謎色の空と無色の魔女

暇神

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進章

進十四章 神がもたらした奇跡の力

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 その晩。私達は誰かに見つかるよりも早く、町の中心にある、見るも見事な大聖堂に向かった。もし聖女様が囚われ、教会で最も偉い人が居るとしたら、間違い無くここだ。まあ、居るのはそれだけじゃないだろうけど。
「どうする?門は閉じられてるぞ」
「ここ以外にも出入りできる所はある。虱潰しに行こう」
 暫く探し回った末、私達は鍵の掛かっていない出入口を見付けた。比較的人の行き来が多い場所らしいが、こればっかりはどうしようも無いだろう。私達はそこから大聖堂へ入り、リョウコさん達を探す。
「やっぱり地下かな?」
「あり得るが、無いだろうな」
 まあそうだよね。仮にも英雄である人物を、地下牢に幽閉するだなんて、そんなリスクは冒さないだろう。
 まあ詰まり、だだっ広いこの大聖堂の中を、人の目を避けながら探し回らなければならないという事だ。考えただけでも溜息が出る。いややるけどさ。それしか方法は無いんだけどさ。
「魔力は感じるか?」
「うん。でもこれは……結界っぽい」
「先ずはそこを目指すか」
 隠したい、或いは守りたい物がある場所は、結界を張ってそこを守るのが定石だ。侵入を防ぐか、侵入者を知らせるか……どちらにせよ、多少のリスクを負う価値はありそうだ。
 基本的に、教会は武力を持たない。特務隊のは聖都の組織であって教会の物ではないし、いざという時に自衛するだけで、僧侶や神父なんかは、相手を傷付ける術を持たない。とは言え、人を呼ばれればその限りではないので、誰かに見つからないようにしなければ。
 かなり時間が経ったような気がする。迷路のような大聖堂を歩き回った末、私達は結界の近くまで辿り着いた。
「侵入を防いだ上で、侵入者を検知する結界か」
「破壊できなくもないけど、人が集まって来るだろうね」
 昨晩のあの人も控えているだろうし、ここに入るのはナシだな。他を当たろう。
 しかし見事な結界だ。過不足が無いのは当然、地下まで巡らせてある。強度もかなりの物だろう。特務隊の中に、結界術に長けた魔術師が居るんだろう。素直に尊敬する。
「次はどうする?」
「神父長の部屋だな。何か見つかるだろう」
 ここで一番偉い人の部屋か。適当に歩き回るよりかは良いだろうな。もし神父長が一枚噛んでいるのなら、何かしら記録が残っているだろう。と言うより、昨晩のような異常な状態に関する情報が、この都市で一番偉い人物の耳に入っていない筈が無い。まあ、本人が隠そうとしているなら話は別だけど。
 神父長の部屋は、大聖堂の一番奥にある。神と会う時に使う、最上階の『謁見の間』と呼ばれる場所に、最も近い部屋らしい。この深夜だし、多分寝ているだろうな。そうなってくれてたら一番嬉しい。
 だけど、どうやらその期待は裏切られたようで、神父長の部屋には誰も居なかった。私達は怪しく思いながら、神父長の部屋の中を調べ始めた。
「神父長はどこに?こんな時間なのに……」
「分からんが、いつ戻って来るか分からない。用事はさっさと済ませよう」
 それもそうだな。先ずは神父長の日誌から……

『最近、金を出し渋っている所がある。少しシメてやろうか。』

 これが権力者の腐敗という奴なんだろう。碌な物じゃない。いやまあ、神父長も人って事なんだろう。うん。そう考えなければやってらんない。会ったら一発殴ってやりたい。
 とは言え、何かあるとしたらこの日誌だろう。流石に直接的な事は書かれてないだろうけど、切り口でも見つかれば良い。私はもう一枚ページを捲り、次の日の出来事を見る。
『特務隊が「話をしよう」だとか言って来た。協力はしないが、大聖堂の一部と使うのと、町を自由に出入りする権利をやった。』
 特務隊との繋がりは確定。だが、『話』とは?大聖堂の一部を使い、町の出入りを繰り返す必要がある用件とは、中々物騒だな。

『何やら動きがあったようだ。聖女様の部屋に結界が張られ、特務隊の連中以外の出入りが禁じられた。最近どうにもきな臭い。』
『とんでもない事だ。ここに書く事はできない。もしこの日誌を見た者が居たのなら、今直ぐこの町から逃げろ。』
『私はこの街を離れる必要がありそうだ。最後に、この街の地図を書き記す。これは私が使う魔術だ。大雑把になる事を許してほしい。』

 日誌は、次のページに書かれた聖都の地図で終わっていた。
 情報を整理しよう。先ず、神父長はこの件について関わっていない。これは特務隊の独断だ。それに加え、神父長が知らない、それも想定してすらいなかった事が起こっているらしい。恐らく、影響はこの都市全体に広がっている筈だ。
 しかし、神父長が聖都を離れているとは思わなかった。そういう話は新聞にも無かった。それに、神父長が聖都を離れるなんて、それこそ国が滅ぶような大災害が起こる時位だろう。神父長が聖都を離れるというのは、そういうレベルの事が起こるという事だ。
 これは不味い事になった。しかし同時に、リョウコさん達が聖女様と一緒に監禁されているであろう事も推測できる。早くあの結界をどうにかして、皆と聖女様を連れてこの街を……

「へえ。『糸師』から逃げ延びた餓鬼ってのは手前らかい?」

 その声が聞こえると同時に、部屋の中に風が入って来た。特務隊の魔術師だ。なら私が魔法を使える事も分かっているだろう。私は魔力を体の外へ押し出し、戦闘態勢に入る。
「良いねえそういうの大好きだ」
 先手必勝。ここは手足の骨を折って、さっさと逃げるのが最善。私は両手を広げて喜んでいる男の懐へ入り、がら空きの腹部に魔力を叩き込む。男は口から血を吐き出し、私の体に寄り掛かる。
 それと同時に、容易の想像がつく。これはこの男の戦い方なのだと。だが、体勢を崩した。早くアイクと一緒に逃げ……
「狙いは悪くねえ」
 瞬間、私の腕に痛みが走った。私が驚いてそこを見ると、何か赤黒い物が、私の腕を貫いているのが目に入った。私はそれを即座に抜き、魔法で傷を塞ぐ。
「ライラ!」
「アイク!早く逃げるよ!」
 私はアイクの体を掴み、そのままの勢いで神父長の部屋を蹴破りながら、廊下へ出た。するとそこには、昨晩の住民達と同じような雰囲気の神父やシスター達が道を塞いでいた。
「何なのこの人達!」
「ライラ!俺が退かす!あの窓から外へ……」
「逃がさんよ」
 ああもう面倒だ。恐らく、血液を操る類の魔術だ。さっきのは、私の服に付着した血液を操ったんだろう。なら貧血が弱点になる。持久戦ならこっちの有利。逃げ回れば良い。
「アイク!ちょっと無茶するよ!」
「させるかよ」
 男は血液の弾丸を作り、それを飛ばして来た。私は体勢を低くし、それを避けながら、聖職者達の足元を潜り抜ける。
「聖職者を盾にするか」
「罰当たりなのは招致の上だよ!」
 逃げるが勝ち。私は窓を壊しながら外へ出る。敵の魔術は、遠距離には向いていないらしい。血液を操り、形を作り、それを飛ばすという、三つの過程を挟む以上、遠距離攻撃には時間を使う。距離を取れ。追って来ても多少は楽に……
 と、考えたのが間違いだった。私の体は切り刻まれ、体中から血が噴き出た。何が起こったのか考えるより先に、私はアイクの懐に神父長の日誌を入れ、同時にアイクを蹴り飛ばした。

 霞む視界の中で捉えたのは、蝙蝠の羽を生やした、あの男の姿だった。


 こんにちは。暇神です。こうしてお会いするのは、少し久し振りですかね。
 さて。性懲りも無く今回も更新を忘れてしまった事を、この場を借りて謝りたく思います。いや本当に申し訳無い。楽しみにしてくださっていた方はガッカリしてしまったでしょうか。それでも、来週以降の話も読んでくだされば幸いです。
 さて。今後の展開について、少しお話致しましょう。敵に捕まってしまった魔法使い。彼女は聖都で起こっている事を、獄中から探り始めます。一方、街へ逃げる事ができた少年。彼は魔法使いに託された日誌を読み、そこに隠されたメッセージを紐解きながら、仲間達を助ける方法を模索します。果たして、白亜の聖都に隠された真実とは。そして、彼等は無事に、聖都を旅立つ事ができるのでしょうか。
 私はこの作品の他にも、いくつかの作品を投稿しております。そちらも興味があれば、ぜひ『暇神の登録コンテンツ』から読んでください。
 では、そろそろお別れ致しましょう。次に皆さんと会える日が来ない事を望むと同時に、皆さんと会える日を、心より楽しみにしております。
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