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真章
真十六章 やりたい事
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あれから二日。私達は魔銃の改良を進めつつ、新たなプロジェクトを始めようとしていた。
「魔道具で移動できないか?」
「それはどうなんでしょう……」
「まあ、思い付きを言っただけです。ただまあ、あったら役に立つと思います」
私は昨日、貴族が学校を出る時に、馬車に乗り込む場面を見た。それだけならいつもの事だったが、私はその時、一つ思い付いた事があったのだ。『もし誰もが便利な移動手段を使えたら、きっと楽しい』と。
「でもそれ、結構厳しいんじゃないか?材料も金も……何より設計が無い」
「馬車を自走させる事ができれば、なんとか行けるかと」
「どうやって?どの魔術も、車を自走させるには不向きですわよ?」
そう。問題はそこだ。どんな魔術であろうと、威力の制御、指向性にまで気を使いだすと、どうにも難しい。車輪の向き、速度、何より安全面。これら全てをクリアするのは、些か厳しい。
「取り敢えず、この事は忘れてください。これは私が、色々と試してみます。なんとかなりそうだったら、また話します」
「わかった。報告を楽しみにしてるよ」
「私にやれる事があったら協力しますわ」
それから暫く、私は研究会の活動と並行して、自分の魔道具の構想を練った。とても忙しいが、その分楽しかった。
だが、一人では流石に限界が来る。私は迷った結果、魔術の講師に教えを乞う事にした。
「はあ。移動に使える魔術」
「はい。物を回したり、動かしたり、或いは直接移動させたりみたいな」
彼の名はタセイ・クロードル。魔術の腕を王国に変われ、この王国の『宮廷魔術師』という、まあ魔術師の頂点に立つ魔術師の称号を得ている。
だが彼の本質は、その自由奔放さにある。面白い文献、伝承を見掛けては、その場に飛んで行き、暫く帰って来ない。そんなのも日常茶飯事で、この学校に居るのも、只の気紛れと言われている
彼は間違い無く、この国で最も魔術に詳しい人間だ。何か良い事を教えてくれるかも知れないと思い、私は彼に、自身の知恵を貸してもらえないかと頼んでいるのだ。
「魔道具を作る研究会に居るらしいね。それを聞くのも、魔道具を作る為かな?」
「はい。何か無いですか?」
私がそう聞くと、彼は少し悩むような顔をして、答えた。
「飛行系の魔術を使うのは?」
「飛ぶだけならできますが、自分の体なら感覚でできる事が、魔道具に落とし込むとできなくなるんです。ちょっと厳しいですね」
「転移系……はポイント指定だもんな」
「はい。便利とは言い難いですし、アレは負担が大きいです」
彼は転移も経験しているようで、「分かる分かる」と頷いてくれた。なんか気さくな人だな。
その後の話し合いでも良い案は出ず、私は研究会の小屋に戻った。
彼でも無理となると、果たしてどうやれば良いんだろう。飛行魔術の応用を試すかな?
私は小さな箱で、この魔道具の試作をしている。どうにも上手く行かないが、それでも前に進んでいる。
「進捗はどうだい?」
「魔銃の魔法陣の改良は済ませました。試してみてください」
魔術を自分で行使するのは、まだ良い。実際、私は既に飛行魔術での移動を経験している。アレは便利かつ楽だ。飛行中、魔力はそこそこ減るが、移動は早いし、空にはぶつかる物も無い。移動用の魔術で、これ以上の物は無い。
私はその魔法陣を、この箱に刻んだ。ただ、浮いてあちこち飛び回るばっかりで、とても使えた物ではなかった。
「そっちの方は?」
「浮かせて、それからどうするかといった所です」
「風魔術で動かすのは?」
「飛行魔術は微弱な風魔術で動く物だったんです。ただ、魔道具だとそれが常時作動しちゃって、上手く行かず……」
浮かすだけの魔術、微弱な風魔術を別々に刻んだ事もあった。ただ、それだとどうにも操作が複雑になってしまう。さあてどうしよう。
こんな感じで、明くる日も明くる日も、良い物は無いかと考えて、様々な資料を見る事、一週間。私は遂に、これなら行けると思える魔術を見つけた。いや、正しくは技術だ。私が今抱えている本には、こう書かれている。
『魔術の自動制御』
どうやら一流の魔術師は、複雑な魔術を即座に、且つ安全に扱う為、予め魔術の自動制御が可能な魔法陣を書いておく物らしい。それは基本、宝石や使い終わった魔石、或いはその他の、魔力を通し易い物質で行われる。もしこれを、今私の頭の中にある魔道具に転用できたなら……
私はその本を訓練場で開き、読み入る。書いてある事を試しつつ、頭に入れる。やはり難しい。この技術は、一流の魔術師でも扱いが難しい魔術の、指向性、威力、範囲等々の、様々な要素を、一括して管理する為の技術で、本来、青二才も良い所な学生が扱うような技術ではないのだ。
それでも、私は自分の『やりたい事』を諦めたくなかった。私は挑戦しては失敗し、間違えた所を探し、再度挑戦してを繰り返した。
やっとの事で、指向性の自動制御ができるようになる頃には、ギルド幹部達の会議は、直ぐ明日に迫っていた。
「いよいよ明日ですわね……ああもう!緊張しますわ!」
「準備は万全。明日はやれる事をやるだけだよ」
「僕らも可能な限りのサポートはする。今日はしっかり寝て、明日に備えよう」
私達はそれぞれの役割、魔銃の状態を確認して、寮へ戻った。
「おやすみ、マリア」
「おやすみなさい、ライラ」
私は部屋で、ここ三週間と少しの疲労を、一気に吐き出した。ベッドに横になると、柔らかいマットレスに体が沈み込むような気さえした。
苦労した。だが、物にはした。後は他の要素の自動制御と、実際の魔道具に合った出力の調整だけだ。やる事は山積みだが、私達は一先ず、明日の会議で信頼を勝ち取る事を考えていれば良い。気楽に……リラックスして……
そんな事を考えている間に眠ってしまったらしい私は、自分が夢を見ている事に気が付いた。
ここはどこだろう。
暗い。寒い。けど、不思議と不安は無い。
歩こう。何かを探す為に。
この道は、どこまで続くのだろう。
「魔道具で移動できないか?」
「それはどうなんでしょう……」
「まあ、思い付きを言っただけです。ただまあ、あったら役に立つと思います」
私は昨日、貴族が学校を出る時に、馬車に乗り込む場面を見た。それだけならいつもの事だったが、私はその時、一つ思い付いた事があったのだ。『もし誰もが便利な移動手段を使えたら、きっと楽しい』と。
「でもそれ、結構厳しいんじゃないか?材料も金も……何より設計が無い」
「馬車を自走させる事ができれば、なんとか行けるかと」
「どうやって?どの魔術も、車を自走させるには不向きですわよ?」
そう。問題はそこだ。どんな魔術であろうと、威力の制御、指向性にまで気を使いだすと、どうにも難しい。車輪の向き、速度、何より安全面。これら全てをクリアするのは、些か厳しい。
「取り敢えず、この事は忘れてください。これは私が、色々と試してみます。なんとかなりそうだったら、また話します」
「わかった。報告を楽しみにしてるよ」
「私にやれる事があったら協力しますわ」
それから暫く、私は研究会の活動と並行して、自分の魔道具の構想を練った。とても忙しいが、その分楽しかった。
だが、一人では流石に限界が来る。私は迷った結果、魔術の講師に教えを乞う事にした。
「はあ。移動に使える魔術」
「はい。物を回したり、動かしたり、或いは直接移動させたりみたいな」
彼の名はタセイ・クロードル。魔術の腕を王国に変われ、この王国の『宮廷魔術師』という、まあ魔術師の頂点に立つ魔術師の称号を得ている。
だが彼の本質は、その自由奔放さにある。面白い文献、伝承を見掛けては、その場に飛んで行き、暫く帰って来ない。そんなのも日常茶飯事で、この学校に居るのも、只の気紛れと言われている
彼は間違い無く、この国で最も魔術に詳しい人間だ。何か良い事を教えてくれるかも知れないと思い、私は彼に、自身の知恵を貸してもらえないかと頼んでいるのだ。
「魔道具を作る研究会に居るらしいね。それを聞くのも、魔道具を作る為かな?」
「はい。何か無いですか?」
私がそう聞くと、彼は少し悩むような顔をして、答えた。
「飛行系の魔術を使うのは?」
「飛ぶだけならできますが、自分の体なら感覚でできる事が、魔道具に落とし込むとできなくなるんです。ちょっと厳しいですね」
「転移系……はポイント指定だもんな」
「はい。便利とは言い難いですし、アレは負担が大きいです」
彼は転移も経験しているようで、「分かる分かる」と頷いてくれた。なんか気さくな人だな。
その後の話し合いでも良い案は出ず、私は研究会の小屋に戻った。
彼でも無理となると、果たしてどうやれば良いんだろう。飛行魔術の応用を試すかな?
私は小さな箱で、この魔道具の試作をしている。どうにも上手く行かないが、それでも前に進んでいる。
「進捗はどうだい?」
「魔銃の魔法陣の改良は済ませました。試してみてください」
魔術を自分で行使するのは、まだ良い。実際、私は既に飛行魔術での移動を経験している。アレは便利かつ楽だ。飛行中、魔力はそこそこ減るが、移動は早いし、空にはぶつかる物も無い。移動用の魔術で、これ以上の物は無い。
私はその魔法陣を、この箱に刻んだ。ただ、浮いてあちこち飛び回るばっかりで、とても使えた物ではなかった。
「そっちの方は?」
「浮かせて、それからどうするかといった所です」
「風魔術で動かすのは?」
「飛行魔術は微弱な風魔術で動く物だったんです。ただ、魔道具だとそれが常時作動しちゃって、上手く行かず……」
浮かすだけの魔術、微弱な風魔術を別々に刻んだ事もあった。ただ、それだとどうにも操作が複雑になってしまう。さあてどうしよう。
こんな感じで、明くる日も明くる日も、良い物は無いかと考えて、様々な資料を見る事、一週間。私は遂に、これなら行けると思える魔術を見つけた。いや、正しくは技術だ。私が今抱えている本には、こう書かれている。
『魔術の自動制御』
どうやら一流の魔術師は、複雑な魔術を即座に、且つ安全に扱う為、予め魔術の自動制御が可能な魔法陣を書いておく物らしい。それは基本、宝石や使い終わった魔石、或いはその他の、魔力を通し易い物質で行われる。もしこれを、今私の頭の中にある魔道具に転用できたなら……
私はその本を訓練場で開き、読み入る。書いてある事を試しつつ、頭に入れる。やはり難しい。この技術は、一流の魔術師でも扱いが難しい魔術の、指向性、威力、範囲等々の、様々な要素を、一括して管理する為の技術で、本来、青二才も良い所な学生が扱うような技術ではないのだ。
それでも、私は自分の『やりたい事』を諦めたくなかった。私は挑戦しては失敗し、間違えた所を探し、再度挑戦してを繰り返した。
やっとの事で、指向性の自動制御ができるようになる頃には、ギルド幹部達の会議は、直ぐ明日に迫っていた。
「いよいよ明日ですわね……ああもう!緊張しますわ!」
「準備は万全。明日はやれる事をやるだけだよ」
「僕らも可能な限りのサポートはする。今日はしっかり寝て、明日に備えよう」
私達はそれぞれの役割、魔銃の状態を確認して、寮へ戻った。
「おやすみ、マリア」
「おやすみなさい、ライラ」
私は部屋で、ここ三週間と少しの疲労を、一気に吐き出した。ベッドに横になると、柔らかいマットレスに体が沈み込むような気さえした。
苦労した。だが、物にはした。後は他の要素の自動制御と、実際の魔道具に合った出力の調整だけだ。やる事は山積みだが、私達は一先ず、明日の会議で信頼を勝ち取る事を考えていれば良い。気楽に……リラックスして……
そんな事を考えている間に眠ってしまったらしい私は、自分が夢を見ている事に気が付いた。
ここはどこだろう。
暗い。寒い。けど、不思議と不安は無い。
歩こう。何かを探す為に。
この道は、どこまで続くのだろう。
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