26 / 102
真章
真十八章 それならば
しおりを挟む
アレンさんは、自身の覚悟を問われている。魔銃がもたらすであろう、変化、面倒事を、どう考えているのかと。
アレンさんは冷や汗をかきながら、自分の考えを語る。
「僕は……この社会自体が間違っていると思います」
「何?」
この発言に対して、ギルドの幹部は顔をしかめた。
「魔術の独占の崩壊。それに因って起こる変動。全て、僕は深く考えた事はありませんでした。ただ、おかしいと思った。なんで、魔術を使ってはいけないのか。自衛に魔術を使う事すら許されないのか」
その場に居た全員が、驚いた。私達が考えた事も無い事を、アレンさんは感じていた。私達が考えないような部分にまで、アレンさんは考えを巡らせていた。その事実を、正面から突き付けられたのだ。
「権力者に反旗を翻す事。これは、正当な理由があれば、正当な行動です。だけど、今じゃそれすら叶わない。誰しもが、手段を選べる余裕を持つ権利がある。対話の場を設ける権利がある。その為の武力を手に入れる権利がある。それすら叶わないのは、おかしい」
それを聞いた『権力者』達は、手を叩いた。音を立てて、目の前の青年を祝福するように。エリザべスさんはアレンさんの目の前まで歩き、そしてアレンさんの手を取った。「よく答えてくれた」の言葉と共に。
「実は、オーガスタス氏が話を持って来た時点で、私の心は決まっていた。それでも一応、君の覚悟が知りたかった。試すような真似をして、済まなかった」
「い、いえ!こちらこそ、自分の考えの浅さを痛感しました!今後とも、ご指導祖鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」
この光景を見たオーガスタスさんは、満足気な顔をしながら、声高々に宣言した。
「満場一致だ!ギルドは一丸となって、アレン、ライラ、マリアの三人を、全力で支援する!」
ギルドの幹部全員が「異議無し」と言ったのは、言う必要も無い事だろう。
休みの日という事もあったので、私達は少し、町を見て回る事にした。賑やかな町には、様々な物があるのだ。
「二人共、ありがとう!僕一人じゃ、ここまでは来れなかっただろう!」
「それを言い出したら、アレンさんが居る事が全ての根本ですわ!胸を張ってください!」
「そうですよ。それに最後の演説、面白かったです」
私がそう褒めると、アレンさんは笑いながら「ありがとう」と言った。やっぱり笑顔が似合う人だ。
「で、どこ行くんですの?行きたい所とか……」
「僕は無いかな……ライラ君は?」
「あ~……じゃあ、本屋。久し振りに、神話の本が読みたいです」
私は、村が『厄災』に焼き尽くされてからという物、神話について調べる事になった。厄災とは何なのかとか、厄災の消し方、或いは神の殺し方とか。『神殺し』についての記述はあったが、どれも神を殺せる武具があっての事だったので、私には厳しいかも知れない。
まあ、諦める事は無い。私が今までに読んだのは、この世界の神話の百分の一にも満たない程度の物だ。もしかしたら、何かあるかも知れない。
二人には、この事は話していない。『神話に興味があるんだな』程度の印象しか与えないようにしているから、多分何も勘付いてはいない。と思う。
本屋には、結構色々な物が置いてある。魔術、錬金術についての本は稀だが、近代の火薬兵器の仕組みとか、歴史とか、後は小説とかだ。因みに、マリアを含めた貴族のお嬢様方は、総じて恋愛小説が好きらしい。何でも、『刺激が少ない日常に彩を与えてくれる』のだとか。それと対照にというか、やはりというか、アレンさんは基本的に、兵器についての本を多く読む。魔銃みたいなのを作れるのは、こういう所でよく調べているからだろう。
日が傾く位の時間まで本を読み続けた私達は、「そろそろ帰ろう」というアレンさんの言葉で、寮まで帰る事になった。帰り道、私達は今後について話し合った。
「今後は、魔銃の改良版の制作に取り掛かるんですの?」
「いや。今後はライラ君の番だ」
「え?私?」
正直、あの魔道具についての援助は、期待していなかったというのが本音だ。自分勝手だし、何より少し前まで光明すら見えていなかったのだ。まさか、手伝ってくれるとは。
「ライラ君の魔道具、面白いと思ってね。少し手伝わせてくれ」
「それは……はい。ただ、高度な錬金術、魔術と、そこそこ大量の材料が必要ですよ?」
「問題無い。こっちには頼もしい援助者が居る」
「私達も居ますわ!親友の手伝い位できなくて、どうすると言うんですの!?」
その言葉を聞いた私は、無二の親友と、頼りがいのある先輩に、同時に抱き着いた。二人は少し驚いた顔をしてから、抱き締め返してくれた。
あったかい。なつかしい。あのときみたいだ。
「ありがとう」
「「こちらこそ」」
私達はお互いを十二分に確認して、寮に戻った。あの感触は、まだ腕に残っている。
明日から、また忙しくなりそうだな。そんな事を考えながら、私は寝間着に着替えた。私は姿見の前に立ち、自分の体に吐き気を覚える。
私はそれを振り払うように、ベッドに潜り込んだ。
アレンさんは冷や汗をかきながら、自分の考えを語る。
「僕は……この社会自体が間違っていると思います」
「何?」
この発言に対して、ギルドの幹部は顔をしかめた。
「魔術の独占の崩壊。それに因って起こる変動。全て、僕は深く考えた事はありませんでした。ただ、おかしいと思った。なんで、魔術を使ってはいけないのか。自衛に魔術を使う事すら許されないのか」
その場に居た全員が、驚いた。私達が考えた事も無い事を、アレンさんは感じていた。私達が考えないような部分にまで、アレンさんは考えを巡らせていた。その事実を、正面から突き付けられたのだ。
「権力者に反旗を翻す事。これは、正当な理由があれば、正当な行動です。だけど、今じゃそれすら叶わない。誰しもが、手段を選べる余裕を持つ権利がある。対話の場を設ける権利がある。その為の武力を手に入れる権利がある。それすら叶わないのは、おかしい」
それを聞いた『権力者』達は、手を叩いた。音を立てて、目の前の青年を祝福するように。エリザべスさんはアレンさんの目の前まで歩き、そしてアレンさんの手を取った。「よく答えてくれた」の言葉と共に。
「実は、オーガスタス氏が話を持って来た時点で、私の心は決まっていた。それでも一応、君の覚悟が知りたかった。試すような真似をして、済まなかった」
「い、いえ!こちらこそ、自分の考えの浅さを痛感しました!今後とも、ご指導祖鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」
この光景を見たオーガスタスさんは、満足気な顔をしながら、声高々に宣言した。
「満場一致だ!ギルドは一丸となって、アレン、ライラ、マリアの三人を、全力で支援する!」
ギルドの幹部全員が「異議無し」と言ったのは、言う必要も無い事だろう。
休みの日という事もあったので、私達は少し、町を見て回る事にした。賑やかな町には、様々な物があるのだ。
「二人共、ありがとう!僕一人じゃ、ここまでは来れなかっただろう!」
「それを言い出したら、アレンさんが居る事が全ての根本ですわ!胸を張ってください!」
「そうですよ。それに最後の演説、面白かったです」
私がそう褒めると、アレンさんは笑いながら「ありがとう」と言った。やっぱり笑顔が似合う人だ。
「で、どこ行くんですの?行きたい所とか……」
「僕は無いかな……ライラ君は?」
「あ~……じゃあ、本屋。久し振りに、神話の本が読みたいです」
私は、村が『厄災』に焼き尽くされてからという物、神話について調べる事になった。厄災とは何なのかとか、厄災の消し方、或いは神の殺し方とか。『神殺し』についての記述はあったが、どれも神を殺せる武具があっての事だったので、私には厳しいかも知れない。
まあ、諦める事は無い。私が今までに読んだのは、この世界の神話の百分の一にも満たない程度の物だ。もしかしたら、何かあるかも知れない。
二人には、この事は話していない。『神話に興味があるんだな』程度の印象しか与えないようにしているから、多分何も勘付いてはいない。と思う。
本屋には、結構色々な物が置いてある。魔術、錬金術についての本は稀だが、近代の火薬兵器の仕組みとか、歴史とか、後は小説とかだ。因みに、マリアを含めた貴族のお嬢様方は、総じて恋愛小説が好きらしい。何でも、『刺激が少ない日常に彩を与えてくれる』のだとか。それと対照にというか、やはりというか、アレンさんは基本的に、兵器についての本を多く読む。魔銃みたいなのを作れるのは、こういう所でよく調べているからだろう。
日が傾く位の時間まで本を読み続けた私達は、「そろそろ帰ろう」というアレンさんの言葉で、寮まで帰る事になった。帰り道、私達は今後について話し合った。
「今後は、魔銃の改良版の制作に取り掛かるんですの?」
「いや。今後はライラ君の番だ」
「え?私?」
正直、あの魔道具についての援助は、期待していなかったというのが本音だ。自分勝手だし、何より少し前まで光明すら見えていなかったのだ。まさか、手伝ってくれるとは。
「ライラ君の魔道具、面白いと思ってね。少し手伝わせてくれ」
「それは……はい。ただ、高度な錬金術、魔術と、そこそこ大量の材料が必要ですよ?」
「問題無い。こっちには頼もしい援助者が居る」
「私達も居ますわ!親友の手伝い位できなくて、どうすると言うんですの!?」
その言葉を聞いた私は、無二の親友と、頼りがいのある先輩に、同時に抱き着いた。二人は少し驚いた顔をしてから、抱き締め返してくれた。
あったかい。なつかしい。あのときみたいだ。
「ありがとう」
「「こちらこそ」」
私達はお互いを十二分に確認して、寮に戻った。あの感触は、まだ腕に残っている。
明日から、また忙しくなりそうだな。そんな事を考えながら、私は寝間着に着替えた。私は姿見の前に立ち、自分の体に吐き気を覚える。
私はそれを振り払うように、ベッドに潜り込んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
魔王メーカー
壱元
ファンタジー
その少女は『魔王』になるべくして創られたーー
辺境の地のごく普通の農民夫婦の間に生まれた、黄金の目と髪を持つ美少女。
魔法、語学、創造力に長けた神童は、無知な村人達に「悪魔」と呼ばれて恐れられ、迫害を受けるようになる。
大切な人にも見捨てられ、全てを失った彼女は村を脱し、自由を得る。しかし、その代償は大きかった。彼女はその無垢な心に傷を負い、ある人物との接触をきっかけに、その力を世界への復讐に用いるようになっていく...。

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

魔法少女に就職希望!
浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。
そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。
コンセプトは20代でも魔法少女になりたい!
完結しました
…
ファンタジー
※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる