77 / 102
深章
深七章 変態と呼ぶべき天才
しおりを挟む
長耳族の研究施設ってどこにあるんだろう。地図も与えられてないし、兵士さんに聞いてみるかな。
「ねぇ兵士さん」
「何だ」
「長耳族の研究施設ってどこかな。魔術の研究かな?してるの」
「フォクアスファクスの事か。案内してやる」
なんかお洒落な名前じゃん。アレンさんの工房もこういう名前にすれば良かったのに。あぁでも、あの人は『恥ずかしいから嫌かな』とか言って断るか。
あ~会いたいな~。涙を呑んで旅立った筈だけど、それでもやっぱり恋しいや。マリアの顔が見たいな~あの控えめになった縦ロールを触りたいな~。アレンさんにもう一回抱き着きたいな~。アレンさんに頭撫でてほしい。
おっと危ない。こういうのを思い出すと前に進む足が重くなる。こういうのは、全部終わったその後、生きていたらにしておこう。
「着いたぞ」
「街から大分離れたね。見つからない訳だよ」
「安全性を考慮してだ。帰る時はこの信号弾を打ち上げろ」
「ありがとう」
成程。燃え移らないように、ここの一帯だけ地面が石で舗装されている。やっぱり危険なんだなココ。ちょっと気を付けておこう。
「それと、二つ警告だ」
「何か?」
「一つ。ここに居る奴は全員変人だ。そして二つ」
「そこに居たら、中で爆発が起きた時に巻き込まれる」
うん。もうちょっとだけ早く言ってほしかったかな。まぁ想定していなかった私が悪いんだけどさ。反応が遅れた私の体は、思い切り爆風に巻き込まれてしまった。
「所長!また爆発してますから!そのアプローチはもう少し慎重にしてください!」
「危険から目を逸らして、心理へ至る事は不可能だろう!」
「森に燃え移ったら僕ら死罪ですからね!?」
「それはそれで良し!」
「どこが!」
うん。破片まで飛んで来なくて良かった。私は服に付いた土埃を払い、立ち上がる。こういう人の扱いは心得ていないけど、まぁどうとでもなるでしょ。
「済みません。少し良いですか?」
「ふむ?ここに客とは……むむっ!?」
「えっと……人間のお嬢さん……ですかね?」
お?この様子……どうやら、私とアイクがこの集落に来てからの事は、ここまで伝わっていないらしい。説明に時間が掛かりそうだけど……いやその前に、私は自分の身の安全を確保した方が良さそうかな。
「見ろラサウ君!モルモットだ!モルモットが来たぞ!」
「まさか本当に……いやまさかそんな……」
「現実を見ろ!魔力がある十六歳の健康的な処女!モルモットとしてこんな素晴らしい個体は……」
まさか人生の中で一度でも、実験動物的な扱いを受けるとは思ってなかった。いやいやそんな事を言っている場合じゃないよね。誤解を解いて話を……
うん?あれは何だろう。魔道具だろうか。族長さんに渡されたのと同じ感じだ。やっぱり人間が作る魔道具とはどこか違う。なんか……雰囲気と言うか作りと言うか……それより決定的な何かが違う気がする。
「うん?どうしたのかなモルモット君。アレが気になるのかい?」
「えぇ……あ!そうじゃなくて……私はモルモットになりに来たんじゃなくて、ここに話を聞きに来たんです!」
「あぁ……そうなのね……」
なんだこの人。あからさまにがっかりしたぞ。こういうのに熱中する人は変な人が多いんだろうか。アレンさんとは性別からして違うけど、なんか似てる。兵士さんが『変人』と言ったのも分かる風情だ。
「所長!失礼でしょ!済みませんウチの人が……で、話とは?」
「はい。お耳に挟んでいると思いますが……」
一通り説明し終わった後、ラサウと呼ばれた男性は、少し考えるような素振りを見せた。
「サフラさんが……成程」
「ご存じではありませんでしたか」
「えぇ。ここは長耳族の中でも、独立した場所ですからね」
「ははっ。どうでも良いと切り捨てられているだけだろう?」
卑屈だな~。明らかにテンション下がってるな~あの人。まぁ、あんなはしゃいでいたのに水を差されたら当然とも言えるかな。私の知った事じゃないけど。
「何か、心当たりはありませんか?」
「ふむ……所長。ここ最近でフォアクスメカカルの試作品を外に出したのは何回でしたっけ?」
「知るか。彼等は私の下から巣立ったのさ……」
これじゃ埒が明かないかな。所長と言う位だし、彼女に協力的になってもらわないと、色々不都合がありかねない。彼女のやる気を出させる方法は……よし!一肌脱ぐか!
「所長さん。お名前は?」
「ヘルカーティ・ラニ。古い言葉で、名前は『森の番人』、苗字は『矢じり』を意味する。ヘルでもラニでも、好きに呼ぶと良いさ」
「ではヘルカーティさん。一つ、取引を致しませんか?」
「何?なるべく早めに……」
「私が貴女方のモルモットになる代わり、私に協力していただけませんか?」
……あれ?『それなら協力しよう!』と即決すると思ってたんだけどな。なんでそんな、とても信じられないような物を見るような表情になっているんだろう。
「……正気か?」
「ええ勿論。どうせ解決できなければ死んでしまうんですから、やらない方が損ですよ。それに、もしここで死んでも、精々が死因が変わるだけでしょう?」
第一、こんな所で死んでやるつもりも無い。厄災とやらを消し飛ばすまで、死んでやるつもりは無い。
「……」
「所長?」「ヘルカーティさん?」
「……良いね」
今、何と……と、聞く事はできない。それ以上に聞きたい事が多過ぎる。なんでそんな表情をしているんだ?なんでそんな、新しい玩具を与えられた子供のような、恍惚とした表情をしているんだ?
「最ッ高だ!君!名前は!?」
「ライラです」
「ライラか!君の名は古い言葉で『槍』を表す!実に良い名前だ!ライラ!もう敬語は止めろ!私達はこれからパートナーだ!」
あぁでも、そんな疑問は一旦置いておこう。きっとその内分かる事だ。私もきっと、同じ表情をしているだろうから。
「これからこの研究所を紹介しよう!当面の君の部屋も用意する!改めてようこそ!フォアクスファクス……古い言葉で、『神の御業たる工房』を!」
「ねぇ兵士さん」
「何だ」
「長耳族の研究施設ってどこかな。魔術の研究かな?してるの」
「フォクアスファクスの事か。案内してやる」
なんかお洒落な名前じゃん。アレンさんの工房もこういう名前にすれば良かったのに。あぁでも、あの人は『恥ずかしいから嫌かな』とか言って断るか。
あ~会いたいな~。涙を呑んで旅立った筈だけど、それでもやっぱり恋しいや。マリアの顔が見たいな~あの控えめになった縦ロールを触りたいな~。アレンさんにもう一回抱き着きたいな~。アレンさんに頭撫でてほしい。
おっと危ない。こういうのを思い出すと前に進む足が重くなる。こういうのは、全部終わったその後、生きていたらにしておこう。
「着いたぞ」
「街から大分離れたね。見つからない訳だよ」
「安全性を考慮してだ。帰る時はこの信号弾を打ち上げろ」
「ありがとう」
成程。燃え移らないように、ここの一帯だけ地面が石で舗装されている。やっぱり危険なんだなココ。ちょっと気を付けておこう。
「それと、二つ警告だ」
「何か?」
「一つ。ここに居る奴は全員変人だ。そして二つ」
「そこに居たら、中で爆発が起きた時に巻き込まれる」
うん。もうちょっとだけ早く言ってほしかったかな。まぁ想定していなかった私が悪いんだけどさ。反応が遅れた私の体は、思い切り爆風に巻き込まれてしまった。
「所長!また爆発してますから!そのアプローチはもう少し慎重にしてください!」
「危険から目を逸らして、心理へ至る事は不可能だろう!」
「森に燃え移ったら僕ら死罪ですからね!?」
「それはそれで良し!」
「どこが!」
うん。破片まで飛んで来なくて良かった。私は服に付いた土埃を払い、立ち上がる。こういう人の扱いは心得ていないけど、まぁどうとでもなるでしょ。
「済みません。少し良いですか?」
「ふむ?ここに客とは……むむっ!?」
「えっと……人間のお嬢さん……ですかね?」
お?この様子……どうやら、私とアイクがこの集落に来てからの事は、ここまで伝わっていないらしい。説明に時間が掛かりそうだけど……いやその前に、私は自分の身の安全を確保した方が良さそうかな。
「見ろラサウ君!モルモットだ!モルモットが来たぞ!」
「まさか本当に……いやまさかそんな……」
「現実を見ろ!魔力がある十六歳の健康的な処女!モルモットとしてこんな素晴らしい個体は……」
まさか人生の中で一度でも、実験動物的な扱いを受けるとは思ってなかった。いやいやそんな事を言っている場合じゃないよね。誤解を解いて話を……
うん?あれは何だろう。魔道具だろうか。族長さんに渡されたのと同じ感じだ。やっぱり人間が作る魔道具とはどこか違う。なんか……雰囲気と言うか作りと言うか……それより決定的な何かが違う気がする。
「うん?どうしたのかなモルモット君。アレが気になるのかい?」
「えぇ……あ!そうじゃなくて……私はモルモットになりに来たんじゃなくて、ここに話を聞きに来たんです!」
「あぁ……そうなのね……」
なんだこの人。あからさまにがっかりしたぞ。こういうのに熱中する人は変な人が多いんだろうか。アレンさんとは性別からして違うけど、なんか似てる。兵士さんが『変人』と言ったのも分かる風情だ。
「所長!失礼でしょ!済みませんウチの人が……で、話とは?」
「はい。お耳に挟んでいると思いますが……」
一通り説明し終わった後、ラサウと呼ばれた男性は、少し考えるような素振りを見せた。
「サフラさんが……成程」
「ご存じではありませんでしたか」
「えぇ。ここは長耳族の中でも、独立した場所ですからね」
「ははっ。どうでも良いと切り捨てられているだけだろう?」
卑屈だな~。明らかにテンション下がってるな~あの人。まぁ、あんなはしゃいでいたのに水を差されたら当然とも言えるかな。私の知った事じゃないけど。
「何か、心当たりはありませんか?」
「ふむ……所長。ここ最近でフォアクスメカカルの試作品を外に出したのは何回でしたっけ?」
「知るか。彼等は私の下から巣立ったのさ……」
これじゃ埒が明かないかな。所長と言う位だし、彼女に協力的になってもらわないと、色々不都合がありかねない。彼女のやる気を出させる方法は……よし!一肌脱ぐか!
「所長さん。お名前は?」
「ヘルカーティ・ラニ。古い言葉で、名前は『森の番人』、苗字は『矢じり』を意味する。ヘルでもラニでも、好きに呼ぶと良いさ」
「ではヘルカーティさん。一つ、取引を致しませんか?」
「何?なるべく早めに……」
「私が貴女方のモルモットになる代わり、私に協力していただけませんか?」
……あれ?『それなら協力しよう!』と即決すると思ってたんだけどな。なんでそんな、とても信じられないような物を見るような表情になっているんだろう。
「……正気か?」
「ええ勿論。どうせ解決できなければ死んでしまうんですから、やらない方が損ですよ。それに、もしここで死んでも、精々が死因が変わるだけでしょう?」
第一、こんな所で死んでやるつもりも無い。厄災とやらを消し飛ばすまで、死んでやるつもりは無い。
「……」
「所長?」「ヘルカーティさん?」
「……良いね」
今、何と……と、聞く事はできない。それ以上に聞きたい事が多過ぎる。なんでそんな表情をしているんだ?なんでそんな、新しい玩具を与えられた子供のような、恍惚とした表情をしているんだ?
「最ッ高だ!君!名前は!?」
「ライラです」
「ライラか!君の名は古い言葉で『槍』を表す!実に良い名前だ!ライラ!もう敬語は止めろ!私達はこれからパートナーだ!」
あぁでも、そんな疑問は一旦置いておこう。きっとその内分かる事だ。私もきっと、同じ表情をしているだろうから。
「これからこの研究所を紹介しよう!当面の君の部屋も用意する!改めてようこそ!フォアクスファクス……古い言葉で、『神の御業たる工房』を!」
2
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。


魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる