謎色の空と無色の魔女

暇神

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深章

深十四章 天災と厄災の衝突

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 魔法使い……死んでいなかったか。体の奥深くまで抉った上で内から燃やした筈だが……
 まぁ良い。炎を使っていない先程は、我の最高出力の一割程度だ。炎を展開している今、我は我が持つ力全てを扱う事ができる。
 先程の戦闘を見た所、練度も力量もこちらが上。魔力と神通力を比べるのも変な話だが、その量ですらこちらが上。物量で負ける事があれど、向こうの攻撃は我に届く前に、炎で焼けて終わりだ。我が負ける道理は無い。
 だが、凄まじい程の怒りだ。表情はよく確認できんが、奴の体内に蓄積されている魔力が、誤魔化しようのない程、それを物語っている。
「何故そこまで怒りを露わにする?まるで獣の様相だ」
「……」
「まぁ、答えずとも良い。我は、森に放たれた獣を狩るだけだ」
 怒りが何だ。感情ではどうにもならない理が、この世界には存在する。そして我は、その末端を担う者。精々、理不尽な現実を突きつけてやるとしようか。
 炎を再展開。纏い、上部は様々な武具の形にして操る。そしてもう一部分は炎のまま足元を這わせ、相手にぶつける。魔法が使えると言えど、所詮は人間。我の炎に耐えられる訳が無い。
 我は炎を操り、全方位から魔法使いを焼く。魔法使いは防御の姿勢を取るでもなく、ただ棒立ちで、炎に包まれ、一瞬で姿が消える。
「冷静さを欠くは、弱者の証だ」
 魔法使いは焼き尽くされ、骨すら残らず塵と化した。















 筈だった。魔法使いは平然と、炎の中で立っている。焼けている……様子でもない!?
「そ、そんな筈は無い!もう一度……!」
 出力が足りなかったのか!?ならば更に上げるだけだ!炎を圧縮し、塊にしてぶつければ、奴が死なない道理は……
「『冷静さを欠くは、弱者の証だ』……だったかな?」
 その声が聞こえたのは、炎の中からではなかった。近く。肌と肌が接する程近く。気付けば、我は魔法使いに胸を押さえられる形で、地面に横たわっていた。
「ぐ……っ!」
 速い……っ!先程よりも格段に!力では敵わんと思い、速度に力を振ったか!だがコイツは我に対する決定打を持っていない!この状況で我を殺さないのが良い証拠!何より……
「ねぇ」
「黙れ魔法使い!」
 我が人間如きに組み伏せられる等、あってはならぬ事だ!許さんぞ!我は腕を振り上げ、そこから炎を展開せんとする。

 そこで我は、違和感に気が付いた。

「ぐ……が……ぎ……あぁぁぁあぁぁあぁあぁあ!」
「お前と違って、私は冷静なんだよ。だってほら。今もお前が死なない程度に、お前を苦しめる事ができている」
 何故だ!何故何故何故何故!何故!我の腹を、使!焼いた筈だ!殺した筈だ!骨すら残さない力で、焼き殺した筈だ!何故生きている!何故反撃できる!何故!我が血だまりに伏している!
 だが、これは良い。この距離、この状態では、小細工のしようの避けようも無い!我の炎であれば、腹部貫通程度は難なく修復可能!だがコイツはそうも行くまい!魔法使いと言えど、人間の小娘一人を焼き殺すのに、我がしくじる筈が無い!
「焼けて死ね!魔法使い!」
 我の腹に空いた穴を起点に、青い炎が嵐のように巻き起こる。竜巻のを模したそれは、例え近付いただけであっても、熱された空気が肺を焼き、飛び散る火の粉が燃え移り、ただの森であれば一分で全焼する程の火力。無論、人間一人が耐えうる火力ではない。

 だがその中心に居ながら、魔法使いは平然と、我の腹を貫いている。

 何故だ!何故だ何故だ何故だ!何故コイツを殺せない!我の最高火力だぞ!我が出し得る最強の炎が、何故この小娘一人を焼けないのだ!魔法使い一人を殺す程度、それこそ何千何百と繰り返して来たのだぞ!何故、この小娘だけが……っ!
「ねぇ」
「!?」
 喋った!?本来肺が焼ける筈のこの状況下で!?自殺行為の筈だ!理解できない訳が無い!
「普通の家庭ってさ、夕飯の時に同じ食卓を囲んで、その日にあった事を話し合ったり、笑い合ったりするらしいんだ」
 生物なのか!?人類の、定命の者の範疇を遥かに超えた行動!
「私は血の繋がった家族こそ居なかったけど、シスターも教会に住んでた皆が家族だったから、そういう事もできたんだ」
 どうやったらコイツは死ぬ!?殺せるのか!?この化物を!?
「だけどさ、急に皆居なくなって、私は家族が居ない学校に一人で通う事になったんだ」
 私の炎は神の力だ!神の権能だ!何故殺せない!何故『裁き』を司る我の炎を以てして、この化物を殺せない!
「寂しかったんだ。辛かったんだ。話を聞いてくれる人は居てもさ、家族っていうのは居なかったから」
 おかしい!明らかにこの世の理を逸脱している!そんな事、神や空の青色を奪った魔女しか……
「だからさ、私が辛かった分、お前にも辛い思いをしてほしいんだ」
 その時、我は決定的な間違いに気が付いた。
「『そうじゃないと不公平だ』とか、『親の仇』とかは言わないよ」
 目の前の化物の目が、
「だって人を殺すのに、大義を唱える方が馬鹿らしいじゃん」

 この世における最高の神秘の色である、空を閉じ込めたような蒼に染まっていた事に。
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