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深章
深二十四章 力の体現たる王の力
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作戦の為に移動した私達は、信じられない物を目にした。リョウコさんとタセイ先生、亜人王さんが、魔法のようなものを使っている。
「アステリアさん。何アレ」
「『疑似魔法』……魔術の中で、最も魔法に近い禁術だ」
「そんな物……一度も聞いた事無かった……」
「当たり前だ。今現在生きて、アレを知っているのは、私と元勇者パーティーの人間だけだったのだから」
まぁ……何となく理由が分かるような気がする。リョウコさん達は元の世界に帰ろうとしている。あんな物を公表すれば、恐らく研究材料として拘束される。何かと不都合が多いんだろう。
ただ、アイクは別な所に着目したようで、アステリアさんに向けて、一つの簡単な問いを投げかけた。
「『禁術』って、どういう事ですか?」
あぁ確かに。アステリアさんは『疑似魔法』をそう呼んでいた。『禁術』というのは、倫理に反する魔術や使うのに大きな代償を払う魔術のように、基本的に使用を禁じられている魔術の総称だ。禁術と呼ばれるには、それなりの理由があるんだろう。
「……あの魔術は、対象を変形、変質させる、どちらかと言えば錬金術に近い魔術だ。だがそういう魔術は、土系統の魔術を始めとした、様々な魔術がある。問題は、変質させる対象だ」
『魔法』なんて言っている位だし、魔力を直接操作しているんじゃないだろうか。でもそれは、名だたる賢者達が人生を賭して試み、失敗してきた事だ。変質させているのは魔力ではない?
「あの魔術が干渉するのは、人体と、そこに宿る魂。魂は体外での魔力操作が可能な形へ、人体はそれに耐え得る強度に変化させる」
アイクはそれが信じられないとでも言うように、「馬鹿な……」と呟いた。アステリアさんはその言葉を遮るようにして、「事実だ」と答える。
「アイク。貴様が言ったように、本来はそんな事はあり得ない。人体の変質は兎も角、魂はそう簡単に操作できる物ではない」
魂という物の存在自体は、四十年前と割と最近確認された。だけどそれに干渉しようとすると、まるで薄い飴細工のように壊れるか、柔らかい粘土のように歪むかしてしまう。すると、その魂の持ち主は気が狂い、近い内に死んでしまうらしい。
要するに、魂の操作は基本的に不可能。私よりも魔術に長く深く触れて来たアイクが信じられないのも納得の偉業だ。しかしアステリアさんは、それが可能である要因を知っているようだった。
「だが忘れたか?奴らが、この世界の人間ではない事を」
「……異世界から来た勇者」
「そうだ。異なる世界間を渡航する試みは幾度となく試されて来た。だがそれは単なる魔術では成しえない、正に神の領域。大量の生贄と神の承認、そして潤沢な魔力が揃った状態でのみ、異世界から人を呼び出す事だけができる」
生贄ねぇ……そりゃ勇者の召喚が決戦兵器的な扱いを受ける訳だよ。勇者召喚の儀式も禁術に分類するべきじゃないかな。どうせ欲深い豚共主催、土地の奪い合い大会にしか使わないんだし。しょうもない。
「だが実際の所、異世界から人を呼び出す魔術は既に完成している。問題があるとすれば、それで呼び出された人間は、体が裂け、焼け焦げ……酷い者は体の一部が消し飛んでいる事だ。生きていたとしても、廃人となっていた。それこそ、魂が損傷しているかのように」
詰まり、異世界間を移動する際には、魂と肉体両方に負荷が掛かる。だけどリョウコさん達はこの世界で、無事に生きている。異世界から来た勇者だけが持つ特徴は何だろう。
「あ、女神様の加護?」
「確証は無いが、恐らくはそうなのだろう。勇者に与えられる加護。恐らく魂と肉体の両方が、かなりの負荷に耐えられるようになるのだろう。その結果、疑似魔術で掛かる負荷にも耐えられるようになる」
へぇ。女神様の加護って凄いんだ。ずっと身体能力の増強だけだと思ってた。実際女神様の加護の影響はそれ位しか明記されてないし。それに、目の前で繰り広げられている戦闘を見れば、それだけで十分に見えるし。
て言うか亜人王さん強過ぎない?リョウコさんに近接戦闘で勝ててるし。タセイ先生と魔術戦でやり合えてるし。シノブさんずっと治癒魔術使い続けてるのに、腹の穴中々塞がらないし。貫くと同時に焼いてるのかな?起用な事するなぁ。
「だが女神の加護を以てしても、影響は出る。聞くが、人間のお前達から見て、勇者達の見た目は何歳に見える?」
「う~ん……二十歳前後?」
「俺もそれ位だとばかり……」
アステリアさんは「やはりそう見えるか……」と呟いてから、リョウコさん達の年齢を小さく、しかしはっきりとした口調で呟いた。
「四十だ」
「「……え?」」
いや待って。聞き間違いだよね?今四十歳って言った?だってリョウコさん達、どう見てもシスターと同じ程度の歳だよ?私が村を出る時、シスターが丁度二十歳だったし……
しかし、やはり聞き間違いではなかったようで、アステリアさんは念を押すようにして、「四十弱程度。それが奴らの実年齢だ」と言った。アイクは絞り出すように「どういう……」と声を漏らす。
「事実だ。若返りの魔術も薬品も使っていない。それが、疑似魔法を勇者達が禁術とした理由だ。疑似魔法を繰り返し使えば、魂と肉体が原型を留めたまま、不可逆的に歪んで行く」
それが何を意味するのか、理解できない訳じゃなかった。そこでようやく私は、初めてリョウコさんと出会った時の姿と今の姿の間に、十年経ったとは思えない程変化を感じなかったのを思い出した。
「奴らは既に、人の規格を外れている」
眼下で繰り広げられる戦闘が、終わりを告げようとしている。
「アステリアさん。何アレ」
「『疑似魔法』……魔術の中で、最も魔法に近い禁術だ」
「そんな物……一度も聞いた事無かった……」
「当たり前だ。今現在生きて、アレを知っているのは、私と元勇者パーティーの人間だけだったのだから」
まぁ……何となく理由が分かるような気がする。リョウコさん達は元の世界に帰ろうとしている。あんな物を公表すれば、恐らく研究材料として拘束される。何かと不都合が多いんだろう。
ただ、アイクは別な所に着目したようで、アステリアさんに向けて、一つの簡単な問いを投げかけた。
「『禁術』って、どういう事ですか?」
あぁ確かに。アステリアさんは『疑似魔法』をそう呼んでいた。『禁術』というのは、倫理に反する魔術や使うのに大きな代償を払う魔術のように、基本的に使用を禁じられている魔術の総称だ。禁術と呼ばれるには、それなりの理由があるんだろう。
「……あの魔術は、対象を変形、変質させる、どちらかと言えば錬金術に近い魔術だ。だがそういう魔術は、土系統の魔術を始めとした、様々な魔術がある。問題は、変質させる対象だ」
『魔法』なんて言っている位だし、魔力を直接操作しているんじゃないだろうか。でもそれは、名だたる賢者達が人生を賭して試み、失敗してきた事だ。変質させているのは魔力ではない?
「あの魔術が干渉するのは、人体と、そこに宿る魂。魂は体外での魔力操作が可能な形へ、人体はそれに耐え得る強度に変化させる」
アイクはそれが信じられないとでも言うように、「馬鹿な……」と呟いた。アステリアさんはその言葉を遮るようにして、「事実だ」と答える。
「アイク。貴様が言ったように、本来はそんな事はあり得ない。人体の変質は兎も角、魂はそう簡単に操作できる物ではない」
魂という物の存在自体は、四十年前と割と最近確認された。だけどそれに干渉しようとすると、まるで薄い飴細工のように壊れるか、柔らかい粘土のように歪むかしてしまう。すると、その魂の持ち主は気が狂い、近い内に死んでしまうらしい。
要するに、魂の操作は基本的に不可能。私よりも魔術に長く深く触れて来たアイクが信じられないのも納得の偉業だ。しかしアステリアさんは、それが可能である要因を知っているようだった。
「だが忘れたか?奴らが、この世界の人間ではない事を」
「……異世界から来た勇者」
「そうだ。異なる世界間を渡航する試みは幾度となく試されて来た。だがそれは単なる魔術では成しえない、正に神の領域。大量の生贄と神の承認、そして潤沢な魔力が揃った状態でのみ、異世界から人を呼び出す事だけができる」
生贄ねぇ……そりゃ勇者の召喚が決戦兵器的な扱いを受ける訳だよ。勇者召喚の儀式も禁術に分類するべきじゃないかな。どうせ欲深い豚共主催、土地の奪い合い大会にしか使わないんだし。しょうもない。
「だが実際の所、異世界から人を呼び出す魔術は既に完成している。問題があるとすれば、それで呼び出された人間は、体が裂け、焼け焦げ……酷い者は体の一部が消し飛んでいる事だ。生きていたとしても、廃人となっていた。それこそ、魂が損傷しているかのように」
詰まり、異世界間を移動する際には、魂と肉体両方に負荷が掛かる。だけどリョウコさん達はこの世界で、無事に生きている。異世界から来た勇者だけが持つ特徴は何だろう。
「あ、女神様の加護?」
「確証は無いが、恐らくはそうなのだろう。勇者に与えられる加護。恐らく魂と肉体の両方が、かなりの負荷に耐えられるようになるのだろう。その結果、疑似魔術で掛かる負荷にも耐えられるようになる」
へぇ。女神様の加護って凄いんだ。ずっと身体能力の増強だけだと思ってた。実際女神様の加護の影響はそれ位しか明記されてないし。それに、目の前で繰り広げられている戦闘を見れば、それだけで十分に見えるし。
て言うか亜人王さん強過ぎない?リョウコさんに近接戦闘で勝ててるし。タセイ先生と魔術戦でやり合えてるし。シノブさんずっと治癒魔術使い続けてるのに、腹の穴中々塞がらないし。貫くと同時に焼いてるのかな?起用な事するなぁ。
「だが女神の加護を以てしても、影響は出る。聞くが、人間のお前達から見て、勇者達の見た目は何歳に見える?」
「う~ん……二十歳前後?」
「俺もそれ位だとばかり……」
アステリアさんは「やはりそう見えるか……」と呟いてから、リョウコさん達の年齢を小さく、しかしはっきりとした口調で呟いた。
「四十だ」
「「……え?」」
いや待って。聞き間違いだよね?今四十歳って言った?だってリョウコさん達、どう見てもシスターと同じ程度の歳だよ?私が村を出る時、シスターが丁度二十歳だったし……
しかし、やはり聞き間違いではなかったようで、アステリアさんは念を押すようにして、「四十弱程度。それが奴らの実年齢だ」と言った。アイクは絞り出すように「どういう……」と声を漏らす。
「事実だ。若返りの魔術も薬品も使っていない。それが、疑似魔法を勇者達が禁術とした理由だ。疑似魔法を繰り返し使えば、魂と肉体が原型を留めたまま、不可逆的に歪んで行く」
それが何を意味するのか、理解できない訳じゃなかった。そこでようやく私は、初めてリョウコさんと出会った時の姿と今の姿の間に、十年経ったとは思えない程変化を感じなかったのを思い出した。
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