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深章
深二十二章 魔王という名の償い
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私達は亜人王の城の門番に話を通し、玉座の間で聡一と戦えるようにしてもらった。そして今、私達はその玉座の間の門の前に居る。
「いよいよだね」
「そうだな。頼んだぜ前衛」
「プレッシャー掛けないでくれる?そもそも大聖も前衛できるじゃない」
「本職と比べるなよ」
ライラちゃんが居てくれたら、前衛として機能してくれたんでしょうねぇ。手掛かりも無いのだから仕方無いけど、どうせ聡一と戦うなら見つけておきたかったわね。でもまぁ、このメンバーでも十分な筈。聡一が強くなってるのは想像できるけど、私達もそれぞれ強くなった。
「じゃあ、行くわよ」
「あぁ。先ずは話だな」
「分かってるよ。三人共ね」
相も変わらず重いわね。でもまぁ、開ける事は容易い。私は両腕に力を込め、思い門を開く。軋むような音が聞こえた向こう側にあったのは、以前と変わる事の無い、瓦礫の山と風穴があった。そして同時に、長らく顔を見ていなかった、恋人の姿も。
聡一は私達の方を振り向くと、何故か寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。しかしそれは一瞬で、直ぐに以前の明るい顔になり、「この部屋、懐かしいよね」と話し始めた。
「あの時からずっとこうだよ。忘れちゃいけないと思って、あのままにしてたんだ。でも、部下に怒られちゃってね。修復に取り掛かっている所だよ」
聡一は顔を伏せ、「でもやっぱり、残しとかなくても良かったかもね」と呟く。大聖は一番前に居た私よりも一歩先に出ると、怒りをにじませた声で、友人の名前を呼ぶ。
「聡一。お前、何考えてたんだ?」
「僕が……俺が考えてるのは、償いだよ。彼を殺した時から、ずっとね」
「だから俺らに説明もせず、亜人の国の長になったってか?」
「そうだよ。説明はいつか必ず……」
私はその答えを待つ事もせず、一つの麻袋を聡一へ投げ付けた。聡一はそれを受け止めながら、「危ないじゃないか」と言った。そんな物で怪我するような体じゃない事は、私達が知っている。嫌と言う程にね。
だからこそ、私は次の言葉を迷う事無く紡げた。私は大きく息を吸い込み、腹の底から声を出す。
「ふざけてるんじゃないわよ!」
多分魔力が混ざってたんだと思う。若干部屋が揺れた。だけど、それで動じる人間はここには居ない。聡一の表情が少しだけ動いたのは、多分私が、『ふざけるな』と言ったから。私が元々、こういう事をそう言わないから。
だけどそれ以外に何て言えって言うの?私はこれ以上の、激情を吐き出すのに適した言葉を知らない。知っていたとしても、言葉を選んであげる余裕は無い。
「あの事を気にしてるのが聡一だけだと思ってるの!?背負うって言うなら私達も背負う!償うって言うなら一緒に!話せば楽になるなんて無責任な事は言わない!だけど私達だって……!」
「これは僕が、僕だけでやらないといけない事だ」
「そう言うなら説明しなさいよ!」
「できない。本当にごめん」
続けて何かを言おうとする私の肩に、優しく、宥めるように手が置かれた。しなやかで細い、柔らかい手。私は忍の方を振り向くと、「大丈夫だよ。落ち着こう?」と言われた。その通りね。この歳にもなってこうなんて情けない。
私が乱れた呼吸を整える深呼吸を始めたのと、忍が話し始めたのは、少しタイミングがずれていたように思う。
「聡一君の責任感の強さは知ってる。それは君の美徳だからね」
「ありがとう」
「どういたしまして。私が言いたい事は大体二人に言われちゃったから、本当に、これだけ譲れないって所だけ言うね」
忍は右手を少しだけ上げ、ゆっくり、だからこそ分かり易く、中指を立てた。困惑する私達を置き去りにしながら、忍はよく通る声で言った。
「先ず一回殴らせろやんのスカタンが」
「……驚いたなぁ。忍さんがそんな言葉遣いするなんて」
「普段はしないよ。でもまぁ、今回は特別」
「まぁ良いよ。『殴らせろ』って事なら、丁度僕もそうしたかったんだ」
聡一は床に刺さっていた剣を引き抜き、同時に隠されていた魔道具の義手を露わにした。私達も魔術で身体強化を底上げしながら、臨戦態勢に突入する。
「『我は魔王。さぁ、我を打倒するが良い。異界より降り立ちし勇者よ』」
突然、城が揺れ始めた。さっきから感じる、四つの強大な気配……多分、リョウコさんたちと今の亜人王さんが戦い始めたんだろう。
「どうするんですアステリア……さん?始まってるみたいですけど」
「今はまだ参加しない。作戦を実行するのは、最も効果を発揮する時に限る」
「機を窺うって事じゃない?焦るのは分かるけど、落ち着いて?アイク」
アステリアさんの作戦を聞く限り、タイミング勝負になるのは間違い無い。それにそのチャンスはきっと、千載一遇とでも言うべき物だ。だからこそ、今は何もできない。
何もできないので、今できる事からやっておこう。私は長耳族の集落で焼いたクッキーを取り出して、それを一枚齧る。うん。美味しい。懐かしい、素朴な味。シスターが焼いてくれたのもこういう味だった。落ち着く。
「ほら。クッキーあるよ。一枚あげる」
「いや、今は……」
「栄養補給は重要だぞ?怠った奴から死ぬ。睡眠と休息にも言えるが」
アイクは渋々といった様子でクッキーを受け取り、それを食べる。こういう甘い物は、食べ過ぎると良くないけど、適度に食べるのは凄く良い。体も心も休まる感じがする。
予測になるけど、作戦開始まであと十分から二十分程だ。
「いよいよだね」
「そうだな。頼んだぜ前衛」
「プレッシャー掛けないでくれる?そもそも大聖も前衛できるじゃない」
「本職と比べるなよ」
ライラちゃんが居てくれたら、前衛として機能してくれたんでしょうねぇ。手掛かりも無いのだから仕方無いけど、どうせ聡一と戦うなら見つけておきたかったわね。でもまぁ、このメンバーでも十分な筈。聡一が強くなってるのは想像できるけど、私達もそれぞれ強くなった。
「じゃあ、行くわよ」
「あぁ。先ずは話だな」
「分かってるよ。三人共ね」
相も変わらず重いわね。でもまぁ、開ける事は容易い。私は両腕に力を込め、思い門を開く。軋むような音が聞こえた向こう側にあったのは、以前と変わる事の無い、瓦礫の山と風穴があった。そして同時に、長らく顔を見ていなかった、恋人の姿も。
聡一は私達の方を振り向くと、何故か寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。しかしそれは一瞬で、直ぐに以前の明るい顔になり、「この部屋、懐かしいよね」と話し始めた。
「あの時からずっとこうだよ。忘れちゃいけないと思って、あのままにしてたんだ。でも、部下に怒られちゃってね。修復に取り掛かっている所だよ」
聡一は顔を伏せ、「でもやっぱり、残しとかなくても良かったかもね」と呟く。大聖は一番前に居た私よりも一歩先に出ると、怒りをにじませた声で、友人の名前を呼ぶ。
「聡一。お前、何考えてたんだ?」
「僕が……俺が考えてるのは、償いだよ。彼を殺した時から、ずっとね」
「だから俺らに説明もせず、亜人の国の長になったってか?」
「そうだよ。説明はいつか必ず……」
私はその答えを待つ事もせず、一つの麻袋を聡一へ投げ付けた。聡一はそれを受け止めながら、「危ないじゃないか」と言った。そんな物で怪我するような体じゃない事は、私達が知っている。嫌と言う程にね。
だからこそ、私は次の言葉を迷う事無く紡げた。私は大きく息を吸い込み、腹の底から声を出す。
「ふざけてるんじゃないわよ!」
多分魔力が混ざってたんだと思う。若干部屋が揺れた。だけど、それで動じる人間はここには居ない。聡一の表情が少しだけ動いたのは、多分私が、『ふざけるな』と言ったから。私が元々、こういう事をそう言わないから。
だけどそれ以外に何て言えって言うの?私はこれ以上の、激情を吐き出すのに適した言葉を知らない。知っていたとしても、言葉を選んであげる余裕は無い。
「あの事を気にしてるのが聡一だけだと思ってるの!?背負うって言うなら私達も背負う!償うって言うなら一緒に!話せば楽になるなんて無責任な事は言わない!だけど私達だって……!」
「これは僕が、僕だけでやらないといけない事だ」
「そう言うなら説明しなさいよ!」
「できない。本当にごめん」
続けて何かを言おうとする私の肩に、優しく、宥めるように手が置かれた。しなやかで細い、柔らかい手。私は忍の方を振り向くと、「大丈夫だよ。落ち着こう?」と言われた。その通りね。この歳にもなってこうなんて情けない。
私が乱れた呼吸を整える深呼吸を始めたのと、忍が話し始めたのは、少しタイミングがずれていたように思う。
「聡一君の責任感の強さは知ってる。それは君の美徳だからね」
「ありがとう」
「どういたしまして。私が言いたい事は大体二人に言われちゃったから、本当に、これだけ譲れないって所だけ言うね」
忍は右手を少しだけ上げ、ゆっくり、だからこそ分かり易く、中指を立てた。困惑する私達を置き去りにしながら、忍はよく通る声で言った。
「先ず一回殴らせろやんのスカタンが」
「……驚いたなぁ。忍さんがそんな言葉遣いするなんて」
「普段はしないよ。でもまぁ、今回は特別」
「まぁ良いよ。『殴らせろ』って事なら、丁度僕もそうしたかったんだ」
聡一は床に刺さっていた剣を引き抜き、同時に隠されていた魔道具の義手を露わにした。私達も魔術で身体強化を底上げしながら、臨戦態勢に突入する。
「『我は魔王。さぁ、我を打倒するが良い。異界より降り立ちし勇者よ』」
突然、城が揺れ始めた。さっきから感じる、四つの強大な気配……多分、リョウコさんたちと今の亜人王さんが戦い始めたんだろう。
「どうするんですアステリア……さん?始まってるみたいですけど」
「今はまだ参加しない。作戦を実行するのは、最も効果を発揮する時に限る」
「機を窺うって事じゃない?焦るのは分かるけど、落ち着いて?アイク」
アステリアさんの作戦を聞く限り、タイミング勝負になるのは間違い無い。それにそのチャンスはきっと、千載一遇とでも言うべき物だ。だからこそ、今は何もできない。
何もできないので、今できる事からやっておこう。私は長耳族の集落で焼いたクッキーを取り出して、それを一枚齧る。うん。美味しい。懐かしい、素朴な味。シスターが焼いてくれたのもこういう味だった。落ち着く。
「ほら。クッキーあるよ。一枚あげる」
「いや、今は……」
「栄養補給は重要だぞ?怠った奴から死ぬ。睡眠と休息にも言えるが」
アイクは渋々といった様子でクッキーを受け取り、それを食べる。こういう甘い物は、食べ過ぎると良くないけど、適度に食べるのは凄く良い。体も心も休まる感じがする。
予測になるけど、作戦開始まであと十分から二十分程だ。
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