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進章
進二十一章 極めて強力な魔術の使い手
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「その程度か魔法使い!」
「まだまだぁ!」
魔法で、外から干渉して来る魔術は無効化できる。それは度重なる検証で明らかになった事で、無効化できる範囲は、魔術による直接的な攻撃でけでなく、衝撃波や熱等、魔術の影響で発生した物までと、中々広い。
だが、この女性の魔術は何かおかしい。魔法で触れても炎が消えない。勿論、魔法で弾けば体までは届かないが、そこに意識を割くと、常に全身を魔法で覆うのが途切れ、その隙を炎の槍で貫かれる。通常の魔術と見掛けはそう変わらないせいで、常に攻撃を弾くか無視するかの二択を迫られる。ただでさえ魔力の操作で差が付いているのに、唯一のアドバンテージである魔法も攻略される。これは中々……
「死ね!」
「うわっ!危なっ!」
防御に手一杯だ。だけど、このまま防御していれば、きっと増援が来る。タイセイ先生の方の戦いが終わったのは感じたけど、そこかしこで戦闘が始まっているのを見るに、恐らく数人目覚め、交戦しているんだろう。タイセイ先生と……恐らくリョウコさんが対処してくれているらしいけど、それもいつまでもつか分からない。早く、早くしなければ。
「死ねっ!死ねっ!」
「そこまで言われたら傷付いちゃうんだけどなー!」
「元より殺すつもりだ!」
だけどこの人、全然隙が無い。常に攻撃魔術と防御魔術を出しっぱにしている上、身体強化魔術も重ね掛けして高速移動し続けている。狙いが定め辛いのに、向こうからは一方的に攻撃が飛んで来る。炎系統の魔術に強く出れる水系統の魔術も、威力の差か消し飛んでしまう。打つ手は無いかもな。
ならどうやって勝つか。魔法の防御をすり抜ける炎と、そうでない炎を見分ける。よく手元を見るんだ。よく手元を……
「遅い!」
速過ぎる!動きも魔術の発動も判断も、私の数倍速い!視界に捉える事はできても、次の瞬間には炎で視界が遮られる!魔法陣の違いを確認する余裕が無い!
動きを止めなければ。どうやって?この速さに対応し得る手段は何か無いか?私が今まで見て来た中で、最も素早い物……拘束に長けた物……
と、考え続けた私の頭に、以前迷宮で経験した、ある出来事が浮かんだ。私はそのイメージを実現する為に、sの現象を鮮明に思い出す。
魔法使い。神の敵。世界に仇なす人類にとっての害悪。殺し尽くさなければ。殺し尽くさなければ。私の役割は、それだけなのだから。
私は幼少期、何かとても、恐ろしい物を見た。青い、どこまでも青い何かだった。それは魔法使いのせいだと、当時の特務隊の人間から聞いた。それから、私は魔術の腕を磨いた。魔術に活かせる事は全て学んだ。
磨いた。磨いて磨いて磨き抜いた。やがて限界と呼べる場所に辿り着いた頃、私は人類の中で、最も強い魔術師になっていた。
お陰でコイツを殺せる!私は魔術を使い続け、目の前の魔法使いの心臓に、炎の刃を向ける。
「死ね!死んでしまえ!」
先程から様子がおかしい。反撃しようと試みなくなった。防御一辺倒になった事で、殺すのから一歩遠退いた。だがそれでも、コイツは私に勝てないだろう。生きて来た、戦いに命を賭して来た年月が違う。
「貴様が!貴様が生きているせいで!」
違う違う違う。何も違う。来ている服も経歴も、吐く息の色すら違う!コイツは人間なんて物じゃない!コイツはただの化物だ!コイツが生きているだけで、誰かがあの恐ろしい物を目にしてしまう!
「貴様らのせいで!魔法使いのせいで!」
殺してやる!殺してやる!コイツが生きていられる空間を、コイツが安心できる瞬間を無くしてやる!
「貴様ら魔法使いのせいで!私の家族は死んだんだ!」
次の瞬間、魔法使いの表情が変わった。寂しそうな、悲しそうな、見るだけで、私もそうなってしまうような、優しい微笑みだった。
「お前は……」
「……やっと、隙を見せてくれたね」
その言葉を聞いたのとほぼ同時に、私の右足が何かに引っ張られた。いや、引っ張られたのではなく、急にその空間に固定された。高速移動していたせいで、引っ張られたように感じたのだろう。私は右足の方を見ると、そこには、液体生物を模した形の、魔力の塊が浮いていた。
「これは……」
「液体生物……迷宮で見た怪物だよ。私の友達が、急に現れたソイツに足を取られた事があったんだ」
上手く行ってくれて良かった!一か八かだった!勘付かれたら避けられる程度の仕掛けでしかない。タイミングを外せなかった。相手が感情的になってくれたお陰で、何とか決める事ができた!
確かアリスさんだった。迷宮の中は注意深く進んでいたが、それでも見落としてしまったのか、液体生物が一体、アリスさんの足元に居たのだ。アリスさんはそれを見事に踏み付けてしまい、中々放そうとしない液体生物に悪戦苦闘していた。
この瞬間、私は今までに見た全ての中で、最も殺傷能力の高い武器を想像する。私の体を包んでいた魔力は私から分離し、その兵器を形作る。
「それは……銃か!?」
「残念!ほんのちょっと違うんだよね!」
魔銃。個人が保有し得る物に限れば、この世界における最強の兵器と呼べる物……私の敬愛する先輩が作り上げた作品だ。魔銃の改良は、冒険者ギルドのサポートの下、極めて迅速に進められた。アレンさんの頭の中にあった設計の多くは現実となり、改良も重ねられた。魔術が持つ属性の搭載、火力の増強、そして量産……その中で唯一、量産化に成功していない、最高の素材と最強の魔術を搭載した魔獣が存在する。
公表されてはいない。それはアレンという個人の手にあり続けるには、余りに強力過ぎるから。余りに強大過ぎるから。私はその兵器を魔力で作り出し、その名を叫ぶ。
「私達のとっておき!対決戦用殲滅型魔銃竜殺しだ!耐えれる物なら耐えてみな!」
「まだまだぁ!」
魔法で、外から干渉して来る魔術は無効化できる。それは度重なる検証で明らかになった事で、無効化できる範囲は、魔術による直接的な攻撃でけでなく、衝撃波や熱等、魔術の影響で発生した物までと、中々広い。
だが、この女性の魔術は何かおかしい。魔法で触れても炎が消えない。勿論、魔法で弾けば体までは届かないが、そこに意識を割くと、常に全身を魔法で覆うのが途切れ、その隙を炎の槍で貫かれる。通常の魔術と見掛けはそう変わらないせいで、常に攻撃を弾くか無視するかの二択を迫られる。ただでさえ魔力の操作で差が付いているのに、唯一のアドバンテージである魔法も攻略される。これは中々……
「死ね!」
「うわっ!危なっ!」
防御に手一杯だ。だけど、このまま防御していれば、きっと増援が来る。タイセイ先生の方の戦いが終わったのは感じたけど、そこかしこで戦闘が始まっているのを見るに、恐らく数人目覚め、交戦しているんだろう。タイセイ先生と……恐らくリョウコさんが対処してくれているらしいけど、それもいつまでもつか分からない。早く、早くしなければ。
「死ねっ!死ねっ!」
「そこまで言われたら傷付いちゃうんだけどなー!」
「元より殺すつもりだ!」
だけどこの人、全然隙が無い。常に攻撃魔術と防御魔術を出しっぱにしている上、身体強化魔術も重ね掛けして高速移動し続けている。狙いが定め辛いのに、向こうからは一方的に攻撃が飛んで来る。炎系統の魔術に強く出れる水系統の魔術も、威力の差か消し飛んでしまう。打つ手は無いかもな。
ならどうやって勝つか。魔法の防御をすり抜ける炎と、そうでない炎を見分ける。よく手元を見るんだ。よく手元を……
「遅い!」
速過ぎる!動きも魔術の発動も判断も、私の数倍速い!視界に捉える事はできても、次の瞬間には炎で視界が遮られる!魔法陣の違いを確認する余裕が無い!
動きを止めなければ。どうやって?この速さに対応し得る手段は何か無いか?私が今まで見て来た中で、最も素早い物……拘束に長けた物……
と、考え続けた私の頭に、以前迷宮で経験した、ある出来事が浮かんだ。私はそのイメージを実現する為に、sの現象を鮮明に思い出す。
魔法使い。神の敵。世界に仇なす人類にとっての害悪。殺し尽くさなければ。殺し尽くさなければ。私の役割は、それだけなのだから。
私は幼少期、何かとても、恐ろしい物を見た。青い、どこまでも青い何かだった。それは魔法使いのせいだと、当時の特務隊の人間から聞いた。それから、私は魔術の腕を磨いた。魔術に活かせる事は全て学んだ。
磨いた。磨いて磨いて磨き抜いた。やがて限界と呼べる場所に辿り着いた頃、私は人類の中で、最も強い魔術師になっていた。
お陰でコイツを殺せる!私は魔術を使い続け、目の前の魔法使いの心臓に、炎の刃を向ける。
「死ね!死んでしまえ!」
先程から様子がおかしい。反撃しようと試みなくなった。防御一辺倒になった事で、殺すのから一歩遠退いた。だがそれでも、コイツは私に勝てないだろう。生きて来た、戦いに命を賭して来た年月が違う。
「貴様が!貴様が生きているせいで!」
違う違う違う。何も違う。来ている服も経歴も、吐く息の色すら違う!コイツは人間なんて物じゃない!コイツはただの化物だ!コイツが生きているだけで、誰かがあの恐ろしい物を目にしてしまう!
「貴様らのせいで!魔法使いのせいで!」
殺してやる!殺してやる!コイツが生きていられる空間を、コイツが安心できる瞬間を無くしてやる!
「貴様ら魔法使いのせいで!私の家族は死んだんだ!」
次の瞬間、魔法使いの表情が変わった。寂しそうな、悲しそうな、見るだけで、私もそうなってしまうような、優しい微笑みだった。
「お前は……」
「……やっと、隙を見せてくれたね」
その言葉を聞いたのとほぼ同時に、私の右足が何かに引っ張られた。いや、引っ張られたのではなく、急にその空間に固定された。高速移動していたせいで、引っ張られたように感じたのだろう。私は右足の方を見ると、そこには、液体生物を模した形の、魔力の塊が浮いていた。
「これは……」
「液体生物……迷宮で見た怪物だよ。私の友達が、急に現れたソイツに足を取られた事があったんだ」
上手く行ってくれて良かった!一か八かだった!勘付かれたら避けられる程度の仕掛けでしかない。タイミングを外せなかった。相手が感情的になってくれたお陰で、何とか決める事ができた!
確かアリスさんだった。迷宮の中は注意深く進んでいたが、それでも見落としてしまったのか、液体生物が一体、アリスさんの足元に居たのだ。アリスさんはそれを見事に踏み付けてしまい、中々放そうとしない液体生物に悪戦苦闘していた。
この瞬間、私は今までに見た全ての中で、最も殺傷能力の高い武器を想像する。私の体を包んでいた魔力は私から分離し、その兵器を形作る。
「それは……銃か!?」
「残念!ほんのちょっと違うんだよね!」
魔銃。個人が保有し得る物に限れば、この世界における最強の兵器と呼べる物……私の敬愛する先輩が作り上げた作品だ。魔銃の改良は、冒険者ギルドのサポートの下、極めて迅速に進められた。アレンさんの頭の中にあった設計の多くは現実となり、改良も重ねられた。魔術が持つ属性の搭載、火力の増強、そして量産……その中で唯一、量産化に成功していない、最高の素材と最強の魔術を搭載した魔獣が存在する。
公表されてはいない。それはアレンという個人の手にあり続けるには、余りに強力過ぎるから。余りに強大過ぎるから。私はその兵器を魔力で作り出し、その名を叫ぶ。
「私達のとっておき!対決戦用殲滅型魔銃竜殺しだ!耐えれる物なら耐えてみな!」
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