謎色の空と無色の魔女

暇神

文字の大きさ
上 下
94 / 102
深章

深二十四章 力の体現たる王の力

しおりを挟む
 作戦の為に移動した私達は、信じられない物を目にした。リョウコさんとタセイ先生、亜人王さんが、魔法のようなものを使っている。
「アステリアさん。何アレ」
「『疑似魔法』……魔術の中で、最も魔法に近い禁術だ」
「そんな物……一度も聞いた事無かった……」
「当たり前だ。今現在生きて、アレを知っているのは、私と元勇者パーティーの人間だけだったのだから」
 まぁ……何となく理由が分かるような気がする。リョウコさん達は元の世界に帰ろうとしている。あんな物を公表すれば、恐らく研究材料として拘束される。何かと不都合が多いんだろう。
 ただ、アイクは別な所に着目したようで、アステリアさんに向けて、一つの簡単な問いを投げかけた。
「『禁術』って、どういう事ですか?」
 あぁ確かに。アステリアさんは『疑似魔法』をそう呼んでいた。『禁術』というのは、倫理に反する魔術や使うのに大きな代償を払う魔術のように、基本的に使用を禁じられている魔術の総称だ。禁術と呼ばれるには、それなりの理由があるんだろう。
「……あの魔術は、対象を変形、変質させる、どちらかと言えば錬金術に近い魔術だ。だがそういう魔術は、土系統の魔術を始めとした、様々な魔術がある。問題は、変質させるだ」
 『魔法』なんて言っている位だし、魔力を直接操作しているんじゃないだろうか。でもそれは、名だたる賢者達が人生を賭して試み、失敗してきた事だ。変質させているのは魔力ではない?
「あの魔術が干渉するのは、人体と、そこに宿る魂。魂は体外での魔力操作が可能な形へ、人体はそれに耐え得る強度に変化させる」
 アイクはそれが信じられないとでも言うように、「馬鹿な……」と呟いた。アステリアさんはその言葉を遮るようにして、「事実だ」と答える。
「アイク。貴様が言ったように、本来はそんな事はあり得ない。人体の変質は兎も角、魂はそう簡単に操作できる物ではない」
 魂という物の存在自体は、四十年前と割と最近確認された。だけどそれに干渉しようとすると、まるで薄い飴細工のように壊れるか、柔らかい粘土のように歪むかしてしまう。すると、その魂の持ち主は気が狂い、近い内に死んでしまうらしい。
 要するに、魂の操作は基本的に不可能。私よりも魔術に長く深く触れて来たアイクが信じられないのも納得の偉業だ。しかしアステリアさんは、それが可能である要因を知っているようだった。
「だが忘れたか?奴らが、
「……異世界から来た勇者」
「そうだ。異なる世界間を渡航する試みは幾度となく試されて来た。だがそれは単なる魔術では成しえない、正に神の領域。大量の生贄と神の承認、そして潤沢な魔力が揃った状態でのみ、異世界から人を呼び出す事だけができる」
 生贄ねぇ……そりゃ勇者の召喚が決戦兵器的な扱いを受ける訳だよ。勇者召喚の儀式も禁術に分類するべきじゃないかな。どうせ欲深い豚共主催、土地の奪い合い大会にしか使わないんだし。しょうもない。
「だが実際の所、異世界から人を呼び出す魔術は既に完成している。問題があるとすれば、それで呼び出された人間は、体が裂け、焼け焦げ……酷い者は体の一部が消し飛んでいる事だ。生きていたとしても、廃人となっていた。それこそ、
 詰まり、異世界間を移動する際には、魂と肉体両方に負荷が掛かる。だけどリョウコさん達はこの世界で、無事に生きている。異世界から来た勇者だけが持つ特徴は何だろう。
「あ、女神様の加護?」
「確証は無いが、恐らくはそうなのだろう。勇者に与えられる加護。恐らく魂と肉体の両方が、かなりの負荷に耐えられるようになるのだろう。その結果、疑似魔術で掛かる負荷にも耐えられるようになる」
 へぇ。女神様の加護って凄いんだ。ずっと身体能力の増強だけだと思ってた。実際女神様の加護の影響はそれ位しか明記されてないし。それに、目の前で繰り広げられている戦闘を見れば、それだけで十分に見えるし。
 て言うか亜人王さん強過ぎない?リョウコさんに近接戦闘で勝ててるし。タセイ先生と魔術戦でやり合えてるし。シノブさんずっと治癒魔術使い続けてるのに、腹の穴中々塞がらないし。貫くと同時に焼いてるのかな?起用な事するなぁ。
「だが女神の加護を以てしても、影響は出る。聞くが、人間のお前達から見て、勇者達の見た目は何歳に見える?」
「う~ん……二十歳前後?」
「俺もそれ位だとばかり……」
 アステリアさんは「やはりそう見えるか……」と呟いてから、リョウコさん達の年齢を小さく、しかしはっきりとした口調で呟いた。
「四十だ」
「「……え?」」
 いや待って。聞き間違いだよね?今四十歳って言った?だってリョウコさん達、どう見てもシスターと同じ程度の歳だよ?私が村を出る時、シスターが丁度二十歳だったし……
 しかし、やはり聞き間違いではなかったようで、アステリアさんは念を押すようにして、「四十弱程度。それが奴らの実年齢だ」と言った。アイクは絞り出すように「どういう……」と声を漏らす。
「事実だ。若返りの魔術も薬品も使っていない。それが、疑似魔法を勇者達が禁術とした理由だ。疑似魔法を繰り返し使えば、魂と肉体が原型を留めたまま、不可逆的に歪んで行く」
 それが何を意味するのか、理解できない訳じゃなかった。そこでようやく私は、初めてリョウコさんと出会った時の姿と今の姿の間に、十年経ったとは思えない程変化を感じなかったのを思い出した。

「奴らは既に、

 眼下で繰り広げられる戦闘が、終わりを告げようとしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王メーカー

壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー 辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。 魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。 大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

王女、豹妃を狩る

遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。 ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。 マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

思想で溢れたメモリー

やみくも
ファンタジー
 幼少期に親が亡くなり、とある組織に拾われ未成年時代を過ごした「威風曖人亅 約5000年前に起きた世界史に残る大きな出来事の真相を探る組織のトップの依頼を受け、時空の歪みを調査中に曖人は見知らぬ土地へと飛ばされてしまった。 ???「望む世界が違うから、争いは絶えないんだよ…。」  思想に正解なんて無い。  その想いは、個人の価値観なのだから…  思想=強さの譲れない正義のぶつかり合いが今、開戦する。 補足:設定がややこしくなるので年代は明かしませんが、遠い未来の話が舞台という事を頭の片隅に置いておいて下さい。 21世紀では無いです。 ※ダラダラやっていますが、進める意志はあります。

処理中です...