58 / 102
進章
進十一章 世界で最も宗教的な都市
しおりを挟む
三週間後。私達はようやく、メイデが見えて来た。因みに、旅に慣れていないアイクは、一週間経った辺りでダウンしていた。
「馬車の旅って、結構体ガタガタになる物なんだな……」
「慣れだよアイク」
「俺の若い頃を見ているようだ……」
「リーダーにもこういう経験あったんだ」
しかし、私達はメイデの町に入る前に、少し寄り道する事にしていたようだ。リーダーは、町の手前の街道で馬車を止めると、私とアイクさんに服を渡して来た。
「これは?」
「アイク、お前は貴族だ。自衛はできるだろうが、揉め事は避けたいからな。市民に紛れるのも重要だ。ライラ、お前も有名人だしな」
「分かったよ」「成程」
こういう服も久し振りに感じる。私は森の茂みに隠れて、懐かしい雰囲気の服に着替える。それでも、私が昔着ていた服よりも綺麗な物なんだけど。ここは金持ちの町だしな。これ位が丁度良いんだろう。
着替えた後、私は皆と合流した。どうやらアイクは着替えるのが早かったようで、私よりも早く、馬車に乗っていた。
「早いね。着替えるの」
「制服より数段楽だしな」
「似合ってるわよライラちゃん」
「アイクもな」
メイデの町は兵器を持たない。平和を掲げる都市だからだ。その代わり、魔物を含めた外部からの攻撃に備え、協力な結界が町を覆うドーム状に張られている。外からの物理、魔力攻撃を防ぎ、魔物からは町の姿そのものを隠す結界……『女神の祝福』と呼ばれるこの結界は、この国が始まる以前、神話の時代から、一度も壊された事が無いらしい。
しかし、完全に閉ざされている町という訳でもなく、一般の人間であれば、身分証の提示だけで入る事ができる。私達は白亜の壁に囲まれた都市に入り、その光景に驚く。
「これ、王都よりも栄えてるんじゃないか?」
「流石は聖都……白い」
兎に角白い。綺麗。あとなんか金色の装飾が施されている。煌びやかな訳でも華がある訳でもないが、兎に角綺麗だ。この建物一軒建てるのに、一体いくら使うんだろう。
しかし、私達は観光に来た訳じゃない。リーダーとエディさんは取引、リョウコさんとタイセイ先生は教会へ、私とアイクは買い出しに出る事になった。
「買う物のメモは渡しておくから、頼んだぞ」
「分かった。任せてよ」
「アイク、ライラをよく見ておいてくれ」
「分かりましたよリーダーさん」
お?なんだその言い方。まるで私が言う事を聞かない餓鬼のようじゃないか。まあ実際そうだろうけどさ。一応一人前のレディという奴な筈だけどなあ私。
とは言え、愚痴を言っても始まらない。私達は指定されていた商店の方へ向かい、メモに書かれていた品を買う。
「干し肉を袋一つ分、パンを袋二つ分、ピクルスを瓶で……何個だって?」
「瓶四つ分だ。お願いします」
「分かったよお二人さん」
店主はそう答えながら、注文された分の品物に加え、それ以外の物も手に取った。店主はそれを私達に渡すが、値段は注文された分だけだった。
「これは……」
「坊主も嬢ちゃんもかわいいから、おまけだ」
「ありがとうございます」
いや、これは少し違うな。私は代金を支払い、品物を受け取ろうとするアイクの腕を掴み、「ちょっと待って」と制止した。
「何だ。厚意はありがたく受け取る物だぞ」
「ねえ店主。このおまけの品、少し見ても良い?」
「え?ああ……」
私は袋を開き、中に仕込まれていた魔道具を取り外す。それを店主の目の前に突き付けると、店主の顔は少し青ざめた。だけど、アイクはこれが何か理解していないようで、首を少し傾げた。
「なんだそれ」
「盗聴器だよ。ここまで小型だと、結構良い値段したんじゃない?」
「……ああ……一軒家が買える値だよ」
盗聴器を仕掛けて何をするかなんて決まってる。多分、相手が貴族の子供だからだろうな。動きの癖やら細かな所作やらでバレたのだろう。私は兎も角、アイクは貴族の跡取りとして生まれた人間だし、当然だろう。
しかしなんとまあ、良い物を使っている。アレンさんの実家でも中々お目に掛かれない程の品だぞコレ。余程儲かってるか、伝手があるんだろうな。私は手の中でそれを転がしながら、店主に話し掛ける。
「客に渡す商品の中に、こんな高価な物を置いておくなんて、不用心ですね」
「は、はい……済みません」
「他にも何か入ってるといけない。おまけは受け取らないでおきますよ」
私はカウンターに魔道具を置き、注文した分の品だけ受け取ってから、店の出口へ向かう。しかし店主は、私達の事を「ちょっと待ってください!」と呼び止めた。
「何ですか?」
「いや今日は、『お客様感謝デー』だって忘れてて……ああつまり……三割引きだったんだ!その分のお釣りですよ!どうぞどうぞ」
アイクは私に、目で『大丈夫か』と聞いて来る。見る限り、何も仕掛けは無いらしい。これなら良いだろう。私は店主から『お釣り』を受け取って、店を出た。
「申し訳ございませんが、聖女様は面会謝絶となっております」
教会に向かった私達は、早速出鼻を挫かれた。しかしこれがおかしい事位は私達にも分かる。私は神父に詰め寄り、「どういう事?」と問い詰める。
「どうも何も、言葉のままでございます。現在聖女様は病に臥せっており、誰かと話ができる状態ではないのです」
「それこそおかしい話だ。忍は病気の類も、たちどころに治せた筈だ」
「申し訳ございません」
この人じゃ埒が明かない。向こうに渡ったら、次戻って来れるのがいつになるのかも分からない。行くなら三人揃った状態でなければ。
「詳しく説明してちょうだい。仲間が病気なのに何も連絡無しじゃ、納得できないのよ」
「そう言われましても……」
その時だった。横から扉が開く音が聞こえたと同時に、私の口を何かが塞いだ。薬か何かを使われたのだろう。遠のく意識の中で見えたのは、教会を飛び出して行く大聖と、慌てふためく聖職者、そして一人の、黒い服を着た女性だった。
「馬車の旅って、結構体ガタガタになる物なんだな……」
「慣れだよアイク」
「俺の若い頃を見ているようだ……」
「リーダーにもこういう経験あったんだ」
しかし、私達はメイデの町に入る前に、少し寄り道する事にしていたようだ。リーダーは、町の手前の街道で馬車を止めると、私とアイクさんに服を渡して来た。
「これは?」
「アイク、お前は貴族だ。自衛はできるだろうが、揉め事は避けたいからな。市民に紛れるのも重要だ。ライラ、お前も有名人だしな」
「分かったよ」「成程」
こういう服も久し振りに感じる。私は森の茂みに隠れて、懐かしい雰囲気の服に着替える。それでも、私が昔着ていた服よりも綺麗な物なんだけど。ここは金持ちの町だしな。これ位が丁度良いんだろう。
着替えた後、私は皆と合流した。どうやらアイクは着替えるのが早かったようで、私よりも早く、馬車に乗っていた。
「早いね。着替えるの」
「制服より数段楽だしな」
「似合ってるわよライラちゃん」
「アイクもな」
メイデの町は兵器を持たない。平和を掲げる都市だからだ。その代わり、魔物を含めた外部からの攻撃に備え、協力な結界が町を覆うドーム状に張られている。外からの物理、魔力攻撃を防ぎ、魔物からは町の姿そのものを隠す結界……『女神の祝福』と呼ばれるこの結界は、この国が始まる以前、神話の時代から、一度も壊された事が無いらしい。
しかし、完全に閉ざされている町という訳でもなく、一般の人間であれば、身分証の提示だけで入る事ができる。私達は白亜の壁に囲まれた都市に入り、その光景に驚く。
「これ、王都よりも栄えてるんじゃないか?」
「流石は聖都……白い」
兎に角白い。綺麗。あとなんか金色の装飾が施されている。煌びやかな訳でも華がある訳でもないが、兎に角綺麗だ。この建物一軒建てるのに、一体いくら使うんだろう。
しかし、私達は観光に来た訳じゃない。リーダーとエディさんは取引、リョウコさんとタイセイ先生は教会へ、私とアイクは買い出しに出る事になった。
「買う物のメモは渡しておくから、頼んだぞ」
「分かった。任せてよ」
「アイク、ライラをよく見ておいてくれ」
「分かりましたよリーダーさん」
お?なんだその言い方。まるで私が言う事を聞かない餓鬼のようじゃないか。まあ実際そうだろうけどさ。一応一人前のレディという奴な筈だけどなあ私。
とは言え、愚痴を言っても始まらない。私達は指定されていた商店の方へ向かい、メモに書かれていた品を買う。
「干し肉を袋一つ分、パンを袋二つ分、ピクルスを瓶で……何個だって?」
「瓶四つ分だ。お願いします」
「分かったよお二人さん」
店主はそう答えながら、注文された分の品物に加え、それ以外の物も手に取った。店主はそれを私達に渡すが、値段は注文された分だけだった。
「これは……」
「坊主も嬢ちゃんもかわいいから、おまけだ」
「ありがとうございます」
いや、これは少し違うな。私は代金を支払い、品物を受け取ろうとするアイクの腕を掴み、「ちょっと待って」と制止した。
「何だ。厚意はありがたく受け取る物だぞ」
「ねえ店主。このおまけの品、少し見ても良い?」
「え?ああ……」
私は袋を開き、中に仕込まれていた魔道具を取り外す。それを店主の目の前に突き付けると、店主の顔は少し青ざめた。だけど、アイクはこれが何か理解していないようで、首を少し傾げた。
「なんだそれ」
「盗聴器だよ。ここまで小型だと、結構良い値段したんじゃない?」
「……ああ……一軒家が買える値だよ」
盗聴器を仕掛けて何をするかなんて決まってる。多分、相手が貴族の子供だからだろうな。動きの癖やら細かな所作やらでバレたのだろう。私は兎も角、アイクは貴族の跡取りとして生まれた人間だし、当然だろう。
しかしなんとまあ、良い物を使っている。アレンさんの実家でも中々お目に掛かれない程の品だぞコレ。余程儲かってるか、伝手があるんだろうな。私は手の中でそれを転がしながら、店主に話し掛ける。
「客に渡す商品の中に、こんな高価な物を置いておくなんて、不用心ですね」
「は、はい……済みません」
「他にも何か入ってるといけない。おまけは受け取らないでおきますよ」
私はカウンターに魔道具を置き、注文した分の品だけ受け取ってから、店の出口へ向かう。しかし店主は、私達の事を「ちょっと待ってください!」と呼び止めた。
「何ですか?」
「いや今日は、『お客様感謝デー』だって忘れてて……ああつまり……三割引きだったんだ!その分のお釣りですよ!どうぞどうぞ」
アイクは私に、目で『大丈夫か』と聞いて来る。見る限り、何も仕掛けは無いらしい。これなら良いだろう。私は店主から『お釣り』を受け取って、店を出た。
「申し訳ございませんが、聖女様は面会謝絶となっております」
教会に向かった私達は、早速出鼻を挫かれた。しかしこれがおかしい事位は私達にも分かる。私は神父に詰め寄り、「どういう事?」と問い詰める。
「どうも何も、言葉のままでございます。現在聖女様は病に臥せっており、誰かと話ができる状態ではないのです」
「それこそおかしい話だ。忍は病気の類も、たちどころに治せた筈だ」
「申し訳ございません」
この人じゃ埒が明かない。向こうに渡ったら、次戻って来れるのがいつになるのかも分からない。行くなら三人揃った状態でなければ。
「詳しく説明してちょうだい。仲間が病気なのに何も連絡無しじゃ、納得できないのよ」
「そう言われましても……」
その時だった。横から扉が開く音が聞こえたと同時に、私の口を何かが塞いだ。薬か何かを使われたのだろう。遠のく意識の中で見えたのは、教会を飛び出して行く大聖と、慌てふためく聖職者、そして一人の、黒い服を着た女性だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

魔法少女に就職希望!
浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。
そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。
コンセプトは20代でも魔法少女になりたい!
完結しました
…
ファンタジー
※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
思想で溢れたメモリー
やみくも
ファンタジー
幼少期に親が亡くなり、とある組織に拾われ未成年時代を過ごした「威風曖人亅
約5000年前に起きた世界史に残る大きな出来事の真相を探る組織のトップの依頼を受け、時空の歪みを調査中に曖人は見知らぬ土地へと飛ばされてしまった。
???「望む世界が違うから、争いは絶えないんだよ…。」
思想に正解なんて無い。
その想いは、個人の価値観なのだから…
思想=強さの譲れない正義のぶつかり合いが今、開戦する。
補足:設定がややこしくなるので年代は明かしませんが、遠い未来の話が舞台という事を頭の片隅に置いておいて下さい。
21世紀では無いです。
※ダラダラやっていますが、進める意志はあります。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる