謎色の空と無色の魔女

暇神

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深章

深二章 森に住まう者達の集落

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 さて。私達はタイセイ先生の魔術のお陰で、亜人の王都ヴァネロプまで、全くと言って良い程時間を掛けず到着できる筈だった。そういう話だった。だが悲しいかな。私の目の前に広がる光景は、間違い無く、『王都』と呼ぶには相応しくない光景だった。
「抵抗するな!何が目的だ!」「何故人間風情が我らの集落に……」「殺せ!ここを人間共に荒らされて堪るか!」
 先ず緑色だ。鮮やかな、いかにも目に良さそうな緑色。次に、私に弓や槍を向けたまま、こちらを睨んでいる耳長族エルフ。明らかに敵意を持っているようだ。
 この数、加えこのフィールドでは、魔法を使っても勝てるかどうか分からない。加え、ここがどこなのかも分からない。ここは大人しく降伏するのが良いだろう。私は持っていた武器を苔むした地面……ではなく、極めて太い木の枝の上に置き、小さく呟く。

「なんでこうなった……」


 事が起こってしまったのは、本当についさっきの出来事だった。私達はタイセイ先生の魔法陣で、亜人の大陸へ向かった。だが、魔法陣に不備があったのか、それとも何らかの魔術で防がれたのか……いずれにせよ確かなのは、私達はヴァネロプへは行けなかった。私達は離れ離れになり、それぞれ別の場所に転移した。
 だが幸いな事に、私はアイクと同じ場所に転移したようだ。何かが起こったと分かった瞬間、アイクの手を握ったのが功を奏したようだ。まぁ、それで助かったかどうかは、まだ分からない。


 私達は両手を縄で縛られたまま、長耳族に囲まれた状態で歩いている。周囲を見回してみると、ここが本当に高く、太い木の上なのだという事が分かる。木々の幹には窓が取り付けられており、中が空洞にされ、居住スペースとして扱われているのが見える。枝と枝の間には梯子が取り付けられ、安全と言うのは少し怖いが、行き来できるようになっている。
「へ~こんな所に集落なんて作れるんだ」
「おいライラ。あんま喋らない方が……」
「坊主の言う通りだ。あまり無駄口を叩くなら、この槍で一刺しにしてくれる」
 おぉそれは恐ろしい。なら黙っていようかな。魔術も魔法も使えるっぽいけど、ここで騒ぐのは得策じゃないだろうし。最悪、森の中で矢と槍で串刺しだ。
 暫く歩き続けると、一際大きな木の上に着いた。そこは他の家と違い、木を繰り抜いているだけではなく、そこに大きな家が建てられている。装飾も凄い。と言うか全体的に豪華だ。アレンさんの家と同じ位豪華だ。
 突然、私達を取り囲んでいた兵士の人達が膝を突いた。やはりここが、ここの長の住居なのだろう。
「族長様!侵入者を捕らえました!」

 そこから一拍置いて、一人の女性が家から出て来た。彼女は私達を一瞥してから、兵士達に指示を出す。
「ご苦労。彼等は私が預かりましょう。貴方達は引き続き、警戒を」
「招致しました」
 その声を残して、兵士さん達はその場を去った。一見、いつでも逃げられる状況だろうが、この状況に私達を置く事に関して、あの真面目そうな兵士さん達が何も言わなかった所を見るに、対策をしているか、された所で問題は無いかのどちらかだろう。どうせ逃げないから変わらないけど。
 女性は私達の直ぐ近くまで降り立った。彼女はその冷たい目で私達を見つめる。魔力は然程感じない。それだけを見るなら、特務隊の誰よりも弱い。だけど、長耳族の特徴として、非常に高い身体能力が挙げられる。魔術で身体能力を強化する必要が無い分、正面から戦う分には、これ程厄介な相手も居ない。
「人間。何故ここに来た。用件によっては……」
「長耳族の長よ。我らはここに何かする為に来た訳ではございません。我らはただ、王都ヴァネロプを向かおうと転移の魔術を使った所、何かの力によって、ここに転移させられただけに……」
「ここには隠蔽、転移妨害の結界が張られている。その程度の言い訳が通じるとでも?」
 ありゃりゃ。アイクの丁寧な物言いも通じないか。確かに、エルフの集落は、隠蔽、転移妨害の術が施されていると聞いた事はある。『迷い込んだ』なんて理由は通じないだろう。
 だけど、この結界を見る限り、隠蔽の効果は確かに見事だが、転移妨害はお飾り程度でしなさそうだ。転移妨害と言っても、具体的な座標さえ知られなければ転移されない訳だから、そりゃこのバランスになるか。
「そう言われましても、こちらも何が起こったかを理解できていない状況でございます。どうか、ご容赦を……」
「弱い者の戯言は目に余る……貴様らはやはり、ここで殺す事にしよう」
 女性は携えていた剣を、アイクの首に向けた。やっぱりこうなるか。目的も侵入経路も不明の侵入者を生かしておく理由は、彼等には無いだろう。

「なら、強い人の言う事であれば、少しは耳に入るかな?」

 女性はその言葉に反応したが、私は女性がこちらに刀を向けるより早く魔術を使い、私とアイクの腕を縛る縄を切りながら、女性から距離を取る。アイクは無事そうだ。あんな状況でも冷静でいられるのは、アイクの良い所だ。女性はこちらを睨みながら、剣を構える。
「貴様ぁ……っ」
「亜人は実力主義って聞いてたんだけど?」
 亜人は実力主義。ならここで、私達の『力』を示せれば、多少は私達の話にも耳を傾けてくれるかも知れない。どうせ死ぬなら賭けに出よう。命をチップにする事は、もう慣れている。
 だが、女性は乗り気ではないようだ。女性は剣を投げ捨て、「面白い」と呟いた。
「なら示してもらおう。貴様らの『力』とやらを」
「ここでやり合う気は無いと?」
「ここでは興が乗らない。場を整えてやる。それまで、私の家で過ごしてもらおう」
 目的は監視だろうな。だがまぁ、ここで反抗した所で何も変わらない。なら、従うしか無いか。私はアイクとアイコンタクトをして、『問題無い』と伝える。
「あぁ……それで構いません。長耳族の長よ」
「なら良い。では、こちらに来てもらおうか」
 女性は私達に背を向け、自身の家に向かって歩き出した。私達もその後に続き、家の中に進んで行く。
 これからどうなるだろうか。私は一抹の不安を抱えながらも、それを表に出さないように気を張った。
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