謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真十八章 それならば

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 アレンさんは、自身の覚悟を問われている。魔銃がもたらすであろう、変化、面倒事を、どう考えているのかと。
 アレンさんは冷や汗をかきながら、自分の考えを語る。
「僕は……この社会自体が間違っていると思います」
「何?」
 この発言に対して、ギルドの幹部は顔をしかめた。
「魔術の独占の崩壊。それに因って起こる変動。全て、僕は深く考えた事はありませんでした。ただ、おかしいと思った。なんで、魔術を使ってはいけないのか。自衛に魔術を使う事すら許されないのか」
 その場に居た全員が、驚いた。私達が考えた事も無い事を、アレンさんは感じていた。私達が考えないような部分にまで、アレンさんは考えを巡らせていた。その事実を、正面から突き付けられたのだ。
「権力者に反旗を翻す事。これは、正当な理由があれば、正当な行動です。だけど、今じゃそれすら叶わない。誰しもが、手段を選べる余裕を持つ権利がある。対話の場を設ける権利がある。その為の武力を手に入れる権利がある。それすら叶わないのは、おかしい」
 それを聞いた『権力者』達は、手を叩いた。音を立てて、目の前の青年を祝福するように。エリザべスさんはアレンさんの目の前まで歩き、そしてアレンさんの手を取った。「よく答えてくれた」の言葉と共に。
「実は、オーガスタス氏が話を持って来た時点で、私の心は決まっていた。それでも一応、君の覚悟が知りたかった。試すような真似をして、済まなかった」
「い、いえ!こちらこそ、自分の考えの浅さを痛感しました!今後とも、ご指導祖鞭撻の程、よろしくお願いいたします!」
 この光景を見たオーガスタスさんは、満足気な顔をしながら、声高々に宣言した。
「満場一致だ!ギルドは一丸となって、アレン、ライラ、マリアの三人を、全力で支援する!」
 ギルドの幹部全員が「異議無し」と言ったのは、言う必要も無い事だろう。

 休みの日という事もあったので、私達は少し、町を見て回る事にした。賑やかな町には、様々な物があるのだ。
「二人共、ありがとう!僕一人じゃ、ここまでは来れなかっただろう!」
「それを言い出したら、アレンさんが居る事が全ての根本ですわ!胸を張ってください!」
「そうですよ。それに最後の演説、面白かったです」
 私がそう褒めると、アレンさんは笑いながら「ありがとう」と言った。やっぱり笑顔が似合う人だ。
「で、どこ行くんですの?行きたい所とか……」
「僕は無いかな……ライラ君は?」
「あ~……じゃあ、本屋。久し振りに、神話の本が読みたいです」
 私は、村が『厄災』に焼き尽くされてからという物、神話について調べる事になった。厄災とは何なのかとか、厄災の消し方、或いは神の殺し方とか。『神殺し』についての記述はあったが、どれも神を殺せる武具があっての事だったので、私には厳しいかも知れない。
 まあ、諦める事は無い。私が今までに読んだのは、この世界の神話の百分の一にも満たない程度の物だ。もしかしたら、何かあるかも知れない。
 二人には、この事は話していない。『神話に興味があるんだな』程度の印象しか与えないようにしているから、多分何も勘付いてはいない。と思う。
 本屋には、結構色々な物が置いてある。魔術、錬金術についての本は稀だが、近代の火薬兵器の仕組みとか、歴史とか、後は小説とかだ。因みに、マリアを含めた貴族のお嬢様方は、総じて恋愛小説が好きらしい。何でも、『刺激が少ない日常に彩を与えてくれる』のだとか。それと対照にというか、やはりというか、アレンさんは基本的に、兵器についての本を多く読む。魔銃みたいなのを作れるのは、こういう所でよく調べているからだろう。
 日が傾く位の時間まで本を読み続けた私達は、「そろそろ帰ろう」というアレンさんの言葉で、寮まで帰る事になった。帰り道、私達は今後について話し合った。
「今後は、魔銃の改良版の制作に取り掛かるんですの?」
「いや。今後はライラ君の番だ」
「え?私?」
 正直、あの魔道具についての援助は、期待していなかったというのが本音だ。自分勝手だし、何より少し前まで光明すら見えていなかったのだ。まさか、手伝ってくれるとは。
「ライラ君の魔道具、面白いと思ってね。少し手伝わせてくれ」
「それは……はい。ただ、高度な錬金術、魔術と、そこそこ大量の材料が必要ですよ?」
「問題無い。こっちには頼もしい援助者が居る」
「私達も居ますわ!親友の手伝い位できなくて、どうすると言うんですの!?」
 その言葉を聞いた私は、無二の親友と、頼りがいのある先輩に、同時に抱き着いた。二人は少し驚いた顔をしてから、抱き締め返してくれた。
 あったかい。なつかしい。あのときみたいだ。
「ありがとう」
「「こちらこそ」」
 私達はお互いを十二分に確認して、寮に戻った。あの感触は、まだ腕に残っている。
 明日から、また忙しくなりそうだな。そんな事を考えながら、私は寝間着に着替えた。私は姿見の前に立ち、自分の体に吐き気を覚える。
 私はそれを振り払うように、ベッドに潜り込んだ。
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