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真章
真三十二章 友達の家
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私は今、私自身が見ている、いや体感している現実に驚いている。かつて無い感覚だ。
「揺れが……少ない!」
「そりゃ一応、お金がある家の馬車だしね」
庶民の私からすると、正直驚きしか無い。馬車とはここまで揺れを抑える事ができる物だったのか。正直戻れなくなりそう。お金持ちスゴイ。
アレンさんの家に行く事になったは良いが、私は殆ど持って行くような物は無い。私は魔術の媒体として、杖や指輪を使うタイプじゃないし。精々が着替えと、試作品の『ドラグナー』、そして課題程度だ。
「アレンさんって、お坊ちゃんだったんだ……」
「あの学校に居る人は基本お坊ちゃんお嬢ちゃんだよ」
「いやなんか……今までの印象が……」
「え?」
アレンさんの家までは、二日程掛かる。その間、私達は魔道具の設計や考案、後は適当なゲームをやって、時間を潰した。
二日後。私達は目的地に到着した。私はすっかり凝り固まってしまった体を伸ばしながら、馬車を降りた。
「ん……ふう。やっぱり、長時間座りっぱなしっていうのも疲れますね」
「はは。お疲れ。そしてようこそ!我がルーデリアの屋敷へ」
顔を上げると、そこには立派なお屋敷があった。豪華という訳ではないが、しっかりとした作りで、金が使われている事を感じさせる。
やはり家の周りには、最新の魔道具が配置してある。道の両脇、噴水、庭園……見渡すだけで、相当な数の魔道具が使われているのが分かる。中には、王都でも見ないような、珍しい物が見受けられた。
使用人さんに荷物を持ってもらっていると、屋敷から一人の、少し白髪が目立つ男性が現れた。彼がこの家の主、エラン男爵だ。
「お父様!」
「久し振りだなアレン。そっちのは……手紙にあった友人かい?」
どうやら、アレンさんは事前に、私の事を親に言っていたらしい。『友人』とは、中々嬉しい事を言ってくれる。
「初めまして、男爵様。私はライラと申します」
「成程。平民にしては礼儀正しいようだな」
「商人と旅をしていた事もあります。挨拶は、その時習いました」
第一印象は悪くなさそうだ。これから少しの間お世話になるんだし、印象が良いに越した事は無い。
「息子と仲良くしてくれているそうじゃないか。これからもよろしく。ああそれと、別に敬われたい訳でもないのでな。楽なようにしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
どうやら、貴族にしてはかなりフランクな人のようだ。所謂『普通』のお貴族サマは、平民にこんな事は言わない。て言うかそもそも、平民と直に会う事すら殆ど無い。
「平民でも客人だ。中に入ると良い」
「ほらライラ君、行こう」
「あ、荷物ありがとうございます」
「いえいえ」
案内された部屋は、アレンさんの隣の部屋だった。家具も最低限は揃っている。そこそこボロいが、それでも村にあった物よりも良い物だ。嬉しいな。私は荷物を部屋の脇に置き、早速アレンさんの部屋に行った。
「アレンさん!」
「ライラ君、疲れてないの?もう少し休んでても良いよ」
「大丈夫ですよ。それにしても……これじゃ、ちょっと広い、あの小屋ですね」
アレンさんの部屋は、やはり資料や作業道具、試作品と思わしき魔道具で溢れ返っている。足の踏み場はしっかりあるが、壁が見えない程だ。アレンさんは少し笑いながら、私に手招きする。
「以前言ってた『作業場』って、ここの事だったんですか?」
「そうだよ。ここにある道具は、殆ど自分で集めた物なんだ。家のとそう変わらない設備さ」
これを一人でやったのか……凄いな。よく見ると、新型魔銃の設計図もある。見た事が無いモデルだ。それ以外にも、一度も私達に話した事が無いような魔道具の設計図もある。
私達は作業を始める前に、この家にある倉庫を見に行く事にした。ルーデリア男爵家は魔道具開発の名門だ。そして、この家で開発された魔道具は全て、現物が保管されている。良い刺激になる物もあるかも知れない。
「アレンさんの作品もあるんですか?」
「いや、魔銃の原型が一つあるだけだよ」
私達は屋敷の外にある、一軒家程はありそうな建物に入った。中には所狭しと、無数の魔道具が並べられている。
「手に取っても良いよ。はい手袋」
「ありがとうございます」
私は小屋の中にある物を、端から端まで眺めて行く。蛍光灯は勿論、何に使うのかよく分からない球体まである。そして古い魔道具の棚に、私はある物を発見した。
「あ、コレってここで開発されたんですか!?」
「らしいね。文献だと、十分な効果を持たせるのに加えて、燃費を良くするのに、当時の人達は苦労したらしい」
それは、一般家庭でよく見られるコンロだった。弱い火の魔術を使う事で、薪や火を使わず、物を温めたり焼いたりするのに使う物だ。上に物が乗っていない状態がある程度続くと自動的に切れるので、魔石の魔力を使い過ぎる事も無いらしい。
今となっては、ある程度発展した都市の家には必ずある物なので、どこで作られたとか全く気にしていなかった。大分古くなっているが、まだ使えそうだ。まあ使わないんだけど。
「気になった物は?」
「そうですね……これらの魔道具の魔法陣って見られるんですか?」
「勿論」
「それなら、このコンロの魔法陣をお願いします。ちょっと、使えそうですから」
魔術の効果をここまで抑えた上で、燃費を良くするのに苦労したという事は、この魔道具には、『燃費を良くする』魔法陣が組み込まれている可能性がある。調べて損は無い。
私達はアレンさんの部屋に戻り、早速話し合いを始めた。
「揺れが……少ない!」
「そりゃ一応、お金がある家の馬車だしね」
庶民の私からすると、正直驚きしか無い。馬車とはここまで揺れを抑える事ができる物だったのか。正直戻れなくなりそう。お金持ちスゴイ。
アレンさんの家に行く事になったは良いが、私は殆ど持って行くような物は無い。私は魔術の媒体として、杖や指輪を使うタイプじゃないし。精々が着替えと、試作品の『ドラグナー』、そして課題程度だ。
「アレンさんって、お坊ちゃんだったんだ……」
「あの学校に居る人は基本お坊ちゃんお嬢ちゃんだよ」
「いやなんか……今までの印象が……」
「え?」
アレンさんの家までは、二日程掛かる。その間、私達は魔道具の設計や考案、後は適当なゲームをやって、時間を潰した。
二日後。私達は目的地に到着した。私はすっかり凝り固まってしまった体を伸ばしながら、馬車を降りた。
「ん……ふう。やっぱり、長時間座りっぱなしっていうのも疲れますね」
「はは。お疲れ。そしてようこそ!我がルーデリアの屋敷へ」
顔を上げると、そこには立派なお屋敷があった。豪華という訳ではないが、しっかりとした作りで、金が使われている事を感じさせる。
やはり家の周りには、最新の魔道具が配置してある。道の両脇、噴水、庭園……見渡すだけで、相当な数の魔道具が使われているのが分かる。中には、王都でも見ないような、珍しい物が見受けられた。
使用人さんに荷物を持ってもらっていると、屋敷から一人の、少し白髪が目立つ男性が現れた。彼がこの家の主、エラン男爵だ。
「お父様!」
「久し振りだなアレン。そっちのは……手紙にあった友人かい?」
どうやら、アレンさんは事前に、私の事を親に言っていたらしい。『友人』とは、中々嬉しい事を言ってくれる。
「初めまして、男爵様。私はライラと申します」
「成程。平民にしては礼儀正しいようだな」
「商人と旅をしていた事もあります。挨拶は、その時習いました」
第一印象は悪くなさそうだ。これから少しの間お世話になるんだし、印象が良いに越した事は無い。
「息子と仲良くしてくれているそうじゃないか。これからもよろしく。ああそれと、別に敬われたい訳でもないのでな。楽なようにしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
どうやら、貴族にしてはかなりフランクな人のようだ。所謂『普通』のお貴族サマは、平民にこんな事は言わない。て言うかそもそも、平民と直に会う事すら殆ど無い。
「平民でも客人だ。中に入ると良い」
「ほらライラ君、行こう」
「あ、荷物ありがとうございます」
「いえいえ」
案内された部屋は、アレンさんの隣の部屋だった。家具も最低限は揃っている。そこそこボロいが、それでも村にあった物よりも良い物だ。嬉しいな。私は荷物を部屋の脇に置き、早速アレンさんの部屋に行った。
「アレンさん!」
「ライラ君、疲れてないの?もう少し休んでても良いよ」
「大丈夫ですよ。それにしても……これじゃ、ちょっと広い、あの小屋ですね」
アレンさんの部屋は、やはり資料や作業道具、試作品と思わしき魔道具で溢れ返っている。足の踏み場はしっかりあるが、壁が見えない程だ。アレンさんは少し笑いながら、私に手招きする。
「以前言ってた『作業場』って、ここの事だったんですか?」
「そうだよ。ここにある道具は、殆ど自分で集めた物なんだ。家のとそう変わらない設備さ」
これを一人でやったのか……凄いな。よく見ると、新型魔銃の設計図もある。見た事が無いモデルだ。それ以外にも、一度も私達に話した事が無いような魔道具の設計図もある。
私達は作業を始める前に、この家にある倉庫を見に行く事にした。ルーデリア男爵家は魔道具開発の名門だ。そして、この家で開発された魔道具は全て、現物が保管されている。良い刺激になる物もあるかも知れない。
「アレンさんの作品もあるんですか?」
「いや、魔銃の原型が一つあるだけだよ」
私達は屋敷の外にある、一軒家程はありそうな建物に入った。中には所狭しと、無数の魔道具が並べられている。
「手に取っても良いよ。はい手袋」
「ありがとうございます」
私は小屋の中にある物を、端から端まで眺めて行く。蛍光灯は勿論、何に使うのかよく分からない球体まである。そして古い魔道具の棚に、私はある物を発見した。
「あ、コレってここで開発されたんですか!?」
「らしいね。文献だと、十分な効果を持たせるのに加えて、燃費を良くするのに、当時の人達は苦労したらしい」
それは、一般家庭でよく見られるコンロだった。弱い火の魔術を使う事で、薪や火を使わず、物を温めたり焼いたりするのに使う物だ。上に物が乗っていない状態がある程度続くと自動的に切れるので、魔石の魔力を使い過ぎる事も無いらしい。
今となっては、ある程度発展した都市の家には必ずある物なので、どこで作られたとか全く気にしていなかった。大分古くなっているが、まだ使えそうだ。まあ使わないんだけど。
「気になった物は?」
「そうですね……これらの魔道具の魔法陣って見られるんですか?」
「勿論」
「それなら、このコンロの魔法陣をお願いします。ちょっと、使えそうですから」
魔術の効果をここまで抑えた上で、燃費を良くするのに苦労したという事は、この魔道具には、『燃費を良くする』魔法陣が組み込まれている可能性がある。調べて損は無い。
私達はアレンさんの部屋に戻り、早速話し合いを始めた。
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