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深章
深一章 極めて実力主義の王国
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亜人。人類以外の知的な種族を総じてそう呼ぶ。『人に近いが人ではない物』とされており、身体能力や魔力、寿命等、人類と比べて様々な事が優れているらしい。そのせいか彼等の扱いに関する話は、いつまで経っても完結しない。
彼等は実力主義だ。強い者が偉い。弱い者に尊厳は無い。奴隷としてしか生きられない、ヒト以下の存在として扱われるそうだ。
彼等は人類が済むのとは別の大陸に住んでいる。人類の大陸に比べて過酷な環境らしい。魔物の数も多く、寒い所は生物の体すら氷漬けにし、熱い所は脳味噌を煮えたぎらせる。勿論、どこもかしこもそういう土地な訳ではないが、向かう時、専用の魔道具無しでは安心できないだろう。
「……そんな場所に、向かってるんですよね?」
「ええ。聡一……勇者はそこに居る」
亜人王討伐の後、王様から褒賞を受け取った勇者は亜人の大陸へ残り、亜人王を殺した事の償いを続けているそうだ。公には各地を巡って人助けという事になっているが、リョウコさんはそう言っていた。
亜人の大陸に行くには、船で向かう以外の方法は無い。だが、亜人の大陸への船は、二代前の亜人王が勇者パーティーに殺されて以降、一度も出ていないらしい。
「どうやるんですか?船、無いんですよね?」
「ああ、そう言えばライラには言ってなかったか」
おおリーダーさん。亜人の大陸に行く方法となると、船しか思い浮かばないんだけど、それ以外に何かあるというんだろうか。改良が進んでいるドラグナーでも、大陸間移動できる程長時間の飛行はできないし。気になる。
「実は、タイセイさんが亜人の大陸と人間の大陸を繋げる転移魔術を設置していたんでな。そこから直接亜人の大陸に行く予定だ」
「設置には苦労したが、安定した魔術だ。百年経っても消えないぜ?」
「それは素敵ですね」
百年消えないとなると、維持に必要な魔力が相当少ないという事だろう。だけど、転移の魔術は相当複雑で、術を維持するのも一苦労だ。それに加え安定化となると……にわかには信じ難い。ただまあ、アイクが「おじさんの魔術は規格外」とか言ってたし、何とも言えないかな。
数日後。とある山の奥地に着いた私達は、転移の魔法陣を発見した。どうやら、これが亜人の大陸と繋がっているらしい。しかし、魔法陣が放つ光は微小で、ただの模様のようにさえ見える。
私はこれに似た魔法陣を、数え切るのも面倒な数見て来た。魔道具では、普段は魔術を非活性状態……詰まり使用できない状態にしておく事で、魔石に込められた魔力の消費を抑える方法がある。
魔道具を長年作っている内に、見ただけで分かるようになった。この魔法陣は、今は非活性状態なんだ。そういえば、ドラグナーや魔銃の改良の時、この方法を教えてくれたのもタイセイ先生だったっけ。
「この方式、魔道具以外でやってる人居るんだ」
「俺以外には居ないだろうな。理屈は兎も角、技術を真似るのは相当苦労した。正直、労力と報酬が釣り合ってねぇんだよコレ」
「これ設置するのだけで、一体何年掛かったの大聖?」
「……五年?」
そりゃ百年経っても消えない訳だ。タイセイ先生は魔法陣の上に手を置き、魔法陣に魔力を流し始める。どうやら、転移の魔術を使えるようにしているらしい。
「活性化させるのに時間が要るな……皆は荷物とか纏めておいてくれ。なるべく少ない方が良い」
「分かったわ」「残ってる食料品と調味料は今日の夕飯に使うぞ」「分かったよリーダー」「指輪……魔道具……くっ」「この際取捨選択するべきか」
その日の夕食は、いつもよりちょっとだけ豪華だった。
亜人の大陸。亜人の国、『エステニア』の中心。王都『ヴァネロプ』。そこに建てられた巨大な城、その最奥……かつての玉座の間に、僕は立っている。
「もう……何年経っているんだろうか……」
友人と旅をして、敵と戦って、魔王……亜人王を殺した。あの時の彼の、悔しそうな、嬉しそうな、悲しそうな表情が、そろそろ二十五年経つというのに、今も頭の中にこびり付いている。
諒子は大丈夫だろうか。忍さんと大聖も、上手くやれているだろうか。連絡も取れなくなっちゃったな。魔法使いは見つかっているだろうか。こっちも、新しく見つかってはいないよ。
僕は床の絨毯に残っている染みを撫でながら、かつての自分達を思い出す。『あの時は良かった』なんて言うつもりは無いけど、こうしていると、もう一度やり直して、もっと良い形に収まるような選択をし直したくなる。
「ま、考えるだけ無駄か」
僕はそこから立ち上がり、穴が開いて、雨風を凌ぐ機能すら失ったその部屋を見回した。巨大な風穴の向こうは、あの不気味な空を覆い隠す暗雲しか見えない。穴から落ちるギリギリの所まで進み、そこに腰を下ろす。
城下町には灯りが点いている。こうしていると、大分発展したように感じるな。軍備の拡張、居住可能区域の拡大、土地の開拓……まだまだ、やる事は山積みだ。
「ここを修理する費用、なんとか捻出しないとだな」
少しすると、玉座の間の扉が開いた。そこからは、亜人王軍四天王の一人、アステリア・リオン・エーデルライトが顔を出した。
「また、ここに居たんだな」
「休憩だよ。次は北に行ってくる」
私はその場から立ち上がり、アステリアの横を通り過ぎる。彼女は心配そうな表情だったが、私は気にしなかった。ここで甘ったれる訳には行かない。私はそれだけの事を、彼女に、この国に、何より、ただの青年に過ぎなかった亜人王にした。ここで立ち止まる訳には行かない。
「少し、休んだ方が良いんじゃないか?二代前の亜人王様を倒して以降、真面に寝てないし休んでないだろう」
「体はまだ動く。休憩は取っている。問題は無い」
「それは魔術で誤魔化しているだけで……」
「少し、静かにしてくれ」
私はそう言って、彼女を睨む。かつては強敵に思えた彼女も、蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。私はそれを確認した後、玉座の間の跡地を出た。
彼等は実力主義だ。強い者が偉い。弱い者に尊厳は無い。奴隷としてしか生きられない、ヒト以下の存在として扱われるそうだ。
彼等は人類が済むのとは別の大陸に住んでいる。人類の大陸に比べて過酷な環境らしい。魔物の数も多く、寒い所は生物の体すら氷漬けにし、熱い所は脳味噌を煮えたぎらせる。勿論、どこもかしこもそういう土地な訳ではないが、向かう時、専用の魔道具無しでは安心できないだろう。
「……そんな場所に、向かってるんですよね?」
「ええ。聡一……勇者はそこに居る」
亜人王討伐の後、王様から褒賞を受け取った勇者は亜人の大陸へ残り、亜人王を殺した事の償いを続けているそうだ。公には各地を巡って人助けという事になっているが、リョウコさんはそう言っていた。
亜人の大陸に行くには、船で向かう以外の方法は無い。だが、亜人の大陸への船は、二代前の亜人王が勇者パーティーに殺されて以降、一度も出ていないらしい。
「どうやるんですか?船、無いんですよね?」
「ああ、そう言えばライラには言ってなかったか」
おおリーダーさん。亜人の大陸に行く方法となると、船しか思い浮かばないんだけど、それ以外に何かあるというんだろうか。改良が進んでいるドラグナーでも、大陸間移動できる程長時間の飛行はできないし。気になる。
「実は、タイセイさんが亜人の大陸と人間の大陸を繋げる転移魔術を設置していたんでな。そこから直接亜人の大陸に行く予定だ」
「設置には苦労したが、安定した魔術だ。百年経っても消えないぜ?」
「それは素敵ですね」
百年消えないとなると、維持に必要な魔力が相当少ないという事だろう。だけど、転移の魔術は相当複雑で、術を維持するのも一苦労だ。それに加え安定化となると……にわかには信じ難い。ただまあ、アイクが「おじさんの魔術は規格外」とか言ってたし、何とも言えないかな。
数日後。とある山の奥地に着いた私達は、転移の魔法陣を発見した。どうやら、これが亜人の大陸と繋がっているらしい。しかし、魔法陣が放つ光は微小で、ただの模様のようにさえ見える。
私はこれに似た魔法陣を、数え切るのも面倒な数見て来た。魔道具では、普段は魔術を非活性状態……詰まり使用できない状態にしておく事で、魔石に込められた魔力の消費を抑える方法がある。
魔道具を長年作っている内に、見ただけで分かるようになった。この魔法陣は、今は非活性状態なんだ。そういえば、ドラグナーや魔銃の改良の時、この方法を教えてくれたのもタイセイ先生だったっけ。
「この方式、魔道具以外でやってる人居るんだ」
「俺以外には居ないだろうな。理屈は兎も角、技術を真似るのは相当苦労した。正直、労力と報酬が釣り合ってねぇんだよコレ」
「これ設置するのだけで、一体何年掛かったの大聖?」
「……五年?」
そりゃ百年経っても消えない訳だ。タイセイ先生は魔法陣の上に手を置き、魔法陣に魔力を流し始める。どうやら、転移の魔術を使えるようにしているらしい。
「活性化させるのに時間が要るな……皆は荷物とか纏めておいてくれ。なるべく少ない方が良い」
「分かったわ」「残ってる食料品と調味料は今日の夕飯に使うぞ」「分かったよリーダー」「指輪……魔道具……くっ」「この際取捨選択するべきか」
その日の夕食は、いつもよりちょっとだけ豪華だった。
亜人の大陸。亜人の国、『エステニア』の中心。王都『ヴァネロプ』。そこに建てられた巨大な城、その最奥……かつての玉座の間に、僕は立っている。
「もう……何年経っているんだろうか……」
友人と旅をして、敵と戦って、魔王……亜人王を殺した。あの時の彼の、悔しそうな、嬉しそうな、悲しそうな表情が、そろそろ二十五年経つというのに、今も頭の中にこびり付いている。
諒子は大丈夫だろうか。忍さんと大聖も、上手くやれているだろうか。連絡も取れなくなっちゃったな。魔法使いは見つかっているだろうか。こっちも、新しく見つかってはいないよ。
僕は床の絨毯に残っている染みを撫でながら、かつての自分達を思い出す。『あの時は良かった』なんて言うつもりは無いけど、こうしていると、もう一度やり直して、もっと良い形に収まるような選択をし直したくなる。
「ま、考えるだけ無駄か」
僕はそこから立ち上がり、穴が開いて、雨風を凌ぐ機能すら失ったその部屋を見回した。巨大な風穴の向こうは、あの不気味な空を覆い隠す暗雲しか見えない。穴から落ちるギリギリの所まで進み、そこに腰を下ろす。
城下町には灯りが点いている。こうしていると、大分発展したように感じるな。軍備の拡張、居住可能区域の拡大、土地の開拓……まだまだ、やる事は山積みだ。
「ここを修理する費用、なんとか捻出しないとだな」
少しすると、玉座の間の扉が開いた。そこからは、亜人王軍四天王の一人、アステリア・リオン・エーデルライトが顔を出した。
「また、ここに居たんだな」
「休憩だよ。次は北に行ってくる」
私はその場から立ち上がり、アステリアの横を通り過ぎる。彼女は心配そうな表情だったが、私は気にしなかった。ここで甘ったれる訳には行かない。私はそれだけの事を、彼女に、この国に、何より、ただの青年に過ぎなかった亜人王にした。ここで立ち止まる訳には行かない。
「少し、休んだ方が良いんじゃないか?二代前の亜人王様を倒して以降、真面に寝てないし休んでないだろう」
「体はまだ動く。休憩は取っている。問題は無い」
「それは魔術で誤魔化しているだけで……」
「少し、静かにしてくれ」
私はそう言って、彼女を睨む。かつては強敵に思えた彼女も、蛇に睨まれた蛙のように萎縮する。私はそれを確認した後、玉座の間の跡地を出た。
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