ぎたら危ないですよ』
ピーターの乗る機体が時折火花と金属音を鳴らしているのは対人弾が当たった所為だろう。しかしその程度では金属の巨人の装甲は破れない。
『指揮部より通達。敵が多数の小型無人爆撃機による攻撃を開始する模様。遭遇まで残り3分』
「マジ? ただでさえこの状態だってのに」
「おい、高射部隊大丈夫か?」
『相手が航空機だってなら退くのも速い筈だ。その時は少し辛抱してくれ』
高射砲は本来対空射撃を行う為の兵器だが、その高威力や連射速度は地上目標にも有効だ。連装式高射機関砲はその連射速度を活用し地上の機械共をなぎ倒す。
「おい、伏せろ!」
ロバートの隣の黒人、ルーサーが警告した。反射的に身を屈め、次の瞬間塹壕の少し前で爆発が起こった。
幸運にも無傷だった。安全だと判断し、塹壕から顔を少し出す。
次に見えた光景は、こちらに銃を向けていた人型ロボットが体を貫かれ、機関部を損傷し倒れた姿だった。
「シモン、俺が仕返ししてやる所を余計な真似しやがって」
『他人の隙を突くのは俺の十八番でねえ』
別の位置に居るスペイン訛りの狙撃担当の分隊員との通信。そしてピーター達を襲う無人バイクが燃料タンクを撃ち抜かれ炎上した。
「サム、ボブ、もっと前に出ろ。火力を集中させるんだ」
二人から了解、と返事が来た。間も無く前方の爆発が勢いを増やした。
「ルーサー、やろうぜ。たった2分チョイだ」
「またか。お前の馬鹿に付き合わされるのは何度目だこれで」
突っ込む様な返答だったが、表情は乗り気だった。2人は勢い良く身を隠す遮蔽物から飛び出た。意味を持たない叫びを上げながら近寄るマシンを小銃で殲滅する。
ロバートが手榴弾を投げながらスライディング、偶々近くにあった岩陰に隠れた。
ルーサーもその後に続く。途中で顔の横を高速低質量体が通り過ぎた時は思わずヒヤッとして硬直しそうになった。
手榴弾が爆発し近寄っていた獣をバラバラにした。そして黒人の方は無事に岩陰に辿り着く事が出来た。
「危ねえ! 天国が一瞬見えたぜ」
「あと50年は行きたくないな」
一呼吸合わせ、岩陰の両側からそれぞれ体を出した2人。集中砲火で列になる人型ロボットを金属の動かぬ人形に変えた。
再び白黒双方の人種からの奇声。走りながらアサルトライフル弾をばら撒き、集まる金属の兵隊を殲滅すると同時に移動する事で狙われない様にする。
それでも2人は体の周囲を通り過ぎる銃弾に時々背筋を凍らせる。関係ないとばかりに射撃で誤魔化すが、やはり危機を感じ再び地形の起伏に身を隠した。
ルーサーが手榴弾を投げ込む。数秒後、土砂と共に無人バイクが吹き上がり倒れた。
側面から機械獣が駆けて来る。背中に搭載された銃は走行と共に揺られながら発光するが、不安定な為か当たらなかった。
「だあああああ!!!!!」
ルーサーが声を張り上げながら機械獣へ突進する。
お互いに銃を乱射するが、どちらも命中しなかった。止まらずに走りぶつかろうとする二者。
ルーサーは大柄だが、体重が90キログラムを超える程ではない。一方機械獣は体長2メートル、体重は炭素プレートによって軽量されているとはいえ100キログラムはある。
人間のトップアスリートですら時速36キロメートルだが、この機動性を重視した兵器はゆうに時速100キロメートルを超える速さを出す。
体重は大体同じだとしても、速度が3倍、エネルギー量で9倍。正面衝突した時の勝敗は決まった様なものだ。
「なんてな!」
黒い顔が白い歯を見せてニヤリと笑った。途端にその身体が跳ね、自分を撥ねようとしていた獣を飛び越した。
すれ違う瞬間、銃口が下に向き、振動や発砲音と共に飛んでいく銃弾が屑鉄を生み出した。
一方、ロバートは自分が隠れている所へやって来た人型ロボットをどう対処するか悩んでいた。
考えた挙句、勢い良く立ち上がる。急に目の前に標的が現れたロボットは躊躇いもなく照準を付け、引き金を引く。
直前、ロバートが両手でロボットの持つ小銃を奪い取ろうと掴んだ。引き金が引かれ二者が拮抗しながら銃弾が周囲へ飛び散る。
姿勢を低くし腕を引っ張るとロボットが浮く。地面に背中を着け後ろへ蹴り飛ばし巴投げを決めた。地面に墜落したロボットはそのままルーサーの銃弾によって行動不能となった。
「無事か兄弟?」
「サンキューな……って後ろ!」
ルーサーの後方から襲い掛かる3体の獣。即座に小銃を構え撃つが、2体は倒せても残りは近くて破壊に間に合わない。
戦闘の機械獣のバイザーの頭が2人に到達まで残り1メートル。
パパパパパ……小銃よりも鋭く速い発砲音が2人の耳に届いた。
側面から胴体を貫かれた機械獣はぐったりと倒れ、走っていた勢いでロバートの足に絡みついた。
足元のガラクタを除けたロバートは相棒と共に呆然とした視線で、サブマシンガンを2丁持ってスライディングして横切る人物の姿を見届けた。
砂の上で滑りながら起き上がり銃を前後に向け体をスピン、小口径弾が四方八方から襲い掛かる機械獣を撃ち殺した。
前方から人型ロボットが3体銃を向けているのに対し、跳び込む様に地面を転がった。飛んで来る銃弾が丸まった体を掠める。
1回転し終え、2丁の銃で左右の2体を片付ける。最後の1体にはスライディングキックを決め、転ばせ倒した。
起き上がると同時に無慈悲に銃弾をプレゼントする。ロバート達が駆け寄った。
「何時も格好付けやがってミハイル」
「それが俺の趣味なんですよ。良い加減彼女作りたい歳ですし」
北欧系あるいはスラヴ系の彫りの深い顔つきと黒目黒髪の兵士、ミハイルは言葉を返しながらサブマシンガンの片手で器用に弾倉を交換した。
『伏せろ!』
通信通りに身を伏せた3人。
機銃掃射と大量の爆発が3人の前方で起こった。数十体ものマシン達に穴が開き、機体が吹き飛ぶ。
『ボケっとしないで下さいや隊長』
『もうすぐ敵飛行機が来ますぜ』
「また飯を奢ってやらねばな」
サムとボブからの通信を耳にし、後退し始めた3人は追ってくる機械獣の群れへ乱射しながら逃げる。
逃げる先に立っている二足歩行戦車がこちらへ銃口を向けた。
火薬の発砲が左右の銃口合わせて1秒で20回。前方からの発砲音に加え、ロバート達の後ろで鳴り響く金属破砕音。
「こんにゃろう、俺も撃とうとしただろう!」
『何で僕には感謝してくれないんですか?!』
出来上がった金属の破片を見ながらからかう様に言った。片や通信越しの若い声は弄ばされていた。
直後、二足歩行戦車の斜め前方で爆発。榴弾発射筒を抱えた人型ロボット数体が弾け飛んだ。
『男共、ボサッとすんじゃないよ! 全く、あたしが居なきゃこの分隊駄目ね』
「デキる女は駄目出しなんてするもんかよ」
『ところで、あと1分も無い。早く退却だ』
唯一の女性メンバーの呆れ口調に反抗したが、インド人が一蹴した。
やがて3人は10秒も経たない内に塹壕へ戻り、頭と腕だけを出して射撃を再開した。
「対空しっかりしろよ」
『勿論ですよ。狙って引き金を引けば良いんですよね』
「おう。あと肩のロケランは地上へ撃てる筈だぞ。シモン、居るか?」
『へい、俺が恋しくなりましたか?』
「ジープに何か残ってないか? 使えそうなのがあったらこちらへ回してくれ」
『了解。スナイパーは補給係じゃないんだが……』
部下の愚痴を他所に迫り来る機械の群れを撃ち抜いていくが、やはり押されている。これに航空戦力が加われば悲惨な出来事は容易に想像出来よう。
「あと30秒……」(アンジュとチャック先生にも限界はある。俺達が頑張る以外にないな)
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小説家になろうSF(パニック)部門にて450万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
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旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
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高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
伯爵令嬢の秘密の知識
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16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。
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