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私は圧倒的な力を持つスーパーヒーローじゃない。
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もし、自分に力があったなら。そう夢想する事は、きっとだれにでもあるのだろう。
誰もが『もし』と思う事だろう。
テレビや映画で見るような、輝くような人間に憧れる事だろう。
しかし、そうなれるのは一握りの、言うなれば『選ばれし人間』だけで、自分はそうなれない。
その事に気付いた私は、そういうキャラクターを作る事で、人に見せる『夢』を作った。
だけど、こうじゃないんだ。私がやりたかったのは、こうじゃない。
もし、あの時……
「先生!出てください!居るのは分かってるんですよ!」
家の扉を叩く音が聞こえる。起きたばかりの体に、深く、深く響くような音が。
私は起き上がり、寝間着のまま、玄関へ向かう。
扉を開けると、見慣れた顔が、少し焦ったような表情で居た。だけど、私の姿を見るなり、表情を焦りから呆れへと変えた。
「また寝間着で……一応人が来ているんですから、着替え位しておいてくださいよ」
「私が私の家で、どんな格好をしていても、私の勝手だと思うけどねえ~」
彼は私の背中を、家の中へと押しながら、「せめて人前に出る時は身形を整えてください」と言っている。
私は赤城明日香。小説家だ。そして、私の背中を押している彼は高橋宗助。私の担当らしく、時々原稿の催促に来ては、私の寝間着姿に呆れ顔を見せる。朝一番に来なければ、私が着替えているかもしれないのに。まあ、彼は少し助平なんだ。これ位は容認してやろう。
彼は私の家に入ると、「うわ」と言った。人の家に向かって、その言い草は何だ。
「やっぱり散らかってるじゃないですか。僕こないだ言いましたよね?『整理整頓はやりなさい』って」
「なんだよ~君は私の母親か~?良いでしょ仕事に使う物は纏めてあるんだから~」
正直、この部屋は殆ど使わないので、半分物置のような扱いなんだ。散らかっていても問題無いだろう。
しかし、彼はそうは思わないようで、まるで私の意見は関係無いとでも言いたげに、片付けを始めた。来る度に片付けをしてくれるのは有難いが、お小言を言う所だけは嫌だなあ。
「ほら、片付けはしとくんで、さっさと着替えてください」
「はいはい分かったよ~」
私は薄い寝間着を脱ぎ、普段着に着替える。正直、あの方が窮屈じゃなくて好きなんだけどなあ。
着替え終わった私は、彼が待つ部屋に移動する。彼に依る片付けはもう終わったようで、部屋は見違える程綺麗になっていた。
私は彼の前の椅子に座り、彼に「それで、人の安眠を妨げるとは、どんな要件かな~」と聞いた。案の定、彼は少し怒ったような、呆れたような表情をして、私に怒鳴った。
「あの!新作の締め切り、今日なんですけど!?」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ~。今持って来るね~」
私は仕事部屋に戻り、机に置いた数百枚の原稿用紙を手に取る。ふと時計を目にすると、どうやらもう十一時を回っていたらしい。彼にはお茶菓子の一つでも出した方が良いようだね。
彼の元にそれを持って行くと、彼は少し溜息を吐いて、「今回もギリギリだなあ……」とぼやいた。彼が中身を確認している間に、私は冷蔵庫に残っていた筈のカステラを取りに、キッチンへ向かう。労働には相応の報酬が支払われるべきであり、それに感謝を込める事を、忘れてはいけない。単なる利害の一致だけではなく、他の要素で動くのも、実に人間らしいじゃないか。
彼は、私が持って来たカステラを食べながら、私に懇々と説教をする。
「大体貴女は不摂生な生活ばっかりじゃないですか。偶には外に出たり、もっと規則正しい生活を送ってください。早死にしますよ」
「あはは~。以後気を付けるよ~」
私もカステラを食べながら、彼の説教を聞く。彼は私の態度が気に食わなかったようで、「次の受け取りは外でしましょう」と言って来た。次となると夏辺りかな?暑いから外なんて嫌なんだけどなあ。
その後も、彼は少し説教を続けてから、家を出てしまった。彼が居ると、いつも静かな家が賑やかになって、少しばかり楽しいんだけどなあ。
兎に角、目下の課題は『次回の受け取りを、どうやって私の自宅にするか』だ。しかし、全く良いアイデアが浮かばない。
こういう時はどうするか。他人に助けを求めるのが一番である。私は少し身形を整え、行きつけの喫茶店へ向かう。
少し歩くと、お昼時で騒がしい街中で、まるで外界から切り離されたような、そんな喫茶店がある。私はここの常連で、どうしようもない事が起きた時や、誰かに助けを求める時は、決まってここのマスターに話を聞いてもらうようにしている。
扉を開けると、見慣れない顔がでてきた。
「いらっしゃいませ。一名様でよろしいですか」
「うん。カウンター席でおねがい~」
彼は「かしこまりました」と言うと、いつも店の奥に居る、この店のマスターを呼んだ。直ぐに出て来た彼は、私に「おや、明日香さん。どうなされました」と聞いた。
「取り敢えず、昼食とも朝食とも言えないような感覚だけど、食事でも貰おうかな~」
「はい。いつもので宜しいですか?」
「うん。よろしく~」
少し待つと、直ぐにサンドウィッチとサラダを盛りつけた皿が出て来る。私はここに来ると、決まって『サンドウィッチプレート』を頼む。元からあまり食べる方じゃないし、これ位の量が丁度良いんだ。
食べながら、私はマスターに質問をする。
「ねえマスター。彼はバイトなの~?」
「ああ、彼は最近入った子でね。物覚えが良くて助かってるよ。やっぱり、若いって良いな」
ほほう。バイトとな。この店はそういうのやらないと思ってたけど、案外そうでもないんだなあ。
そして、彼は私に、忘れかけていた本題を思い出させる。
「で、どんな用件だい?貴女がここに来る時は、大抵何か相談がある時だ」
「あ、そうだったよ~。聞いておくれ~。宗助君がね~『次の受け取りは外にする』なんて言うんだよ~何とかできないかな~」
彼は少し悩むような体勢をとって、暫く考え込む。そして、暫く経ち、サンドウィッチが一つ無くなった辺りで、何か思いついたようで、彼は私に「次回は流石に無理だろうけど、その次ならいける」と言って来た。
「君が次の時、凄く可愛らしくお洒落をして行けば良いんだ。そうすれば、きっとその『担当の彼』は、こう思う筈さ。『こんなに可愛いのに、外の連中に見せるだなんて勿体無い』ってね!」
「成程~独占欲を誘うって訳だね~。だけどさ~そんなに上手く行くかな~?」
いやマスター、黙らないでよ。ちょっと希望は見えたからさ。そんな「確かに……」みたいな顔でガチ悩みしないでよ。
「まあ貴女は地が良いですから、上手く行けば……なんとか……」
「ん~まあ、やるだけやってみるよ~ありがとね~」
私はその後、他愛もない世間話をしながら、サンドウィッチを食べて、その店を後にした。
町を歩きながらも、私は悩んでいた。
「お洒落って……ナニ?」
生まれてから今日まで、お洒落なんて数える程しかした事が無い。それも全て、親や友人に見繕ってもらった物が殆どで、自分からやった事なんて無い。
暫く悩んだ後、私は苦渋の決断をし、ポケットからスマホを取り出し、少ない連絡先に電話を掛ける。できるなら、これだけは避けたかったんだけどなあ。
「もしも~し。凛子~?」
電話を掛け、二、三コールしてから、その人物は出て来た。
『明日香!?どうしたの!?』
「うん。ちょっと相談したい事があってさ~」
『おけ。じゃあ出来るだけ早く、私の家に来て。準備して待ってるから』
そして電話が切れた後、私は大きく溜息を吐いた。この子にだけは、会うのにも気が進まないんだ。だけど、これ以外に方法が無いのだから、もう仕方の無い事だ。我慢しよう。いや、別に嫌いとかじゃないんだけどさ、何か苦手なんだよ。
それから電車に乗り込み、暫く揺られている事三十分。『彼女』の家の屋敷の最寄り駅に着いた。
どうやら迎えは来ていたらしい。駅を出ると、やけに綺麗な車と、一人の美少女が私を待ち構えていた。
「久し振りね明日香!今回はどんな用かしら!?」
彼女は浅原凛子。私の幼馴染で、若くして、その身一つで会社を立ち上げ、この世界でも有数の大財閥、浅原財閥を作った、言うなれば『選ばれし人間』。本来、私が会えるような人間ではないけど、彼女の持ち前の破天荒さと、『幼馴染』という免罪符に依って、特別に会う事を許されているのだ。
彼女は私を車に乗せて、私に話を聞いて来た。
「ねえ、何で来たの?」「何かあった?」「何か浮いた話は?」
どれも他愛の無い物で、最近の私の状況や、周りの環境についての話ばかりを聞いてくる。私は基本正直に答えたけど、ここに来た理由だけは、何だか少し恥ずかしかったので、そこだけは誤魔化して答えるよう心掛けた。
そして暫く経つと、凛子の家……と言うか屋敷が見えて来た。そして、あの屋敷の殆どは凛子の趣味で構成されている。左右対称が堪らないとか、趣味を突き詰める為の設備がどうしてもかさむとか、そんな感じの理由らしい。それができるのが、凛子の凄い所だ。
屋敷に入ると、直ぐに凛子の自室に案内された。ここだけでも結構立派な者で、私は部屋にあるソファに座らされた。凛子は自分の椅子に座った。
「で、何の御用な訳?わざわざ親友である私を頼りに、こんな所まで来るなんて、余程の事なんでしょう?」
「う~ん……何処から説明しようかな~」
そこから私は、ここに至るまでの出来事を大まかに説明した。最初から最後まで、凛子は笑いながら聞いていた。
話を聞き終わった凛子は、「やっぱあのマスター最高だわ~」と言いながら、私の用件を確認しだした。
「詰まり、お洒落を学びたいから、私に弟子入りしに来た……ってコトね」
「そうだよ~。よろしく頼めるかな~?」
少し悩んだ後、凛子は一つ、提案してきた。
「ま、強力はするわ。その代わり、条件が一つ」
「ありがとう~。それで、いくら払えば良いの~?」
そう私が言うと、凛子はニヤリと笑って、「ふ~ん。そんなんで私が応じると思うんだ~」と言った。うん、思ってないよ。ただ一縷の望みに賭けただけだよ。
「生憎と、金なら足りてるのよね~。それで、明日香は代わりに何ができるのかしら?」
「う~ん。いつもので良いかな~?」
そう、凛子は絵を描くのが趣味で、この屋敷の半分は、凛子が描いた絵と、それを描く為の道具や資料、スペースで埋まっている。そして私は彼女の絵の為に、資料の提供を頼まれて……いや、正直に言おう。凛子はよく女体画を描くので、そのモデルに私がよく使われるのだ。所謂、『都合の良い女』というヤツだ。
私は凛子に何かを頼む度、凛子が描く絵のモデルとして、この柔肌を晒すのが通例になっている。こういう時、交渉の材料として使えるように、私は髪や肌の状態には気を使っている。
しかし、今回は少し思う所があったようで、凛子は少し考え込んでから、私のこれからについて相談を始めた。
「今回はちょっと特殊っぽいから、少し提案をさせてもらうわ。先ず一つ。これから暫く、明日香はここに住む事。二つ。その間、私は明日香の絵を描くから、モデルをやる事。ここは変わらないわね。そして三つ。出来るだけ、この家の手伝いをする事。これらが呑めるなら、強力してあげるわ」
ええ~そんなにか~。まあ、こっちも目的があっての事だ。できる限りの事はしよう。
これらの目的は、一つ目が時間が掛かりそうだから。二つ目がいつも通り。三つ目が他人の家に住むんだから最低限のマナーだ。頑張ろう。
それから、結構キツイ日々が始まった。
「ほら!背筋伸ばす!明日香は昔っから猫背なんだからそれを直す!」
「ひえ~!勘弁して凛子~!」
あれから、私は凛子の着せ替え人形になった。そして、私はお洒落の勉強は勿論、姿勢や自分の見せ方、歩き方まで矯正された。お陰で結構雰囲気が変わった……気がする。自分で言っててあれだが、凛子にも「最初に比べたら大分良くなったわね」と言っている。嬉しい。
そして、あっと言う間に最終日。原稿も出来上がったその日の夕方、私は凛子と外に出て、最後の絵を描く事になった。
夕日が当たる崖で、私達は最後の一枚に臨む。私は夕日が映える白色の服を着て、崖際でポーズを取っている。凛子はその中で、気に入った一瞬を捉え、一枚の絵に映し出す。
「ねえ凛子~。私、大丈夫かな~?」
私は、凛子の作業中に放し掛けた。少し不安になったんだ。この数か月、私は努力した。その結果がしっかり現れてくれれば、私は夏に外に出る事が減らす事ができるかもしれない。ふっ、私利私欲の権化と嘲笑うが良い。ここ数年の夏の暑さは異常だ。嫌になる。
凛子は、「当たり前よ」と言って、私に笑いかけた。
「この凛子様が、半年以上掛けて作った『芸術』よ?明日香の思う通りには行かないかもけど、少なくとも、町にごった返す有象無象とは比べ物にならないわよ。ファッションセンスも鍛えたし、歩き方から座り方、何から何まで、私の太鼓判よ」
こういう時、凛子は嘘を吐かない。自分が作った物に、凛子は妥協も誤魔化しもしない。自分で納得が行かなければ破り捨てるし、納得できれば誇り、飾り、保存する。だから凛子は成功したし、素晴らしい作品を生み出して来た。
最後の作品、それができた頃、私は凛子に『それ』を見せてもらった。美しい夕日が海面にも写り、私が着ている服を、綺麗な朱色に染め上げている。とても美しい一枚だ。
「明日香、それあげる。お守りにしな」
「え、良いの~?こんな素敵なの~」
私が素っ頓狂な声を出すと、凛子は少し笑って、「当たり前よ」と言った。
「この数か月、明日香には良い物を見せてもらったからね。だから、ちょっとしたお礼みたいな物よ。売るなり飾るなり、好きにすると良いわ」
おお、凄い嬉しい。こうしていると、ただの良い友達なんだよなあ……
その日、私は荷造りをして、明日のあさイチで出る事にした。それを聞いた凛子は、少し寂しそうな顔をしていたが、それでも、見送りはしてくれると言ってくれた。素晴らしい大親友を持って、私は幸せ者だなあ。
次の日、私は凛子から服を借りて、受け取りの集合場所に向かった。
「ごめんね~。こんな素敵な服貰っちゃって~」
「良いのよ。どうせ明日香の絵を売れば、元なんて簡単に取れるんだから」
許可は出しているとは言え、自分が描かれた絵が売れるのは、嬉しいような恥ずかしいような、微妙な感じだ。
そして、私は電車に乗り込み、凛子に別れを告げる。
「またね凛子」
「明日香も頑張んなさい。アンタはアタシの『特別』なんだからね」
そして、電車のドアが閉まり、私は凛子に手を振り、遠退いていく町を眺めている。
さあ、ここからが正念場だ。いざ、戦場へ。
指定されたのは、近所のお洒落なカフェ。最近できた店で、例のマスターは「ウチは常連しか来ないし、影響は少ないかな~」と言っていた。呑気そうだったけど、実際、あの店に十代の子が来る事は少ないし、否定はしないでおいた。
店内を覗くと、どうやら宗助君はもう来ていたようで、コーヒーを飲みながら待機していた。『五分前行動は社会人の基本』とは、小学校で再三言われた思い出があるけど、ここまで忠実に五分以上前から行動するのも珍しいと思う。いや、私が知らないだけかな。
店内に入ると、宗助君の席に移動し、彼の目の前に座った。彼は顔を赤くして、「先生……ですよね?」と聞いて来た。失礼な人だなあ全く。
「そうだよ~。君は凄いね~。結構早くから来ていたのかな~?」
「はあ、まあ、そうですけど……」
よしよし。普段仏頂面の彼が、顔を赤くしている。これは効果アリということだよね。このまま、行けば、結果も私の望む通りに……!
そして原稿を彼に渡し、彼が確認している間に、私は紅茶を注文する。あら美味しい。
彼の確認も終わり、そろそろ解散といった所で、彼は私を呼び止めた。
「先生……この後、お茶でもどうですか?」
いや、お茶も何も、ここがその『お茶をする場所』でしょうが。恋は人を狂わせるとは、凛子が遠い目をしながら言っていたが、あの彼がこの様子では笑えないよ?
まあ、このまま上手く立ち回れば、次回が再び私の家に戻る可能性がある。ここで帰るよりかは、不確定要素が減るかもしれない。ついでに、タダ飯が食べれるなら嬉しい。
そして、それから彼に連れ回される一日が始まった。映画に連れて行かれ、本屋に連れて行かれ、そして夕食まで共にする事になった。そして驚くべきは、これが全て、恐らく即興のデートプランだという事だ。いや、別に逢引みたいな、意識してるみたいな事はないよ?けど、まあ楽しかったし、彼も普段よりかは表情豊かだった。
そして、夜は居酒屋で飲む事になった。お酒は余り飲まないけど、今日は楽しかったし、奢ってくれる可能性に賭けて、ついて行ってみよう。
まあ、案の定酔った。私は体に力が入らず、彼に依って、近くのホテルに運ばれる事になった。
「うう……ごめんね~宗助君~。お金も全部払って貰っちゃって~」
「良いですよ。こっちもあちこち振り回しちゃいましたから」
彼は結構良い人で、このデートで使われたお金は、凡そ四分の三、彼の財布から出ている。しかも自分から『払いたい』だなんて言うんだからヤバい人だ。
結果、私はその厚意に甘えた結果、自宅から少し離れた地域のホテルに泊まる事になった訳だ。恥ずかしいなあ。
彼は、私をベッド上に寝かせると、「じゃ、シャワー浴びてきます」と言って、風呂場がある方に歩いて行った。う~ん。取り敢えず、少し休んだら出て行こう。彼のお金で一晩寝るというのも忍びないし、それが良い。それに、凛子から借りた服を皺だらけにするのも嫌だ。ここまでしてもらっておいて、彼には何とお礼を言ったら良いか分からないなあ。
あれ?何か忘れてる気がする。何だったかな。思い出せない。
そのまま彼を待っていると、彼は風呂から上がり、私の近くに座った。私は首だけを傾け、彼の横顔を見ながら、彼にお礼を言った。到底足りるとは思っていないけど、足りない分は今度清算しよう。
「ありがとうね~。君のお金で一晩泊まらせてもらうのも申し訳ないし、私はもう少ししたら帰らせてもらうよ~」
それを聞いた彼は、少し顔色を変え、私の方を向いた。彼はそのまま私の両腕を押さえ、私の上に覆い被さった。
「どうしたの~?やっぱりお酒が回っているのかな~。それは私か。ははは」
どうやら、彼も私も結構お酒が回ってるらしい。私を押さえつける両腕に込められている力が少し強いし、私も少し気分が高揚している。このまま眠ってしまうのは避けたいし、彼に両腕を放すように言って、さっさと帰らないと。
「手を放してくれないかな~?情熱的なプロポーズは嬉しいけど、私もそろそろ帰らないと」
「嫌だ」
あら即答。びっくりちゃう。
「この為に、俺がどれだけ……」
「ねえ~、大丈夫か~い?今の君~、少し怖いよ~?」
それでも、彼は手を放してくれない。どうにも彼は、私を帰したくないようだ。でも、私も帰りたいんだ。なんだか身の危険を感じるし、久し振りに、家のベッドで寝たいんだ。
「ちょっと~、力強いよ~。大丈夫か~い?」
「俺は、ずっと……」
情熱的なプロポーズは嬉しいんだけど、こういうのはもっとキラキラした所が良いな。私だって女なんだ。そういう願望はあうんだけどなあ。デキ婚とか嫌だ。
「ずっと……」
「ちょっと~、本当に大丈夫なのか~い?怖いよ~」
「ずっと……俺は……貴女を……」
ちょっと、本当に怖い。一体どうしたと言うのだろう。身の危険を感じる。今は兎に角、ここから逃げ出さないと。
何か確信があった訳じゃないし、誰かに言われた訳でも無い。ただ、そうしないとと思った。私は自分の体を捻り、彼の腕から抜け出すと、近くに置いてあったカバンを持って、ドアに向かった。
しかし、体に力が入らない。お酒が回っているから当然かも知れないが、ドアまで行くのにも苦労する。
このままではいけない。そう思った私は、兎に角助けを求める為に、一番上にあった電話番号に電話を掛ける。
『明日香?こんな時間に何』
しかし、そこで私の携帯は弾き飛ばされた。少し、携帯の画面が割れた音がした。その音は、電話でも聞こえていたのだろう。凛子の焦った声が聞こえる。
『明日香?ねえ明日香!?どうしたの!?』
「貴女と……ずっと……」
「ねえ宗助君~。止めておくれよ~。怖いよ~」
彼に、私の声など聞こえていないのだろう。いや、或いは聞こえていても、無視しているのかも知れない。
早く!早く!逃げろ!走れ!
頭の中で、私の危機管理能力がそう叫んでいる。しかし、その声とは裏腹に、私の体は動かない。お酒のせいだけじゃない。恐怖で足が竦む。走れない。逃げられない。
彼は私の腕を掴んで、そのままベッドに戻ろうとする。だけど、『火事場の馬鹿力』という物だろうか。私は彼の腕を振り払って、ドアを開けた。
そこからは、余り覚えていない。ただ、家に帰らないといけない。その一心だった。
私は、自室のベッドの隅で、布団を被って丸くなった。恐怖から、少しでも身を隠せるように。現実から、目を背けるように。
もう寝てしまおう。きっと明日になったら、全部無かった事になる。もう、怖くて怖くて堪らないんだ。少し位、目を背けても良いよねえ?
次に目が覚めたのは、家のインターホンが、来客を知らせた時だった。
「明日香!大丈夫!?」
安心する声がする。私はそのまま、家のドアを開けた。
そこには、安心し切ったような顔の凛子が居た。
「明日香……」
「大丈夫……いや、何でもない」
凛子は、私に美味しい紅茶を淹れながら、少しずつ事情を聞いた。
「大丈夫だよ~凛子~。心配かけてごめんね~」
そう答える度、凛子は悲しそうな顔をした。そんな顔はしなくても良いんだ。君が笑顔でいてくれたら、それだけで少しは幸せなんだ。
凛子は私の向かいに座り、私の肩を擦っている。
「凛子は凄いね~……強くて、かっこよくて、特別で……」
私がそう言うと、凛子は「そんな事無い」と言った。
「私ね、いっつも明日香に救われてたの。辛い時、苦しい時、明日香はいつも、励まして、支えてくれたでしょう?それがあったから、私は生きていられたのよ」
凛子はやっぱり凄い人だ。こんな私にも、優しく声を掛けてくれる。
「ありがとう」
「お礼を言うのは私の方よ。私は、明日香に何も返せていないわ。皆私を特別だって言うけど、貴女は今でも、私の親友でいてくれたから。私にとっての特別は、明日香なんだよ」
凛子は、『選ばれし人間』だ。そうでなきゃいけないんだ。そうでなきゃ、私は自分を許せなくなる。情けなくて、惨めで、大した取柄も無い私がゆるせなくなるんだ。だから、そんな事を言わないで欲しい。
「私、ずっと明日香に憧れてたの。誰かに何を言われても、揺らがないで、自分を持った明日香が、とても眩しくて、その光に入りたくて、私はずっと生きてたの」
止めて。お願いだから、その先を言わないで欲しい。きっと、もう私に光は無いから。そんな事を言われると、私は何かが嫌になる。悲しいとかじゃない。嬉しいんだ。だけど、私はそれが嫌なんだ。他人と関わって傷付く位なら、もう関わりなんて持ちたくない。
だけど、凛子だけは違った。彼女はいつも前を見ていた。それがかっこよくて、綺麗で、只々好きだった。凛子と一緒に居ると、自分が何か、素晴らしい人間だと思えたから。だから、凛子は特別なんだ。私はそうなれないから、そんな偶像を作った。誰かに、夢を見せたかったから。そうすれば、自分は一人でも大丈夫だと思えたから。
昔は、私も凛子みたいな人間になりたかった。だけど、それを諦めてしまったから、私には無理だと、気付いてしまったから。だから、もう誰も、私を褒めないで欲しい。そうでなきゃ、私はきっと生きていけないから。
「けど、そうじゃなかった。私ね、明日香が泣いている所を見た事が無かったの。いつも、明日香は涙を飲み込んで生きるから。それがとても嫌いで、私は明日香と仲良くしたの」
もう止めてくれ。そうでなきゃ、私は泣いてしまうから。『悲しい』と感じている事に、気付きたくないから。だから、もう止めてくれ。
「それでも、明日香は泣かなかった。それが不気味だった。決して涙を見せないのも、交渉の材料として、自分を躊躇いも無く差し出せるのも。だけど、それで良かった。完璧じゃない明日香を見たら、『ああ、私は何を見ていたんだろう』って考えちゃうから。でも、それは明日香も同じだったんでしょう?」
「うん。凛子が完璧に見えてた。偶像を見てた。自分が嫌いなのを、誰かのせいにしたかった。存在しない物を見てれば、いくらか気が楽だったから」
凛子はその言葉を聞くと、満足そうに笑って、私の顔を掴んで、無理矢理目を合わせた。
そして、『自分はここに居る』と、昔から変わらないその笑顔で、泣きそうな目で、私を我武者羅に工程する。
「これからは偶像じゃなく、人間のアタシを見て。そうすれば、アタシも明日香も、きっと自分を好きになれる。そうすれば、きっとアタシ達、頑張れるから」
そう言う凛子は、眩しかった。凛子の本心がどうであれ、私にとっても、凛子は『特別』なんだ。凛子が私をどう思おうと、そこだけは変わらないんだ。
だけどこれからは、少しは自分を誇ってみよう。もしかしたら、誰かの『特別』に、成なれるかもしれない。
私は、大粒の涙を流していた。
自分が『特別』だったなら。そう夢想する事、考える事は、きっとだれにでもある。
万人にとっての『特別』には、『選ばれし人間』しかなれない。
それに気付いた私は、偶像を作り出した。
実在する誰かを、『選ばれし人間』と見る事で、自分が嫌いな理由を、誰かに押し付けたかった。
私はそうしたかったんじゃない。
私は、誰かの『特別』になりたかった。
もしあの時、貴女が私を否定してくれれば、私はきっと、そのままでいられた。
けど、そうはならなかった。
私も、誰かの『特別』になれたと気付いてしまった。
崩れた偶像は、もう言い訳にならなかった。
私は、生きたいと願ってしまった。
だから、私は今日も、頑張れる。
私は、圧倒的な力を持つスーパーヒーローじゃない。
誰もが、万人の『特別』になれる、ヒーローな訳じゃない。
誰もが、誰かの『特別』なれる、只の人間だった。
私はそれだけを頼りに、今日を生きていく。
誰もが『もし』と思う事だろう。
テレビや映画で見るような、輝くような人間に憧れる事だろう。
しかし、そうなれるのは一握りの、言うなれば『選ばれし人間』だけで、自分はそうなれない。
その事に気付いた私は、そういうキャラクターを作る事で、人に見せる『夢』を作った。
だけど、こうじゃないんだ。私がやりたかったのは、こうじゃない。
もし、あの時……
「先生!出てください!居るのは分かってるんですよ!」
家の扉を叩く音が聞こえる。起きたばかりの体に、深く、深く響くような音が。
私は起き上がり、寝間着のまま、玄関へ向かう。
扉を開けると、見慣れた顔が、少し焦ったような表情で居た。だけど、私の姿を見るなり、表情を焦りから呆れへと変えた。
「また寝間着で……一応人が来ているんですから、着替え位しておいてくださいよ」
「私が私の家で、どんな格好をしていても、私の勝手だと思うけどねえ~」
彼は私の背中を、家の中へと押しながら、「せめて人前に出る時は身形を整えてください」と言っている。
私は赤城明日香。小説家だ。そして、私の背中を押している彼は高橋宗助。私の担当らしく、時々原稿の催促に来ては、私の寝間着姿に呆れ顔を見せる。朝一番に来なければ、私が着替えているかもしれないのに。まあ、彼は少し助平なんだ。これ位は容認してやろう。
彼は私の家に入ると、「うわ」と言った。人の家に向かって、その言い草は何だ。
「やっぱり散らかってるじゃないですか。僕こないだ言いましたよね?『整理整頓はやりなさい』って」
「なんだよ~君は私の母親か~?良いでしょ仕事に使う物は纏めてあるんだから~」
正直、この部屋は殆ど使わないので、半分物置のような扱いなんだ。散らかっていても問題無いだろう。
しかし、彼はそうは思わないようで、まるで私の意見は関係無いとでも言いたげに、片付けを始めた。来る度に片付けをしてくれるのは有難いが、お小言を言う所だけは嫌だなあ。
「ほら、片付けはしとくんで、さっさと着替えてください」
「はいはい分かったよ~」
私は薄い寝間着を脱ぎ、普段着に着替える。正直、あの方が窮屈じゃなくて好きなんだけどなあ。
着替え終わった私は、彼が待つ部屋に移動する。彼に依る片付けはもう終わったようで、部屋は見違える程綺麗になっていた。
私は彼の前の椅子に座り、彼に「それで、人の安眠を妨げるとは、どんな要件かな~」と聞いた。案の定、彼は少し怒ったような、呆れたような表情をして、私に怒鳴った。
「あの!新作の締め切り、今日なんですけど!?」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ~。今持って来るね~」
私は仕事部屋に戻り、机に置いた数百枚の原稿用紙を手に取る。ふと時計を目にすると、どうやらもう十一時を回っていたらしい。彼にはお茶菓子の一つでも出した方が良いようだね。
彼の元にそれを持って行くと、彼は少し溜息を吐いて、「今回もギリギリだなあ……」とぼやいた。彼が中身を確認している間に、私は冷蔵庫に残っていた筈のカステラを取りに、キッチンへ向かう。労働には相応の報酬が支払われるべきであり、それに感謝を込める事を、忘れてはいけない。単なる利害の一致だけではなく、他の要素で動くのも、実に人間らしいじゃないか。
彼は、私が持って来たカステラを食べながら、私に懇々と説教をする。
「大体貴女は不摂生な生活ばっかりじゃないですか。偶には外に出たり、もっと規則正しい生活を送ってください。早死にしますよ」
「あはは~。以後気を付けるよ~」
私もカステラを食べながら、彼の説教を聞く。彼は私の態度が気に食わなかったようで、「次の受け取りは外でしましょう」と言って来た。次となると夏辺りかな?暑いから外なんて嫌なんだけどなあ。
その後も、彼は少し説教を続けてから、家を出てしまった。彼が居ると、いつも静かな家が賑やかになって、少しばかり楽しいんだけどなあ。
兎に角、目下の課題は『次回の受け取りを、どうやって私の自宅にするか』だ。しかし、全く良いアイデアが浮かばない。
こういう時はどうするか。他人に助けを求めるのが一番である。私は少し身形を整え、行きつけの喫茶店へ向かう。
少し歩くと、お昼時で騒がしい街中で、まるで外界から切り離されたような、そんな喫茶店がある。私はここの常連で、どうしようもない事が起きた時や、誰かに助けを求める時は、決まってここのマスターに話を聞いてもらうようにしている。
扉を開けると、見慣れない顔がでてきた。
「いらっしゃいませ。一名様でよろしいですか」
「うん。カウンター席でおねがい~」
彼は「かしこまりました」と言うと、いつも店の奥に居る、この店のマスターを呼んだ。直ぐに出て来た彼は、私に「おや、明日香さん。どうなされました」と聞いた。
「取り敢えず、昼食とも朝食とも言えないような感覚だけど、食事でも貰おうかな~」
「はい。いつもので宜しいですか?」
「うん。よろしく~」
少し待つと、直ぐにサンドウィッチとサラダを盛りつけた皿が出て来る。私はここに来ると、決まって『サンドウィッチプレート』を頼む。元からあまり食べる方じゃないし、これ位の量が丁度良いんだ。
食べながら、私はマスターに質問をする。
「ねえマスター。彼はバイトなの~?」
「ああ、彼は最近入った子でね。物覚えが良くて助かってるよ。やっぱり、若いって良いな」
ほほう。バイトとな。この店はそういうのやらないと思ってたけど、案外そうでもないんだなあ。
そして、彼は私に、忘れかけていた本題を思い出させる。
「で、どんな用件だい?貴女がここに来る時は、大抵何か相談がある時だ」
「あ、そうだったよ~。聞いておくれ~。宗助君がね~『次の受け取りは外にする』なんて言うんだよ~何とかできないかな~」
彼は少し悩むような体勢をとって、暫く考え込む。そして、暫く経ち、サンドウィッチが一つ無くなった辺りで、何か思いついたようで、彼は私に「次回は流石に無理だろうけど、その次ならいける」と言って来た。
「君が次の時、凄く可愛らしくお洒落をして行けば良いんだ。そうすれば、きっとその『担当の彼』は、こう思う筈さ。『こんなに可愛いのに、外の連中に見せるだなんて勿体無い』ってね!」
「成程~独占欲を誘うって訳だね~。だけどさ~そんなに上手く行くかな~?」
いやマスター、黙らないでよ。ちょっと希望は見えたからさ。そんな「確かに……」みたいな顔でガチ悩みしないでよ。
「まあ貴女は地が良いですから、上手く行けば……なんとか……」
「ん~まあ、やるだけやってみるよ~ありがとね~」
私はその後、他愛もない世間話をしながら、サンドウィッチを食べて、その店を後にした。
町を歩きながらも、私は悩んでいた。
「お洒落って……ナニ?」
生まれてから今日まで、お洒落なんて数える程しかした事が無い。それも全て、親や友人に見繕ってもらった物が殆どで、自分からやった事なんて無い。
暫く悩んだ後、私は苦渋の決断をし、ポケットからスマホを取り出し、少ない連絡先に電話を掛ける。できるなら、これだけは避けたかったんだけどなあ。
「もしも~し。凛子~?」
電話を掛け、二、三コールしてから、その人物は出て来た。
『明日香!?どうしたの!?』
「うん。ちょっと相談したい事があってさ~」
『おけ。じゃあ出来るだけ早く、私の家に来て。準備して待ってるから』
そして電話が切れた後、私は大きく溜息を吐いた。この子にだけは、会うのにも気が進まないんだ。だけど、これ以外に方法が無いのだから、もう仕方の無い事だ。我慢しよう。いや、別に嫌いとかじゃないんだけどさ、何か苦手なんだよ。
それから電車に乗り込み、暫く揺られている事三十分。『彼女』の家の屋敷の最寄り駅に着いた。
どうやら迎えは来ていたらしい。駅を出ると、やけに綺麗な車と、一人の美少女が私を待ち構えていた。
「久し振りね明日香!今回はどんな用かしら!?」
彼女は浅原凛子。私の幼馴染で、若くして、その身一つで会社を立ち上げ、この世界でも有数の大財閥、浅原財閥を作った、言うなれば『選ばれし人間』。本来、私が会えるような人間ではないけど、彼女の持ち前の破天荒さと、『幼馴染』という免罪符に依って、特別に会う事を許されているのだ。
彼女は私を車に乗せて、私に話を聞いて来た。
「ねえ、何で来たの?」「何かあった?」「何か浮いた話は?」
どれも他愛の無い物で、最近の私の状況や、周りの環境についての話ばかりを聞いてくる。私は基本正直に答えたけど、ここに来た理由だけは、何だか少し恥ずかしかったので、そこだけは誤魔化して答えるよう心掛けた。
そして暫く経つと、凛子の家……と言うか屋敷が見えて来た。そして、あの屋敷の殆どは凛子の趣味で構成されている。左右対称が堪らないとか、趣味を突き詰める為の設備がどうしてもかさむとか、そんな感じの理由らしい。それができるのが、凛子の凄い所だ。
屋敷に入ると、直ぐに凛子の自室に案内された。ここだけでも結構立派な者で、私は部屋にあるソファに座らされた。凛子は自分の椅子に座った。
「で、何の御用な訳?わざわざ親友である私を頼りに、こんな所まで来るなんて、余程の事なんでしょう?」
「う~ん……何処から説明しようかな~」
そこから私は、ここに至るまでの出来事を大まかに説明した。最初から最後まで、凛子は笑いながら聞いていた。
話を聞き終わった凛子は、「やっぱあのマスター最高だわ~」と言いながら、私の用件を確認しだした。
「詰まり、お洒落を学びたいから、私に弟子入りしに来た……ってコトね」
「そうだよ~。よろしく頼めるかな~?」
少し悩んだ後、凛子は一つ、提案してきた。
「ま、強力はするわ。その代わり、条件が一つ」
「ありがとう~。それで、いくら払えば良いの~?」
そう私が言うと、凛子はニヤリと笑って、「ふ~ん。そんなんで私が応じると思うんだ~」と言った。うん、思ってないよ。ただ一縷の望みに賭けただけだよ。
「生憎と、金なら足りてるのよね~。それで、明日香は代わりに何ができるのかしら?」
「う~ん。いつもので良いかな~?」
そう、凛子は絵を描くのが趣味で、この屋敷の半分は、凛子が描いた絵と、それを描く為の道具や資料、スペースで埋まっている。そして私は彼女の絵の為に、資料の提供を頼まれて……いや、正直に言おう。凛子はよく女体画を描くので、そのモデルに私がよく使われるのだ。所謂、『都合の良い女』というヤツだ。
私は凛子に何かを頼む度、凛子が描く絵のモデルとして、この柔肌を晒すのが通例になっている。こういう時、交渉の材料として使えるように、私は髪や肌の状態には気を使っている。
しかし、今回は少し思う所があったようで、凛子は少し考え込んでから、私のこれからについて相談を始めた。
「今回はちょっと特殊っぽいから、少し提案をさせてもらうわ。先ず一つ。これから暫く、明日香はここに住む事。二つ。その間、私は明日香の絵を描くから、モデルをやる事。ここは変わらないわね。そして三つ。出来るだけ、この家の手伝いをする事。これらが呑めるなら、強力してあげるわ」
ええ~そんなにか~。まあ、こっちも目的があっての事だ。できる限りの事はしよう。
これらの目的は、一つ目が時間が掛かりそうだから。二つ目がいつも通り。三つ目が他人の家に住むんだから最低限のマナーだ。頑張ろう。
それから、結構キツイ日々が始まった。
「ほら!背筋伸ばす!明日香は昔っから猫背なんだからそれを直す!」
「ひえ~!勘弁して凛子~!」
あれから、私は凛子の着せ替え人形になった。そして、私はお洒落の勉強は勿論、姿勢や自分の見せ方、歩き方まで矯正された。お陰で結構雰囲気が変わった……気がする。自分で言っててあれだが、凛子にも「最初に比べたら大分良くなったわね」と言っている。嬉しい。
そして、あっと言う間に最終日。原稿も出来上がったその日の夕方、私は凛子と外に出て、最後の絵を描く事になった。
夕日が当たる崖で、私達は最後の一枚に臨む。私は夕日が映える白色の服を着て、崖際でポーズを取っている。凛子はその中で、気に入った一瞬を捉え、一枚の絵に映し出す。
「ねえ凛子~。私、大丈夫かな~?」
私は、凛子の作業中に放し掛けた。少し不安になったんだ。この数か月、私は努力した。その結果がしっかり現れてくれれば、私は夏に外に出る事が減らす事ができるかもしれない。ふっ、私利私欲の権化と嘲笑うが良い。ここ数年の夏の暑さは異常だ。嫌になる。
凛子は、「当たり前よ」と言って、私に笑いかけた。
「この凛子様が、半年以上掛けて作った『芸術』よ?明日香の思う通りには行かないかもけど、少なくとも、町にごった返す有象無象とは比べ物にならないわよ。ファッションセンスも鍛えたし、歩き方から座り方、何から何まで、私の太鼓判よ」
こういう時、凛子は嘘を吐かない。自分が作った物に、凛子は妥協も誤魔化しもしない。自分で納得が行かなければ破り捨てるし、納得できれば誇り、飾り、保存する。だから凛子は成功したし、素晴らしい作品を生み出して来た。
最後の作品、それができた頃、私は凛子に『それ』を見せてもらった。美しい夕日が海面にも写り、私が着ている服を、綺麗な朱色に染め上げている。とても美しい一枚だ。
「明日香、それあげる。お守りにしな」
「え、良いの~?こんな素敵なの~」
私が素っ頓狂な声を出すと、凛子は少し笑って、「当たり前よ」と言った。
「この数か月、明日香には良い物を見せてもらったからね。だから、ちょっとしたお礼みたいな物よ。売るなり飾るなり、好きにすると良いわ」
おお、凄い嬉しい。こうしていると、ただの良い友達なんだよなあ……
その日、私は荷造りをして、明日のあさイチで出る事にした。それを聞いた凛子は、少し寂しそうな顔をしていたが、それでも、見送りはしてくれると言ってくれた。素晴らしい大親友を持って、私は幸せ者だなあ。
次の日、私は凛子から服を借りて、受け取りの集合場所に向かった。
「ごめんね~。こんな素敵な服貰っちゃって~」
「良いのよ。どうせ明日香の絵を売れば、元なんて簡単に取れるんだから」
許可は出しているとは言え、自分が描かれた絵が売れるのは、嬉しいような恥ずかしいような、微妙な感じだ。
そして、私は電車に乗り込み、凛子に別れを告げる。
「またね凛子」
「明日香も頑張んなさい。アンタはアタシの『特別』なんだからね」
そして、電車のドアが閉まり、私は凛子に手を振り、遠退いていく町を眺めている。
さあ、ここからが正念場だ。いざ、戦場へ。
指定されたのは、近所のお洒落なカフェ。最近できた店で、例のマスターは「ウチは常連しか来ないし、影響は少ないかな~」と言っていた。呑気そうだったけど、実際、あの店に十代の子が来る事は少ないし、否定はしないでおいた。
店内を覗くと、どうやら宗助君はもう来ていたようで、コーヒーを飲みながら待機していた。『五分前行動は社会人の基本』とは、小学校で再三言われた思い出があるけど、ここまで忠実に五分以上前から行動するのも珍しいと思う。いや、私が知らないだけかな。
店内に入ると、宗助君の席に移動し、彼の目の前に座った。彼は顔を赤くして、「先生……ですよね?」と聞いて来た。失礼な人だなあ全く。
「そうだよ~。君は凄いね~。結構早くから来ていたのかな~?」
「はあ、まあ、そうですけど……」
よしよし。普段仏頂面の彼が、顔を赤くしている。これは効果アリということだよね。このまま、行けば、結果も私の望む通りに……!
そして原稿を彼に渡し、彼が確認している間に、私は紅茶を注文する。あら美味しい。
彼の確認も終わり、そろそろ解散といった所で、彼は私を呼び止めた。
「先生……この後、お茶でもどうですか?」
いや、お茶も何も、ここがその『お茶をする場所』でしょうが。恋は人を狂わせるとは、凛子が遠い目をしながら言っていたが、あの彼がこの様子では笑えないよ?
まあ、このまま上手く立ち回れば、次回が再び私の家に戻る可能性がある。ここで帰るよりかは、不確定要素が減るかもしれない。ついでに、タダ飯が食べれるなら嬉しい。
そして、それから彼に連れ回される一日が始まった。映画に連れて行かれ、本屋に連れて行かれ、そして夕食まで共にする事になった。そして驚くべきは、これが全て、恐らく即興のデートプランだという事だ。いや、別に逢引みたいな、意識してるみたいな事はないよ?けど、まあ楽しかったし、彼も普段よりかは表情豊かだった。
そして、夜は居酒屋で飲む事になった。お酒は余り飲まないけど、今日は楽しかったし、奢ってくれる可能性に賭けて、ついて行ってみよう。
まあ、案の定酔った。私は体に力が入らず、彼に依って、近くのホテルに運ばれる事になった。
「うう……ごめんね~宗助君~。お金も全部払って貰っちゃって~」
「良いですよ。こっちもあちこち振り回しちゃいましたから」
彼は結構良い人で、このデートで使われたお金は、凡そ四分の三、彼の財布から出ている。しかも自分から『払いたい』だなんて言うんだからヤバい人だ。
結果、私はその厚意に甘えた結果、自宅から少し離れた地域のホテルに泊まる事になった訳だ。恥ずかしいなあ。
彼は、私をベッド上に寝かせると、「じゃ、シャワー浴びてきます」と言って、風呂場がある方に歩いて行った。う~ん。取り敢えず、少し休んだら出て行こう。彼のお金で一晩寝るというのも忍びないし、それが良い。それに、凛子から借りた服を皺だらけにするのも嫌だ。ここまでしてもらっておいて、彼には何とお礼を言ったら良いか分からないなあ。
あれ?何か忘れてる気がする。何だったかな。思い出せない。
そのまま彼を待っていると、彼は風呂から上がり、私の近くに座った。私は首だけを傾け、彼の横顔を見ながら、彼にお礼を言った。到底足りるとは思っていないけど、足りない分は今度清算しよう。
「ありがとうね~。君のお金で一晩泊まらせてもらうのも申し訳ないし、私はもう少ししたら帰らせてもらうよ~」
それを聞いた彼は、少し顔色を変え、私の方を向いた。彼はそのまま私の両腕を押さえ、私の上に覆い被さった。
「どうしたの~?やっぱりお酒が回っているのかな~。それは私か。ははは」
どうやら、彼も私も結構お酒が回ってるらしい。私を押さえつける両腕に込められている力が少し強いし、私も少し気分が高揚している。このまま眠ってしまうのは避けたいし、彼に両腕を放すように言って、さっさと帰らないと。
「手を放してくれないかな~?情熱的なプロポーズは嬉しいけど、私もそろそろ帰らないと」
「嫌だ」
あら即答。びっくりちゃう。
「この為に、俺がどれだけ……」
「ねえ~、大丈夫か~い?今の君~、少し怖いよ~?」
それでも、彼は手を放してくれない。どうにも彼は、私を帰したくないようだ。でも、私も帰りたいんだ。なんだか身の危険を感じるし、久し振りに、家のベッドで寝たいんだ。
「ちょっと~、力強いよ~。大丈夫か~い?」
「俺は、ずっと……」
情熱的なプロポーズは嬉しいんだけど、こういうのはもっとキラキラした所が良いな。私だって女なんだ。そういう願望はあうんだけどなあ。デキ婚とか嫌だ。
「ずっと……」
「ちょっと~、本当に大丈夫なのか~い?怖いよ~」
「ずっと……俺は……貴女を……」
ちょっと、本当に怖い。一体どうしたと言うのだろう。身の危険を感じる。今は兎に角、ここから逃げ出さないと。
何か確信があった訳じゃないし、誰かに言われた訳でも無い。ただ、そうしないとと思った。私は自分の体を捻り、彼の腕から抜け出すと、近くに置いてあったカバンを持って、ドアに向かった。
しかし、体に力が入らない。お酒が回っているから当然かも知れないが、ドアまで行くのにも苦労する。
このままではいけない。そう思った私は、兎に角助けを求める為に、一番上にあった電話番号に電話を掛ける。
『明日香?こんな時間に何』
しかし、そこで私の携帯は弾き飛ばされた。少し、携帯の画面が割れた音がした。その音は、電話でも聞こえていたのだろう。凛子の焦った声が聞こえる。
『明日香?ねえ明日香!?どうしたの!?』
「貴女と……ずっと……」
「ねえ宗助君~。止めておくれよ~。怖いよ~」
彼に、私の声など聞こえていないのだろう。いや、或いは聞こえていても、無視しているのかも知れない。
早く!早く!逃げろ!走れ!
頭の中で、私の危機管理能力がそう叫んでいる。しかし、その声とは裏腹に、私の体は動かない。お酒のせいだけじゃない。恐怖で足が竦む。走れない。逃げられない。
彼は私の腕を掴んで、そのままベッドに戻ろうとする。だけど、『火事場の馬鹿力』という物だろうか。私は彼の腕を振り払って、ドアを開けた。
そこからは、余り覚えていない。ただ、家に帰らないといけない。その一心だった。
私は、自室のベッドの隅で、布団を被って丸くなった。恐怖から、少しでも身を隠せるように。現実から、目を背けるように。
もう寝てしまおう。きっと明日になったら、全部無かった事になる。もう、怖くて怖くて堪らないんだ。少し位、目を背けても良いよねえ?
次に目が覚めたのは、家のインターホンが、来客を知らせた時だった。
「明日香!大丈夫!?」
安心する声がする。私はそのまま、家のドアを開けた。
そこには、安心し切ったような顔の凛子が居た。
「明日香……」
「大丈夫……いや、何でもない」
凛子は、私に美味しい紅茶を淹れながら、少しずつ事情を聞いた。
「大丈夫だよ~凛子~。心配かけてごめんね~」
そう答える度、凛子は悲しそうな顔をした。そんな顔はしなくても良いんだ。君が笑顔でいてくれたら、それだけで少しは幸せなんだ。
凛子は私の向かいに座り、私の肩を擦っている。
「凛子は凄いね~……強くて、かっこよくて、特別で……」
私がそう言うと、凛子は「そんな事無い」と言った。
「私ね、いっつも明日香に救われてたの。辛い時、苦しい時、明日香はいつも、励まして、支えてくれたでしょう?それがあったから、私は生きていられたのよ」
凛子はやっぱり凄い人だ。こんな私にも、優しく声を掛けてくれる。
「ありがとう」
「お礼を言うのは私の方よ。私は、明日香に何も返せていないわ。皆私を特別だって言うけど、貴女は今でも、私の親友でいてくれたから。私にとっての特別は、明日香なんだよ」
凛子は、『選ばれし人間』だ。そうでなきゃいけないんだ。そうでなきゃ、私は自分を許せなくなる。情けなくて、惨めで、大した取柄も無い私がゆるせなくなるんだ。だから、そんな事を言わないで欲しい。
「私、ずっと明日香に憧れてたの。誰かに何を言われても、揺らがないで、自分を持った明日香が、とても眩しくて、その光に入りたくて、私はずっと生きてたの」
止めて。お願いだから、その先を言わないで欲しい。きっと、もう私に光は無いから。そんな事を言われると、私は何かが嫌になる。悲しいとかじゃない。嬉しいんだ。だけど、私はそれが嫌なんだ。他人と関わって傷付く位なら、もう関わりなんて持ちたくない。
だけど、凛子だけは違った。彼女はいつも前を見ていた。それがかっこよくて、綺麗で、只々好きだった。凛子と一緒に居ると、自分が何か、素晴らしい人間だと思えたから。だから、凛子は特別なんだ。私はそうなれないから、そんな偶像を作った。誰かに、夢を見せたかったから。そうすれば、自分は一人でも大丈夫だと思えたから。
昔は、私も凛子みたいな人間になりたかった。だけど、それを諦めてしまったから、私には無理だと、気付いてしまったから。だから、もう誰も、私を褒めないで欲しい。そうでなきゃ、私はきっと生きていけないから。
「けど、そうじゃなかった。私ね、明日香が泣いている所を見た事が無かったの。いつも、明日香は涙を飲み込んで生きるから。それがとても嫌いで、私は明日香と仲良くしたの」
もう止めてくれ。そうでなきゃ、私は泣いてしまうから。『悲しい』と感じている事に、気付きたくないから。だから、もう止めてくれ。
「それでも、明日香は泣かなかった。それが不気味だった。決して涙を見せないのも、交渉の材料として、自分を躊躇いも無く差し出せるのも。だけど、それで良かった。完璧じゃない明日香を見たら、『ああ、私は何を見ていたんだろう』って考えちゃうから。でも、それは明日香も同じだったんでしょう?」
「うん。凛子が完璧に見えてた。偶像を見てた。自分が嫌いなのを、誰かのせいにしたかった。存在しない物を見てれば、いくらか気が楽だったから」
凛子はその言葉を聞くと、満足そうに笑って、私の顔を掴んで、無理矢理目を合わせた。
そして、『自分はここに居る』と、昔から変わらないその笑顔で、泣きそうな目で、私を我武者羅に工程する。
「これからは偶像じゃなく、人間のアタシを見て。そうすれば、アタシも明日香も、きっと自分を好きになれる。そうすれば、きっとアタシ達、頑張れるから」
そう言う凛子は、眩しかった。凛子の本心がどうであれ、私にとっても、凛子は『特別』なんだ。凛子が私をどう思おうと、そこだけは変わらないんだ。
だけどこれからは、少しは自分を誇ってみよう。もしかしたら、誰かの『特別』に、成なれるかもしれない。
私は、大粒の涙を流していた。
自分が『特別』だったなら。そう夢想する事、考える事は、きっとだれにでもある。
万人にとっての『特別』には、『選ばれし人間』しかなれない。
それに気付いた私は、偶像を作り出した。
実在する誰かを、『選ばれし人間』と見る事で、自分が嫌いな理由を、誰かに押し付けたかった。
私はそうしたかったんじゃない。
私は、誰かの『特別』になりたかった。
もしあの時、貴女が私を否定してくれれば、私はきっと、そのままでいられた。
けど、そうはならなかった。
私も、誰かの『特別』になれたと気付いてしまった。
崩れた偶像は、もう言い訳にならなかった。
私は、生きたいと願ってしまった。
だから、私は今日も、頑張れる。
私は、圧倒的な力を持つスーパーヒーローじゃない。
誰もが、万人の『特別』になれる、ヒーローな訳じゃない。
誰もが、誰かの『特別』なれる、只の人間だった。
私はそれだけを頼りに、今日を生きていく。
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