謎色の空と無色の魔女

暇神

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深章

深二十三章 この世で最も特異な力

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 聡一の戦いぶりは、圧倒的と言う他無かった。剣術、魔術、体術……それら全てが、二十年前とは比べ物にならない程洗練されていた。私の切っ先は聡一に届かず、忍と大聖の魔術は弾かれ、避けられる。それに対して向こうの攻撃は、いとも簡単にこちらの防御を貫く。
「どうしたのさ皆。二十年前よりも弱くなったんじゃない?」
「なかなか言ってくれるじゃない!」
 魔術の防壁!?完全に後ろを取って、不意を突いたと思ったのに……っ!私の体は直ぐに魔術で宙に浮かされ、炎の槍を向けられる。忍は樹木を自在に操る事で私の体を着地させた。
「ありがとう忍」
「大丈夫だけど……!どうするの大聖!?このままじゃジリ貧だよ!」
「分かってる!もう少し耐えてくれ!」
 距離を取れば魔術で爆撃される。バラければホーミングで撃ち抜かれる。近付けば冷たい義手で頭を潰されるか、剣で心臓を貫かれる。一部の隙も無い。亜人は強さを重んじるって言うけど、ここまで徹底しているとは思わないわよ普通。
 攻撃は全てギリギリ避け、それができない物は魔術で弾いてはいるけど、魔力の残量は多分聡一の方が多いわね。耐久戦で勝てる相手じゃない癖に、正面突破なんてできそうも無い。全くどんなクソゲーよ。
「君達が僕に勝てる訳が無い。分かってるだろう?」
「知るかよ!」
 大聖は巨大な魔法陣を十個程度同時に展開した。魔術の槍が、弾丸が、聡一の魔術を一つ一つ相殺する。
「へぇ凄いね。複数の高度な、全く系統の違う魔術の同時制御。でも、長く続く訳じゃないだろう?」
「続かせる必要なんざあるかよ!」
 魔術が飛んで来ない。大聖の魔法陣のお陰で、気付かれず聡一の視界から外れる事ができた。ここまでお膳立てされれば、どうとでもなる……っ!
 私は刀を一度鞘に納め、聡一の方へ一息に走る。魔術で強化し、技能スキルも上乗せした今なら、私は聡一よりも速く動ける。隙を突ける。私は聡一を間合いに捉え、抜刀した。
 結果、私の刃は聡一の体を切り裂いた。聡一の体は倒れ、切り口からは血液が止め処無く溢れて行く。聡一の意識も無くなっているのか、聡一が作り出した魔法陣も崩れた。
 倒せた。けど、なんだか違和感がある。私が刀を振るう一瞬、魔術の発動が止んだ。それだけじゃない。同じようなな事は、ここまでではないが二度行った。そのどちらも勘付かれ、魔術で防がれた。何故、この攻撃だけが……
 いや、そんな事は重要じゃない。今は兎に角、聡一を生き永らえさせなければ。かなり深く背中を切り裂いたし、失血で死ぬには十分。ただまだ死んでない。それにこの傷ならまだ、忍の治癒魔術で何とかなる。
「忍!治療を……!」
「分かってる!」
 忍を無事に連れて来れて良かった。大聖の魔術も協力だけど、他人の治療という面を見ると忍に軍配が上がるもの。大聖じゃ、この傷は多分……
 そう考えていた瞬間、治療しようと近付いた忍の体が、透明な『何か』に貫かれた。それは氷のような冷たさと、雨上がりの空のような寂しさを湛えている。
「忍!」
「野郎アレでもまだ……っ!」
 私は魔力の棘が襲い来るのを察知して、鞘を盾に受け止める。だが衝撃は殺し切れず、私は大聖の方まで吹き飛ばされる。
 やっぱりさっきのは気のせいだったようね。アレを出すなんて、本気で殺しに来ているとしか思えない。魔力を纏った聡一の体は、まるであらゆる物理法則を無視しているかのような動きで、ゆっくり宙に浮き上がる。

「やっぱり、諒子は優しいよね」

 私は息を整え、聡一の次の動きを窺う。次の瞬間に何が起こっても不思議は無い。アレはそういう力だ。
「何が?」
「こっちは殺すつもりなのに、首を飛ばさず、僕を生かす選択をするとかさ」
「当たり前でしょ?恋人を殺す判断を一瞬でできる人じゃないもの」
「……それが、相手にとって屈辱的だとしても?」
 ……なんで、そんな顔するのよ。そんな、悲しそうな悔しそうな、それでいて少し嬉しそうな表情を。
 一瞬怯んだ私は、直ぐに刀を構え直す事で平常心を取り戻した。落ち着け。私は何も間違っていない。間違っていない。正しい事をした。殺す必要の無い人は殺さない。それは正しい事の筈だ。
「どうするの大聖?不味いわよ」
「向こうがアレを出すのなら、こっちもやるしか無ぇ。幸い忍は死んでねぇ。アイツも起きて来る事を期待して、俺らも戦おうぜ」
 大聖と私は足元に魔法陣を展開し、自分の中の枷を外すように、感覚を普段とは違った物に置換して行く。やがて体の中の魔力を対外に押し出し、それを自在に操る感覚を思い出す。
 魔法というのは、魔力を直接操る力。ライラちゃん曰く、それは手を動かす事と同じように操れる物で、どうやっているかを聞かれても答えられないらしい。感覚はを数式で表現できないように、魔法は魔術では再現できない。
 ならば、調。魔力を直接操る感覚を、手に入れる事で、本物の魔法使いには遠く及ばないながらも、魔力を直接操る事が、詰まり、
「ラウンドツーって奴だね。二人共」
 私は魔力を刀に、鎧に。大聖は魔力を剛腕に。聡一は魔力を無数の棘に。自由自在に操られる魔力は、その不定形を失いながら、現実に出力される。

 これが、私達が旅の終点で見つけた、『疑似魔法』の力だ。
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