謎色の空と無色の魔女

暇神

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進章

進八章 人生で最も信を置ける友人

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 翌日。起き上がった私の頭は驚く程スッキリしていた。先日の事もあってか、体の方は指一本も動かしたくない程疲れているのに、頭だけはそんな状態だ。
 自然と、マリアに会いたくなった。昨日は最下層に転移させられた後、一回も会えなかったし。私は怠い体を動かして、制服の皺を伸ばしながら、部屋の扉へ向かう。私はドアノブに手を掛け、廊下へ出る。
 そして、偶々こっちまで来ていたらしいマリアと目が合う。三拍置いて、ようやく状況を理解した私達は、走り出していた。無論ぶつかる。そしてそのまま抱き締めあう。自然と涙が零れて来る。
「良かったですわ……ライラが無事で……急に消えて……何もできなくて……」
「死んじゃうかと思った……マリアのポーションで助かった……ありがとう……」
 十秒程度だろうか。気が済んだ私達は、一緒に学食に行こうという話になった。私達は見慣れた廊下を歩き、食堂へ向かう。
「何て言うかさ、凄い体験したなって思うんだ」
「そうですわよ。ライラは最下層に行って、しかも勇者パーティーの人に助けられたんですもの。彼等の戦いを見たのなんて、この国では片手で数え切れる程度しか居ませんのよ?」
「サインでも貰っておけば良かったかな」
「私でしたらそうしますわね」
 うん。勿体無い事をした。でもまあ、また会える機会はあるだろうから、サインを貰うとしたらその時にしよう。
 なんだか学食も久し振りな気分だ。多分八日は食べてない。味わおう。て言うか何にしよう。
「なあライラ」
 突然肩に手を置かれたので、私は驚いて、持っていた小銭を少し落としてしまった。誰かと思って振り返ると、アイクさんだった。そして後ろには、なんでか懐かしい人が居た。
「アレンさん。なんか久し振りな気がしますね」
「最近は色々忙しかったからね。それと、放課後にはプレゼントもある」
「先輩がこの報告に来たのが一つ。俺本人の用事でもう一つ。てな訳で付き合え」
 『プレゼントは何か』とアレンさんに問う暇も無く、私はアイクさんに首根っこを掴まれた状態で引き摺られて行く。うん。今更だけどやっぱり雑だよなこの人。
「ちょっと!レディ!にその扱いはどうかと思いますわよ!」
「急用だ。それにコイツ、多分嫌がるだろ」
「私の朝食が~久し振りの学食が~横暴だ~私は断固抗議する~」
「ほらな」
 おい『ほらな』って何だ。そしてマリア。諦めたようなその顔を止めてくれ。最後にアレンさん。小動物のじゃれ合いを見るような顔を止めてください。微笑ましい物じゃないぞ。女学生が同級生の男子に首根っこ掴まれて引き摺られてるだけの図だぞ。
 いやまあ、昨日の今日だし大して抵抗はしない方が良いか。私は引き摺られたまま、アイクさんに話し掛ける。
「用事って何か……なんて聞く程じゃないよね」
「察しの通りだ。取り敢えず、人気の無い所知らないか?」
「この時間帯だと、寮の裏は誰も居ないよ」
「よし。飛べるな?」
 そう言ったアイクさんは、私を外に投げ飛ばした。魔力もまだ回復し切ってないのにな。まあ良いか。私は飛行魔術を使用し、空を飛び始める。
「寮の裏に急ぐぞ。朝食の時間無くしたくないだろ」
「お昼とかにしてくれればその心配も無いんだけど」
「却下する」
 寮の裏には誰も居ない。私達は着地して、早速内緒話を始める。
「昨日の件だが、お前はどうする?」
「まだ決めてない」
「そうか。俺はついて行く事にした」
 少し驚いたな。これは人生と言うよりは、自分の生死に大きく関わる選択だ。まさか一晩で決めるとは思っていなかった。だけどアイクさんの考えは逆だったようで、少し怪訝そうな顔をしている。
「咎める訳じゃないが、早めに決めた方が良いぞ」
「なんで?」
「タセイ……いや、タイセイ先生もリョウコさんも、いつまでここに居るか分からないんだ。決めるなら早くしないといけない」
 そうか。そうだな。そうだった。二人はやりたい事がある。そして時間も限られている。で、私達の選択を待っている。なら迷っている時間はなるべく無くした方が良いんだろう。
 だけど……まあ、うん。そうなんだけど、私はどうすべきなんだろう。協力すればリョウコさんは居なくなる上、マリアとアレンさんにはもう会えなくなるかも知れない。だけど、私にしかやれない事があって、それはリョウコさんが必要としていた事だ。
 どうすべきかは分かっている。分かっていても、餓鬼な我儘が邪魔をする。晴れている朝には似つかわしくない自己嫌悪で、気分が落ち込む。
「嫌な話したな」
「いや大丈夫。私が餓鬼なだけだから」
「まあ、早く朝食に行こう。朝っぱらから済まなかった」
 この後、朝食を食べようとした私だったが、とても何かを食べるような気分になれず、控えめな量だけにした。それを見たマリアが、何やら怪し気な薬のレシピを確認していたのは、また別の話。

 結局何も決められないまま、放課後に突入した。私はマリアと合流した後、いつもの小屋へ向かい、アレンさんの言っていた、『プレゼント』を受け取りに行く。
「何だと思う?」
「魔道具なのは確かですわね。問題は、どんな物なのかですわ」
 さて何だろうと考えていた辺りで、何かが爆発する音がした。私達は『またか』なんて思いながら、小屋へ向かう足を速めた。
 小屋に着いた私達は、早速扉を開けて、中に充満した煙を外へ出す。次第に、中に居た人達の姿が目に入るようになる。
「あ、先輩方」
「お疲れ様です」
「お疲れ。それはそうと、爆発する物は外で作るって約束だよね?」
「後で詰めるしかありませんわね……この薬のモルモットも必要でしたもの……」
 マリア。怖いよ。笑顔が邪悪だよ。なんなら皆の顔が青くなってるよ。
 三人しか居なかった研究会も、八年も経つと変化が現れる。アレンさんが開発した魔銃シリーズが、国単位の事業に発展したのだ。今やアレンさんは、下手な貴族や大商人を凌ぐ大金持ちだ。結果、設備や小屋の改装に金を時間を使えるようになり、無論人も増えた。今となっては、小屋が狭く感じる程の大所帯だ。
「さて、アレンさんは……あれ?」
「居ませんわね」
 私は小屋の中を見渡してアレンさんを探すが、小屋の中には見当たらなかった。私は適当な後輩一人の肩を掴んで、アレンさんの居場所を聞く。
「ねえ、アレンさんどこ?」
「アレン先輩でしたら、小屋の裏の射撃場で……」
 その瞬間、またも爆発音がした。どうやらこれ以上の説明は不要らしい。私はその後輩にお礼を言ってから、小屋を出た。
 この建物の変更点として、最も大きいのがコレだろう。以前はただのスペースだった所に、立派な試験用の施設ができた。うん。コレ要る?
 まあそれは良い。私達が射撃場に向かうと、アレンさんがまた新しい魔銃を携えていた。
「お、来たね」
「はい。それは新型ですか?」
「そうさ。ここのアタッチメントを入れ替えるだけで……」
「本題に入ってくださいまし」
 マリアの言葉に、部長は「はいはい焦らない」と言いながら、ポケットから二つの指輪を取り出した。
「これこそ、僕が持てる技術の粋を集めた……」

「魔導式変形型万能触媒、『メイロン』、『サルフォン』だ!」
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