38 / 102
真章
真三十章 高貴なる者の責務
しおりを挟む
話は、上空で戦う二人の魔術師が、地上の異変に気が付く、少し前に戻る。
臆病者の王子様が、城の外で深呼吸している。
僕にできるんだろうか。そんな不安を胸の内に抑え込み、僕は集まっている、学校の生徒に向かって声を発した。
「皆!話があるんだ!」
僕の声に、周囲からの注目が集まる。この非常時に、僕が声を上げたのが意外だったらしい。僕は彼等に向けて、再度言葉を発する。
「これから、王都に存在している民を安全な所へ逃がす!皆には、その手伝いをしてほしい!」
そして僕は、ライラさんから伝えられた作戦の内容を、全て伝えた。途中何度も、生徒達の間からざわめきが起こった。そりゃそうだ。これは個人個人の技量を無視した、確実に言える事だけを考慮して建てられた作戦だ。何か、不満や不平があっても不思議じゃない。
僕が全てを話し終わった後、大勢の中から一人が、小さな声を出した。
「そんな大層な事言っても、結局自分は何もしねえんじゃねえか」
その声を発した人間に注目が集まる。いくつもの視線を集めたその人から、僕に言葉が投げ掛けられる。
「だってそうだろ!?さっきの作戦には、王子、詰まりは一年の特待生が参加してない!自分は高見の見物で、他の奴等には働けって言うのか!?」
その叫びの後、複数の箇所から、彼に賛同する声が上がった。
「そうだ、その通りだ!」「王族だからって、私達が賛同すると思わないで!」「結局貴方は、我々を単なる盤上の駒としか考えていない!」
僕はその言葉に、耳を塞いでしまいそうになった。僕はいつもこうだ。他人に言われた事しかできない。それが失敗しても、自分で何かする事ができない。
「私達は道具じゃない!」『なんで言う通りにできないの!?』「王族だからって傲慢だ!」『そんなにお母様を困らせたいの!?』
叫び出したい。逃げ出したい。いっそこの場から消え失せて、何も無かった事にしたい。僕は腹の底で蠢く感情に耐え切れず、顔を上げる。
その瞬間、目に入ったのは、ライラさんの姿だった。はっきりとした視線で、こちらを見据えている。そしてライラさんは、唇だけを動かして、僕にメッセージを伝える。
『がんばれ』
僕はその言葉に泣き出しそうになった。だが、僕はその涙を目の奥に仕舞い込み、最初に声を発した、彼の元に向かう。彼は少し驚いたような顔をして、僕の顔を見た。
「何だよ。だって全部事実だろ?」
ああ事実だ。結局この作戦は、個人を駒と考えている。だからこそ、僕はその駒達に存在する、感情と記憶を考慮しなければならない。
僕は彼の足元に膝を付いた。彼は驚愕している。当然、民衆も口を閉ざす。僕は彼、いや彼等に向けて、言葉を紡ぐ。
「この作戦は、確実に言える事だけを考慮した物だ。僕らは、まだ実戦で戦える確証が無い」
僕は立ち上がり、自分よりも一回り大きな彼の目を見て、彼に話し掛ける。
「だからこそ、君達の協力が必要だ。確実な事だけを見て、確実な勝利を手に入れる」
「だからって……」
「『高貴なる者の責務』」
その言葉に、彼は押し黙る。僕は彼に向けて、自分勝手な願望を話し出す。
「僕はいつか、この国の歴史に名を残す名君となる。そして君達の為に働く。だから、君達は自分の、自分達の民を守ってほしい。どうか……力を貸してほしい!」
僕は再び頭を下げた。少しして、僕の周囲に居た人間が、全員僕から離れて行くのが分かった。僕は泣き出しそうになった。結局、僕なんかじゃ駄目なのかな。
そう考えている僕に、二人の人影が近付いて来た。僕が顔を上げると、それはライラさんと、マリア・キクエ・スカーレットさんだった。
「いつまで頭を下げているんですの。周りを見てくださいまし」
マリアさんの言葉に、僕は周囲を見渡す。そして僕は、その光景に驚愕した。
「王子の指示は聞いていたな!王子の指示に従い、小隊を結成する!並べ!」「魔術師だけでなく、騎士志望の人間も集めるべきよ」
そこには、複数の小隊を編成しようとしている、生徒達の姿があった。
驚いて、言葉を発せられないでいる僕に、ライラさんが話し掛けて来た。
「皆、王子サマの指示で動いたんですよ。お見事でした、ロードリヒ王国王子、ラインハルト様」
僕はその言葉で、流すまいと耐えていた涙を零してしまった。泣きながら目を擦る僕に、ライラさんが背中を撫でてくれた。
「泣き虫ですね。まあそっちの方が、親しみ易く感じます」
僕らはその後、感性した小隊が王都に突入して行くのを見送りながら、城壁の外に拠点を設営しようとしていた。人が来た時、ただでさえ寒いのに、日が無かったらどうするんだと、ライラさんが提案したんだ。
僕は火の薪になりそうな物を運びながら、ライラさんに話し掛けた。
「ありがとうライラさん。君が居なかったら、どうなっていた事か」
僕の言葉に、ライラさんは『はあ?』と言いたげな顔をした。
「私が居なくても、私以外の人が何かしてましたよ。ただ、その人が成功するかは置いといてですけどね」
「謙虚だな」と思った。正直、こういう場面で動こうとする人は少ない。僕だって動こうとはしなかった。いや、だれもそうしようとはしなかった。
僕は彼女に、心の底から敬意を示す。僕は作業をしながら、叶う事ならば、彼女を秘書か何かにしたいなと考えていた。
暫くして、王都の人間と、アリスさんが戻って来た。それから直ぐに、一人の先生が飛んで来て、勝利宣言を僕らに伝えた。
僕に置ける、初めての『勝利』だった。
臆病者の王子様が、城の外で深呼吸している。
僕にできるんだろうか。そんな不安を胸の内に抑え込み、僕は集まっている、学校の生徒に向かって声を発した。
「皆!話があるんだ!」
僕の声に、周囲からの注目が集まる。この非常時に、僕が声を上げたのが意外だったらしい。僕は彼等に向けて、再度言葉を発する。
「これから、王都に存在している民を安全な所へ逃がす!皆には、その手伝いをしてほしい!」
そして僕は、ライラさんから伝えられた作戦の内容を、全て伝えた。途中何度も、生徒達の間からざわめきが起こった。そりゃそうだ。これは個人個人の技量を無視した、確実に言える事だけを考慮して建てられた作戦だ。何か、不満や不平があっても不思議じゃない。
僕が全てを話し終わった後、大勢の中から一人が、小さな声を出した。
「そんな大層な事言っても、結局自分は何もしねえんじゃねえか」
その声を発した人間に注目が集まる。いくつもの視線を集めたその人から、僕に言葉が投げ掛けられる。
「だってそうだろ!?さっきの作戦には、王子、詰まりは一年の特待生が参加してない!自分は高見の見物で、他の奴等には働けって言うのか!?」
その叫びの後、複数の箇所から、彼に賛同する声が上がった。
「そうだ、その通りだ!」「王族だからって、私達が賛同すると思わないで!」「結局貴方は、我々を単なる盤上の駒としか考えていない!」
僕はその言葉に、耳を塞いでしまいそうになった。僕はいつもこうだ。他人に言われた事しかできない。それが失敗しても、自分で何かする事ができない。
「私達は道具じゃない!」『なんで言う通りにできないの!?』「王族だからって傲慢だ!」『そんなにお母様を困らせたいの!?』
叫び出したい。逃げ出したい。いっそこの場から消え失せて、何も無かった事にしたい。僕は腹の底で蠢く感情に耐え切れず、顔を上げる。
その瞬間、目に入ったのは、ライラさんの姿だった。はっきりとした視線で、こちらを見据えている。そしてライラさんは、唇だけを動かして、僕にメッセージを伝える。
『がんばれ』
僕はその言葉に泣き出しそうになった。だが、僕はその涙を目の奥に仕舞い込み、最初に声を発した、彼の元に向かう。彼は少し驚いたような顔をして、僕の顔を見た。
「何だよ。だって全部事実だろ?」
ああ事実だ。結局この作戦は、個人を駒と考えている。だからこそ、僕はその駒達に存在する、感情と記憶を考慮しなければならない。
僕は彼の足元に膝を付いた。彼は驚愕している。当然、民衆も口を閉ざす。僕は彼、いや彼等に向けて、言葉を紡ぐ。
「この作戦は、確実に言える事だけを考慮した物だ。僕らは、まだ実戦で戦える確証が無い」
僕は立ち上がり、自分よりも一回り大きな彼の目を見て、彼に話し掛ける。
「だからこそ、君達の協力が必要だ。確実な事だけを見て、確実な勝利を手に入れる」
「だからって……」
「『高貴なる者の責務』」
その言葉に、彼は押し黙る。僕は彼に向けて、自分勝手な願望を話し出す。
「僕はいつか、この国の歴史に名を残す名君となる。そして君達の為に働く。だから、君達は自分の、自分達の民を守ってほしい。どうか……力を貸してほしい!」
僕は再び頭を下げた。少しして、僕の周囲に居た人間が、全員僕から離れて行くのが分かった。僕は泣き出しそうになった。結局、僕なんかじゃ駄目なのかな。
そう考えている僕に、二人の人影が近付いて来た。僕が顔を上げると、それはライラさんと、マリア・キクエ・スカーレットさんだった。
「いつまで頭を下げているんですの。周りを見てくださいまし」
マリアさんの言葉に、僕は周囲を見渡す。そして僕は、その光景に驚愕した。
「王子の指示は聞いていたな!王子の指示に従い、小隊を結成する!並べ!」「魔術師だけでなく、騎士志望の人間も集めるべきよ」
そこには、複数の小隊を編成しようとしている、生徒達の姿があった。
驚いて、言葉を発せられないでいる僕に、ライラさんが話し掛けて来た。
「皆、王子サマの指示で動いたんですよ。お見事でした、ロードリヒ王国王子、ラインハルト様」
僕はその言葉で、流すまいと耐えていた涙を零してしまった。泣きながら目を擦る僕に、ライラさんが背中を撫でてくれた。
「泣き虫ですね。まあそっちの方が、親しみ易く感じます」
僕らはその後、感性した小隊が王都に突入して行くのを見送りながら、城壁の外に拠点を設営しようとしていた。人が来た時、ただでさえ寒いのに、日が無かったらどうするんだと、ライラさんが提案したんだ。
僕は火の薪になりそうな物を運びながら、ライラさんに話し掛けた。
「ありがとうライラさん。君が居なかったら、どうなっていた事か」
僕の言葉に、ライラさんは『はあ?』と言いたげな顔をした。
「私が居なくても、私以外の人が何かしてましたよ。ただ、その人が成功するかは置いといてですけどね」
「謙虚だな」と思った。正直、こういう場面で動こうとする人は少ない。僕だって動こうとはしなかった。いや、だれもそうしようとはしなかった。
僕は彼女に、心の底から敬意を示す。僕は作業をしながら、叶う事ならば、彼女を秘書か何かにしたいなと考えていた。
暫くして、王都の人間と、アリスさんが戻って来た。それから直ぐに、一人の先生が飛んで来て、勝利宣言を僕らに伝えた。
僕に置ける、初めての『勝利』だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
思想で溢れたメモリー
やみくも
ファンタジー
幼少期に親が亡くなり、とある組織に拾われ未成年時代を過ごした「威風曖人亅
約5000年前に起きた世界史に残る大きな出来事の真相を探る組織のトップの依頼を受け、時空の歪みを調査中に曖人は見知らぬ土地へと飛ばされてしまった。
???「望む世界が違うから、争いは絶えないんだよ…。」
思想に正解なんて無い。
その想いは、個人の価値観なのだから…
思想=強さの譲れない正義のぶつかり合いが今、開戦する。
補足:設定がややこしくなるので年代は明かしませんが、遠い未来の話が舞台という事を頭の片隅に置いておいて下さい。
21世紀では無いです。
※ダラダラやっていますが、進める意志はあります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる