謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真三十五章 探し物

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 翌日。私は図書室に向かい、アレンさんが言っていた、『血文字の本』を探す事にした。あるかも分からないが、正直無いとも言い切れない。
 迷宮ダンジョンの中には、リッチと呼ばれる怪物モンスターが居るらしい。その怪物は人の魂を操るそうだ。その魔法を再現しようと禁忌を犯した魔術師の記述では、『私は遂に、死後の魂をこの世に留める方法を確立した。その魂と強い繋がりを持つ物を、魔術でその魂と括っておくのだ。そうすれば、魂はこの世に留まるだろう。』と記されている。
 要するに、アレンさんの話が事実だとすると、血で赤く染められたドレスか、血文字の本が、この屋敷のどこかにあるという事になる。図書室で声が聞こえた事を考えるに、残されているとしたら血文字の本だろう。
 だが困った事になっている。印刷技術はここ数年で急速な成長を遂げ、新しい本は新しい本と、一目で見分けがつくようになったのだ。逆に言えば、古い本も古い本で分かり易いという事だ。しかし、その『古い本』を全て探しても、勿論カバーを外しても、血文字で書かれた本など見つからなかったのだ。
「どうしよう……」
「探し物?手伝うよ」
 机に突っ伏して、どうしようかと悩んでいる私に声を掛けたのは、どうやら寝起きらしいアレンさんだった。
「早いね。尊敬するよ」
「ありがとうございます。古い魔術に関する記述を探しているんですけど、中々良いのが無くて困ってるんです」
「どんなのが良いの?」
「風系統の魔術が良いですね」
 アレンさんは「そう言えば、ライラ君は風系統の魔術が得意だったね」と言って、早速本棚へ向かった。嘘を吐いてごめんなさい。
 私は私で、目当ての本を探した。結局見つからなかったが、それでも良いと思えた。その理由は勿論……
「こんなのどうだい?『風魔術における使い分けの本』」
「良いですね。著者は確か、十八代目の魔王でしたっけ」
「そうそう。前の国王は余計な事をしたね。わざわざ亜人や魔族の国との国交を断絶するとか」
 先代の国王は、なんでも異界から勇者を召喚して、先代の魔王を殺したらしい。勿論この事は罪に問われ、今は牢屋に居るとか。
「魔族は魔術の研究においては頭一つ抜けてますからね」
「交流はあった方が良いのになあ」
 私達はそんな事を言いながら、アレンさんの部屋に向かう。魔銃の改良にドラグナーの開発と、やりたい事は多いがやれる事が少ない状況だ。
「そう言えば、風魔術には弾丸系って無いですよね。なんでですか?」
「二年の始めに習うんだけど、魔術には相性みたいなのがあって、風の魔術は弾丸にするには不向きらしい。なんでも、当たった瞬間霧散し易いとか。だから切断とか移動の方が伸びたらしい」
「ゆくゆくはドラグナーに魔銃積んで、遠距離対応できる戦車みたいなのも作りたかったんですけどね~」
「ちょっと待ってその話詳しく……」
 その後も作業を続け、気まずいご飯を食べて、また作業して……を繰り返す内に、あっという間に夜になった。私はもう一度図書室に向かって、もっと詳しく調べる事にした。
「あれ?どこか行くの?」
「ええ。もう一度図書室に」
「もう遅いし、僕も行くよ」
「大丈夫ですよ。んじゃ」
 アレンさんに見送られた私は、もうすっかり暗くなった廊下を歩いて、図書室の扉を開く。そしてその瞬間、何も言えなくなる位驚いた。

 図書室の真ん中にある机に、半透明でほんのりと光る女性が居たのだ。

 私は目を見開いたまま動けないでいる。女性は私に気が付くと、優しい笑顔で、こっちに浮遊し
「来てくれたのね?嬉しいわ」
 その女性の体と私の体が重なった瞬間、私の身体を何か冷たい物が包むのが分かった。その感触に驚いたのか、女性に触れられた事が恐ろしかったのか、私の意識は、遥か遠い場所に行ってしまった。


 なんだが懐かしい感じがする。

 そう言えば、協会で昼寝した私に、シスターが膝枕してくれたっけ。

 柔らかくて温かい。

 一体何だろう。


「あ、起きたのね」
 目を覚ました私の視界に写ったのは、やはりあの半透明の女性だった。私は霞む視界の中で、その姿を、懐かしい誰かに重ね、その人の腹部に抱き着こうとする。
 しかし、そのはっきりとした感触でようやく目を覚ました私は、女性の膝から飛び退いて、少し構える。
「どうしたのよフラン。いきなりそんな……」
「フラン?私は……」
 そこまで言いかけて、私は違和感に気が付いた。女性が半透明じゃない。そもそも、ここはどこだ?私は、自分の身体を囲む壁を見る。アレンさんの屋敷じゃない。小さな小屋だ。どうやってここまで私を連れて来たんだ?
 ふと、鏡に映る自分の姿が目に入る。私はそれを見て、本日二度目に絶句する。
「どうしたのよフラン。なんだか様子がおかしいわ。急に倒れたかと思ったら、起きた途端にこんな……熱でもあるのかしら」
 女性は立ち上がって、私に近付く。私は動く事もできず、ただされるがままになっている。女性は私の額に触ると、「お熱は無いみたいね」と言って、私の額から手を離す。
「どうしたの?何か嫌な夢を見たの?」
 私は咄嗟に、自分の様子を平静に取り繕う。もう手遅れだろうか。
「いや、大丈夫だよ母さん」
「そう?あまり無理はしない事よ」
「は~い」
 そう言って、私は小屋の外に出る。そして私は扉の前で、自分の顔を両手で包む。おかしいよこんなの。嘘だ。いやでも実際に起こってる事だ。

 鏡に映っていたのは、知らない女の子の顔だった。
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