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進章
進六章 奇跡と呼ぶに足る力
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私は自身の体を覆う魔力を操り、自分の体を思うように、いや思う以上に動かす。目当ては、目の前の炎竜を模した体の中に存在する筈の核。魔法を使った今の私なら、手に取る様に位置が分かる。
魔法は、私が想像した通りに動き、私が想像した通りの結果を生む。私がその事を理解したのは、物心がつく前の話だ。想像できる事ならなんでもできる。私は昔から、アレコレと想像する事が好きだった。無論、想像力も鍛えられる。私は魔力を右腕に集めながら、液体生物の腹の下に滑り込む。
貫通力のある武器なら飽きる程見て来た。想像しろ。炎竜の鱗を貫く武器を。液体生物の核を一撃で消滅させられる武器を。私が知る中で、最も殺傷能力に優れた武器を。私はその右腕を液体生物の腹に叩き込む。
瞬間、目の前に穴が空いた。核は見つからない。炎竜の形をした目の前のソレは、直ぐに淡い青色の液体へ解け、崩れた。私はその液体を頭から被る事になった。
「うえ……ベタベタする……」
私は手で液体を拭いながら、リョウコさん達の姿を探す。それを見付けたと同時に、私は柔らかい感触に押し倒され、抱き締められた。
「リョウコさん……汚れるよ?」
「大丈夫よね!?怪我とか無いわよね!?」
リョウコさんは私の体を自分の体で覆い隠すようにしながらそう聞いた。私はリョウコさんと私の顔の間にピースサインを、痛む体で笑顔を作った。
「大丈夫!久し振りだよね、リョウコさん!」
リョウコさんは顔をぐしゃぐしゃにしながら、一層強く私を抱き締めた。少しだけ見える腕の隙間から、心底安堵した表情のアイクと、何か考えている様子のタセイ先生が見えた。
暫く経ち、リョウコさんが落ち着いた辺りで、タセイ先生は私からリョウコさんを引き剥がした。なんだか酷く疲れた気がする。指先を動かすのも億劫な気分だ。私はアイクの手を借りながら、なんとか立ち上がった。
「なあ、俺から言いたい事がある。当てたら頭撫でてやる」
「まあ……魔法の事だよね」
アイクさんは黙ったまま、私の頭を撫でた。まさか本当に撫でてくれると思わなかった。若干嬉しい。怒っているようには感じないけど、言いたい事があるのは本当なんだろう。
「この七年、俺はお前とそこそこ長い時間を過ごした。『隠す事も無いだろう』と思っていた位だ。だけど、こんなでかい隠し事があったとは……」
「流石に話せないよ。話してどうなるかなんて、想像に難い事じゃないでしょ?私は自由でありたいんだ」
「だけど……」
アイクはまだ何か言おうとしていたが、何も言えない様子だった。魔法使いが世界から姿を消した原因である、『魔女狩り』についての歴史は、この国に限らず、この世界に住む全ての人間が知る物だ。そしてその歴史は、今も一部の貴族の間では神聖視されている。
まあ、アイクはまだ信用できる。アイクに知られたとしても、大した影響は無い。リョウコさんも同様だ。問題は……
「タセイ先生、私の事咎めたりしますか?」
正直、ここで首を横に振ってくれなければ困る。魔法は未だ神秘の領域だ。理屈どうこうじゃなく、魔力を直接操って、魔術以上の効果をもたらす。『好奇心の塊』とも言われているタセイ先生だ。何が起こるか分かった物じゃない。
私の魔力はもう残っていない。魔法も魔術も使えないだろう。魔法を使えればどうとでもなるだろうけど、その手を使えない今の状況で、更にこの国のトップと呼んでも良い程の力を持つタセイ先生に勝てるとは思えない。
「お願いですから、私が卒業するまでの間で良いので、黙っててくれませんか」
タセイ先生は顎に手を当て、少し考え込むような素振りをしている。暫く考えた後、タセイ先生は杖を地面に突いて、巨大な魔法陣を作り出した。私は疲れた体に鞭を打って走り出し、タセイ先生の体勢を崩そうとする。大規模な魔術は、術者を叩くだけで綻びが生じる物が多い。発動までに間に合えば、なんとか身を守れるかも知れない。
「待って」
その声が聞こえたと同時に、リョウコさんは私の肩を掴んだ。
「リョウコさん!?なんで!?」
「一旦落ち着いて。大聖は味方よ」
そうリョウコさんが言うと同時に、タセイ先生はこの部屋全体に、炎と植物、岩等を出現させた。だがそれらはどれも弱々しく見えた。
「なんでこんな事をしたんですか?」
「戦闘の痕跡を作る。俺の魔力も潤沢じゃ、流石に怪しいだろ」
カモフラージュか。私にとって都合が良い。これは詰まり、私の秘密を隠してくれるという事だろう。
「ありがとうございます」
「いや、俺達の方も少し、お前みたいなのを探してたんだ」
そう言うと、タセイ先生は私の肩を掴んで、回復魔術を使用した。疲労が取れて行く。体の傷が治った訳ではないけど、気分が少しだけ楽になる。痛みも和らいだような気がする。
「さて。俺は一応『大人』で、自身が受け持つ子供達の将来を決定付ける権利は持っていない訳だ。だがそれを承知で、一つ頼みたい事がある」
タセイ先生は真剣な表情で、私の顔を見つめている。そして次の瞬間、その口は、十六歳の私には信じられない言葉を発した。
「『神殺し』の偉業に、興味はあるか?」
それは、この世界における最大の罪状だった。
魔法は、私が想像した通りに動き、私が想像した通りの結果を生む。私がその事を理解したのは、物心がつく前の話だ。想像できる事ならなんでもできる。私は昔から、アレコレと想像する事が好きだった。無論、想像力も鍛えられる。私は魔力を右腕に集めながら、液体生物の腹の下に滑り込む。
貫通力のある武器なら飽きる程見て来た。想像しろ。炎竜の鱗を貫く武器を。液体生物の核を一撃で消滅させられる武器を。私が知る中で、最も殺傷能力に優れた武器を。私はその右腕を液体生物の腹に叩き込む。
瞬間、目の前に穴が空いた。核は見つからない。炎竜の形をした目の前のソレは、直ぐに淡い青色の液体へ解け、崩れた。私はその液体を頭から被る事になった。
「うえ……ベタベタする……」
私は手で液体を拭いながら、リョウコさん達の姿を探す。それを見付けたと同時に、私は柔らかい感触に押し倒され、抱き締められた。
「リョウコさん……汚れるよ?」
「大丈夫よね!?怪我とか無いわよね!?」
リョウコさんは私の体を自分の体で覆い隠すようにしながらそう聞いた。私はリョウコさんと私の顔の間にピースサインを、痛む体で笑顔を作った。
「大丈夫!久し振りだよね、リョウコさん!」
リョウコさんは顔をぐしゃぐしゃにしながら、一層強く私を抱き締めた。少しだけ見える腕の隙間から、心底安堵した表情のアイクと、何か考えている様子のタセイ先生が見えた。
暫く経ち、リョウコさんが落ち着いた辺りで、タセイ先生は私からリョウコさんを引き剥がした。なんだか酷く疲れた気がする。指先を動かすのも億劫な気分だ。私はアイクの手を借りながら、なんとか立ち上がった。
「なあ、俺から言いたい事がある。当てたら頭撫でてやる」
「まあ……魔法の事だよね」
アイクさんは黙ったまま、私の頭を撫でた。まさか本当に撫でてくれると思わなかった。若干嬉しい。怒っているようには感じないけど、言いたい事があるのは本当なんだろう。
「この七年、俺はお前とそこそこ長い時間を過ごした。『隠す事も無いだろう』と思っていた位だ。だけど、こんなでかい隠し事があったとは……」
「流石に話せないよ。話してどうなるかなんて、想像に難い事じゃないでしょ?私は自由でありたいんだ」
「だけど……」
アイクはまだ何か言おうとしていたが、何も言えない様子だった。魔法使いが世界から姿を消した原因である、『魔女狩り』についての歴史は、この国に限らず、この世界に住む全ての人間が知る物だ。そしてその歴史は、今も一部の貴族の間では神聖視されている。
まあ、アイクはまだ信用できる。アイクに知られたとしても、大した影響は無い。リョウコさんも同様だ。問題は……
「タセイ先生、私の事咎めたりしますか?」
正直、ここで首を横に振ってくれなければ困る。魔法は未だ神秘の領域だ。理屈どうこうじゃなく、魔力を直接操って、魔術以上の効果をもたらす。『好奇心の塊』とも言われているタセイ先生だ。何が起こるか分かった物じゃない。
私の魔力はもう残っていない。魔法も魔術も使えないだろう。魔法を使えればどうとでもなるだろうけど、その手を使えない今の状況で、更にこの国のトップと呼んでも良い程の力を持つタセイ先生に勝てるとは思えない。
「お願いですから、私が卒業するまでの間で良いので、黙っててくれませんか」
タセイ先生は顎に手を当て、少し考え込むような素振りをしている。暫く考えた後、タセイ先生は杖を地面に突いて、巨大な魔法陣を作り出した。私は疲れた体に鞭を打って走り出し、タセイ先生の体勢を崩そうとする。大規模な魔術は、術者を叩くだけで綻びが生じる物が多い。発動までに間に合えば、なんとか身を守れるかも知れない。
「待って」
その声が聞こえたと同時に、リョウコさんは私の肩を掴んだ。
「リョウコさん!?なんで!?」
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「ありがとうございます」
「いや、俺達の方も少し、お前みたいなのを探してたんだ」
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