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進章
進九章 世界で一人だけの友の証
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アレンさんから渡された指輪を装着すると、少し妙な感覚に襲われた。なんか、乗り物よりした時によく似ている。眩暈を起こした私とマリアは、地面に膝を突いた。
「何ですのこれ……うぇ……」
「気分悪い……」
「やっぱり装着時の負荷はどうしようも無いか」
おいアレンさん。それは装着前に言ってくれ。せめて備える時間をくれ。まあ、過ぎた事は仕方が無い。私は立ち上がり、少し深呼吸する。
「一体何なんですかこれ。魔道具……にしては魔力を感じませんし」
「まあ、定義としては魔道具ではあるけど、それは使用者が魔力を流す事で効果を発揮するんだ。さ、やってみて」
言われた通りに、私は魔力を指輪に流す。私が着けた指輪『サルフォン』は変形し、両手を覆う手甲となった。マリアの方を見ると、首元から胸部に掛けて、鎧が形成されていた。どうやら、私達専用の魔道具らしい。
「これは……もしかして霊銀を使ってるんですか?」
「流石はお金持ちですわね。これ、下手したら家具付きの一軒家が買えますわよ?」
「僕は今年で卒業しちゃうからね。置き土産さ。霊銀だから軽い上に丈夫だし、熱にも強い。ついでに通信魔術も備え付けてある。魔力を流しながら念じるだけで使えるよ。有効半径は、この王都をすっぽり覆える位だよ」
成程。じゃあ早速やってみよう。私は魔力を魔道具に流しながら、頭の中で文を思い浮かべる。
『マリア、聞こえる?』
『大丈夫ですわ。内緒話に使えますわね』
ほう。これは中々便利な道具だ。通信魔術は便利な反面、術が複雑だから、こういうのがあると便利なのだ。通信魔術が込められた魔道具は便利だけど、その代わり凄く高いんだよな。それがタダで貰えた。しかも霊銀。とんでも価値があるのは明白だ。いざとなれば……
「あ、どこかに売ったら呪うからね」
「「はい」」
おお怖い怖い。アレンさんは器用だし、命を奪えるレベルの呪いを簡単に使えそうで怖いんだよな。それに加え、魔銃を使えば、殺したのがアレンさんとは特定されない。この世のどんな脅しよりも現実味がある。売るのは無理だ。止めておこう。私達は小屋に戻る途中で、今後の話を始めた。
「ドラグナーの改良の様子はどう?」
「速度がどうにも上がらないんですよね。もうボディの形状を変えるしか……」
「私の方でも頑張ってますわ。でも、これ以上は安全面が……」
やっぱり、この研究会は落ち着く。私は次の魔法陣の事を考えながら、少しだけ口角を上げた。
その晩。私はベッドで右手の小指に嵌めたサルフォンを撫でながら、マリアと雑談していた。眠れなかった。目を閉じたまま、私は頭の中で話をする。
『マリア、一つ相談があるんだ』
『何ですの?私に協力できる事でしたら、何でも言ってくださいまし』
良い子だ天使みたい。その言葉は伝わっていたようで、マリアは『照れますわ』と伝えて来る。ちょっと気恥ずかしいな。まあ良いか。
『もしさ、大切な人が居なくなるとして、マリアは止める?』
『止めますわね』
『その人がやりたい事があったら、手伝うよね?』
『勿論』
『その末に、大切な人が居なくなるとしても?』
私の問いに、マリアは暫く黙ってしまった。私も、この問いを他人に聞くのは意地悪で、怠惰だと思う。この問いの結論は、私の一生を左右する物だ。それを他人に聞くのは、きっと怠惰だ。
躊躇いはある。こんな事をマリアに聞くのは、勿論躊躇う。きっと困らせてしまう。私は済まなく思いながら、それでも答えを待つ。その答えは、思っていたよりかは早く帰って来た。
『人によりますわね』
その言葉に、私は少し驚いてしまった。マリアは今まで、人によって対応を変える事が少なかったからだ。それは家柄とか実力とかもそうだけど、それ以上に、マリアの性格から来る物だ。私は少し信じられなくて、『なんで?』と、声にも出した。
『私にとっての他人の価値は、大きくばらつく物ですわ。だから、一概にどうするもこうするも言えませんわ』
『じゃあ、マリアにとっての、一番大切な人が相手だったら?』
もう一度、沈黙。そして次に頭の中に響いた声は、できれば気付いてほしくなかった事を言った。
『何か、あったんだね』
『え?』
目を見開いた。それでも頭の中を必死に隠し、なんとかリョウコさんとタイセイ先生の事が、マリアに伝わらないようにする。マリアの声は、少しいつもの雰囲気と違っているようだった。
『前、迷宮に行った一件からだよね?』
『やっぱり、マリアは凄いよね』
『何年親友をやっていたと思っていますの?』
そうだよね。うん。そりゃそうだ。私は微かな微笑みを浮かべながら、続ける。
『答えてよ。どうするの?』
『ライラは、そういう選択を迫られてるんでしょう?その答えは、きっとライラ自身で決めるべき事だよ』
『答えてよ』
『ライラ、その問いには、今答えてるよ』
「え?」と、声を漏らした。理解できなかった。その言葉の意味が理解できなかった。もし、自分にとって一番大切な人が消えるかも知れない時、どうするかという問いへの答えが、この問答だと?理解できないままでいる私に構わず、マリアは言葉を発する。
『だって、この問いに答えたら、きっとライラは消えてしまうのでしょう?』
やっと、意味が分かった。私はその言葉を自分の中で咀嚼し、飲み込み、小さく笑みを浮かべる。そうだね。それが『答え』だ。私は小さく「そうだね」と呟いた後、ゆっくり目を閉じた。
『ありがとう。お休み』
『はい。お休み、ですわ』
その次の週末。ライラとアイクさんが、学校から姿を消した。私はベッドの上で目元を腕で隠しながら、小さく呟いた。
「隠すなら隠すで、もっとしっかり隠してよ……バカライラ」
私はベッドに小さな跡を残し、大きな後悔を胸に仕舞った。
「何ですのこれ……うぇ……」
「気分悪い……」
「やっぱり装着時の負荷はどうしようも無いか」
おいアレンさん。それは装着前に言ってくれ。せめて備える時間をくれ。まあ、過ぎた事は仕方が無い。私は立ち上がり、少し深呼吸する。
「一体何なんですかこれ。魔道具……にしては魔力を感じませんし」
「まあ、定義としては魔道具ではあるけど、それは使用者が魔力を流す事で効果を発揮するんだ。さ、やってみて」
言われた通りに、私は魔力を指輪に流す。私が着けた指輪『サルフォン』は変形し、両手を覆う手甲となった。マリアの方を見ると、首元から胸部に掛けて、鎧が形成されていた。どうやら、私達専用の魔道具らしい。
「これは……もしかして霊銀を使ってるんですか?」
「流石はお金持ちですわね。これ、下手したら家具付きの一軒家が買えますわよ?」
「僕は今年で卒業しちゃうからね。置き土産さ。霊銀だから軽い上に丈夫だし、熱にも強い。ついでに通信魔術も備え付けてある。魔力を流しながら念じるだけで使えるよ。有効半径は、この王都をすっぽり覆える位だよ」
成程。じゃあ早速やってみよう。私は魔力を魔道具に流しながら、頭の中で文を思い浮かべる。
『マリア、聞こえる?』
『大丈夫ですわ。内緒話に使えますわね』
ほう。これは中々便利な道具だ。通信魔術は便利な反面、術が複雑だから、こういうのがあると便利なのだ。通信魔術が込められた魔道具は便利だけど、その代わり凄く高いんだよな。それがタダで貰えた。しかも霊銀。とんでも価値があるのは明白だ。いざとなれば……
「あ、どこかに売ったら呪うからね」
「「はい」」
おお怖い怖い。アレンさんは器用だし、命を奪えるレベルの呪いを簡単に使えそうで怖いんだよな。それに加え、魔銃を使えば、殺したのがアレンさんとは特定されない。この世のどんな脅しよりも現実味がある。売るのは無理だ。止めておこう。私達は小屋に戻る途中で、今後の話を始めた。
「ドラグナーの改良の様子はどう?」
「速度がどうにも上がらないんですよね。もうボディの形状を変えるしか……」
「私の方でも頑張ってますわ。でも、これ以上は安全面が……」
やっぱり、この研究会は落ち着く。私は次の魔法陣の事を考えながら、少しだけ口角を上げた。
その晩。私はベッドで右手の小指に嵌めたサルフォンを撫でながら、マリアと雑談していた。眠れなかった。目を閉じたまま、私は頭の中で話をする。
『マリア、一つ相談があるんだ』
『何ですの?私に協力できる事でしたら、何でも言ってくださいまし』
良い子だ天使みたい。その言葉は伝わっていたようで、マリアは『照れますわ』と伝えて来る。ちょっと気恥ずかしいな。まあ良いか。
『もしさ、大切な人が居なくなるとして、マリアは止める?』
『止めますわね』
『その人がやりたい事があったら、手伝うよね?』
『勿論』
『その末に、大切な人が居なくなるとしても?』
私の問いに、マリアは暫く黙ってしまった。私も、この問いを他人に聞くのは意地悪で、怠惰だと思う。この問いの結論は、私の一生を左右する物だ。それを他人に聞くのは、きっと怠惰だ。
躊躇いはある。こんな事をマリアに聞くのは、勿論躊躇う。きっと困らせてしまう。私は済まなく思いながら、それでも答えを待つ。その答えは、思っていたよりかは早く帰って来た。
『人によりますわね』
その言葉に、私は少し驚いてしまった。マリアは今まで、人によって対応を変える事が少なかったからだ。それは家柄とか実力とかもそうだけど、それ以上に、マリアの性格から来る物だ。私は少し信じられなくて、『なんで?』と、声にも出した。
『私にとっての他人の価値は、大きくばらつく物ですわ。だから、一概にどうするもこうするも言えませんわ』
『じゃあ、マリアにとっての、一番大切な人が相手だったら?』
もう一度、沈黙。そして次に頭の中に響いた声は、できれば気付いてほしくなかった事を言った。
『何か、あったんだね』
『え?』
目を見開いた。それでも頭の中を必死に隠し、なんとかリョウコさんとタイセイ先生の事が、マリアに伝わらないようにする。マリアの声は、少しいつもの雰囲気と違っているようだった。
『前、迷宮に行った一件からだよね?』
『やっぱり、マリアは凄いよね』
『何年親友をやっていたと思っていますの?』
そうだよね。うん。そりゃそうだ。私は微かな微笑みを浮かべながら、続ける。
『答えてよ。どうするの?』
『ライラは、そういう選択を迫られてるんでしょう?その答えは、きっとライラ自身で決めるべき事だよ』
『答えてよ』
『ライラ、その問いには、今答えてるよ』
「え?」と、声を漏らした。理解できなかった。その言葉の意味が理解できなかった。もし、自分にとって一番大切な人が消えるかも知れない時、どうするかという問いへの答えが、この問答だと?理解できないままでいる私に構わず、マリアは言葉を発する。
『だって、この問いに答えたら、きっとライラは消えてしまうのでしょう?』
やっと、意味が分かった。私はその言葉を自分の中で咀嚼し、飲み込み、小さく笑みを浮かべる。そうだね。それが『答え』だ。私は小さく「そうだね」と呟いた後、ゆっくり目を閉じた。
『ありがとう。お休み』
『はい。お休み、ですわ』
その次の週末。ライラとアイクさんが、学校から姿を消した。私はベッドの上で目元を腕で隠しながら、小さく呟いた。
「隠すなら隠すで、もっとしっかり隠してよ……バカライラ」
私はベッドに小さな跡を残し、大きな後悔を胸に仕舞った。
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