謎色の空と無色の魔女

暇神

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深章

深十二章 魔法使い同士の戦い

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 遠くに魔力の気配……ライラだな。上手く行くと良いんだが。
 ん?もう一つ気配……魔力ではない。だが、魔力によく似ている。これは何だ?まさか族長の……だとしたら不味い。流石に力が大きすぎる。これはまるで……行かなければ!
「何かあったのか!?」
「異常事態だ!何か感じるだろう!?族長の屋敷の近くからなるべく人を避難させろ!その後族長を戦闘できる者で包囲!分かったな!?」
 頼むから言う事聞いてくれよ?俺は研究室を飛び出し、飛行魔術と身体強化魔術を使い、ライラが居る方向へ向かった。


 居住区に近付いただけで、異常は俺の目の前に現れた。集落の中心、族長の屋敷の上空で、二つの気配がぶつかり合っている。その余波は大きく、既に住人達は避難を開始していた。
 ライラとやり合える魔術師……特務隊の隊長と同レベルの実力とでも言うのか?いや、アレは魔術ではない。アレはまさか……魔法か。だとすれば俺の援護は意味が無い。俺は飛んで来る流れ弾を防ぐようにしなければ。
「おい人間!なんでここに居る!?」
「俺はこういうのに慣れてる!それより避難場所はあるんだよな!?」
「俺達は住民の避難誘導をする!お前も早く逃げろよ!」
「それは無理だ!」
 魔法使い同士の戦闘……起こり得る被害は未知数だ。魔術で直接防ぐのは不可能。土系統の魔術で物理的に防ぐしか無さそうだ。耐久力が心配なんだが……えぇい贅沢を言っている場合じゃないだろう!やってやる!一応クロードル家で免許皆伝貰ってんだよこっちは!
琥珀の城壁アンバーウォール!」


 下で壁が作られた……アイクだね。これなら下に遠慮する必要が無い。
「殺す!」
「なんで私が戦う人はこんなに殺意が高いのかなぁ!」
 魔法同士がぶつかったら、より魔力の密度が高い方が残るようだ。そういう事なら、私に分がある……だが、そうも上手くは行かない。
「殺す!」
 物量の差が凄い!魔力の残量とか気にしていないのならまだ納得できるけど、出力が衰える様子も、魔力が減っている感じもしない!これ程の人が、ほぼ魔力を完全に隠していたのが信じられない!
 いやだとしたら、私以上に魔力操作が上手い事になる。何かおかしい。魔力を外から直接取り入れている?だけど空気中の魔力は微弱だ。とてもこの物量は維持できない。魔石……も無い。あったとしたらわかる。
「死ね!」
「おっと危ない!」
 いや今考えるのはよせ!今は族長さんをどうにかしなければならない!
「『死ね』とか『殺す』とか、他に何か言えないの!?」
「黙れ魔法使い!」
「ソレアンタもなんですけど!?」
 コミュニケーションは不可能。だが一応、意識を失っている訳ではない。心理誘導……も、アレじゃ効果は無いかもな。そもそも私、アレンさんみたいにそういうの得意じゃないし。
 だけど、下に壁がある以上、こっちももう手加減をしなくて良い。この数か月、私も魔法を鍛えて来たんだ。その成果を見せてやる。
「形状選択『竜殺し』!顕現数設定『十門』!出力設定『最大』!」
 聖都の時は時間が無くて使えなかったけど、今なら魔法を練る時間と余裕がある。私は十の竜殺しを作り出し、それらを全て族長さんに向ける。並の魔術師なら確実に死ぬだろうけど、魔法使いなら死なないだろう!
「くっ……!」
「防御しても貫いてやる!一斉掃射!」
 次の瞬間、空に向かって光の柱が延び、空を覆っていた雲を吹き飛ばした。そして光の柱が収束すると、黒焦げになった物が、下に向かって落下を始めた。
 不味い!やり過ぎたか!?流石に防御も無しにこの高さから落ちれば……受け止めないとヤバいよね!?あぁクソ落下早過ぎでしょ!速度を上げなければ!
「間に……」
 合うか!?合ってくれ!あと……少し!
「合ったぁ!」
 危なかったぁ!かなりヒヤヒヤした!兎に角、今はこの人に死んでもらう訳には行かないんだ。私の魔法は、自分の肉体の再生ができるだけで、他人の治療はできないし、私自身治癒系の魔術が得意じゃない。アイクに頼めばなんとかなるかな?
 ま、何にせよ急がないと。既に族長さん虫の息だし。抱えている所から熱が伝わって来て火傷しそうだし。


「アイク~!」
「ライラ。無事で良かった。それは……」
「族長さん」
「直ぐに治療を始めよう」
 族長が魔法使いをしていたのを見た時は、正直肝が冷えた。だけどまぁ、こうしてライラが勝っているのだから、今は何も言うまい。
 しかし酷い状態だ。俺の魔術を使ってどこまで治療できるか……魔法使いなら、意識さえ取り戻させられれば……問題はその後だよなぁ。この人はライラを殺そうとしてるし、俺達が逃げられるかどうか……

「何を終わった気になっている?」

 「は?」と、そう声を漏らすより先に、ライラの体が『何か』に切り裂かれた。
「ライラ!」
「ぐっ……!?」
「魔法使い。お前を殺す」
 ライラが魔法で防御と治療を始めたが、もう遅かった。ライラの傷口からは青い炎が溢れ出し、それはライラの体と魔力を焼き尽くしながら、広がって行く。
「何が……一体……」
「まさか、小娘一人に遅れを取ろうとは……やはり、定命の者の肉体では限界があるな」
「族長……いや、違う……」
 言葉遣いも表情もまるで違う。目の前に立っている何かが、自分とは格が、生きる次元が違う存在であるという事を、魂が絶えず叫んでいる。足が震える。体が指の先まで萎縮する。
 問わなければ。知らなければ。目の前のこの者を。この、異次元の存在を。
「お前は……誰だ……」
 俺のその問に、目の前の何かは少しの笑いを見せてから、威厳と余裕に満ちた声で答えた。

「我は神の遣い。『厄災』。その分身也」

 青い炎は、既に目の前の肉体を、万全の状態まで巻き戻していた。
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