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進章
進十三章 白亜の街に住まう人形
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夜が明けた頃。私達は都市の端の城壁に寄り掛かって、体を休めていた。
「最悪……最悪の気分……」
「夜が明けたし、これからもっと追手が増えるだろうな」
あの後、私達は一晩中追い掛け回された。虚ろな目をした住人達が、家の中から、また路地裏から出て、その全員で追い回して来るのは、かなりのホラー展開だった。もう二度と体験したくない。日が昇り始めてから追って来なくなったけど、それでもやっぱり怖い。夢に出て来そう。
「どうする?皆居ない。それに加え、敵はこの都市の住人全てだ」
「多分騎士も特務隊の連中もだね」
何が起こっているのか、そして昨晩に何が起こったのか、皆目見当も付かない。リョウコさんとタイセイ先生の行方、リーダーとエディさんの安否、それに何より、何故私達が追われたのか。分からない事が多過ぎる。
昨晩の想像が当たっていたなんて思いたくないな。聖都魔術特務隊が動いている以上、そうとしか言い様が無い訳だけど。昨晩のアイツだけでも、今の私達で倒せるかどうか分からない。それに加え、この都市に居る騎士、住民、聖都のお偉いさん全員が敵だ。不味い事になった。
「幸い、渡されてたフードがある。これを被ってやり過ごすか?」
「このままじゃ見つかる。大通りに出て、掲示板だけ見て戻ろう」
なるべく人目は避けたい所だけど、こうなってしまった以上は情報が必要だ。状況を整理したい。私達はフードを深めに被って、大通りに向かった。
掲示板は確か、正門から真っ直ぐ進んだ広場にあった筈だ。見つかる可能性も高いけど、ここでじっとしている以上に危険な選択も無い。覚悟を決めろ。うん無理昨晩の光景が脳裏に浮かんじゃう。
「ライラ、大丈夫……じゃないな。ドブみたいな顔色になってるぞ」
「昨晩のトラウマが……」
「ほらしっかりしろ。掲示板見えたぞ」
もうさっさと用を済ませて、さっさと町の端まで戻ってしまおう。それが良い。私は少しふらつきながら、掲示板に貼り出された新聞を見た。しかし、そこには昨晩の事が、と言うより、勇者パーティーの一員であった筈のリョウコさんとタイセイ先生の来訪についてさえ、何も書かれていなかった。
これはどう考えても異常だ。この都市の中心となっている宗教において、魔王を倒した勇者とその仲間は、疑う余地すら無く英雄の筈だ。その来訪が新聞に書かれていないのは、異常としか言い表せない。
「ねえアイク。これ、どう思う」
「異常だな。だが考察の前に、さっさと退散するぞ。これ以上ここに留まるのは止めておくべきだ」
それもそうか。私達はフードを被ったまま、城壁の近くまで戻った。私達は手に入れた情報と、先程の町の様子を眺めた感想を整理する。
「異常なのは良い。そんなのは昨晩から分かってた。問題は、その裏だ。あの住民達、誰かを探している訳でも何かを探している訳でもなかった。それに、報酬も無しにあんな事……」
「あるよ。宗教における『赦し』は最大の報酬だ。人間、抱えた罪や後悔は必ずある。それら一切合切から解放するのが、宗教だ。それに、私はこの国の宗教について、多少調べてある。彼等が私達を『神敵』と見なしたなら……」
『神敵』とはその文字から取れる通り、神と敵対する者だ。この国の宗教では、その者達を殺した者は、死後、永遠の安寧を手に入れるとされている。真実だとは言い切れないが、この都市に住む人間にとって、この上無い動機になる事は間違い無い。
「成程。そう言えば、昨晩の住民の様子も変だったな」
「確かに。あれはどちらかと言えば、人形劇の人形のようだったよ」
思い返してみれば、彼等の目には生気が無く、動きはぎこちなく、単調だった。まるで、何かに身体を引っ張られているような印象だ。
「毒かな」
「魔術と考えるのが妥当だろうけど、あんな魔術聞いた事が……」
「いや、一応考えられる物はある。学園で習う六属性の魔術は、あくまで基本だからね。五属性の魔術よりも魔法に近い魔術という話なら、あの学校の書庫でも足りないレベルの量があるよ」
詰まり、いくらでも可能性はある。魔術は無限だ。魔法に等しい全能は叶わず、されど魔法に近しい万能……それが魔術だ。使い勝手が良いのは基本五属性だけど、何か一点に特化した魔術は、他にいくらでもある。まあ、だからこそ魔術師なんていう研究職があるんだけど。
「詰まり、『知らないだけであるかも』って事か?」
「そうだよ。まあ、断言できないから、もっと他の可能性もあるんだけど」
しかし困った事になった。情報も無ければ手札も無い。魔術であれば魔法で直接壊せるけど、あの人達からは魔力を感じなかった。魔術で操っているなら、術者と魔力の繋がりがある筈だ。やっぱり、魔術の線は薄そうかな。
「催眠術とか?集団催眠みたいなの、小説でよく読むし」
「実現性を考えろ。だけど魔術の線が薄い以上はな……やっぱ毒とかじゃないか?」
「どんな毒なのさ。まあでも、有り得そうではあるね」
「やっぱ今のナシ」
結局、私達が今持っている情報だけでは、腑に落ちるような考えが出なかった。だけど私達は、話し合いの末、一つの結論に辿り着いた。
『やってられっか。もう教会に直接殴り込んでやる』と。
「最悪……最悪の気分……」
「夜が明けたし、これからもっと追手が増えるだろうな」
あの後、私達は一晩中追い掛け回された。虚ろな目をした住人達が、家の中から、また路地裏から出て、その全員で追い回して来るのは、かなりのホラー展開だった。もう二度と体験したくない。日が昇り始めてから追って来なくなったけど、それでもやっぱり怖い。夢に出て来そう。
「どうする?皆居ない。それに加え、敵はこの都市の住人全てだ」
「多分騎士も特務隊の連中もだね」
何が起こっているのか、そして昨晩に何が起こったのか、皆目見当も付かない。リョウコさんとタイセイ先生の行方、リーダーとエディさんの安否、それに何より、何故私達が追われたのか。分からない事が多過ぎる。
昨晩の想像が当たっていたなんて思いたくないな。聖都魔術特務隊が動いている以上、そうとしか言い様が無い訳だけど。昨晩のアイツだけでも、今の私達で倒せるかどうか分からない。それに加え、この都市に居る騎士、住民、聖都のお偉いさん全員が敵だ。不味い事になった。
「幸い、渡されてたフードがある。これを被ってやり過ごすか?」
「このままじゃ見つかる。大通りに出て、掲示板だけ見て戻ろう」
なるべく人目は避けたい所だけど、こうなってしまった以上は情報が必要だ。状況を整理したい。私達はフードを深めに被って、大通りに向かった。
掲示板は確か、正門から真っ直ぐ進んだ広場にあった筈だ。見つかる可能性も高いけど、ここでじっとしている以上に危険な選択も無い。覚悟を決めろ。うん無理昨晩の光景が脳裏に浮かんじゃう。
「ライラ、大丈夫……じゃないな。ドブみたいな顔色になってるぞ」
「昨晩のトラウマが……」
「ほらしっかりしろ。掲示板見えたぞ」
もうさっさと用を済ませて、さっさと町の端まで戻ってしまおう。それが良い。私は少しふらつきながら、掲示板に貼り出された新聞を見た。しかし、そこには昨晩の事が、と言うより、勇者パーティーの一員であった筈のリョウコさんとタイセイ先生の来訪についてさえ、何も書かれていなかった。
これはどう考えても異常だ。この都市の中心となっている宗教において、魔王を倒した勇者とその仲間は、疑う余地すら無く英雄の筈だ。その来訪が新聞に書かれていないのは、異常としか言い表せない。
「ねえアイク。これ、どう思う」
「異常だな。だが考察の前に、さっさと退散するぞ。これ以上ここに留まるのは止めておくべきだ」
それもそうか。私達はフードを被ったまま、城壁の近くまで戻った。私達は手に入れた情報と、先程の町の様子を眺めた感想を整理する。
「異常なのは良い。そんなのは昨晩から分かってた。問題は、その裏だ。あの住民達、誰かを探している訳でも何かを探している訳でもなかった。それに、報酬も無しにあんな事……」
「あるよ。宗教における『赦し』は最大の報酬だ。人間、抱えた罪や後悔は必ずある。それら一切合切から解放するのが、宗教だ。それに、私はこの国の宗教について、多少調べてある。彼等が私達を『神敵』と見なしたなら……」
『神敵』とはその文字から取れる通り、神と敵対する者だ。この国の宗教では、その者達を殺した者は、死後、永遠の安寧を手に入れるとされている。真実だとは言い切れないが、この都市に住む人間にとって、この上無い動機になる事は間違い無い。
「成程。そう言えば、昨晩の住民の様子も変だったな」
「確かに。あれはどちらかと言えば、人形劇の人形のようだったよ」
思い返してみれば、彼等の目には生気が無く、動きはぎこちなく、単調だった。まるで、何かに身体を引っ張られているような印象だ。
「毒かな」
「魔術と考えるのが妥当だろうけど、あんな魔術聞いた事が……」
「いや、一応考えられる物はある。学園で習う六属性の魔術は、あくまで基本だからね。五属性の魔術よりも魔法に近い魔術という話なら、あの学校の書庫でも足りないレベルの量があるよ」
詰まり、いくらでも可能性はある。魔術は無限だ。魔法に等しい全能は叶わず、されど魔法に近しい万能……それが魔術だ。使い勝手が良いのは基本五属性だけど、何か一点に特化した魔術は、他にいくらでもある。まあ、だからこそ魔術師なんていう研究職があるんだけど。
「詰まり、『知らないだけであるかも』って事か?」
「そうだよ。まあ、断言できないから、もっと他の可能性もあるんだけど」
しかし困った事になった。情報も無ければ手札も無い。魔術であれば魔法で直接壊せるけど、あの人達からは魔力を感じなかった。魔術で操っているなら、術者と魔力の繋がりがある筈だ。やっぱり、魔術の線は薄そうかな。
「催眠術とか?集団催眠みたいなの、小説でよく読むし」
「実現性を考えろ。だけど魔術の線が薄い以上はな……やっぱ毒とかじゃないか?」
「どんな毒なのさ。まあでも、有り得そうではあるね」
「やっぱ今のナシ」
結局、私達が今持っている情報だけでは、腑に落ちるような考えが出なかった。だけど私達は、話し合いの末、一つの結論に辿り着いた。
『やってられっか。もう教会に直接殴り込んでやる』と。
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