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真章
真二十八章 面倒事
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遥か上空で、魔力が弾け、火花が散る。私はそれを下から眺めるしかない。
だが、やれる事はある。一刻も早く、この場から全員連れ出して、少しでも安全な場所に集めなければ。
「先生!無事ですの!?」
「助かるよマリア嬢」
「ライラさんどうする!?このままじゃ、全員解放する前に敵が寄るよ!?」
「取り敢えず王子サマは、一人でも多くの先生を解放してください!最悪生徒は後回しで良い!」
戦えない生徒を早く自由にするより、戦えて、生徒を統率する能力が高いであろう先生方を先に自由にする方が得だ。さっきからギャーギャー煩い奴等は放って、先生を優先しなければ。
しかし、敵は流石に寄って来る。扉はこじ開けられ、敵がなだれ込んで来る。生徒から悲鳴が上がるが、先生方は冷静だった。
「タセイ先生!」
「守りながらの戦いは苦手なんだがな……ライラさん、よく聞きなさい。今の状況では、貴方達は足手纏いだ。ここは私達に任せて、生徒を逃がし次第、一部の先生と共に逃げてください。旧校舎の方なら、敵も居ないでしょう」
私が「分かりました」と言う前に、敵は大量の銃や魔術を放って来た。私達を含めた生徒は、タセイ先生の防御魔術に依って守られたが、ここに居ては邪魔にしかならない。早くしなければ。
「ライラ!こっちの人達は縄を切り終わりましたわ!」
「分かった!皆!拘束が解かれたら旧校舎へ!」
その言葉が伝わったのかは定かではないが、生徒達はこの空間を抜け出して、廊下へと出て行った。一部の先生も、彼等を守る為に付いて行っている。こっちも早くしなければ。
生徒全員を逃がし終わった頃、タセイ先生の方を向くと、魔術の壁にヒビが入っていた。相当ギリギリなようだ。早く逃げよう。私は生徒が全員出た事を確認してから、扉を閉めた。
その直後、扉の向こうから、とても大きな衝撃が伝わって来た。私の体は吹き飛ばされ、向かい側の壁にぶち当たる。痛い。とても痛い。だが、そんな事を気にしている場合でもない。私は、旧校舎に向かって走り出した。
旧校舎。この学校が設立された際使われていた校舎で、十数年前、老朽化が理由で、今の校舎に設備が移った。しかし、今も魔術に依る防護結界は張られてある為、その堅牢さは、そこらの要塞と遜色無いレベルとさえ謳われる。
部屋の大部分は扉が閉まっている為、人がすし詰め状態だが、それでも文句は言ってられない。私は旧校舎に入り、先生達の後ろに回る。中では、生徒達が様々な事を話している。時々伝わって来る余波で地面が揺れた直後だけ、ほんの少し静かになる。
「ライラ!良かったですわ……どこを探しても居ないんですもの……」
「怪我は、痛む所は無いかい?」
「マリア、アレンさん……少し壁にぶつけまして……右腕が凄く痛むんです」
驚きながらも、マリアは保健の先生を呼んで来てくれた。先生は私の右腕を見て、少し嫌そうな顔をした。
「多分折れてるね……怪我した所がどうなっているか分からない以上、下手に魔術で治すのは避けた方が良い。マリア君だったね?何か、棒状の物と布はあるかい?」
「えっと……布はこちらにあるのと……棒状の物は少し待ってください」
マリアは錬金術で、近くにあった金属の破片を集め、棒に作り直した。先生は「ありがとう」と言って、私の手当てをしてくれた。痛いが痛いが、少しは楽になった。お陰で、私は少し、考え事をする余裕ができる。
実は、何かが引っ掛かっているのだ。今は、想定していた物とは別だが、まあ良い状況と言えるだろう。それなのに、何か、引っ掛かる。私は頭は悩ませ、この件を一から考え直した。先生は解放されて、生徒も今は安全な場所に居る。侵入者が強い事以外、何もおかしい所は無い筈だ。
そう考える私に、近寄って来る影が居た。
「ライラさん、ちょっと良いかな?」
「うわ、ひでえな……大丈夫か?」
「あ、王子サマ御一行」
私に何か用でもあるのだろうか。正直、今の私にできる事は限られているんだが。
「アリスさんは……大丈夫だろうか」
その瞬間、私は全身から血の気が引くのを感じた。アリスさんは今、あの小屋の中に居る筈だ。しかし、それは誰にも見つからなかった場合の話だ。もし、今先生と敵の戦いの余波で、パニックを起こしていたら、小屋から出ていない保証は無い。無論、その後誰にも見つからない保証も。
どうする?探しに行く?いや、今出て行った所で、私には何もできない。さっき六人で移動する時の魔力消費で、私の魔力はかなり削れている。一人だけならまだしも、二人も魔術で隠しながら、いや、隠さなかったとしても、移動する余力は無い。そもそも、何か行動を起こそうにも、この右腕が邪魔だ。どうしろって言うんだ?
いや、落ち着け。今は先生にこの事を伝えて、探しに行ってもらおう。
「先生!」
そう私が呼び掛けるのと、堅牢だった筈の扉が破壊されるのは、ほぼ同時だった。生徒達からは悲鳴が上がるが、先生方は素早く防御魔術を展開し、生徒を守る。
「皆さん!よく聞いてください!今からクラス毎に部隊を編成します!各学級に三人、五年生以上で、且つ戦闘魔術の講師が許されている生徒を組み込んでください!そして、全ての学年の特待生に、特例としての、魔術の使用許可を出します!」
その言葉で、上級生達は素早く行動する事ができたようだった。五年生以上の生徒は、それぞれが担当するクラスを素早く割り当て、行動を始めた。殆どのグループは少しでも多くの人間を、城の外に逃がす判断をしたらしく、裏口の方向へ逃げて行く。
「ライラ!ワタクシ達も早く!」
「うん!分かった!」
アリスさんの事が心配だが、今は自分の身の安全が優先だ。何より、今アリスさんを助けに行って、誰かが巻き添えになる状況だけは避けたい。より少数の犠牲でより多数が助かるなら、それは正しい判断の筈だ。
私は纏まらない考えを振り切るように、我武者羅に足を動かした。
だが、やれる事はある。一刻も早く、この場から全員連れ出して、少しでも安全な場所に集めなければ。
「先生!無事ですの!?」
「助かるよマリア嬢」
「ライラさんどうする!?このままじゃ、全員解放する前に敵が寄るよ!?」
「取り敢えず王子サマは、一人でも多くの先生を解放してください!最悪生徒は後回しで良い!」
戦えない生徒を早く自由にするより、戦えて、生徒を統率する能力が高いであろう先生方を先に自由にする方が得だ。さっきからギャーギャー煩い奴等は放って、先生を優先しなければ。
しかし、敵は流石に寄って来る。扉はこじ開けられ、敵がなだれ込んで来る。生徒から悲鳴が上がるが、先生方は冷静だった。
「タセイ先生!」
「守りながらの戦いは苦手なんだがな……ライラさん、よく聞きなさい。今の状況では、貴方達は足手纏いだ。ここは私達に任せて、生徒を逃がし次第、一部の先生と共に逃げてください。旧校舎の方なら、敵も居ないでしょう」
私が「分かりました」と言う前に、敵は大量の銃や魔術を放って来た。私達を含めた生徒は、タセイ先生の防御魔術に依って守られたが、ここに居ては邪魔にしかならない。早くしなければ。
「ライラ!こっちの人達は縄を切り終わりましたわ!」
「分かった!皆!拘束が解かれたら旧校舎へ!」
その言葉が伝わったのかは定かではないが、生徒達はこの空間を抜け出して、廊下へと出て行った。一部の先生も、彼等を守る為に付いて行っている。こっちも早くしなければ。
生徒全員を逃がし終わった頃、タセイ先生の方を向くと、魔術の壁にヒビが入っていた。相当ギリギリなようだ。早く逃げよう。私は生徒が全員出た事を確認してから、扉を閉めた。
その直後、扉の向こうから、とても大きな衝撃が伝わって来た。私の体は吹き飛ばされ、向かい側の壁にぶち当たる。痛い。とても痛い。だが、そんな事を気にしている場合でもない。私は、旧校舎に向かって走り出した。
旧校舎。この学校が設立された際使われていた校舎で、十数年前、老朽化が理由で、今の校舎に設備が移った。しかし、今も魔術に依る防護結界は張られてある為、その堅牢さは、そこらの要塞と遜色無いレベルとさえ謳われる。
部屋の大部分は扉が閉まっている為、人がすし詰め状態だが、それでも文句は言ってられない。私は旧校舎に入り、先生達の後ろに回る。中では、生徒達が様々な事を話している。時々伝わって来る余波で地面が揺れた直後だけ、ほんの少し静かになる。
「ライラ!良かったですわ……どこを探しても居ないんですもの……」
「怪我は、痛む所は無いかい?」
「マリア、アレンさん……少し壁にぶつけまして……右腕が凄く痛むんです」
驚きながらも、マリアは保健の先生を呼んで来てくれた。先生は私の右腕を見て、少し嫌そうな顔をした。
「多分折れてるね……怪我した所がどうなっているか分からない以上、下手に魔術で治すのは避けた方が良い。マリア君だったね?何か、棒状の物と布はあるかい?」
「えっと……布はこちらにあるのと……棒状の物は少し待ってください」
マリアは錬金術で、近くにあった金属の破片を集め、棒に作り直した。先生は「ありがとう」と言って、私の手当てをしてくれた。痛いが痛いが、少しは楽になった。お陰で、私は少し、考え事をする余裕ができる。
実は、何かが引っ掛かっているのだ。今は、想定していた物とは別だが、まあ良い状況と言えるだろう。それなのに、何か、引っ掛かる。私は頭は悩ませ、この件を一から考え直した。先生は解放されて、生徒も今は安全な場所に居る。侵入者が強い事以外、何もおかしい所は無い筈だ。
そう考える私に、近寄って来る影が居た。
「ライラさん、ちょっと良いかな?」
「うわ、ひでえな……大丈夫か?」
「あ、王子サマ御一行」
私に何か用でもあるのだろうか。正直、今の私にできる事は限られているんだが。
「アリスさんは……大丈夫だろうか」
その瞬間、私は全身から血の気が引くのを感じた。アリスさんは今、あの小屋の中に居る筈だ。しかし、それは誰にも見つからなかった場合の話だ。もし、今先生と敵の戦いの余波で、パニックを起こしていたら、小屋から出ていない保証は無い。無論、その後誰にも見つからない保証も。
どうする?探しに行く?いや、今出て行った所で、私には何もできない。さっき六人で移動する時の魔力消費で、私の魔力はかなり削れている。一人だけならまだしも、二人も魔術で隠しながら、いや、隠さなかったとしても、移動する余力は無い。そもそも、何か行動を起こそうにも、この右腕が邪魔だ。どうしろって言うんだ?
いや、落ち着け。今は先生にこの事を伝えて、探しに行ってもらおう。
「先生!」
そう私が呼び掛けるのと、堅牢だった筈の扉が破壊されるのは、ほぼ同時だった。生徒達からは悲鳴が上がるが、先生方は素早く防御魔術を展開し、生徒を守る。
「皆さん!よく聞いてください!今からクラス毎に部隊を編成します!各学級に三人、五年生以上で、且つ戦闘魔術の講師が許されている生徒を組み込んでください!そして、全ての学年の特待生に、特例としての、魔術の使用許可を出します!」
その言葉で、上級生達は素早く行動する事ができたようだった。五年生以上の生徒は、それぞれが担当するクラスを素早く割り当て、行動を始めた。殆どのグループは少しでも多くの人間を、城の外に逃がす判断をしたらしく、裏口の方向へ逃げて行く。
「ライラ!ワタクシ達も早く!」
「うん!分かった!」
アリスさんの事が心配だが、今は自分の身の安全が優先だ。何より、今アリスさんを助けに行って、誰かが巻き添えになる状況だけは避けたい。より少数の犠牲でより多数が助かるなら、それは正しい判断の筈だ。
私は纏まらない考えを振り切るように、我武者羅に足を動かした。
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