【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン

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Category 2 : Equilibrium

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 反乱軍のロサンゼルスにある軍事基地の射撃訓練場。

 その更に奥の一面が黒く、物が最低限しか置かれていない部屋。

「ほらっ」

 アダムに向かって投げられた二つの黒い物体。それをキャッチして拳銃である事を確かめる。

「使いやすいし、結構良い奴なんだぜ。おっと、ホルスターがまだだったな」

 そう言った黒髪の男性、レックスがまた放り投げる。

 アダムは見事取ってみせ、腰のベルトに二つぶら下げ、両手にそれぞれ拳銃を持つ。ホルスターは少年の着る少し大き目のジャケットに隠れた。

 顔の高さに上げ、黒い銃身を見る。この銃から吐き出される銃弾が音速の十倍に達し、五十口径の対物ライフル以上の威力持つとは誰も思わないだろう。

 映画等で良く見る二丁拳銃は、実際のところ“普通の”人間には出来ない。まず普通の人間では片方だけしか照準を合わせられない。狙って撃たなければ反動で精度は大幅に下がる。

 マルチタスクに優れた人間なら可能かもしれないが、トランセンド・マンの超越した脳神経とは比べ物にならない。二つの銃で二つの標的を狙う処理など、音速を超える銃弾を避けられるのなら簡単だろう。処理能力の高さは早撃ちにも利用できる。それにエネリオンを使用する銃弾には反動が無い。

 トランセンド・マンの強みである知覚処理を利用し、良く狙わずとも位置や角度から軌道を予測し、銃口を前に出して引き金を引くだけでも静止目標には大抵命中させられる。しっかり狙えば、数百から数キロメートルへの距離に当てる事だって可能だ。

 速さ、マルチタスク、精度、三つ揃った射撃はまさに脅威だろう。しかもトランセンド・マンにはそれを最大限生かせる威力と機動力が備わっているのだ。

 ところで、アダムは受け取った銃をホルスターへ刺し入れると、またレックスから投げられた銃形の物体を受け取り、両手に持つ。

 続けて目の周辺を完全に覆うバイザー型ゴーグルをレックスが投げ、受け取ったアダムが装着する。

 簡易VR映像による疑似射撃練習シミュレーターだ。模型の銃を使って現れた的へ仮想の弾を命中させるだけ。全方位に出現する的を撃ち落とすだけの単純な訓練だ。

「射撃も基本的に格闘と同じような、いやそれより簡単だ。速く、正確に、これだけ。簡単だろ? まあ相手が動いたら大変だがな」

 とレックスは豪語するが、まだ慣れていないアダムにはいまいち分からない。

 銃の連射速度は一丁だけでは秒間五十発、二つ合わせて秒間百発。理論上はこれを全発違う目標へ当てられるだけの精度とスピードを、トランセンド・マンは持ち合わせている。

 しかし、トランセンド・マンを相手取る場合、相手も回避可能な動体視力と瞬発力を兼ね備えているので、認識外からのキロメートル単位での狙撃を除けば、トランセンド・マン同士の銃撃による有効距離はせいぜい数十メートルから百メートルというのが一般論だ。

「今回はどうする? 数増やすか、動くのを速くするか」
「両方ともだ」
「やる気あって良いぜ。一分間でやるぞ。そんじゃあスタート」

 アダムの視界が暗黒から白い世界に切り替わった。

 立体の箱型の空間に距離を示す黒い線。

 殺風景な空間、彼の前方に緑の光点が現れた。右手を前に、引き金を引く。銃口から青い銃弾が飛び出た。

 音速の十倍を誇る銃弾が光点に命中。光点は銃弾と共にポリゴンの欠片となって消滅する。

 続けざまに現れる緑の光点。右手に握った銃を、撃っては向きを変え撃っては向きを変え……光点は誕生してもすぐに撃ち抜かれ、出現と消滅は均衡状態にあった。

 時間当たり光点の現れる量が段々と増える。腕や手首の角度を休みなく変更し続ける。

 すると、光点の一部に点滅するものが現れた。アダムは表情一つ変えず撃ち続ける。

 光点の出現時間はジャスト一秒。残り〇・五秒になると点滅する。

 無慈悲に増え続ける光点。アダムは遂にもう片方の銃に指を掛け、トリガーを引く。両手がそれぞれを邪魔しないように動きながら角度を変え続ける。

 左足を半歩下げ、後方の光点を左で撃ち抜く。右足を後ろへ、集中した光点を両方で射貫く。

 光点へ体、腕、手、そして銃口を向け、一発毎に更新。右を上に突き上げ、もう片方を背後へ、左を体の前に、右を胸の前に……

「まるで拳法みたいだな」

 レックスの素直な称賛。対する少年は反応せず、黙々と作業を続ける。

 光点にも変化が起こった。出現と同時に移動するものが現れたのだ。

 光点のベクトルを読み取り、瞬時に予測。手を休む暇が無い。

 ふと、緑のバックグラウンドの中に赤点が混じった。光点の存在時間が残り〇・二秒になった瞬間、落ち着きのある緑から派手な赤に変色するのだ。

 体の向きをダイナミックに変更し、二本の銃から様々な角度で銃弾が発射される。

「秒間百個になるぜ」

 その警告をアダムが聞いたかどうかは分からない。ただ分かっているのは、引き金を引いたままで発射してから次弾発射までの僅かな時間で次の目標を定めなければならない。しかも間隔は百分の一秒。

 一秒の間に百回も体・腕・手首・銃口、これらの向きを更新し、全部の弾を外さずに撃つ。失敗は許されない。並みのトランセンド・マンにも限界と思える仕事だ。

 しかし、赤点の一つ、すぐ横を銃弾が通り過ぎたのを、少年は視界の一部に確認した。

 赤い光点は膨張するように自ら細かいポリゴンとなって散り、霧散霧消。

 一瞬の動揺は増幅され、次々と赤光点が消えゆく。それでも撃つ手を止めない。

 狙いを定めようとすると間に合わなくなるし、時間間隔を意識すると精度が犠牲になり、結局どちらを選んでも変わりは無い。

 跳び上がり、体を地面に対して横向きにきりもみ回転。

 前に出した両腕を交差させ、直感に引き金と狙いを委ねる。銃口から発射される銃弾に見向きもしない。

 回転しながら腕を曲げ、多数の方向を狙う。腕を戻したり、広げたり……

 外していない。着地。先に着いた右足で回転をピタリと止めた。

【訓練終了】

 同時に視界の中央に突如現れた立体文字。

【命中:三九八六発/四七五〇発中 命中率:八三・九一パーセント】

 VRのヘッドセットを外すと、いきなり青年からの声が掛けられた。

「凄いじゃないか。始めて十日でこれだけ上達なんてそうそう無いぜ。最後の残り十秒で秒間百発は皆出来ないけど」

 賞賛を受けているのを関係無しに、アダムは腑に落ちない表情だった。

「そうか? ……始めてというより以前から覚えている気がする……」
「成程、管理軍の奴らから戦闘訓練でも受けてたのか……そういや記憶はどんなだ?」
「まだ全然思い出せない」
「そうなのか……記憶として覚えてるんじゃなくて技として身に付けてるって事か?」

 独り言のような発言を終えたレックスは気分を変え、話題を切り替える事にした。

 青年は座ったままジャケットの懐に手を入れ、筒らしき物体を出すと、机に置いて中から何かを取り出した。

「食う?」

 返事を聞く前に、手の中の物体を投げたレックス。アダムが受け取り、パリッ、と齧る。

「甘い」
「スイートポテトチップ、もっと食えよ。ジャガイモは塩気があって駄目だありゃ。サツマイモは元々の甘みがあって良いんだぜ。昔どっかにメロンに塩掛けて食うって国があるって聞いたが、俺だったらもっと砂糖掛けてやるね。甘味が塩味で引き出せるなんて、その国の奴ら皆味音痴なのか?」

 ジョークの混じった発言に少年は答えなかった。冗談に対する受け答えをアダムは知らないのだ。

 代わりに、アダムは青年が左手に抱える筒状の入れ物に手を伸ばし、薄い円形の黄色い物体を掴んでは口に入れる。レックスが慌ててチップを競うように取った。

「欲しいならもっとやろうか? 結構買い込んでるんだ」
「要らない」

 一蹴されガクッ、と首を曲げ、黙り込んだレックス。

「……そういや、銃の使い方で教えてない事があったから、教えようか」
「是非頼む」

 椅子から立ち上がったレックス。釣られてアダムも起立する。

「それ貸してくれ」

 有無を言わずホルスターから銃を抜き、グリップを先にして渡すアダム。受け取ったレックスは引き金に指を掛け、銃をクルクル回した。

「トランセンド・マンはエネルギーの使い方ってのが肝だ。小出しで連続、溜めて一気に、使い分け大事、OK?」
「それで?」
「まあ見てな」

 青年が空いた左手を腰に当て、広い室内にある的用のコンクリート塊に向けて銃口を向ける。

 一回だけ人差し指を引く――見えない弾が、音速の十倍ものスピードで銃口から射出。

 弾丸はコンクリート塊の中央へ命中。一辺二メートルの立方体の一部が粉々になった。

「せいぜい四十リットルか、まあこんなだが……」

 レックスの周辺で活性化したエネリオンの流れが少年には見えた。

 待機時間一秒、引き金を引く。音速の十倍という弾速は変わらない。

 直後、コンクリート塊の約四分の一が半球状に砕け、大小の破片が飛び散った。

「どうだ? エネリオンをこの銃に溜め、それを放出するだけ。単純だが、砲弾並みの威力だって出る。この銃だと一秒間の溜めが限界だが、見ての通りだ」
「エネルギーの使い方か。これで対物・対人あらゆる戦闘に応じる事が出来る訳だな」
「そう、銃弾を破壊重視や貫通重視と性質を決めたり、弾速だって変更出来る。ジャガイモの旨味を塩やバターで引き出す。サツマイモの甘みは菓子に最適だ。何事も使い方だぜ」

 得意げな語り口調のレックスはウインクしながら銃を二、三回回してアダムへ返すと、大げさなモーションでサツマイモチップに食い付いた。
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