60 / 70
ワンダーワールド
弟の本気
しおりを挟む
与一達は何度目かの正直と言わんばかりに、最早見慣れた景色を見ながらスノーバギーを走らせていた。
「もー……今日こそやで」
鯨を退治して暫くの間鯨肉を食べてきた与一はうんざりした表情でそう言った。
「うむ、鯨を退治したとは言えまだまだ未知の生物が出てくるかも知れぬのだろう?」
「まぁね、新種が発見されるのなんてザラらしいしね」
「しょっかー……」
「……これで本当に鯨達を倒してきたのか?」
走るバギーの一団の中には、与一達が必死こいて鯨肉を食べている間にやって来たフォール達の姿も見受けられた。
「アナタ達何もしてないのによく言うわ……」
「喧嘩腰はやめなさいってなんべん言ったら分かるかねぇ?ノヴァさんさぁ」
「はいはい、いい子にしてますわよー」
と、そんな事を言いながら与一達の操縦するバギーはもりの前までやって来た。
「……降りるぞ」
ワールドがそう言ってバギーを止めると、全員バギーを止めて立ち止まるワールドの周りに集まった。
「ここからはヨイチの仕事であろう?」
「ういっす」
与一はポケットから方位磁石を取り出すと、方位磁石が指し示す方向を指差した。
「あー……あっちやな」
与一が指した方向は森がさらに鬱蒼と生茂る方角だった。
「全員どこから攻撃されても回避できる様にせよ」
「分かってるわよ」
ワールドが指を動かすと、全員与一とビートを先頭にして少しずつ間を離して歩き始めた。
雪が降り積もる森の間を歩いていた一行だったが、特になんのアクシデントもなく開けた場所に出た。
「……ここやな」
与一が見る方位磁石はクルクルと狂った様に回り続けて、ここがその場所である事を指し示していた。
「………ここだけ水が凍ってない……」
その湖は極寒の中にあると言うのに、凍らず水面からはオーロラを出して幻想的に輝いていた。
「なんじゃこら……」
「ヨイチ」
「あいあい」
驚愕する与一にワールドは声を掛けて、与一は自身にスーツを纏わせた。
「んじゃ、ちょっと行ってくる」
そう言って与一は湖の中に飛び込んだ。
「……どうやらお客の様だな」
ワールドがそう言って刀を抜くと同時に森の奥の方からモフモフの毛皮を纏った大きななにかの爬虫類が突っ込んできた。
「ぬん!」
ワールドはそう声に出して刀を振り切ると、爬虫類は真っ二つに切れて地面に転がると同時に光の粒となって湖に吸い込まれていった。
「………与一さっき何も無しに行ったけど大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
そう言ったのはワールドでもなく俊明でもなく、何故かノヴァだった。
「そうか………?」
フォールは首を傾げながらも次の魔物に向けて剣を抜いた。
そしてその頃与一は、一人銀色の空間を彷徨っていた。
「………」
纏っていたはずのスーツはいつの間にか無くなっており、図書館へと降り立った。
「おかえりなさい、久しぶり……だけど最近はよく会うわね」
「ねかか」
「小さい頃はよく遊んだわよね」
「…………」
「きちんと喋れないでしょ?無理に喋ろうとしないで良いわ」
「明日は?」
「ほら、落ち着かないわね……本当に変わらないわね……って言ったら傷つくかしら?」
「………」
「そんな顔しなくても良いわ……でも前より意識はハッキリしてるみたいね」
女は金髪を煌めかせて眼鏡を置くと、与一の頬に触れた。
「私達大きくなったわよね……」
与一は何かを言おうとして顔を歪めるが言葉の発し方を忘れたかの様に、顔を顰めるだけだった。
「……そろそろね、また会いましょう」
到着した図書館は与一を外に放り出すと、世界の間に遠ざかりはじめた。
「まだ好きならちゃんと見つけに来て」
遠ざかっていく図書館から声が聞こえると
「………早く見つけやんと」
与一はより深く潜って、幾つもの時代を過ぎていくと、鏡の中にキラキラと光る球を見つけ、それを血を伝って持ち上げると魂の奔流から浮上を始めた。
「無限湧きやんかこれ!」
「そりゃああの壁が近くにあるんだもん!」
「まさかここまで波が激しいとはな!」
俊明達は湖の周りで無尽蔵に出てくる魔物達を何とか凌いでいると、湖からキラキラとした与一が現れ、俊明が落とした銃を持ちながら、
「アナタが落としたのはこの銀の銃?それとも銅の銃?それとも白金の銃?それとも金の銃?」
と言いながら湖面に姿を現した。
「アホタレ!早よ逃げるぞ!」
与一は懐から俊明の本当の銃を投げ渡すと、持っている銃を元の鎧に戻して走り出した。
「全く!時間をかけ過ぎである!例のものは!?」
「あいこれ」
与一は鎧の中から光り輝く球を取り出した。
「そんな小さなものの為に……まあいい!」
与一達は森を抜けてバギーに飛び乗ると、猛スピードでバギーを走らせた。
背後から迫ってきていた魔物達がみるみるうちに小さくなっていくのを見届けると、ワールド達は息をついた。
「あ、危なかった……」
「……ホンマになにしとったん?」
「案外底が深かってなぁ、ちょいと苦労してたんよ」
「身体は大丈夫なの?」
「問題ないえ」
与一達がバギーの速度を落として開い雪原を走っていると突然上空に一つの穴が現れ、そこから人影が幾つか与一達の進行方向に落ちてきた。
「迂回せん?」
「そうであるな、わざわざ疲れている時に闘う事もなかろう」
「ちょっと待って君たち、何で落ちて来たアレが敵前提なの?」
「このタイミングでちょうど降ってくる人型なんぞロクな物では無いぞ、無視するのが一番ぞ」
「間違いあらへん」
与一がそう肯定したと同時に方向転換した与一達を追うように黒い人影が近づいて来た。
「ほぉーれみぃ!」
「なになになになに!?」
「めっちゃ早いが!?」
そして人影は飛び上がると与一達を飛び越えて前に降り立つと剣を地面に突き刺して、
「悪いな、ここから先は通行止めだ」
と言った。
ワールド達はバギーを止めると、戦闘態勢に入ったが、与一はヘラヘラとした態度で剣を刺す男の前に立った。
「いやー、闘うつもりは無いんやけどなして前に立つん?」
「お前の持ってるそれ」
男は与一の持っている『落とし物』を指差した。
「俺達にはそれが必要なんだ、戦いたく無いならそれをこっちに……」
「んー何に使う?」
「そんなのは俺の知った事じゃあないさ」
「誰かに渡すんね?」
「約束だからな」
「ふーん……どんな力持っとるかは知らんけど……何に使うか知らん人に渡すわけには行かんのよね……」
「そう言うお前は何の為に使うんだ?」
「そらもちろん、危ない人達の手に渡る前にちゃんとした人に渡すんよ」
「それはお前が決めるのか?」
「んなもん、俺よか長生きしとるえらーい人よ」
「「…………」」
暫く沈黙が二人の間で流れた後、男は剣を抜いて与一に斬りかかった。
「おわっ!」
与一はそれを触手で受け流すと怒ったような困ったような顔をした。
「もう少し話し合いしたかってんけどな」
「時間稼ぎだろどうせ」
「んなこたぁ無いんやけどなぁ」
男は続けて与一に斬りかかると、息もつく暇も無いほどの連撃を与一に浴びせた。
「伏兵!」
与一はそう叫ぶのと同時に発煙弾を空に打ち上げ、地面を蹴って空に飛び出た。
「逃すか!」
男は一飛びで与一の高さに追いつくと、与一にしがみついた。
「あら、そう言えばここから落ちても平気?」
「は?」
与一は男を掴むと男を下にしてかなりの高さから自由落下を始めた。
「ふん!」
男は与一を下にして地面に墜落すると、何事も無かったかのように立ち上がった。
「……あー俊明、暫く動かれへんから……」
よく見ると与一の腕や足はあらぬ方向にへし折れて、よく喋れたなと言える状態であった。
「……分かった」
俊明は意外にも聞き分けよくそう言うと、銃を取り出して男に向かって撃った。
男は何なくその弾を斬ると俊明の方を向いた。
「……向かってくるのか?」
「情けなーい兄を助けんのが、ホンマ不本意やけど弟って奴やと思うんよね」
暫く睨み合うと、二人は急加速して目にも止まらぬ速さで火花を散らしながら撃ち合い始めた。
「我らは進むぞ!」
その隙にワールド達はバギーを滑らせた。
「チッ!」
「隙あり!」
俊明の蹴りが男の腹を直撃して雪原を雪を散らしながら吹っ飛んで行った。
「……うぉっ!」
俊明は飛んできた剣をギリギリで躱したが、後から遅れて剣に追いついて来た男に殴られて俊明も同じく雪原に転がった。
「うぉっとっとっと……」
俊明は服についた雪が更にまとわりついて雪だるまの状態から抜け出すと目を閉じた。
「……ほいじゃあ、レッスンワンだ」
気がつくと俊明の隣にどこかで見たような男が若干透明に不敵に笑って俊明にリボルバーを手渡していた。
「銃を構えるのは敵を見てからだ、あ、だけど持つのは持っとけよ?」
「はいよ」
俊明は男が目に入ると銃を構えた。
「レッスンツー、後は手でしっかり押さえてブレないように祈って撃て」
「はっ……」
俊明はそれを鼻で笑うと、引き金を引いた。
撃鉄が下りて薬莢の底を叩き、銃弾が発射され男にとは違う方向に飛んでいった。
「ズレたか」
「まぁ待てよ」
男は弾に見向きもせずに俊明の方に向かって来たが、唐突に銃弾が男の肩を背後から貫いた。
「銃なんて当てればいいんだよ当てれば、それに俺がついてて外すなんて有り得ねぇだろ?」
若干透明な男は俊明にカウボーイハットをかぶせて片側を上げた。
「これで一人前だ、ほぉれ、次が来るぞしっかり狙え」
「わかってらぁ」
俊明はもう一丁銃を構え、口にこっそりくすねてきた葉巻のタバコを咥えた。
「……魔弾か?」
「しらね」
俊明は無造作に引き金を引いてあらぬ方向に向けて銃を撃った。
「………っ!」
驚いたことにその全ての弾丸が男の方に向かって行ったが、男は一つ一つ丁寧に斬って地面に弾を落とした。
「………もどきのくせにやるやんけ」
俊明は両方の銃をホルスターに戻すと、腰を少し落として構えた。
「いいねぇ、早撃ち勝負だ」
「………」
透明な男は嬉しそうにそう言って、俊明から少し離れた。
「……」
相手の男は黙って剣を構えて腰を軽く落として、目を細めた。
「「……」」
全く動かない二人の間に沈黙が流れて、暫く、与一がピクリと動いたの合図に先に動いたのは相手の男だった。
男は一瞬で俊明との距離を詰めて、剣を振り切ろうとしたその時、すでに俊明の手の中には銃が収まっており、銃の音が鳴り響いた。
「………」
「………」
俊明は膝をついて倒れた。
「……クソ、後は後詰めに任せる……か」
そして、男が膝をついて空中に黒い穴を開けて腹を押さえよろめきながらその中に入って行った。
「ベタな展開だが、始めての早打ちで二発撃つ奴なんて始めての見たぞ……気絶してるのか?」
男はかがみ込んで暫く見ていたが、呆れたように鼻を鳴らすと、
「はぁ……これでメネシスを守れんのかよ……頼むぜ」
そう言って倒れる二人の前から姿を消すのだった。
「もー……今日こそやで」
鯨を退治して暫くの間鯨肉を食べてきた与一はうんざりした表情でそう言った。
「うむ、鯨を退治したとは言えまだまだ未知の生物が出てくるかも知れぬのだろう?」
「まぁね、新種が発見されるのなんてザラらしいしね」
「しょっかー……」
「……これで本当に鯨達を倒してきたのか?」
走るバギーの一団の中には、与一達が必死こいて鯨肉を食べている間にやって来たフォール達の姿も見受けられた。
「アナタ達何もしてないのによく言うわ……」
「喧嘩腰はやめなさいってなんべん言ったら分かるかねぇ?ノヴァさんさぁ」
「はいはい、いい子にしてますわよー」
と、そんな事を言いながら与一達の操縦するバギーはもりの前までやって来た。
「……降りるぞ」
ワールドがそう言ってバギーを止めると、全員バギーを止めて立ち止まるワールドの周りに集まった。
「ここからはヨイチの仕事であろう?」
「ういっす」
与一はポケットから方位磁石を取り出すと、方位磁石が指し示す方向を指差した。
「あー……あっちやな」
与一が指した方向は森がさらに鬱蒼と生茂る方角だった。
「全員どこから攻撃されても回避できる様にせよ」
「分かってるわよ」
ワールドが指を動かすと、全員与一とビートを先頭にして少しずつ間を離して歩き始めた。
雪が降り積もる森の間を歩いていた一行だったが、特になんのアクシデントもなく開けた場所に出た。
「……ここやな」
与一が見る方位磁石はクルクルと狂った様に回り続けて、ここがその場所である事を指し示していた。
「………ここだけ水が凍ってない……」
その湖は極寒の中にあると言うのに、凍らず水面からはオーロラを出して幻想的に輝いていた。
「なんじゃこら……」
「ヨイチ」
「あいあい」
驚愕する与一にワールドは声を掛けて、与一は自身にスーツを纏わせた。
「んじゃ、ちょっと行ってくる」
そう言って与一は湖の中に飛び込んだ。
「……どうやらお客の様だな」
ワールドがそう言って刀を抜くと同時に森の奥の方からモフモフの毛皮を纏った大きななにかの爬虫類が突っ込んできた。
「ぬん!」
ワールドはそう声に出して刀を振り切ると、爬虫類は真っ二つに切れて地面に転がると同時に光の粒となって湖に吸い込まれていった。
「………与一さっき何も無しに行ったけど大丈夫なのか?」
「大丈夫よ」
そう言ったのはワールドでもなく俊明でもなく、何故かノヴァだった。
「そうか………?」
フォールは首を傾げながらも次の魔物に向けて剣を抜いた。
そしてその頃与一は、一人銀色の空間を彷徨っていた。
「………」
纏っていたはずのスーツはいつの間にか無くなっており、図書館へと降り立った。
「おかえりなさい、久しぶり……だけど最近はよく会うわね」
「ねかか」
「小さい頃はよく遊んだわよね」
「…………」
「きちんと喋れないでしょ?無理に喋ろうとしないで良いわ」
「明日は?」
「ほら、落ち着かないわね……本当に変わらないわね……って言ったら傷つくかしら?」
「………」
「そんな顔しなくても良いわ……でも前より意識はハッキリしてるみたいね」
女は金髪を煌めかせて眼鏡を置くと、与一の頬に触れた。
「私達大きくなったわよね……」
与一は何かを言おうとして顔を歪めるが言葉の発し方を忘れたかの様に、顔を顰めるだけだった。
「……そろそろね、また会いましょう」
到着した図書館は与一を外に放り出すと、世界の間に遠ざかりはじめた。
「まだ好きならちゃんと見つけに来て」
遠ざかっていく図書館から声が聞こえると
「………早く見つけやんと」
与一はより深く潜って、幾つもの時代を過ぎていくと、鏡の中にキラキラと光る球を見つけ、それを血を伝って持ち上げると魂の奔流から浮上を始めた。
「無限湧きやんかこれ!」
「そりゃああの壁が近くにあるんだもん!」
「まさかここまで波が激しいとはな!」
俊明達は湖の周りで無尽蔵に出てくる魔物達を何とか凌いでいると、湖からキラキラとした与一が現れ、俊明が落とした銃を持ちながら、
「アナタが落としたのはこの銀の銃?それとも銅の銃?それとも白金の銃?それとも金の銃?」
と言いながら湖面に姿を現した。
「アホタレ!早よ逃げるぞ!」
与一は懐から俊明の本当の銃を投げ渡すと、持っている銃を元の鎧に戻して走り出した。
「全く!時間をかけ過ぎである!例のものは!?」
「あいこれ」
与一は鎧の中から光り輝く球を取り出した。
「そんな小さなものの為に……まあいい!」
与一達は森を抜けてバギーに飛び乗ると、猛スピードでバギーを走らせた。
背後から迫ってきていた魔物達がみるみるうちに小さくなっていくのを見届けると、ワールド達は息をついた。
「あ、危なかった……」
「……ホンマになにしとったん?」
「案外底が深かってなぁ、ちょいと苦労してたんよ」
「身体は大丈夫なの?」
「問題ないえ」
与一達がバギーの速度を落として開い雪原を走っていると突然上空に一つの穴が現れ、そこから人影が幾つか与一達の進行方向に落ちてきた。
「迂回せん?」
「そうであるな、わざわざ疲れている時に闘う事もなかろう」
「ちょっと待って君たち、何で落ちて来たアレが敵前提なの?」
「このタイミングでちょうど降ってくる人型なんぞロクな物では無いぞ、無視するのが一番ぞ」
「間違いあらへん」
与一がそう肯定したと同時に方向転換した与一達を追うように黒い人影が近づいて来た。
「ほぉーれみぃ!」
「なになになになに!?」
「めっちゃ早いが!?」
そして人影は飛び上がると与一達を飛び越えて前に降り立つと剣を地面に突き刺して、
「悪いな、ここから先は通行止めだ」
と言った。
ワールド達はバギーを止めると、戦闘態勢に入ったが、与一はヘラヘラとした態度で剣を刺す男の前に立った。
「いやー、闘うつもりは無いんやけどなして前に立つん?」
「お前の持ってるそれ」
男は与一の持っている『落とし物』を指差した。
「俺達にはそれが必要なんだ、戦いたく無いならそれをこっちに……」
「んー何に使う?」
「そんなのは俺の知った事じゃあないさ」
「誰かに渡すんね?」
「約束だからな」
「ふーん……どんな力持っとるかは知らんけど……何に使うか知らん人に渡すわけには行かんのよね……」
「そう言うお前は何の為に使うんだ?」
「そらもちろん、危ない人達の手に渡る前にちゃんとした人に渡すんよ」
「それはお前が決めるのか?」
「んなもん、俺よか長生きしとるえらーい人よ」
「「…………」」
暫く沈黙が二人の間で流れた後、男は剣を抜いて与一に斬りかかった。
「おわっ!」
与一はそれを触手で受け流すと怒ったような困ったような顔をした。
「もう少し話し合いしたかってんけどな」
「時間稼ぎだろどうせ」
「んなこたぁ無いんやけどなぁ」
男は続けて与一に斬りかかると、息もつく暇も無いほどの連撃を与一に浴びせた。
「伏兵!」
与一はそう叫ぶのと同時に発煙弾を空に打ち上げ、地面を蹴って空に飛び出た。
「逃すか!」
男は一飛びで与一の高さに追いつくと、与一にしがみついた。
「あら、そう言えばここから落ちても平気?」
「は?」
与一は男を掴むと男を下にしてかなりの高さから自由落下を始めた。
「ふん!」
男は与一を下にして地面に墜落すると、何事も無かったかのように立ち上がった。
「……あー俊明、暫く動かれへんから……」
よく見ると与一の腕や足はあらぬ方向にへし折れて、よく喋れたなと言える状態であった。
「……分かった」
俊明は意外にも聞き分けよくそう言うと、銃を取り出して男に向かって撃った。
男は何なくその弾を斬ると俊明の方を向いた。
「……向かってくるのか?」
「情けなーい兄を助けんのが、ホンマ不本意やけど弟って奴やと思うんよね」
暫く睨み合うと、二人は急加速して目にも止まらぬ速さで火花を散らしながら撃ち合い始めた。
「我らは進むぞ!」
その隙にワールド達はバギーを滑らせた。
「チッ!」
「隙あり!」
俊明の蹴りが男の腹を直撃して雪原を雪を散らしながら吹っ飛んで行った。
「……うぉっ!」
俊明は飛んできた剣をギリギリで躱したが、後から遅れて剣に追いついて来た男に殴られて俊明も同じく雪原に転がった。
「うぉっとっとっと……」
俊明は服についた雪が更にまとわりついて雪だるまの状態から抜け出すと目を閉じた。
「……ほいじゃあ、レッスンワンだ」
気がつくと俊明の隣にどこかで見たような男が若干透明に不敵に笑って俊明にリボルバーを手渡していた。
「銃を構えるのは敵を見てからだ、あ、だけど持つのは持っとけよ?」
「はいよ」
俊明は男が目に入ると銃を構えた。
「レッスンツー、後は手でしっかり押さえてブレないように祈って撃て」
「はっ……」
俊明はそれを鼻で笑うと、引き金を引いた。
撃鉄が下りて薬莢の底を叩き、銃弾が発射され男にとは違う方向に飛んでいった。
「ズレたか」
「まぁ待てよ」
男は弾に見向きもせずに俊明の方に向かって来たが、唐突に銃弾が男の肩を背後から貫いた。
「銃なんて当てればいいんだよ当てれば、それに俺がついてて外すなんて有り得ねぇだろ?」
若干透明な男は俊明にカウボーイハットをかぶせて片側を上げた。
「これで一人前だ、ほぉれ、次が来るぞしっかり狙え」
「わかってらぁ」
俊明はもう一丁銃を構え、口にこっそりくすねてきた葉巻のタバコを咥えた。
「……魔弾か?」
「しらね」
俊明は無造作に引き金を引いてあらぬ方向に向けて銃を撃った。
「………っ!」
驚いたことにその全ての弾丸が男の方に向かって行ったが、男は一つ一つ丁寧に斬って地面に弾を落とした。
「………もどきのくせにやるやんけ」
俊明は両方の銃をホルスターに戻すと、腰を少し落として構えた。
「いいねぇ、早撃ち勝負だ」
「………」
透明な男は嬉しそうにそう言って、俊明から少し離れた。
「……」
相手の男は黙って剣を構えて腰を軽く落として、目を細めた。
「「……」」
全く動かない二人の間に沈黙が流れて、暫く、与一がピクリと動いたの合図に先に動いたのは相手の男だった。
男は一瞬で俊明との距離を詰めて、剣を振り切ろうとしたその時、すでに俊明の手の中には銃が収まっており、銃の音が鳴り響いた。
「………」
「………」
俊明は膝をついて倒れた。
「……クソ、後は後詰めに任せる……か」
そして、男が膝をついて空中に黒い穴を開けて腹を押さえよろめきながらその中に入って行った。
「ベタな展開だが、始めての早打ちで二発撃つ奴なんて始めての見たぞ……気絶してるのか?」
男はかがみ込んで暫く見ていたが、呆れたように鼻を鳴らすと、
「はぁ……これでメネシスを守れんのかよ……頼むぜ」
そう言って倒れる二人の前から姿を消すのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【短編版】神獣連れの契約妃※連載版は作品一覧をご覧ください※
宵
ファンタジー
*連載版を始めております。作品一覧をご覧ください。続きをと多くお声かけいただきありがとうございました。
神獣ヴァレンの守護を受けるロザリアは、幼い頃にその加護を期待され、王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、やがて王子の従妹である公爵令嬢から嫌がらせが始まる。主の資質がないとメイドを取り上げられ、将来の王妃だからと仕事を押し付けられ、一方で公爵令嬢がまるで婚約者であるかのようにふるまう、そんな日々をヴァレンと共にたくましく耐え抜いてきた。
そんなロザリアに王子が告げたのは、「君との婚約では加護を感じなかったが、公爵令嬢が神獣の守護を受けると判明したので、彼女と結婚する」という無情な宣告だった。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。
青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。
今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。
妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。
「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」
え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる