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真章
真三十九章 生きる為に
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目が覚めると、先程まで居た、いや、先程まで居たのとこの上無く似た、別の部屋に寝かされていた。私は起き上がり、取り敢えず周囲を見渡す。
どうやら、元の時間軸まで戻って来たようだ。私は魔力を体の内側で練り上げ、魔法を使う。うん。問題無く使える。私はベッドから起き上がると、自身の体へ違和感を覚えた。なんだか落ち着かない。私は視線を下にずらし、自分の服装を確認する。
どうやら着替えさせられていたようだ。そこそこ日が経っているのかな。私はスリッパを履いて、廊下に出て、アレンさんを探す。なんだか顔が見たい気分だ。マリアにも会いたい。それで二人を思い切り抱き締めたい。今はそういう気分だ。
私は誰かが喋るような声を辿って、図書室まで来た。ここにはあまり良い思い出が無いな。まあでも、話し声がするという事は、誰か人が居るという事だ。覚悟を決めろ。私はドアノブに手を掛け、それを前に押す。扉は少し音を立てながら開く。
そして私は凍り付く。何故なら、図書室には例の半透明の女性が居たからだ。女性は動けない私い気が付くと、「大丈夫?」と声を掛けて来た。どうやら、そこまで恐ろしい存在でもないのかも知れない。私は深呼吸して、肩の力を抜く。
「大丈夫です。ラーシアさん……いや、ルーシエさんで良いですか?」
「その名前も久し振りね……ええそうよ」
目の前の女性は、確かにラーシアさんとよく似ているが、どこか違うような気がしたのだ。勘が当たってくれて、心底ほっとする。
「以前はごめんなさいね。貴女から懐かしい匂いがした物で」
ルーシエさんは私に向かって微笑む。なんだか大人の色気があるな。凄い。
いやいや飲まれるな。しっかりしろ。私はぼーっとし始めた頭を無理矢理起こして、ルーシエさんと向き合う。似ているってどういう事だ?
「ああ勿論、匂うって訳じゃないわよ。何て言うか……魔法の力って奴かしら」
「分かるんですね」
「ええ。幽霊になってから、人の力がよく見えるようになったの。生前は魔術も習わなかったのに」
魂だけの状態だから、魔力が五感のように感じれるようになったのだろうか。実に不思議な事だ。でも、聞きたいのはそこじゃない。
「厄災について……かしら?」
「え!?」
私は目を見開いた。心が読めるのか?幽霊って凄い。
「そう便利な物じゃないわよ。人が多いと煩いし」
「で、教えてくれるんですか!?」
私がそう聞くと、ルーシエさんは首を横に振った。それを見た私は肩を落とした。まあそりゃそうか。普通にやってただけじゃ話してくれなかっただろうし。魔術を使って話してもらってもあれだけだったし。
とは言え、何も分からないでは困る。何か知らないのか?
「厄災と関係しているかは分からないけど、母さんの事なら話せるわ」
「例えば?」
「厄災が現れる周期ね」
周期?そんな物が決まっているのか?ルーシエさんは「ちょっと待ってね」と言って、近くにあったペンと紙を浮かせて、それらを操った。そして何かを書き終わると、紙を私に見せて来た。どうやら、何かの表のようだ。
「これは……厄災が現れる形を示しているんですか?」
「そうよ。厄災はどうやら、概念に近しい物らしいわ。私が生まれるよりも昔は魔女狩り。小規模な物は無視するけど、これは大規模な物は十五年に一度あったそうよ。そして私が生まれてから今日に至るまでの、蒼い炎の形。これも十五年に一度の頻度で現れているわ」
厄災が現れる頻度は十五年に一度……なら、次の厄災まで、残り十三年半程度しか無いという事か!?ルーシエさんは頷き、神妙な顔で話を続ける。
「寝ている間に、貴女の頭を覗かせてもらったわ。貴女、以前にも厄災と遭遇しているのよね?それに魔法使い。今の厄災の標的はきっと貴女よ。貴女は残り八年半で、厄災と対峙できる力を手にしなければならない」
私はその言葉を聞いて、少し笑いが零れた。時期が明確になった。もし次に厄災が現れるのが私の近くならば、探す必要も無い。ならば私は、その間に可能なだけの力を蓄えるだけで良い。
厄災という存在の影を、ようやく見つけられたような気がする。私はその表を見つめながら考えを巡らせる。魔女狩りはあくまで人がやる事だが、厄災はどうやって魔女狩りを行わせたんだろうか。人の意識や心理を操れるのか?どの程度なら操れる?いや、元々魔法使いに対して迫害を行っていたこの時期では指標になりもしない。
思考を巡らせ続けていると、不意に紙が床に落ちた。上を見上げると、ルーシエさんが優しい笑みを浮かべていた。
「どうしたんですか?」
「素敵な王子様が来たわよ」
ルーシエさんはそう言って、扉の方を指差す。私は視線をそっちに向け、少し集中する。誰かが走って来る音が聞こえる。その音は直ぐに図書室の前まで来て、そして止まった。私は見慣れたその姿に、不思議と涙が零れた。
そこには、いつもの作業着を来たアレンさんが居た。
「ライラ君、ここに居たのか。起きたならそう言ってくれれば……」
アレンさんは肩を上下させながら、私の方へ手を伸ばして来る。私は涙を誤魔化すように走り出し、そのままアレンさんに抱き着く。アレンさんは走った私がぶつかった衝撃に耐えられず、そのまま後ろに倒れてしまった。
「ライラ君、図書室では走らないでね」
「えへへ……アレンさん、一つ良いかな」
「何だい?」
私はアレンさんと視線を合わせ、そのまま顔を近付ける。アレンさんは目を逸らす事無く、私の目を見つめている。私は少しだけ息を吸って、一つの『お願い』をする。
「これからも、一緒に居てね」
アレンさんはその言葉に、少しだけ笑ってから、私の頭を撫でた。とても優しく、温かく。
「大丈夫だよ。何かあっても、僕とマリア君は、きっと君の味方だ」
私は嬉しくなって、再びアレンさんに抱き着いた。落ち着かなかった胸の内側が、少しだけ温かくなった気がした。
どうやら、元の時間軸まで戻って来たようだ。私は魔力を体の内側で練り上げ、魔法を使う。うん。問題無く使える。私はベッドから起き上がると、自身の体へ違和感を覚えた。なんだか落ち着かない。私は視線を下にずらし、自分の服装を確認する。
どうやら着替えさせられていたようだ。そこそこ日が経っているのかな。私はスリッパを履いて、廊下に出て、アレンさんを探す。なんだか顔が見たい気分だ。マリアにも会いたい。それで二人を思い切り抱き締めたい。今はそういう気分だ。
私は誰かが喋るような声を辿って、図書室まで来た。ここにはあまり良い思い出が無いな。まあでも、話し声がするという事は、誰か人が居るという事だ。覚悟を決めろ。私はドアノブに手を掛け、それを前に押す。扉は少し音を立てながら開く。
そして私は凍り付く。何故なら、図書室には例の半透明の女性が居たからだ。女性は動けない私い気が付くと、「大丈夫?」と声を掛けて来た。どうやら、そこまで恐ろしい存在でもないのかも知れない。私は深呼吸して、肩の力を抜く。
「大丈夫です。ラーシアさん……いや、ルーシエさんで良いですか?」
「その名前も久し振りね……ええそうよ」
目の前の女性は、確かにラーシアさんとよく似ているが、どこか違うような気がしたのだ。勘が当たってくれて、心底ほっとする。
「以前はごめんなさいね。貴女から懐かしい匂いがした物で」
ルーシエさんは私に向かって微笑む。なんだか大人の色気があるな。凄い。
いやいや飲まれるな。しっかりしろ。私はぼーっとし始めた頭を無理矢理起こして、ルーシエさんと向き合う。似ているってどういう事だ?
「ああ勿論、匂うって訳じゃないわよ。何て言うか……魔法の力って奴かしら」
「分かるんですね」
「ええ。幽霊になってから、人の力がよく見えるようになったの。生前は魔術も習わなかったのに」
魂だけの状態だから、魔力が五感のように感じれるようになったのだろうか。実に不思議な事だ。でも、聞きたいのはそこじゃない。
「厄災について……かしら?」
「え!?」
私は目を見開いた。心が読めるのか?幽霊って凄い。
「そう便利な物じゃないわよ。人が多いと煩いし」
「で、教えてくれるんですか!?」
私がそう聞くと、ルーシエさんは首を横に振った。それを見た私は肩を落とした。まあそりゃそうか。普通にやってただけじゃ話してくれなかっただろうし。魔術を使って話してもらってもあれだけだったし。
とは言え、何も分からないでは困る。何か知らないのか?
「厄災と関係しているかは分からないけど、母さんの事なら話せるわ」
「例えば?」
「厄災が現れる周期ね」
周期?そんな物が決まっているのか?ルーシエさんは「ちょっと待ってね」と言って、近くにあったペンと紙を浮かせて、それらを操った。そして何かを書き終わると、紙を私に見せて来た。どうやら、何かの表のようだ。
「これは……厄災が現れる形を示しているんですか?」
「そうよ。厄災はどうやら、概念に近しい物らしいわ。私が生まれるよりも昔は魔女狩り。小規模な物は無視するけど、これは大規模な物は十五年に一度あったそうよ。そして私が生まれてから今日に至るまでの、蒼い炎の形。これも十五年に一度の頻度で現れているわ」
厄災が現れる頻度は十五年に一度……なら、次の厄災まで、残り十三年半程度しか無いという事か!?ルーシエさんは頷き、神妙な顔で話を続ける。
「寝ている間に、貴女の頭を覗かせてもらったわ。貴女、以前にも厄災と遭遇しているのよね?それに魔法使い。今の厄災の標的はきっと貴女よ。貴女は残り八年半で、厄災と対峙できる力を手にしなければならない」
私はその言葉を聞いて、少し笑いが零れた。時期が明確になった。もし次に厄災が現れるのが私の近くならば、探す必要も無い。ならば私は、その間に可能なだけの力を蓄えるだけで良い。
厄災という存在の影を、ようやく見つけられたような気がする。私はその表を見つめながら考えを巡らせる。魔女狩りはあくまで人がやる事だが、厄災はどうやって魔女狩りを行わせたんだろうか。人の意識や心理を操れるのか?どの程度なら操れる?いや、元々魔法使いに対して迫害を行っていたこの時期では指標になりもしない。
思考を巡らせ続けていると、不意に紙が床に落ちた。上を見上げると、ルーシエさんが優しい笑みを浮かべていた。
「どうしたんですか?」
「素敵な王子様が来たわよ」
ルーシエさんはそう言って、扉の方を指差す。私は視線をそっちに向け、少し集中する。誰かが走って来る音が聞こえる。その音は直ぐに図書室の前まで来て、そして止まった。私は見慣れたその姿に、不思議と涙が零れた。
そこには、いつもの作業着を来たアレンさんが居た。
「ライラ君、ここに居たのか。起きたならそう言ってくれれば……」
アレンさんは肩を上下させながら、私の方へ手を伸ばして来る。私は涙を誤魔化すように走り出し、そのままアレンさんに抱き着く。アレンさんは走った私がぶつかった衝撃に耐えられず、そのまま後ろに倒れてしまった。
「ライラ君、図書室では走らないでね」
「えへへ……アレンさん、一つ良いかな」
「何だい?」
私はアレンさんと視線を合わせ、そのまま顔を近付ける。アレンさんは目を逸らす事無く、私の目を見つめている。私は少しだけ息を吸って、一つの『お願い』をする。
「これからも、一緒に居てね」
アレンさんはその言葉に、少しだけ笑ってから、私の頭を撫でた。とても優しく、温かく。
「大丈夫だよ。何かあっても、僕とマリア君は、きっと君の味方だ」
私は嬉しくなって、再びアレンさんに抱き着いた。落ち着かなかった胸の内側が、少しだけ温かくなった気がした。
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