56 / 102
進章
進九章 世界で一人だけの友の証
しおりを挟む
アレンさんから渡された指輪を装着すると、少し妙な感覚に襲われた。なんか、乗り物よりした時によく似ている。眩暈を起こした私とマリアは、地面に膝を突いた。
「何ですのこれ……うぇ……」
「気分悪い……」
「やっぱり装着時の負荷はどうしようも無いか」
おいアレンさん。それは装着前に言ってくれ。せめて備える時間をくれ。まあ、過ぎた事は仕方が無い。私は立ち上がり、少し深呼吸する。
「一体何なんですかこれ。魔道具……にしては魔力を感じませんし」
「まあ、定義としては魔道具ではあるけど、それは使用者が魔力を流す事で効果を発揮するんだ。さ、やってみて」
言われた通りに、私は魔力を指輪に流す。私が着けた指輪『サルフォン』は変形し、両手を覆う手甲となった。マリアの方を見ると、首元から胸部に掛けて、鎧が形成されていた。どうやら、私達専用の魔道具らしい。
「これは……もしかして霊銀を使ってるんですか?」
「流石はお金持ちですわね。これ、下手したら家具付きの一軒家が買えますわよ?」
「僕は今年で卒業しちゃうからね。置き土産さ。霊銀だから軽い上に丈夫だし、熱にも強い。ついでに通信魔術も備え付けてある。魔力を流しながら念じるだけで使えるよ。有効半径は、この王都をすっぽり覆える位だよ」
成程。じゃあ早速やってみよう。私は魔力を魔道具に流しながら、頭の中で文を思い浮かべる。
『マリア、聞こえる?』
『大丈夫ですわ。内緒話に使えますわね』
ほう。これは中々便利な道具だ。通信魔術は便利な反面、術が複雑だから、こういうのがあると便利なのだ。通信魔術が込められた魔道具は便利だけど、その代わり凄く高いんだよな。それがタダで貰えた。しかも霊銀。とんでも価値があるのは明白だ。いざとなれば……
「あ、どこかに売ったら呪うからね」
「「はい」」
おお怖い怖い。アレンさんは器用だし、命を奪えるレベルの呪いを簡単に使えそうで怖いんだよな。それに加え、魔銃を使えば、殺したのがアレンさんとは特定されない。この世のどんな脅しよりも現実味がある。売るのは無理だ。止めておこう。私達は小屋に戻る途中で、今後の話を始めた。
「ドラグナーの改良の様子はどう?」
「速度がどうにも上がらないんですよね。もうボディの形状を変えるしか……」
「私の方でも頑張ってますわ。でも、これ以上は安全面が……」
やっぱり、この研究会は落ち着く。私は次の魔法陣の事を考えながら、少しだけ口角を上げた。
その晩。私はベッドで右手の小指に嵌めたサルフォンを撫でながら、マリアと雑談していた。眠れなかった。目を閉じたまま、私は頭の中で話をする。
『マリア、一つ相談があるんだ』
『何ですの?私に協力できる事でしたら、何でも言ってくださいまし』
良い子だ天使みたい。その言葉は伝わっていたようで、マリアは『照れますわ』と伝えて来る。ちょっと気恥ずかしいな。まあ良いか。
『もしさ、大切な人が居なくなるとして、マリアは止める?』
『止めますわね』
『その人がやりたい事があったら、手伝うよね?』
『勿論』
『その末に、大切な人が居なくなるとしても?』
私の問いに、マリアは暫く黙ってしまった。私も、この問いを他人に聞くのは意地悪で、怠惰だと思う。この問いの結論は、私の一生を左右する物だ。それを他人に聞くのは、きっと怠惰だ。
躊躇いはある。こんな事をマリアに聞くのは、勿論躊躇う。きっと困らせてしまう。私は済まなく思いながら、それでも答えを待つ。その答えは、思っていたよりかは早く帰って来た。
『人によりますわね』
その言葉に、私は少し驚いてしまった。マリアは今まで、人によって対応を変える事が少なかったからだ。それは家柄とか実力とかもそうだけど、それ以上に、マリアの性格から来る物だ。私は少し信じられなくて、『なんで?』と、声にも出した。
『私にとっての他人の価値は、大きくばらつく物ですわ。だから、一概にどうするもこうするも言えませんわ』
『じゃあ、マリアにとっての、一番大切な人が相手だったら?』
もう一度、沈黙。そして次に頭の中に響いた声は、できれば気付いてほしくなかった事を言った。
『何か、あったんだね』
『え?』
目を見開いた。それでも頭の中を必死に隠し、なんとかリョウコさんとタイセイ先生の事が、マリアに伝わらないようにする。マリアの声は、少しいつもの雰囲気と違っているようだった。
『前、迷宮に行った一件からだよね?』
『やっぱり、マリアは凄いよね』
『何年親友をやっていたと思っていますの?』
そうだよね。うん。そりゃそうだ。私は微かな微笑みを浮かべながら、続ける。
『答えてよ。どうするの?』
『ライラは、そういう選択を迫られてるんでしょう?その答えは、きっとライラ自身で決めるべき事だよ』
『答えてよ』
『ライラ、その問いには、今答えてるよ』
「え?」と、声を漏らした。理解できなかった。その言葉の意味が理解できなかった。もし、自分にとって一番大切な人が消えるかも知れない時、どうするかという問いへの答えが、この問答だと?理解できないままでいる私に構わず、マリアは言葉を発する。
『だって、この問いに答えたら、きっとライラは消えてしまうのでしょう?』
やっと、意味が分かった。私はその言葉を自分の中で咀嚼し、飲み込み、小さく笑みを浮かべる。そうだね。それが『答え』だ。私は小さく「そうだね」と呟いた後、ゆっくり目を閉じた。
『ありがとう。お休み』
『はい。お休み、ですわ』
その次の週末。ライラとアイクさんが、学校から姿を消した。私はベッドの上で目元を腕で隠しながら、小さく呟いた。
「隠すなら隠すで、もっとしっかり隠してよ……バカライラ」
私はベッドに小さな跡を残し、大きな後悔を胸に仕舞った。
「何ですのこれ……うぇ……」
「気分悪い……」
「やっぱり装着時の負荷はどうしようも無いか」
おいアレンさん。それは装着前に言ってくれ。せめて備える時間をくれ。まあ、過ぎた事は仕方が無い。私は立ち上がり、少し深呼吸する。
「一体何なんですかこれ。魔道具……にしては魔力を感じませんし」
「まあ、定義としては魔道具ではあるけど、それは使用者が魔力を流す事で効果を発揮するんだ。さ、やってみて」
言われた通りに、私は魔力を指輪に流す。私が着けた指輪『サルフォン』は変形し、両手を覆う手甲となった。マリアの方を見ると、首元から胸部に掛けて、鎧が形成されていた。どうやら、私達専用の魔道具らしい。
「これは……もしかして霊銀を使ってるんですか?」
「流石はお金持ちですわね。これ、下手したら家具付きの一軒家が買えますわよ?」
「僕は今年で卒業しちゃうからね。置き土産さ。霊銀だから軽い上に丈夫だし、熱にも強い。ついでに通信魔術も備え付けてある。魔力を流しながら念じるだけで使えるよ。有効半径は、この王都をすっぽり覆える位だよ」
成程。じゃあ早速やってみよう。私は魔力を魔道具に流しながら、頭の中で文を思い浮かべる。
『マリア、聞こえる?』
『大丈夫ですわ。内緒話に使えますわね』
ほう。これは中々便利な道具だ。通信魔術は便利な反面、術が複雑だから、こういうのがあると便利なのだ。通信魔術が込められた魔道具は便利だけど、その代わり凄く高いんだよな。それがタダで貰えた。しかも霊銀。とんでも価値があるのは明白だ。いざとなれば……
「あ、どこかに売ったら呪うからね」
「「はい」」
おお怖い怖い。アレンさんは器用だし、命を奪えるレベルの呪いを簡単に使えそうで怖いんだよな。それに加え、魔銃を使えば、殺したのがアレンさんとは特定されない。この世のどんな脅しよりも現実味がある。売るのは無理だ。止めておこう。私達は小屋に戻る途中で、今後の話を始めた。
「ドラグナーの改良の様子はどう?」
「速度がどうにも上がらないんですよね。もうボディの形状を変えるしか……」
「私の方でも頑張ってますわ。でも、これ以上は安全面が……」
やっぱり、この研究会は落ち着く。私は次の魔法陣の事を考えながら、少しだけ口角を上げた。
その晩。私はベッドで右手の小指に嵌めたサルフォンを撫でながら、マリアと雑談していた。眠れなかった。目を閉じたまま、私は頭の中で話をする。
『マリア、一つ相談があるんだ』
『何ですの?私に協力できる事でしたら、何でも言ってくださいまし』
良い子だ天使みたい。その言葉は伝わっていたようで、マリアは『照れますわ』と伝えて来る。ちょっと気恥ずかしいな。まあ良いか。
『もしさ、大切な人が居なくなるとして、マリアは止める?』
『止めますわね』
『その人がやりたい事があったら、手伝うよね?』
『勿論』
『その末に、大切な人が居なくなるとしても?』
私の問いに、マリアは暫く黙ってしまった。私も、この問いを他人に聞くのは意地悪で、怠惰だと思う。この問いの結論は、私の一生を左右する物だ。それを他人に聞くのは、きっと怠惰だ。
躊躇いはある。こんな事をマリアに聞くのは、勿論躊躇う。きっと困らせてしまう。私は済まなく思いながら、それでも答えを待つ。その答えは、思っていたよりかは早く帰って来た。
『人によりますわね』
その言葉に、私は少し驚いてしまった。マリアは今まで、人によって対応を変える事が少なかったからだ。それは家柄とか実力とかもそうだけど、それ以上に、マリアの性格から来る物だ。私は少し信じられなくて、『なんで?』と、声にも出した。
『私にとっての他人の価値は、大きくばらつく物ですわ。だから、一概にどうするもこうするも言えませんわ』
『じゃあ、マリアにとっての、一番大切な人が相手だったら?』
もう一度、沈黙。そして次に頭の中に響いた声は、できれば気付いてほしくなかった事を言った。
『何か、あったんだね』
『え?』
目を見開いた。それでも頭の中を必死に隠し、なんとかリョウコさんとタイセイ先生の事が、マリアに伝わらないようにする。マリアの声は、少しいつもの雰囲気と違っているようだった。
『前、迷宮に行った一件からだよね?』
『やっぱり、マリアは凄いよね』
『何年親友をやっていたと思っていますの?』
そうだよね。うん。そりゃそうだ。私は微かな微笑みを浮かべながら、続ける。
『答えてよ。どうするの?』
『ライラは、そういう選択を迫られてるんでしょう?その答えは、きっとライラ自身で決めるべき事だよ』
『答えてよ』
『ライラ、その問いには、今答えてるよ』
「え?」と、声を漏らした。理解できなかった。その言葉の意味が理解できなかった。もし、自分にとって一番大切な人が消えるかも知れない時、どうするかという問いへの答えが、この問答だと?理解できないままでいる私に構わず、マリアは言葉を発する。
『だって、この問いに答えたら、きっとライラは消えてしまうのでしょう?』
やっと、意味が分かった。私はその言葉を自分の中で咀嚼し、飲み込み、小さく笑みを浮かべる。そうだね。それが『答え』だ。私は小さく「そうだね」と呟いた後、ゆっくり目を閉じた。
『ありがとう。お休み』
『はい。お休み、ですわ』
その次の週末。ライラとアイクさんが、学校から姿を消した。私はベッドの上で目元を腕で隠しながら、小さく呟いた。
「隠すなら隠すで、もっとしっかり隠してよ……バカライラ」
私はベッドに小さな跡を残し、大きな後悔を胸に仕舞った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

チートスキル『異世界知覚』を手に入れた俺は頭のおかしいナーロッパの連中を倒したい!
グランマレベル99
ファンタジー
小説初心者ですが頑張って書きたいと思いますご感想やご指摘がありましたら気軽にコメントしてください

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

王女、豹妃を狩る
遠野エン
ファンタジー
ベルハイム王国の王子マルセスは身分の差を超えて農家の娘ガルナと結婚を決意。王家からは驚きと反対の声が上がるが、マルセスはガルナの自由闊達な魅力に惹かれ押し切る。彼女は結婚式で大胆不敵な豹柄のドレスをまとい、周囲をあ然とさせる。
ガルナは王子の妻としての地位を得ると、侍女や家臣たちを手の平で転がすかのように振る舞い始める。王宮に新しい風を吹かせると豪語し、次第に無茶な要求をし出すようになる。
マルセスの妹・フュリア王女はガルナの存在に潜む危険を察知し、独自に調査を開始する。ガルナは常に豹柄の服を身にまとい人々の視線を引きつけ、畏怖の念を込めて“豹妃”というあだ名で囁かれるのだった。


みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~
黒色の猫
ファンタジー
両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。
冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。
最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。
それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった…
そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。
小説家になろう様でも投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる