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進章
進二十章 抗うと決意せし子供の力
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一瞬で物が粉微塵に解体される。深く息をする余裕すら持てない中、俺は敵への対処法を考えている。
魔術である以上、どんなに魔力効率を求めても魔力は消耗する。だが持久戦は無理だろうな。魔力量が多すぎる。俺の軽く三倍はあるだろう。俺は生来の魔力量が少ないから、総量を増やす努力もしていたんだがな。加え、軽く十分は魔術を出しっぱにしている筈だが、魔力量の変化も、勢いの弱まりも感じ取れない。恐ろしく魔力効率が良い魔術だ。俺が使う魔術も魔力の消耗を押さえる設計になっているが、まるで手も足も出ない。
コイツに勝つのは不可能だ。なら、どうにかコイツを一瞬退けて、後ろの部屋の結界を無理矢理解除する。強度は相当だが、破壊できない事も無いだろう。問題はその方法だ。
「スゲェ魔術だな!何の魔術だ!?」
「答える義理は……無い……」
相手の魔術でできる事の範囲が分からない以上、隙を作るのも難しい。コイツは油断も慢心もしないタイプの人間だろうし、どうした物か。
特務隊の性質が心底鬱陶しい。個人主義なのかと思えば集団として完成されているし、なら個々はそうでもないのかと言われればそんな事があろう筈も無い。構成員の役割や魔術、性格まで伏せられ、公式には名前すら出さない者も多い。加え、対個人や対小数に特化した魔術師が多いお陰で、今まで個人としても組織としても、敗北したとされる事件は一度も無いと来た。
改めて恐ろしい組織だ。正面からは勝てない。だが不意打ちなら勝てるかと聞かれても答えられない。無視もし辛い上一時的に退けるのも難儀とは……
いや。後ろ向きな事を考えるな。この作戦の要は俺だ。もしライラとタイセイおじさんが勝ったとしても、俺が死んだら意味が無い。確実に、全員が生きてこの都市を出る為には、俺がここで、皆を解放するしか無い。
「無駄だと何故分からない……」
「無駄でもやらないよかマシだろうさ!」
一先ずは、絶えず展開し続けている防御魔術を解除する。後は自分に掛けてある身体強化魔術だけで逃げ続ける。使用魔術を一つ無くす事で空いた余裕で、今出来得る最大の魔術を構築する。
賭けだ。魔術が完成すれば俺の勝ち。それまでに俺の意識が途切れれば相手の勝ち。身体強化魔術だけで、軌道が分からないこの魔術から逃げ続けられるかは分からない。だがやらなければ。やらなければ俺は死んで、この作戦が無駄になる。
「無謀だな……」
「分かった上でやってんだよこちとらなぁ!」
何かが肌を掠める。次の瞬間、その部分が切り裂かれ、血が溢れ出る。だが致命傷には至っていない。なら動ける。俺は身体強化魔術を重ね掛けし、廊下の壁や天井を使って、立体的に動き続ける。
だがそれでも、敵の攻撃は俺を捉え続ける。腕、足、胴、顔や頭に至るまで、次々と切り傷が刻まれる。飛びそうになる意識を体に縛り付けながら、俺は魔術を構築し続ける。
「成程……捨て身で魔術構築か……魔法陣を扱う以上は……対処は可能……」
「できるとでも!?」
魔法陣は確かに脆い。作る手間がある癖に、弱点を突かれれば簡単に壊れる。だが、やりようはあるんだ。敵の攻撃が俺の魔法陣を捉えたが、魔法陣は破壊されず、俺の手元に残った。
俺が使うのは基本六属性の魔術。だが少し癖がある。クロードル家直伝実戦魔術。複数の魔法陣を一つに纏める事で、魔法陣特有の弱点を覆い隠し、強度も上げ、同時に威力も上げる。習得に苦労したが、習得さえしてしまえれば、こんなに強い手札も少ないだろう。
「成程……クロードル家の者か……」
「さて何の事やらねぇ!」
今ので分かった。恐らくコイツには、俺の魔法陣を破壊する手段は無い。これなら安心して、回避一本に専念できる。これなら勝てる。これなら……
と、考えたのが間違いだった。次の瞬間、敵は自身とほぼ同じ大きさの円錐を作り出し、魔法陣諸共、俺の右肩を貫いた。俺はその場に膝を突き、魔法陣の作成を止めた。
「これで……終わりだな……死ね……」
敵はそう言うと、また同じように円錐を作り出し、俺に向かわせた。この攻撃は防げない。防御魔術も難無く壊せる魔術の、恐らく奥義のような技だろう。即座に作れる程度の盾で防げる道理が無い。
「だが、俺の勝ちだ」
俺は左腕に着けていた腕輪を敵に見せながら、魔術を発動させる。岩石の塊が出現し、敵が作り出した円錐を破壊しながら飛んで行く。だが、敵はそれを軽々と避けた。
「成程……魔法陣はデコイ……本命は……その指輪か……」
「魔法陣の同時展開はそう珍しくもない。だが、異なる媒体を利用した媒体魔術を同時展開は予想できなかっただろう?」
クロードル家の教えの真価は、複数の全く異なる魔術を同時に扱う事にある。媒体、属性、体系、その他全ての要素が全く異なる魔術でさえ、クロードル家の人間は同時に操れる。
『糸師』という名前から、使う魔術が糸である事は想像できた。糸ならば軽く、薄い為、質量と強度に優れた土系統の魔術であれば突き破れるだろうと考えての戦法……まあ、上手く行ってくれるかは賭けに出るしか無かった訳だが。
「だが……それももう使えんだろう……」
「ああ。だがそれでも、俺の勝ちだ。俺達の位置で気付かないか?」
もう一度、俺の勝利条件を確認しよう。俺の生存?違う。俺とライラとタイセイおじさん三人の生存?違う。俺の勝利条件はたった一つ。
「結界の部屋と一直線で結べるぜ?」
次の瞬間、鈍い音が響き、敵は膝から崩れ落ちた。そして、さっきまで敵が立っていた場所に居るのは……
「リョウコさん……」
「助かったわ。ありがとう」
世界最速の剣士だ。
魔術である以上、どんなに魔力効率を求めても魔力は消耗する。だが持久戦は無理だろうな。魔力量が多すぎる。俺の軽く三倍はあるだろう。俺は生来の魔力量が少ないから、総量を増やす努力もしていたんだがな。加え、軽く十分は魔術を出しっぱにしている筈だが、魔力量の変化も、勢いの弱まりも感じ取れない。恐ろしく魔力効率が良い魔術だ。俺が使う魔術も魔力の消耗を押さえる設計になっているが、まるで手も足も出ない。
コイツに勝つのは不可能だ。なら、どうにかコイツを一瞬退けて、後ろの部屋の結界を無理矢理解除する。強度は相当だが、破壊できない事も無いだろう。問題はその方法だ。
「スゲェ魔術だな!何の魔術だ!?」
「答える義理は……無い……」
相手の魔術でできる事の範囲が分からない以上、隙を作るのも難しい。コイツは油断も慢心もしないタイプの人間だろうし、どうした物か。
特務隊の性質が心底鬱陶しい。個人主義なのかと思えば集団として完成されているし、なら個々はそうでもないのかと言われればそんな事があろう筈も無い。構成員の役割や魔術、性格まで伏せられ、公式には名前すら出さない者も多い。加え、対個人や対小数に特化した魔術師が多いお陰で、今まで個人としても組織としても、敗北したとされる事件は一度も無いと来た。
改めて恐ろしい組織だ。正面からは勝てない。だが不意打ちなら勝てるかと聞かれても答えられない。無視もし辛い上一時的に退けるのも難儀とは……
いや。後ろ向きな事を考えるな。この作戦の要は俺だ。もしライラとタイセイおじさんが勝ったとしても、俺が死んだら意味が無い。確実に、全員が生きてこの都市を出る為には、俺がここで、皆を解放するしか無い。
「無駄だと何故分からない……」
「無駄でもやらないよかマシだろうさ!」
一先ずは、絶えず展開し続けている防御魔術を解除する。後は自分に掛けてある身体強化魔術だけで逃げ続ける。使用魔術を一つ無くす事で空いた余裕で、今出来得る最大の魔術を構築する。
賭けだ。魔術が完成すれば俺の勝ち。それまでに俺の意識が途切れれば相手の勝ち。身体強化魔術だけで、軌道が分からないこの魔術から逃げ続けられるかは分からない。だがやらなければ。やらなければ俺は死んで、この作戦が無駄になる。
「無謀だな……」
「分かった上でやってんだよこちとらなぁ!」
何かが肌を掠める。次の瞬間、その部分が切り裂かれ、血が溢れ出る。だが致命傷には至っていない。なら動ける。俺は身体強化魔術を重ね掛けし、廊下の壁や天井を使って、立体的に動き続ける。
だがそれでも、敵の攻撃は俺を捉え続ける。腕、足、胴、顔や頭に至るまで、次々と切り傷が刻まれる。飛びそうになる意識を体に縛り付けながら、俺は魔術を構築し続ける。
「成程……捨て身で魔術構築か……魔法陣を扱う以上は……対処は可能……」
「できるとでも!?」
魔法陣は確かに脆い。作る手間がある癖に、弱点を突かれれば簡単に壊れる。だが、やりようはあるんだ。敵の攻撃が俺の魔法陣を捉えたが、魔法陣は破壊されず、俺の手元に残った。
俺が使うのは基本六属性の魔術。だが少し癖がある。クロードル家直伝実戦魔術。複数の魔法陣を一つに纏める事で、魔法陣特有の弱点を覆い隠し、強度も上げ、同時に威力も上げる。習得に苦労したが、習得さえしてしまえれば、こんなに強い手札も少ないだろう。
「成程……クロードル家の者か……」
「さて何の事やらねぇ!」
今ので分かった。恐らくコイツには、俺の魔法陣を破壊する手段は無い。これなら安心して、回避一本に専念できる。これなら勝てる。これなら……
と、考えたのが間違いだった。次の瞬間、敵は自身とほぼ同じ大きさの円錐を作り出し、魔法陣諸共、俺の右肩を貫いた。俺はその場に膝を突き、魔法陣の作成を止めた。
「これで……終わりだな……死ね……」
敵はそう言うと、また同じように円錐を作り出し、俺に向かわせた。この攻撃は防げない。防御魔術も難無く壊せる魔術の、恐らく奥義のような技だろう。即座に作れる程度の盾で防げる道理が無い。
「だが、俺の勝ちだ」
俺は左腕に着けていた腕輪を敵に見せながら、魔術を発動させる。岩石の塊が出現し、敵が作り出した円錐を破壊しながら飛んで行く。だが、敵はそれを軽々と避けた。
「成程……魔法陣はデコイ……本命は……その指輪か……」
「魔法陣の同時展開はそう珍しくもない。だが、異なる媒体を利用した媒体魔術を同時展開は予想できなかっただろう?」
クロードル家の教えの真価は、複数の全く異なる魔術を同時に扱う事にある。媒体、属性、体系、その他全ての要素が全く異なる魔術でさえ、クロードル家の人間は同時に操れる。
『糸師』という名前から、使う魔術が糸である事は想像できた。糸ならば軽く、薄い為、質量と強度に優れた土系統の魔術であれば突き破れるだろうと考えての戦法……まあ、上手く行ってくれるかは賭けに出るしか無かった訳だが。
「だが……それももう使えんだろう……」
「ああ。だがそれでも、俺の勝ちだ。俺達の位置で気付かないか?」
もう一度、俺の勝利条件を確認しよう。俺の生存?違う。俺とライラとタイセイおじさん三人の生存?違う。俺の勝利条件はたった一つ。
「結界の部屋と一直線で結べるぜ?」
次の瞬間、鈍い音が響き、敵は膝から崩れ落ちた。そして、さっきまで敵が立っていた場所に居るのは……
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世界最速の剣士だ。
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