謎色の空と無色の魔女

暇神

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進章

進十七章 世界で最も残酷な処刑台

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 あれから十日。遂に、私の処刑の日がやって来た。私は両手両足を鎖で繋がれ、特務隊の頭と思われる、女性の魔術師に引っ張られている。
「さっさと歩け!」
「はいはい」
 私は外に立てられた処刑台、その上にある十字架に磔にされた。その周囲は、以前見たのと同じような雰囲気の、虚ろな目をした住人達が囲み、その外側を特務隊が守っている状態だ。アイクとタイセイ先生が助けに来るとしても、正面突破は無理だろうな。
「この者!ライラは!魔法を使う不浄の身でありながら、聖都に足を踏み入れた!これは死に値する罪である!」
「観光だとしても駄目?」
「無駄口を叩くな!」
 う~んこれは酷い。魔法使いにも観光する権利位はあると思うんだけど。まあ、そこら辺は仕方無いか。魔法使いは敵なのが、彼等にとっての常識だし。
 その後もつらつらと私の罪が読み上げられ、そして処刑の時となった。だが直ぐにはやらないようで、特務隊の魔術師の内一人が、私の目の前まで近付いて来た。
「まだ何かあるの?愛のキスなら大歓迎だけど」
「最後の仕上げだ」
 その魔術師は私の額に人差し指を当てて、そこに魔法陣を展開した。私の視界は一瞬暗転し、その次に現れた光景に、私は目を見張った。

 周囲の住民達の姿が、全てシスターやマリア、アレンさんのような、私の尊敬する人物に変わっていたのだ。

 成程。これはキツイ。頭では別の人間だと分かっていても、どうしても目から入って来る情報に抗えない。歴史上の魔法使い達が、魔女狩り中に一切抵抗しなかった理由が分かった。これは精神がやられてしまうだろう。
「では皆さん!この醜い魔法使いに、石を投げ付けるのです!」
 その合図と共に、住民達が私に石を投げ始める。私の体に硬く冷たい物がぶつかり、小さく傷が付く。それが身体中の至る場所に起こり、そこから血が流れ始める。
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
 ああもう止めてくれよ。皆はここには居ないし、シスターや村の皆は死んだ。涙の別れの後、最初に会う皆の顔がコレとか最悪だ。ああ止めてくれ。本当に。お願いだから止めてくれ。
「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」」」
 黙れ。その言葉は皆には言われたくないんだ。この街の住民になら兎も角、皆の顔をした何かにも言われたくない。悪趣味な魔術だ。吐き気がする。痛い。辛い。久々に涙が出そうだ。

「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」」」

 辛い。痛い。泣きそう。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
 ああでもなんでか、この処刑では死ねる気がしない。なんでだろ。ああそうか。こんな視界でも、捉えるべき物は見えてるからか。次の瞬間、私を縛っていた鎖は破壊され、私の体は、処刑台の十字架から落ちた。
「何者だ!」
「答える義理は無い!」
 特務隊の面々が、次々と倒れて行く。魔力が使える。それを確認した私は、直ぐに魔法を使用し、処刑をぶち壊しにしたその人の隣に立つ。
「タイセイ先生。お陰で助かりました」
「教え子を助けるのは、教師として当然だろう?」
 タイセイ先生が強いのは知っていたけど、不意打ちとは言え、市街地での対人戦に特化している特務隊を、この短時間で制圧できる実力まであったとは。正直信じられない。
 だが、それでも全員倒せた訳では無かったようだ。私が先程まで磔にされていた処刑台。その下に、いつか見た血液を操る魔術師と、特務隊のリーダーらしき魔術師が立っていた。リーダーの方は心底憎らしい顔で、血液を操る魔術師は心底愉快そうな顔で、私達を見ている。
「貴様ら……何をしたか分かっているのか……」
「教え子を助けた」「教師に助けられた」
 その言葉を聞いた男は、声を出して笑った。男はどこからか剣を取り出して、それを構えながら、隣の女性に話し掛けた。
「そりゃ傑作だ。おいメディア。俺はあの男の方をやる。お前は……」
「指図するんじゃない!」
 その声が聞こえたのと、私の目の前にリーダー格の魔術師が現れたのは、全くの同時の事だった。私は魔法で強化した体で、その攻撃を受け止めた。
「汚らわしい魔法使いが!女神様の名の下に誅殺してやる!」
「貴女みたいな美人に殺されるならそれも悪くないかもね!」
 だけどまあ、まだ死んでやるつもりは無い。とは言え、この人相手に正面から勝つのは無理だろう。どこかで不意を突かなければ。

「あ~あ。アイツは感情的でいけねぇなぁ」
「俺はああいう美人が、ああいう激しい面を見せるのも良いと思うがな」
「冗談。ああいうのは外から見るには良いが、いざ相手にすると疲れるぜ?」
 まあ、そうだろうな。俺もああいうのは疲れそうだ。やっぱ忍に会いたい。
 しかしコイツ、中々手強そうだな。実力はリーダー格の女とトントンといった所か。そして、魔術師には似つかわしくない二振りの剣……何が来るか分かった物じゃない。警戒した方が良さそうだ。
「勇者パーティーの魔術師と戦えるとは、俺も日頃の行いが良かったかな?」
「この悲惨な状況でよく言えるな?」
 だが困ったな。俺の魔術は、どうしても対魔獣、怪物に特化している。要するに、魔術師一人相手には、派手で大規模過ぎる。もしコイツが素早さに特化した魔術を使って来たら……
 いや。ここで悩むのはよそう。俺は杖を構え、無数の魔法陣を展開する。それを見た敵は、腰に差していた二振りの剣を抜いた。
「まあ良い!どうせ吹き飛んじまうんだからな!」
「そいつぁ最高だ!トコトンやろうぜ!」
 さて。対人と対魔獣。そのどっちが優れているのか、ここで白黒つけさせてもらおうか。
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