43 / 102
真章
真三十五章 探し物
しおりを挟む
翌日。私は図書室に向かい、アレンさんが言っていた、『血文字の本』を探す事にした。あるかも分からないが、正直無いとも言い切れない。
迷宮の中には、リッチと呼ばれる怪物が居るらしい。その怪物は人の魂を操るそうだ。その魔法を再現しようと禁忌を犯した魔術師の記述では、『私は遂に、死後の魂をこの世に留める方法を確立した。その魂と強い繋がりを持つ物を、魔術でその魂と括っておくのだ。そうすれば、魂はこの世に留まるだろう。』と記されている。
要するに、アレンさんの話が事実だとすると、血で赤く染められたドレスか、血文字の本が、この屋敷のどこかにあるという事になる。図書室で声が聞こえた事を考えるに、残されているとしたら血文字の本だろう。
だが困った事になっている。印刷技術はここ数年で急速な成長を遂げ、新しい本は新しい本と、一目で見分けがつくようになったのだ。逆に言えば、古い本も古い本で分かり易いという事だ。しかし、その『古い本』を全て探しても、勿論カバーを外しても、血文字で書かれた本など見つからなかったのだ。
「どうしよう……」
「探し物?手伝うよ」
机に突っ伏して、どうしようかと悩んでいる私に声を掛けたのは、どうやら寝起きらしいアレンさんだった。
「早いね。尊敬するよ」
「ありがとうございます。古い魔術に関する記述を探しているんですけど、中々良いのが無くて困ってるんです」
「どんなのが良いの?」
「風系統の魔術が良いですね」
アレンさんは「そう言えば、ライラ君は風系統の魔術が得意だったね」と言って、早速本棚へ向かった。嘘を吐いてごめんなさい。
私は私で、目当ての本を探した。結局見つからなかったが、それでも良いと思えた。その理由は勿論……
「こんなのどうだい?『風魔術における使い分けの本』」
「良いですね。著者は確か、十八代目の魔王でしたっけ」
「そうそう。前の国王は余計な事をしたね。わざわざ亜人や魔族の国との国交を断絶するとか」
先代の国王は、なんでも異界から勇者を召喚して、先代の魔王を殺したらしい。勿論この事は罪に問われ、今は牢屋に居るとか。
「魔族は魔術の研究においては頭一つ抜けてますからね」
「交流はあった方が良いのになあ」
私達はそんな事を言いながら、アレンさんの部屋に向かう。魔銃の改良にドラグナーの開発と、やりたい事は多いがやれる事が少ない状況だ。
「そう言えば、風魔術には弾丸系って無いですよね。なんでですか?」
「二年の始めに習うんだけど、魔術には相性みたいなのがあって、風の魔術は弾丸にするには不向きらしい。なんでも、当たった瞬間霧散し易いとか。だから切断とか移動の方が伸びたらしい」
「ゆくゆくはドラグナーに魔銃積んで、遠距離対応できる戦車みたいなのも作りたかったんですけどね~」
「ちょっと待ってその話詳しく……」
その後も作業を続け、気まずいご飯を食べて、また作業して……を繰り返す内に、あっという間に夜になった。私はもう一度図書室に向かって、もっと詳しく調べる事にした。
「あれ?どこか行くの?」
「ええ。もう一度図書室に」
「もう遅いし、僕も行くよ」
「大丈夫ですよ。んじゃ」
アレンさんに見送られた私は、もうすっかり暗くなった廊下を歩いて、図書室の扉を開く。そしてその瞬間、何も言えなくなる位驚いた。
図書室の真ん中にある机に、半透明でほんのりと光る女性が居たのだ。
私は目を見開いたまま動けないでいる。女性は私に気が付くと、優しい笑顔で、こっちに浮遊し
「来てくれたのね?嬉しいわ」
その女性の体と私の体が重なった瞬間、私の身体を何か冷たい物が包むのが分かった。その感触に驚いたのか、女性に触れられた事が恐ろしかったのか、私の意識は、遥か遠い場所に行ってしまった。
なんだが懐かしい感じがする。
そう言えば、協会で昼寝した私に、シスターが膝枕してくれたっけ。
柔らかくて温かい。
一体何だろう。
「あ、起きたのね」
目を覚ました私の視界に写ったのは、やはりあの半透明の女性だった。私は霞む視界の中で、その姿を、懐かしい誰かに重ね、その人の腹部に抱き着こうとする。
しかし、そのはっきりとした感触でようやく目を覚ました私は、女性の膝から飛び退いて、少し構える。
「どうしたのよフラン。いきなりそんな……」
「フラン?私は……」
そこまで言いかけて、私は違和感に気が付いた。女性が半透明じゃない。そもそも、ここはどこだ?私は、自分の身体を囲む壁を見る。アレンさんの屋敷じゃない。小さな小屋だ。どうやってここまで私を連れて来たんだ?
ふと、鏡に映る自分の姿が目に入る。私はそれを見て、本日二度目に絶句する。
「どうしたのよフラン。なんだか様子がおかしいわ。急に倒れたかと思ったら、起きた途端にこんな……熱でもあるのかしら」
女性は立ち上がって、私に近付く。私は動く事もできず、ただされるがままになっている。女性は私の額に触ると、「お熱は無いみたいね」と言って、私の額から手を離す。
「どうしたの?何か嫌な夢を見たの?」
私は咄嗟に、自分の様子を平静に取り繕う。もう手遅れだろうか。
「いや、大丈夫だよ母さん」
「そう?あまり無理はしない事よ」
「は~い」
そう言って、私は小屋の外に出る。そして私は扉の前で、自分の顔を両手で包む。おかしいよこんなの。嘘だ。いやでも実際に起こってる事だ。
鏡に映っていたのは、知らない女の子の顔だった。
迷宮の中には、リッチと呼ばれる怪物が居るらしい。その怪物は人の魂を操るそうだ。その魔法を再現しようと禁忌を犯した魔術師の記述では、『私は遂に、死後の魂をこの世に留める方法を確立した。その魂と強い繋がりを持つ物を、魔術でその魂と括っておくのだ。そうすれば、魂はこの世に留まるだろう。』と記されている。
要するに、アレンさんの話が事実だとすると、血で赤く染められたドレスか、血文字の本が、この屋敷のどこかにあるという事になる。図書室で声が聞こえた事を考えるに、残されているとしたら血文字の本だろう。
だが困った事になっている。印刷技術はここ数年で急速な成長を遂げ、新しい本は新しい本と、一目で見分けがつくようになったのだ。逆に言えば、古い本も古い本で分かり易いという事だ。しかし、その『古い本』を全て探しても、勿論カバーを外しても、血文字で書かれた本など見つからなかったのだ。
「どうしよう……」
「探し物?手伝うよ」
机に突っ伏して、どうしようかと悩んでいる私に声を掛けたのは、どうやら寝起きらしいアレンさんだった。
「早いね。尊敬するよ」
「ありがとうございます。古い魔術に関する記述を探しているんですけど、中々良いのが無くて困ってるんです」
「どんなのが良いの?」
「風系統の魔術が良いですね」
アレンさんは「そう言えば、ライラ君は風系統の魔術が得意だったね」と言って、早速本棚へ向かった。嘘を吐いてごめんなさい。
私は私で、目当ての本を探した。結局見つからなかったが、それでも良いと思えた。その理由は勿論……
「こんなのどうだい?『風魔術における使い分けの本』」
「良いですね。著者は確か、十八代目の魔王でしたっけ」
「そうそう。前の国王は余計な事をしたね。わざわざ亜人や魔族の国との国交を断絶するとか」
先代の国王は、なんでも異界から勇者を召喚して、先代の魔王を殺したらしい。勿論この事は罪に問われ、今は牢屋に居るとか。
「魔族は魔術の研究においては頭一つ抜けてますからね」
「交流はあった方が良いのになあ」
私達はそんな事を言いながら、アレンさんの部屋に向かう。魔銃の改良にドラグナーの開発と、やりたい事は多いがやれる事が少ない状況だ。
「そう言えば、風魔術には弾丸系って無いですよね。なんでですか?」
「二年の始めに習うんだけど、魔術には相性みたいなのがあって、風の魔術は弾丸にするには不向きらしい。なんでも、当たった瞬間霧散し易いとか。だから切断とか移動の方が伸びたらしい」
「ゆくゆくはドラグナーに魔銃積んで、遠距離対応できる戦車みたいなのも作りたかったんですけどね~」
「ちょっと待ってその話詳しく……」
その後も作業を続け、気まずいご飯を食べて、また作業して……を繰り返す内に、あっという間に夜になった。私はもう一度図書室に向かって、もっと詳しく調べる事にした。
「あれ?どこか行くの?」
「ええ。もう一度図書室に」
「もう遅いし、僕も行くよ」
「大丈夫ですよ。んじゃ」
アレンさんに見送られた私は、もうすっかり暗くなった廊下を歩いて、図書室の扉を開く。そしてその瞬間、何も言えなくなる位驚いた。
図書室の真ん中にある机に、半透明でほんのりと光る女性が居たのだ。
私は目を見開いたまま動けないでいる。女性は私に気が付くと、優しい笑顔で、こっちに浮遊し
「来てくれたのね?嬉しいわ」
その女性の体と私の体が重なった瞬間、私の身体を何か冷たい物が包むのが分かった。その感触に驚いたのか、女性に触れられた事が恐ろしかったのか、私の意識は、遥か遠い場所に行ってしまった。
なんだが懐かしい感じがする。
そう言えば、協会で昼寝した私に、シスターが膝枕してくれたっけ。
柔らかくて温かい。
一体何だろう。
「あ、起きたのね」
目を覚ました私の視界に写ったのは、やはりあの半透明の女性だった。私は霞む視界の中で、その姿を、懐かしい誰かに重ね、その人の腹部に抱き着こうとする。
しかし、そのはっきりとした感触でようやく目を覚ました私は、女性の膝から飛び退いて、少し構える。
「どうしたのよフラン。いきなりそんな……」
「フラン?私は……」
そこまで言いかけて、私は違和感に気が付いた。女性が半透明じゃない。そもそも、ここはどこだ?私は、自分の身体を囲む壁を見る。アレンさんの屋敷じゃない。小さな小屋だ。どうやってここまで私を連れて来たんだ?
ふと、鏡に映る自分の姿が目に入る。私はそれを見て、本日二度目に絶句する。
「どうしたのよフラン。なんだか様子がおかしいわ。急に倒れたかと思ったら、起きた途端にこんな……熱でもあるのかしら」
女性は立ち上がって、私に近付く。私は動く事もできず、ただされるがままになっている。女性は私の額に触ると、「お熱は無いみたいね」と言って、私の額から手を離す。
「どうしたの?何か嫌な夢を見たの?」
私は咄嗟に、自分の様子を平静に取り繕う。もう手遅れだろうか。
「いや、大丈夫だよ母さん」
「そう?あまり無理はしない事よ」
「は~い」
そう言って、私は小屋の外に出る。そして私は扉の前で、自分の顔を両手で包む。おかしいよこんなの。嘘だ。いやでも実際に起こってる事だ。
鏡に映っていたのは、知らない女の子の顔だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
思想で溢れたメモリー
やみくも
ファンタジー
幼少期に親が亡くなり、とある組織に拾われ未成年時代を過ごした「威風曖人亅
約5000年前に起きた世界史に残る大きな出来事の真相を探る組織のトップの依頼を受け、時空の歪みを調査中に曖人は見知らぬ土地へと飛ばされてしまった。
???「望む世界が違うから、争いは絶えないんだよ…。」
思想に正解なんて無い。
その想いは、個人の価値観なのだから…
思想=強さの譲れない正義のぶつかり合いが今、開戦する。
補足:設定がややこしくなるので年代は明かしませんが、遠い未来の話が舞台という事を頭の片隅に置いておいて下さい。
21世紀では無いです。
※ダラダラやっていますが、進める意志はあります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる