謎色の空と無色の魔女

暇神

文字の大きさ
上 下
71 / 102
深章

深一章 極めて実力主義の王国

しおりを挟む
 亜人。人類以外の知的な種族を総じてそう呼ぶ。『人に近いが人ではない物』とされており、身体能力や魔力、寿命等、人類と比べて様々な事が優れているらしい。そのせいか彼等の扱いに関する話は、いつまで経っても完結しない。
 彼等は実力主義だ。強い者が偉い。弱い者に尊厳は無い。奴隷としてしか生きられない、ヒト以下の存在として扱われるそうだ。
 彼等は人類が済むのとは別の大陸に住んでいる。人類の大陸に比べて過酷な環境らしい。魔物の数も多く、寒い所は生物の体すら氷漬けにし、熱い所は脳味噌を煮えたぎらせる。勿論、どこもかしこもそういう土地な訳ではないが、向かう時、専用の魔道具無しでは安心できないだろう。

「……そんな場所に、向かってるんですよね?」
「ええ。聡一そういち……勇者はそこに居る」
 亜人王討伐の後、王様から褒賞を受け取った勇者は亜人の大陸へ残り、亜人王を殺した事の償いを続けているそうだ。公には各地を巡って人助けという事になっているが、リョウコさんはそう言っていた。
 亜人の大陸に行くには、船で向かう以外の方法は無い。だが、亜人の大陸への船は、二代前の亜人王が勇者パーティーに殺されて以降、一度も出ていないらしい。
「どうやるんですか?船、無いんですよね?」
「ああ、そう言えばライラには言ってなかったか」
 おおリーダーさん。亜人の大陸に行く方法となると、船しか思い浮かばないんだけど、それ以外に何かあるというんだろうか。改良が進んでいるドラグナーでも、大陸間移動できる程長時間の飛行はできないし。気になる。
「実は、タイセイさんが亜人の大陸と人間の大陸を繋げる転移魔術を設置していたんでな。そこから直接亜人の大陸に行く予定だ」
「設置には苦労したが、安定した魔術だ。百年経っても消えないぜ?」
「それは素敵ですね」
 百年消えないとなると、維持に必要な魔力が相当少ないという事だろう。だけど、転移の魔術は相当複雑で、術を維持するのも一苦労だ。それに加え安定化となると……にわかには信じ難い。ただまあ、アイクが「おじさんの魔術は規格外」とか言ってたし、何とも言えないかな。

 数日後。とある山の奥地に着いた私達は、転移の魔法陣を発見した。どうやら、これが亜人の大陸と繋がっているらしい。しかし、魔法陣が放つ光は微小で、ただの模様のようにさえ見える。
 私はこれに似た魔法陣を、数え切るのも面倒な数見て来た。魔道具では、普段は魔術を非活性状態……詰まり使用できない状態にしておく事で、魔石に込められた魔力の消費を抑える方法がある。
 魔道具を長年作っている内に、見ただけで分かるようになった。この魔法陣は、今は非活性状態なんだ。そういえば、ドラグナーや魔銃の改良の時、この方法を教えてくれたのもタイセイ先生だったっけ。
「この方式、魔道具以外でやってる人居るんだ」
「俺以外には居ないだろうな。理屈は兎も角、技術を真似るのは相当苦労した。正直、労力と報酬が釣り合ってねぇんだよコレ」
「これ設置するのだけで、一体何年掛かったの大聖?」
「……五年?」
 そりゃ百年経っても消えない訳だ。タイセイ先生は魔法陣の上に手を置き、魔法陣に魔力を流し始める。どうやら、転移の魔術を使えるようにしているらしい。
「活性化させるのに時間が要るな……皆は荷物とか纏めておいてくれ。なるべく少ない方が良い」
「分かったわ」「残ってる食料品と調味料は今日の夕飯に使うぞ」「分かったよリーダー」「指輪……魔道具……くっ」「この際取捨選択するべきか」

 その日の夕食は、いつもよりちょっとだけ豪華だった。


 亜人の大陸。亜人の国、『エステニア』の中心。王都『ヴァネロプ』。そこに建てられた巨大な城、その最奥……かつての玉座の間に、僕は立っている。
「もう……何年経っているんだろうか……」
 友人と旅をして、敵と戦って、魔王……亜人王を殺した。あの時の彼の、悔しそうな、嬉しそうな、悲しそうな表情が、そろそろ二十五年経つというのに、今も頭の中にこびり付いている。
 諒子は大丈夫だろうか。忍さんと大聖も、上手くやれているだろうか。連絡も取れなくなっちゃったな。魔法使いは見つかっているだろうか。こっちも、新しく見つかってはいないよ。
 僕は床の絨毯に残っている染みを撫でながら、かつての自分達を思い出す。『あの時は良かった』なんて言うつもりは無いけど、こうしていると、もう一度やり直して、もっと良い形に収まるような選択をし直したくなる。
「ま、考えるだけ無駄か」
 僕はそこから立ち上がり、穴が開いて、雨風を凌ぐ機能すら失ったその部屋を見回した。巨大な風穴の向こうは、あの不気味な空を覆い隠す暗雲しか見えない。穴から落ちるギリギリの所まで進み、そこに腰を下ろす。
 城下町には灯りが点いている。こうしていると、大分発展したように感じるな。軍備の拡張、居住可能区域の拡大、土地の開拓……まだまだ、やる事は山積みだ。
「ここを修理する費用、なんとか捻出しないとだな」
 少しすると、玉座の間の扉が開いた。そこからは、亜人王軍四天王の一人、アステリア・リオン・エーデルライトが顔を出した。
「また、ここに居たんだな」
「休憩だよ。次は北に行ってくる」
 私はその場から立ち上がり、アステリアの横を通り過ぎる。彼女は心配そうな表情だったが、私は気にしなかった。ここで甘ったれる訳には行かない。私はそれだけの事を、彼女に、この国に、何より、ただの青年に過ぎなかった亜人王にした。ここで立ち止まる訳には行かない。
「少し、休んだ方が良いんじゃないか?二代前の亜人王様を倒して以降、真面に寝てないし休んでないだろう」
「体はまだ動く。休憩は取っている。問題は無い」
「それは魔術で誤魔化しているだけで……」

「少し、静かにしてくれ」
 私はそう言って、彼女を睨む。かつては強敵に思えた彼女も、蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。私はそれを確認した後、玉座の間の跡地を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王メーカー

壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー 辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。 魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。 大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

魔法少女に就職希望!

浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。 そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。 コンセプトは20代でも魔法少女になりたい! 完結しました … ファンタジー ※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...