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真章
真二十九章 実戦魔術
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城下町も酷い状況に陥っている。あちこちで火の手が上がり、城下町に点在している広場に、住民が集められている。私達は路地裏を通って、町の外へ向かう。
魔力さえあれば、多少無理して……いや無理か。散らばっている人を集めて、どうしようも無い状況を作り出すだけだ。先生達ならあの手の輩にも勝てるだろう。今邪魔なのは、私達に他ならない。私の役目は、鬼教官とタセイ先生を自由にした所で終わった。今は逃げなければ。
「ライラ!大丈夫ですの!?」
「大丈夫……」
「いや無理はしない方が良い。俺が運ぼう」
私の体は、突然宙に浮いた。何が起こったかを確認すると、どうやら魔術で浮かされているようだった。魔術を使っている人間を確認すると、受験で私よりも好成績を修めた、アイク・クロードルが杖を構えていた。
「個別に話すのは初めてだな。俺はアイク・クロードル」
「ご丁寧にどうも。私は……」
「平民のライラだろ?色々有名だからな」
こんな所で私の知名度が露呈してほしくなかったな。まあ、校内新聞の一面を飾っちゃったんだし、仕方無いか。
にしても楽だな。魔術で浮かせて運んでもらうっていうのは経験が無いな。これは良い。
「鬼教官の授業を受けないのはなんでなんですか?」
「魔術の鍛錬位自分でやる。しかしまあ、お前があの教師に魔術を使わせたら、俺も参加する気が起きるな」
凄い人だな。力が伴っているから傲慢とさえ言えない。多分この人が授業に参加したら、鬼教官に魔術を使わせる事もできるだろう。それも簡単に。
まあ、それを考えるのは後にしよう。今は町を離れて、安全を確保するのが先決だ。策を練るのも、それを実行するのも後回しにした方が良い。
見張りが居なくなったタイミングを見計らって、城の外に出た私達は、一旦息が吐けるような場所まで離れた。
アイクさんは私を地面に降ろし、魔術を解いた。しかし、私は足に力が入らず、地面に座り込んでしまった。私を心配してくれたらしいマリアが近付いて来る。
「ライラ!」
「はは……ちょっと疲れちゃってね。アイクさん、ありがとう」
「これ位なら問題無い。あまり重くなかったから、魔力の消耗も少ない」
凄い人だ。魔術を使い始めてから、かなり時間が経っているのに。人一人持ち上げるのは、結構な負担の筈なんdけど。魔力量と効率が段違いなのだろう。
だが、まだ一つ心配な所がある。私には無理だけど、アイクさんになら任せられる。
「一つお願いしたい事があるんだけど良いかな?」
「一つだけ言う事を聞いてくれれば何でも」
「学校の敷地の端の方にある小屋に、一人の生徒が居る筈なんだ。その人を連れて来てほしい」
「了解。見つからなかったら少し探して、それでも居なかったら戻って来る」
そう言って、アイクさんは城下町の方へ戻って行った。上級生が止めようとしたが、マリアの説明で、渋々受け入れたようだった。
次に私が考えるべきは、この状況を打破する方法だ。私達特待生班がここまでの道のりで見掛けた、人が集められている場所は、全て屋外、それも広場に限られていた。多分、殆どの人間が外に出ていたから、屋内に集める手間を考えた上で、見通しの良い屋外を選んだのだろう。屋内に居た人間も居る筈だが、大通りに近い道を通って来た中で、屋内に人が集められている場所は無かった。屋内に人が集められている事は、一旦考えなくて良いだろう。
そして、この城下町に存在している広場は全三十六か所。それに対して、特待生は各学年十人、そして十学年存在するので百人。しかしその中で実戦投入が可能なのは、安全を考慮して、六年以上の六十名。広場一つにつき一人二人しか配置できない。しかし特待生でなくとも、八年まで行けば実戦はできる筈。魔術を中心に習っているのは、各学年で平均して三十名。それが三学年で九十名。合計すれば百五十名。つまり一つの場所に、四人は行かせられる。そして余った人間で、屋内に集められているかどうかを捜索してもらえれば、王都全体をカバーできる。
だがこれは机上の空論だ。実際はどうなるかは分からない。しかし、やってみる事はできる。私の呼び掛けでは誰も動かない。だがここで一人、確実に、この場の全員を動かす事ができる人間が存在している。私はマリアに伝え、その人間を連れて来てもらった。
空中で魔力がぶつかり合い、その余波が周囲い広がる。時々近接戦闘を仕掛けて来る相手に、俺は魔術と体術を組み合わせて対応する。少し距離を取れば、また魔術の弾丸が飛んで来る。
地上ではタセイを始めとした先生方が、敵の大群をせき止めている。しかし、少しずつ町からも敵が集まり、数の差は依然として開いている。いや、むしろ広がっているようにさえ見える。
俺が相手しているのは敵の大将だ。かなり強い。恐らく、タセイ先生と同レベルだ。もし俺がコイツを倒せなければ、コイツは下に行ってしまう。そうなれば、相当不味い事になる。恐らく、俺達は負けるだろう。
せめて町中に点在している人質が解放されれば、そこに気を使わなくて良いんだが。生徒に期待……するのはよそう。アイツらには荷が重い。それにこれ位解決して、格好つけたいな。
「本気出せよオイ!弱い奴ばっか気にしてちゃつまんねえぞ!?」
「知った事か!」
その時だった。町のあちこちから、魔術が行使された。俺は町の方を魔術で見て、驚いた。
ありとあらゆる場所から、王都の住民が逃げ出して行った。
やってくれた。そう感じたと共に、俺は本気を出した。
「やっと本気を出すか!そうこなくては……」
その先の言葉が口に出て来る事は無かった。俺がすかさず魔術を行使し、奴を攻撃したからだ。奴はなんとか防御したようだったが、この様子なら勝てそうだ。
「野郎……どんだけセーブしてたんだ」
そう俺を睨む敵に、俺は余裕を見せて笑いながら、勝利宣言をしてやった。
「お前がそれ程の相手とは思わなかったよ。正直弱すぎて驚いたぜ!」
生徒にばっかり大役背負わせてばっかりはもうやめにしよう。こっからは、大人が頑張る時間だ。
魔力さえあれば、多少無理して……いや無理か。散らばっている人を集めて、どうしようも無い状況を作り出すだけだ。先生達ならあの手の輩にも勝てるだろう。今邪魔なのは、私達に他ならない。私の役目は、鬼教官とタセイ先生を自由にした所で終わった。今は逃げなければ。
「ライラ!大丈夫ですの!?」
「大丈夫……」
「いや無理はしない方が良い。俺が運ぼう」
私の体は、突然宙に浮いた。何が起こったかを確認すると、どうやら魔術で浮かされているようだった。魔術を使っている人間を確認すると、受験で私よりも好成績を修めた、アイク・クロードルが杖を構えていた。
「個別に話すのは初めてだな。俺はアイク・クロードル」
「ご丁寧にどうも。私は……」
「平民のライラだろ?色々有名だからな」
こんな所で私の知名度が露呈してほしくなかったな。まあ、校内新聞の一面を飾っちゃったんだし、仕方無いか。
にしても楽だな。魔術で浮かせて運んでもらうっていうのは経験が無いな。これは良い。
「鬼教官の授業を受けないのはなんでなんですか?」
「魔術の鍛錬位自分でやる。しかしまあ、お前があの教師に魔術を使わせたら、俺も参加する気が起きるな」
凄い人だな。力が伴っているから傲慢とさえ言えない。多分この人が授業に参加したら、鬼教官に魔術を使わせる事もできるだろう。それも簡単に。
まあ、それを考えるのは後にしよう。今は町を離れて、安全を確保するのが先決だ。策を練るのも、それを実行するのも後回しにした方が良い。
見張りが居なくなったタイミングを見計らって、城の外に出た私達は、一旦息が吐けるような場所まで離れた。
アイクさんは私を地面に降ろし、魔術を解いた。しかし、私は足に力が入らず、地面に座り込んでしまった。私を心配してくれたらしいマリアが近付いて来る。
「ライラ!」
「はは……ちょっと疲れちゃってね。アイクさん、ありがとう」
「これ位なら問題無い。あまり重くなかったから、魔力の消耗も少ない」
凄い人だ。魔術を使い始めてから、かなり時間が経っているのに。人一人持ち上げるのは、結構な負担の筈なんdけど。魔力量と効率が段違いなのだろう。
だが、まだ一つ心配な所がある。私には無理だけど、アイクさんになら任せられる。
「一つお願いしたい事があるんだけど良いかな?」
「一つだけ言う事を聞いてくれれば何でも」
「学校の敷地の端の方にある小屋に、一人の生徒が居る筈なんだ。その人を連れて来てほしい」
「了解。見つからなかったら少し探して、それでも居なかったら戻って来る」
そう言って、アイクさんは城下町の方へ戻って行った。上級生が止めようとしたが、マリアの説明で、渋々受け入れたようだった。
次に私が考えるべきは、この状況を打破する方法だ。私達特待生班がここまでの道のりで見掛けた、人が集められている場所は、全て屋外、それも広場に限られていた。多分、殆どの人間が外に出ていたから、屋内に集める手間を考えた上で、見通しの良い屋外を選んだのだろう。屋内に居た人間も居る筈だが、大通りに近い道を通って来た中で、屋内に人が集められている場所は無かった。屋内に人が集められている事は、一旦考えなくて良いだろう。
そして、この城下町に存在している広場は全三十六か所。それに対して、特待生は各学年十人、そして十学年存在するので百人。しかしその中で実戦投入が可能なのは、安全を考慮して、六年以上の六十名。広場一つにつき一人二人しか配置できない。しかし特待生でなくとも、八年まで行けば実戦はできる筈。魔術を中心に習っているのは、各学年で平均して三十名。それが三学年で九十名。合計すれば百五十名。つまり一つの場所に、四人は行かせられる。そして余った人間で、屋内に集められているかどうかを捜索してもらえれば、王都全体をカバーできる。
だがこれは机上の空論だ。実際はどうなるかは分からない。しかし、やってみる事はできる。私の呼び掛けでは誰も動かない。だがここで一人、確実に、この場の全員を動かす事ができる人間が存在している。私はマリアに伝え、その人間を連れて来てもらった。
空中で魔力がぶつかり合い、その余波が周囲い広がる。時々近接戦闘を仕掛けて来る相手に、俺は魔術と体術を組み合わせて対応する。少し距離を取れば、また魔術の弾丸が飛んで来る。
地上ではタセイを始めとした先生方が、敵の大群をせき止めている。しかし、少しずつ町からも敵が集まり、数の差は依然として開いている。いや、むしろ広がっているようにさえ見える。
俺が相手しているのは敵の大将だ。かなり強い。恐らく、タセイ先生と同レベルだ。もし俺がコイツを倒せなければ、コイツは下に行ってしまう。そうなれば、相当不味い事になる。恐らく、俺達は負けるだろう。
せめて町中に点在している人質が解放されれば、そこに気を使わなくて良いんだが。生徒に期待……するのはよそう。アイツらには荷が重い。それにこれ位解決して、格好つけたいな。
「本気出せよオイ!弱い奴ばっか気にしてちゃつまんねえぞ!?」
「知った事か!」
その時だった。町のあちこちから、魔術が行使された。俺は町の方を魔術で見て、驚いた。
ありとあらゆる場所から、王都の住民が逃げ出して行った。
やってくれた。そう感じたと共に、俺は本気を出した。
「やっと本気を出すか!そうこなくては……」
その先の言葉が口に出て来る事は無かった。俺がすかさず魔術を行使し、奴を攻撃したからだ。奴はなんとか防御したようだったが、この様子なら勝てそうだ。
「野郎……どんだけセーブしてたんだ」
そう俺を睨む敵に、俺は余裕を見せて笑いながら、勝利宣言をしてやった。
「お前がそれ程の相手とは思わなかったよ。正直弱すぎて驚いたぜ!」
生徒にばっかり大役背負わせてばっかりはもうやめにしよう。こっからは、大人が頑張る時間だ。
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