謎色の空と無色の魔女

暇神

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深章

深九章 神秘を隠した森の中

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 夜も更けて来た頃。私は何故か眠る事ができず、アイクも居ない部屋から、外を眺めている。
「違う大陸だし、見える星も違うんだな……」
 こっちにも星座はあるんだろうか。所長さんは『話は通しておいた。明日来るそうだ』と言っていたけど、やっぱり居ないと不安だ。なんだかんだ、ずっと一緒に居たしな~。もう相棒みたいな物だ。
 ん?部屋の外に誰か来ている……敵襲か?魔法陣を使うとバレる。サルフォンの中で魔術を練って置けば、即魔術が使える。身体強化魔術も使っておくか。剣が無いけど、魔術で作れば大丈夫だ。
 さぁ来い。このタイミングで来るんだ。どうせ例の件の犯人さんだろう。この閉所ではやり辛いけど、多少抵抗はしてやる。
 扉が開いたと同時に、私は魔術を発動し、扉を開けた人物に襲い掛かる……筈だった。私はその人物の顔を確認したと同時に、突き出そうとした拳を止めた。
「所長さん。なんでこんな時間に?」
「君の様子を窺いに来たんだが……はぁ~怖かった~」
 嘘は無い。この人は犯人じゃなさそうだ。にしても、こんな時間に何を……
 いや。一旦考えるのはよそう。取り敢えず、魔術を見掛けだけでも解いておくか。
「ごめん」
「いやこっちが悪いんだ。こんな時間に断りも無く。ノック位はすべきだったね」
「いえ。それより何かあった?」
「あぁ。今夜は星が良く見えるだろう?」

「少し、夜の散歩と洒落こもうじゃないか」


 窓越しに眺めるよりも、よりはっきりと星空が見える。綺麗で良いな~。村に居た頃もこんな感じだったけど、長い事王都みたいな都会に居たせいで新鮮な気分。ただまぁ、ずっと見惚れている訳にも行かないようだ。
「日中は真面に話す機会が無い。今の内に、聞きたい事があれば言ってくれ」
 ふぅ。一旦研究所での目標は達成できそうだ。今日一日話す暇も無かったし、ここで聞いておかないと、次の機会がいつになるか分からない。さっさと聞きたい事だけ聞いておこうか。
「えっと……じゃあ先ず、フォアクスメカカルが持ち出されたのは、私が持っているコレ以外にある?」
「無いね。試作品は全て私が管理し、毎日点検している。持ち出され、使用されれば、その日の内に気付く」
「長耳族の中で魔術が使える人は?」
「居ないね。いや正確には一人、理論上は使える奴が居たが、もうここには居ない。出て行ったのももう二百年前だ。わざわざ戦士一人を殺す為に帰っては来ないだろう」
「道具とかの補助があっても?」
「……その話は、もう少しだけ後にしようか」
 誤魔化された……と言うよりは、本当に今話すべきではないって感じだ。
 魔術が使える人はここには居ない。外からの侵入者が居ない以上、本当に何の手掛かりも無い。それこそ、誰かが脈絡も無く魔術が使えるように……なったら、魔術の本をくれたあのおじさんは、今頃立派な魔術師だろうな~。元気にしてると良いんだけど。
「そう言えば、どこに向かってるの?」
「見せたい物があってね。な~にあとほんの少しさ」
 楽しみだけど、少し怖い部分があるかな。今の私、実験動物だし。まぁでも、この人は私を殺すつもりが無さそうだし一旦大丈夫かな。もし殺すつもり無く殺すような人なら流石に不味いけど。
「ほら。あそこさ」
「あれ……洞窟?」
 木の根の隙間に穴がある。それもそこそこ大きい。自然物……にしては整備されてる。研究所と同じ石で舗装されているけど、灯りは無い。
「足元気を付けて」
「分かった」
「お姫様抱っこでもしてあげようか?」
「私、人間の基準では成人してるから」
 流石にこの年になってまでお姫様抱っこっていうのは……ちょっと恥ずかしいかな。いや貴族の子らはあの王子サマにやってもらったら喜ぶんだろうけど。それはもう大いに喜ぶんだろうけど。
 暗い道を歩き続けると、やがて少し開けた空間に出た。どうやらここは整備されているらしく、微かに見える足元は、石レンガで舗装されている。
「ここは……」
「目的地さ。えっと……あっちか。悪いねライラ。ちょっと待っててくれ」
「え?所長さん?」
 行っちゃった。暗くて何も見えない。ロウソクの光も、壁の向こうに行ったのか見えないし。
 なんか不安だな~。光源を出す魔術を使っても良いけど、魔術は使わないように言われてるし……光が点いたら急に後ろから……みたいなのもありそう。

 そんな事を考えていると、突然、周囲が眩い光に包まれた。

 何が起こってる?目潰し……いや、目くらましかな?しかし、ここには所長さん以外居なかった筈……
「所長さ~ん!何かあったの~!?」
「大きな声を出さなくても聞こえているとも」
 所長さんの声に敵意や殺意は感じない。どうやらただの事故のようだ。
「何が起こってるの?」
「済まないね。激しい光が出る事を失念していた」
「そっちは大丈夫。チカチカするけど」
「それなら良かった。目を開けてくれないかな?」
 え?さっきの光は一体どういう事だったのかの説明は無し?まぁ良いか。目を開けば、きっとおのずと分かる事だし。そして目を開いた私は、直ぐに眼前に広がる光景に驚いた。

 目の前には、大聖堂程もありそうな広さの空間と、その全てに描かれた壁画が広がっていた。

「これは……一体……」
「これを君に見せたかった。今日の散歩の目的地……君が一度は通るべき、道しるべだ」
「道しるべ?」
 間抜け面を晒しているであろう私に、所長さんは少し笑いながら、「昔話をしよう」と言った。
「何についてのですか?」
「それは勿論、この世界における、もっとも古い物語……」

「青い空を奪った一人の女の子と、それを許さなかった世界の物語を」
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