謎色の空と無色の魔女

暇神

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真章

真十三章 報酬

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 その日の授業も終わった私達は、ギルドに届けた男の賞金を受け取る為に、再び冒険者ギルドに来ていた。
 昨日仕留めた悪党には、大した額の賞金は掛けられていなかった。だがあくまでも、『他の賞金首と比較して』だ。学生には大金だし、魔銃の改良には十分らしい。
 身分証の提示もして、後は賞金を受け取るだけかと思ったが、一つ問題が起きた。
「私達がやった証拠が無い?」
「はい。私共としましては、貴方様方が本当に、賞金首を仕留められたのかを、少々疑問に思っております」
 そう。ギルドは今日になって、賞金を渡さないとか言って来たのだ。私達にアレを殺せる能力があるとは思えない。だから、誰かの手柄を横取りしたんじゃないか。だから、私達に賞金を渡さないという事らしい。
「そうは言われても、昨日のあの状況は見たんですよね?私が作った魔銃もありますし、十分可能は可能ですよ?」
「それが疑問なのです」
 平行線だな。昨日の状況があってもコレは、普通におかしい。学校側から私達への嫌がらせかな。そんなんどうしろってんだ。
 昨日の一件で、魔銃に使える魔石は底を付いた。魔銃に十分な殺傷能力が無いを示せない以上、アイツを殺したという事も示せない。私達は魔術を使えないから、いくら魔術を使っても無駄。私の剣術も、まだ致命傷を与えられる程上達していない。さてどうした物か。
「では、ワタクシ達が捕らえた、あの者達には聞いたのですか?あの者達に聞けば、事の真相が分かる筈ですわ」
 マリアがそう言うと、職員は途端にオロオロし始めた。これは面白い事になりそうだ。
「どうしたのですか?」
「いえ、あの者達は……既に騎士団の方へ……」
 それを聞いたマリアの、目の色が変わった。こういう時、私達の中で一番強いのは、他ならぬマリアだ。マリアは有力貴族の出。この国の法律や、大きなグループのルールは、多少頭に入っているらしい。
「おや?それは変ですね。ギルドの組員に捕らえられた賞金首、またその仲間は、原則一週間はギルドで捕えておく事が、冒険者ギルドのルールに明記されています。その行為は、これに反すると思われるのですか?」
「いや……えっと……それは……その……」
 痛い所を突かれた上、言い返す事ができない詰め方をされた職員は、何も言えずにいる。本当に、何かやましい事があるのだろう。
 その様子を見たマリアは立ち上がり、冷たい目をして、職員にこう言った。
「ならば仕方ありません。ギルドが組員に正当な報酬を支払わなかったとして、国に訴えます。我がスカーレット家が抱える弁護士を舐めないでくださいね?」
 それを聞いた職員は、青ざめて私達に土下座した。
「どうか!それだけは!お願いします!どうか!」
「ならどうするか、分かってますわよね?」
 マリアがそう言うと、職員は慌てて部屋を出て行った。
「マリア、女王様みたいだった。こないだ読んだ官能小説に出て来た」
「ライラくん、そんなのどこで手に入れたの?」
「照れますわ」
「マリアくん、多分褒めてないよ」
 そんな事を話している内に、さっきの職員が戻って来た。しかし、一人ではなかった。もう一人男は、私達の前に座り、私達に自己紹介した。
「どうも。私の名前は、オーガスタス・レオンハート。世界中の冒険者ギルドの長だ。よろしく」
 オーガスタス・レオンハート。レオンハート家の五男に生を受け、成人と同時に冒険者ギルドを立ち上げ、見事成功を収めた。その異常なまでの手腕から、『レオンハート家の最高傑作』とまで謳われる。同時に、彼にたてつく人間は、原因不明の死を遂げた為、『権力を持った死神』と囁かれる事もあるらしい。
 私達は一人ずつ彼と握手して、ついでに名刺を受け取る。
「今回は、私共の対応が適切ではないと。確かに、規約に反した行動を、勝手に取った者が居た。しかし、私共としましては、貴方方に本当に、あの者達を殺せる腕があるのかを、疑問に思っております」
 アレは、私達にまともに対応しようと言う目じゃない。値踏みされている。私達に利用価値があるのか、私達に可能性があるのか。それを確かめ、場合によっては取り込もうという目だ。ここで返答を間違えればどうなるか。それは、平民の私には想像も付かない。
 マリアは萎縮してしまっている。恐らく、貴族の中でも、彼に消され、証拠も握り潰された人間の話を、少なからず聞いているのだろう。彼は老いているが、影響力には何の関係も無い。国内外に味方を持ち、個人としての戦闘能力も高い。そんな男が、今目の前に居るのだ。無理も無い。
 アレンさんも固まっている。ならばどうするか。私は彼に、はっきりとした声で話し掛けた。
「魔石をください。人を殺せる能力がこの魔道具にあると、照明しましょう」
 私がそう言うと、彼はニヤリと笑い、私に言葉を返した。
「ほう。どれ位のサイズが必要だ?」
「この魔道具の製作者は、そこに居る、アレン・ルーデリアです。彼に聞いて、その通りの魔石を貸してください」
「代金は?」
「賞金から引いてくれて構いません。多分余りはするでしょうし」
「貰えないとは思わないのか?」
「能力を示せば貰えるなら、それで貰えますよ」
 私の受け答えに彼は満足してくれたらしく、彼は大声で叫んだ。
「その意気あ良し!おい!備蓄の魔石を全部持って来い!」
 これで、首の皮一枚繋がった。後はどうなるか。運と、彼の機嫌で決まる。

 さあ、解答用紙を覗きに行こう。
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