謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真三十四章 本

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 三日目。私達はそれぞれの魔道具の魔法陣を作り直すのに心血を注いでいた。
「アレンさん!そっち飛んで行きました!」
「任せろ……って痛あ!」
 魔法陣を作り直すのには結構な時間と労力が要る。だがそれだけでなく、作ろうとしている物が作ろうとしている物なので、必要以上に体力と魔力を消耗する。もう身体のあちこちが痛いし、霊力も半分を切っている。
 私達の身体が限界を迎えた頃、私達はようやく、休憩する選択をした。私達は重い体を引き摺りながら、アレンさんの部屋に戻る。
「どうしたら良いんだろう……」
「ドラグナーを一つ作るのに半年……それを更に改造して一から作り直すんだから、そりゃ時間と労力の消費も尋常じゃないよね……」
「魔銃も暴発しまくってましたしね。マリアが居ればなあ……」
 マリアは錬金術を思う存分学んでいる為、擦り傷であれば治せる程度の回復薬も生成できるようになったそうだ。因みに凄く苦い。市販の奴の数十倍苦い。まあ、ここは慣れらしいから、仕方無いか。
 私達はアレンさんの部屋のベッドに寝転がって、疲れた身体から力を抜いた。あ~疲れた。本当に疲れる。
「そうだアレンさん、この家に書庫ってありますか?」
「あるよ。見たい?」
「休憩がてら見たいですね」
「じゃあ行こうか」
 これも休憩の内だ。私達は屋敷を少し歩き、少し重い、書庫の扉を開いた。
「広いですね。学校の図書室と同程度あります」
「半分はこの家からの出版だよ。四分の一は神話で、残りが座学の類」
 なら神話の本を読もう。私はそれらが並んでいる棚へ向かい、適当に一冊手に取る。神話の同じ部分の話でも、翻訳した人によって表現に違いが出るから面白いんだよね。
「本当に神話が好きだね」
「面白いですよ?」
「僕も一回真面目に読もうかな……」
 私はその本を持ったまま椅子に座り、一ページ目を開く。どうやら元の本に書かれている絵も印刷されているらしい。面白そうだな。
 私は時間も忘れて、その本のページを捲った。読み終わったら次のページ、そしてまた次の……アレンさんに「そろそろ行く?」と声を掛けられて気付いた頃には、一時間が過ぎていた。
「はい。行きましょうか」
「楽しかった?」
「とても」
 私は本を書架に戻し、その場を立ち去ろうとする。

『ま……てね』

 私は突然聞こえた気がしたその声に、多分人生で一番早く振り向いた。驚き過ぎて変な態勢になった。誰も居ない。人の気配も魔力も感じない。私はその不気味な現象に、急いでその場を立ち去った。
「ライラ君?どうしたの?」
「声が……声があ……」
 アレンさんは私が指差した方向をちらっと見て、少し笑った。なんだこの人!なんだこの人!人が怖がっている様子で笑うのか!?
 そんな事を考えていると、アレンさんは視線を向けていた方向に歩き出した。私は何か縋りつける物が欲しかったので、アレンさんの背中にくっつきながら歩く。
「大丈夫。窓が空いてたから、きっと外で作業している人の声が聞こえたんだろうね」
「本当ですか?」
「うん。ほら、向こうに庭師のモリスが居るだろう?」
 窓の外を除くと、白髪に髭を生やした男性が、こちらに手を振っているのが見えた。なんだ……ただの人の声だったのか……
「良かったあ……」
「そんなにあの伝説が怖かった?」
 その言葉に、私は顔から火が出るような心地がした。恥ずかしい。凄く恥ずかしい。いやあの晩『一緒に寝てくれ』なんて言ってたけど。こんな白昼堂々とさ。こんな思いっ切り怖がるとかさ。
「大丈夫。それに何かあっても、大声を出せば誰か来るから」
「それはそれで恥ずかしいです……」
 私達はその後も、魔道具の改良に時間を使い続けた。暴発して爆発して、ある時はドラグナーに使う魔法陣を書いた金属の箱が思い切りぶつかって……兎に角疲れた。
 その晩も、私達はアレンさんの部屋に集まった。暇潰しという点において、他人と話す事以上に楽しい事は少ない。
「という事で……怖い話に耐性を持つ為の怖い話大会~」
「ヒューヒューパチパチパチー」
 私は今日の書庫の一件で、自分が思っていた以上に怖い話に耐性が無い事が分かった。そして私は、これ以上あんな恥ずかしい思いをしない為に、取り敢えず怖い話を聞いて、耐性を身に着ける事にしたのだ。
「ではアレンさん、お願いします」
「はい。では先ず最初は、身に余る幸福を求めた夫婦の話を……」

 それから一時間程経った後。私はまた、以前と同じ状況になっていた。
「一緒に寝てください」
「駄目だね」
「どうしても?」
「駄目」
「私が絶世の美女でも?」
「駄目」
 鉄の理性持ちやがってよお!貴族ってそういう訓練もさせられるの!?ガード硬すぎでしょ!
「自分から言いだした事でしょ?これも慣れだよ」
「怖い物は怖いんです~」
 結局、アレンさんとの言い争いに勝てない私は、今日は完全に一人で寝る事になった。正直凄く怖い。私はベッドに入るなり、布団を頭まで被って、さっさと寝る事にした。
 しかし願いとは上手く行かない事も多い物で、私は何故か目が冴えて、全く寝れなくなってしまったのだ。
 頭の中では、ずっと今日の書庫で起きた事が渦巻いている。恥ずかしいばかりで、布団の中で顔を覆ってしまう程だ。
 でもただの人で良かった。本当に幽霊だったら凄く……あれ?でもあの声って確か女性の声だった筈……
 私はそこまで気付いて、血の気が引いた。私は身体を丸めて、ちゃんと寝られる時を待った。
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