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侵章
侵二章 罪を犯した者の末路
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王都ヴァネロプを出た後、私達は今後について話し合う事にした。王都から追手が来ないとも限らない。なるべく早くに方針を決めた方が良さそうだけど……
「……どうしろってんだこんな状況で」
「ライラちゃんとアイク君がどこに向かうのかも、アイクさんとエディさんがどこに行ったのかも分からないもんね」
何も分からないせいで何も決められない。ライラちゃん達も行商の二人も、一切の手掛かりを残さず消えてしまった。そして手掛かりが無いので聞き込み……も、今私達がどういう扱いなのかが分からない以上、下手に人に聞けない。
「取り敢えず、追跡できる可能性がまだ無い訳じゃない行商の二人との合流が先じゃない?」
「そうの方が良いわね。闇雲にライラちゃん達を探すよりは現実的」
「そうは言っても、その二人の行先も分かんねぇもんなぁ……」
あの二人は魔術を使える訳でもないから、私達が全速力で追えばまだ追い付ける。ただそれは、二人の行先が分かっている場合でしかない。時間が掛かれば掛かる程遠くへ行くし、そうなればそうなるだけ追跡も困難になる。バラけて探すにしても、死角は必ずできる。何か手掛かりが無い事には話にならない。
「大聖、失せ物の持ち主を探す魔術とか無いの?メモに使えば……」
「無ぇ事も無ぇ。だがメモ一枚じゃできねぇ。使い捨ての道具は、魔術に噛ませるには希少価値が低いからなぁ……」
「諒子は何か聞いてないの?あの二人が揃って行くってなった時、行きそうな所」
「ちょっと待って。今思い出す……」
あの二人が、二人だけで行きそうな所?まるで思い付かない。少なくともこの大陸では。そもそもあの二人、今までに亜人の大陸に行ったという話は一度もした事が無かった。あの二人だけで大陸を出る事は多分無いから余計に……
ん?改めて考えると、なんであの二人はこの大陸に来た事があるという話はしなかった癖に、この大陸について詳しかったのかしら。話した事が無かっただけで、この大陸に来た事自体はあったという事?そしてメモに残されていた、『決着を付けて来る』という言葉……
「あの二人は、元々亜人の国に住んでいた?」
あり得ない話ではない。事実人間の国にも亜人の集落や町がある程だ。亜人の国に人間が住んでいても、何も不思議な事は無い。勿論、珍しいは珍しいでしょうけど。
「何かしら因縁のある土地か人があるという事か」
「『決着』って言い方もそうだよね。だけど、追跡するにはまだ足りないよ?」
「そうね。だけどあの二人は、先ずどこかの町を目指す筈よ。因縁のある何かさえ分かれば、その方角の町と、そこへ向かう街道を進めば必ず……」
という感じでヒートアップしていた私だったけど、大聖の「だが、それを調べる手段が無ぇ」という言葉のお陰で、一先ず落ち着きを取り戻した。
「そうよね。問題はそこよね」
「情報屋に聞くのはどうかな?口止め料さえ払えば通報されない」
「良い案だが、町の外には居ないだろうな」
先ずは私達が追われていないという確証を得られない事には、彼らの情報を集める事はできない。資料を調べるにしても人に聞くにしても、町に入る必要がある。もし私達が懸賞金でも掛けられてれば捕まる。姿を変化させようにも、町に入るのに必要な身分証は、私達の魔力と紐づけられてるから偽造できない。
八方塞がり……どうにかならないかしら。こうしている間にも、彼らは遠くへと進んで行く。なるべく早めに行先を決めないといけないのに。
「……考える事を変えよう。行商の二人は置いておいて、ライラとアイクの事について考えるぞ」
「だけどあの二人は……」
「転移の魔術を使ったんなら、目的地に直に向かった筈だ。行先さえ分かれば、まだ追えるかも知れねぇ」
「問題はそこがどうにも分からないという事ね」
アステリアの目的がどうも読めない。亜人王軍四天王の彼女が、現亜人王……自身の王に当たる聡一を殺そうとする理由が無い。私達が殺した亜人王の仇討ちという事なら、不意打ちを仕掛けて私達も殺さなかった事に説明が付かない。勿論、ライラちゃんが頑として譲らなかった可能性はあるけど。
ただ、大聖の考え方は根本から違っていたようだった。彼は「可能性の話だが……」と前置きをしながら、懐から一冊の本を取り出した。
「それは?」
「神話の第五章。原本の写しだ」
「第五章……空の青色を奪った魔女の二つ後の話だよね?」
「あぁ。ここに面白い事が書かれている」
大聖が開いたページには、『女神はこの世の法を定めた。厄災で滅びの種を潰し、魔王と勇者にこの世の全てを背負わせ、どちらか一方が死ぬ事でこの世に自浄作用を持たせた。』と書かれている。女神がこの世の仕組みを再設定した時の文章だ。
「これがどうかしたの?」
「聡一が『魔王』だという確証は無いが、もしそうだとしたら、『一方が死ぬ事で』という文章に反する。この世の自浄作用が機能しなくなる。そうなれば遠い未来、この世はバランスが崩れ、滅ぶ事すら考えられる。だが魔法の力なら、そこを無視できるかも知れねぇ」
「そうなるとどうなるの?」
「二十年前、魔王は疑似魔法で強化された剣で死んだ。そして今、勇者はライラの魔法で死んだ。もし魔法がルールを無視できるとしたら、世界が『魔王と勇者』が生きていると認識している状態のまま、『魔王と勇者』両方を殺す事ができる」
世界のルールを無視……考えていなかった訳ではなかった。魔法が女神を傷付けられるのなら、世界のルールを無視して、周囲の物に影響を与える事ができる力であるという可能性がある。
「だけどそんな事をしてどうなると言うの?自浄作用を発動させないまま両者を殺したら、そのまま……」
「あぁ。だからこそ、考えられる事はある。忍。確認だが……」
「何?」
「『死者蘇生』って可能か?」
「……どうしろってんだこんな状況で」
「ライラちゃんとアイク君がどこに向かうのかも、アイクさんとエディさんがどこに行ったのかも分からないもんね」
何も分からないせいで何も決められない。ライラちゃん達も行商の二人も、一切の手掛かりを残さず消えてしまった。そして手掛かりが無いので聞き込み……も、今私達がどういう扱いなのかが分からない以上、下手に人に聞けない。
「取り敢えず、追跡できる可能性がまだ無い訳じゃない行商の二人との合流が先じゃない?」
「そうの方が良いわね。闇雲にライラちゃん達を探すよりは現実的」
「そうは言っても、その二人の行先も分かんねぇもんなぁ……」
あの二人は魔術を使える訳でもないから、私達が全速力で追えばまだ追い付ける。ただそれは、二人の行先が分かっている場合でしかない。時間が掛かれば掛かる程遠くへ行くし、そうなればそうなるだけ追跡も困難になる。バラけて探すにしても、死角は必ずできる。何か手掛かりが無い事には話にならない。
「大聖、失せ物の持ち主を探す魔術とか無いの?メモに使えば……」
「無ぇ事も無ぇ。だがメモ一枚じゃできねぇ。使い捨ての道具は、魔術に噛ませるには希少価値が低いからなぁ……」
「諒子は何か聞いてないの?あの二人が揃って行くってなった時、行きそうな所」
「ちょっと待って。今思い出す……」
あの二人が、二人だけで行きそうな所?まるで思い付かない。少なくともこの大陸では。そもそもあの二人、今までに亜人の大陸に行ったという話は一度もした事が無かった。あの二人だけで大陸を出る事は多分無いから余計に……
ん?改めて考えると、なんであの二人はこの大陸に来た事があるという話はしなかった癖に、この大陸について詳しかったのかしら。話した事が無かっただけで、この大陸に来た事自体はあったという事?そしてメモに残されていた、『決着を付けて来る』という言葉……
「あの二人は、元々亜人の国に住んでいた?」
あり得ない話ではない。事実人間の国にも亜人の集落や町がある程だ。亜人の国に人間が住んでいても、何も不思議な事は無い。勿論、珍しいは珍しいでしょうけど。
「何かしら因縁のある土地か人があるという事か」
「『決着』って言い方もそうだよね。だけど、追跡するにはまだ足りないよ?」
「そうね。だけどあの二人は、先ずどこかの町を目指す筈よ。因縁のある何かさえ分かれば、その方角の町と、そこへ向かう街道を進めば必ず……」
という感じでヒートアップしていた私だったけど、大聖の「だが、それを調べる手段が無ぇ」という言葉のお陰で、一先ず落ち着きを取り戻した。
「そうよね。問題はそこよね」
「情報屋に聞くのはどうかな?口止め料さえ払えば通報されない」
「良い案だが、町の外には居ないだろうな」
先ずは私達が追われていないという確証を得られない事には、彼らの情報を集める事はできない。資料を調べるにしても人に聞くにしても、町に入る必要がある。もし私達が懸賞金でも掛けられてれば捕まる。姿を変化させようにも、町に入るのに必要な身分証は、私達の魔力と紐づけられてるから偽造できない。
八方塞がり……どうにかならないかしら。こうしている間にも、彼らは遠くへと進んで行く。なるべく早めに行先を決めないといけないのに。
「……考える事を変えよう。行商の二人は置いておいて、ライラとアイクの事について考えるぞ」
「だけどあの二人は……」
「転移の魔術を使ったんなら、目的地に直に向かった筈だ。行先さえ分かれば、まだ追えるかも知れねぇ」
「問題はそこがどうにも分からないという事ね」
アステリアの目的がどうも読めない。亜人王軍四天王の彼女が、現亜人王……自身の王に当たる聡一を殺そうとする理由が無い。私達が殺した亜人王の仇討ちという事なら、不意打ちを仕掛けて私達も殺さなかった事に説明が付かない。勿論、ライラちゃんが頑として譲らなかった可能性はあるけど。
ただ、大聖の考え方は根本から違っていたようだった。彼は「可能性の話だが……」と前置きをしながら、懐から一冊の本を取り出した。
「それは?」
「神話の第五章。原本の写しだ」
「第五章……空の青色を奪った魔女の二つ後の話だよね?」
「あぁ。ここに面白い事が書かれている」
大聖が開いたページには、『女神はこの世の法を定めた。厄災で滅びの種を潰し、魔王と勇者にこの世の全てを背負わせ、どちらか一方が死ぬ事でこの世に自浄作用を持たせた。』と書かれている。女神がこの世の仕組みを再設定した時の文章だ。
「これがどうかしたの?」
「聡一が『魔王』だという確証は無いが、もしそうだとしたら、『一方が死ぬ事で』という文章に反する。この世の自浄作用が機能しなくなる。そうなれば遠い未来、この世はバランスが崩れ、滅ぶ事すら考えられる。だが魔法の力なら、そこを無視できるかも知れねぇ」
「そうなるとどうなるの?」
「二十年前、魔王は疑似魔法で強化された剣で死んだ。そして今、勇者はライラの魔法で死んだ。もし魔法がルールを無視できるとしたら、世界が『魔王と勇者』が生きていると認識している状態のまま、『魔王と勇者』両方を殺す事ができる」
世界のルールを無視……考えていなかった訳ではなかった。魔法が女神を傷付けられるのなら、世界のルールを無視して、周囲の物に影響を与える事ができる力であるという可能性がある。
「だけどそんな事をしてどうなると言うの?自浄作用を発動させないまま両者を殺したら、そのまま……」
「あぁ。だからこそ、考えられる事はある。忍。確認だが……」
「何?」
「『死者蘇生』って可能か?」
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