謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真二十五章 お祭り

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 時間が過ぎるのは早い。あっと言う間に、降臨祭当日となった。私は学校の校門付近で、二人と待ち合わせする事になっている。
「ライラー!」
「マリア!アレンさん!こっちこっち!」
「おはようライラ君」
 町は途轍もない賑わいを見せている。大通りには屋台が陳列され、様々な人が買い物を楽しんでいる。まだ朝だと言うのにだ。
「二人共、僕から離れ過ぎないようにね。形だけとは言え、僕は顧問教師から君達を任されているんだ。何かあったら悲しいからね」
 私達はここ最近、貯金に勤しんでいた為、軍資金は潤沢だ。全てはこの日を楽しむ為。今日一日、目一杯遊ぼう。
 私達は最初に、屋台に向かう事にした。三人共朝食はまだなので、早めに済ませておきたかったのだ。
「あ、ハンバーガーある」
「何ですのコレ?」
 私は少し疑問に思ったが、直ぐに納得が行った。半年以上一緒に居たから忘れていたが、マリアはそこそこ良い家のお嬢様なんだった。こういう、所謂『庶民の食べ物』には、余り馴染みが無いのか。
「サンドウィッチみたいな物かな。手で持って噛り付いて食べるんだ」
「へ~……気になりますし、食べてみますわ」
「僕もそうするかな。久し振りだなあこういうのは」
 屋台のおじさんに注文して出て来たソレを、マリアは私の動作を真似て食べた。どうやら気に入ってくれたようで、目を輝かせて食べ続けた。見る見る内に、手の中にあった物が減って行く。私達は直ぐにソレを食べ終わり、次はどこに行くかを決めようとし始めた。
「次どうする?」
「こういうのは屋台に行きたいよね。運試しさ」
「くじ引きですわね。ワタクシもやりますわ!」
 こういうお祭りには、くじ引きがあるのが定石だ。私達は直ぐにそれを見つけて、一人一回ずつくじを引く事にした。
「こんにちは。三つくれますか?」
「貴族のガキか?良いぜ。好きなのを取りな」
 私達はそれぞれ引いた物を開いて、当たっているかを確かめる。どうやら、私のは外れだったようだ。
「あ~そっちの嬢ちゃんと坊主は外れか。じゃ、この飴玉だな」
「ありがとう」
「どうも」
 こういうのは外れるのが普通だと分かっていても、やっぱり悔しい。そう言えば、マリアのは何だろう。当たってたら凄いけどな。
「やった!一等ですわ!」
「マリア凄い!」
「これが日頃の行いか……」
「嬢ちゃん凄いな!一等はこの、物が沢山入る、袋の魔道具だぜ!」
 それを聞いた私達は、思いっきり目を見開いた。少し古いようだが、容量が拡張されている魔道具は希少なのだ。物にも因るが、普通に買うと、それだけで一財産持って行かれる。貴族でも中々持っていない、珍しい魔道具だ。
 マリアをそれを恐る恐る受け取り、「ありがとうございます」とお礼を言った。マリアでも、こういうのに触れるのは初めてだったようだ。
「良かったねマリア。これで大分、移動が楽になるんじゃない?」
「そうですわね……あのおじさん、何者なんでしょう……」
「僕も日頃の行いを見直そうかな……」
 待ってくれアレンさん。それだと私が、何もしない奴みたいな感じに……いや実際そうか。
「お、射的ある。一回やろうかな」
「アレンさん、魔銃の訓練で結構命中率高いしね。私もやろうかな」
「ワタクシは……やめておきますわ」
 私は屋台のおばちゃんにお金を渡して、射的の銃と玉を貰う。
「五発。後ろに落としたら景品だよ」
「よ~し……」
 私はしっかり狙ってから、引き金を引く。玉は真っ直ぐ飛んだが、景品の横を通り過ぎて行った。
 結局、五発中一発しか当たらず、それも少し押しただけで落ちなかった。
「あはは。一つも景品貰えなかったよ」
「次は僕だ。お願いします」
「はいよ」
 アレンさんもしっかり狙って、引き金を引いた。アレンさんが放った球は、景品の上の部分に直撃し、見事にソレを後ろに落とした。そして素早くリロードして、もう一度別の景品を落とす。
 結果、アレンさんは五発全てを当て、五個の景品を手に入れた。
「アレンさんはやっぱり凄いですわね……」
「どんなもんだい」
「当たったのにな~」
 そんなこんなで、私達はこのお祭を楽しんだ。お昼を食べに近くのレストランへ向う途中、私は何か、『変な物』を見つけた。
 脇道に、どこかで見た看板を見つけたのだ。私は普段この辺りは来ないし、来た事も無い。なのに、どこかで見た覚えだけはある。私は、何故か行かなければならない気がして、走り出した。
「ライラ!?」
「ちょっと先行ってて!後でまた行くから!」
 私はその看板の下まで行き、扉を開けた。どこかで聞いたようなベルの音と共に見えた店内は、やはりどこかで見た事があった場所だった。どこかで見たような造りの建物に、どこかで見たような品物。私は店内を見回して、ここをどこで見たかを思い出した。
 間違い無い。アンガルの町で、エディさんと来た店だ。でも、なんでこんな所に?
 少しすると、店の奥から、あの老婆が出て来た。
「あっ!少し怪しいおばあさん!」
「怪しいとは失礼だねえお嬢ちゃん。一応、本をくれてやったろうに」
 こう言うという事は、同一人物だろう。私は老婆に近寄り、話し掛ける。
「なんでここに?アンガルの町に店があったと思うんだけど……」
「気にする程の事じゃないよ。今日も何か買うのかい?」
 はぐらかされたな。まあ良いか。どうせ店を移したか、支店を出したかだろう。にしても、『何か買うのか?』か。今日はここで何か買う予定は無かったんだけどな。まあ良いか。今回も本にしよう。
 私はぐるっと店の商品を見て、一冊の本を指差した。
「じゃあ、あの青色の本」
「アレか……それなタダでくれてやるよ」
「え?良いの?」
 老婆はゆっくり頷いた。どうやら本当に良いらしい。私は本を手に取って、店を出ようとする。老婆は「またおいで」と言っていたので、私は軽くお辞儀だけして、店を出た。
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